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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
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運命という繋がり

アクセスありがとうございます!



 帝国側との打ち合わせ以降、アヤトは毎夜帝都を駆け巡りリストアップされた者らを調べ始めた。


 帝国の主である皇帝の許可を得たのを良いことに屋敷に侵入しては咎めるに充分な証拠を見つけ、怪しげな動きがあれば報告を。

 また派閥が故に調べ上げれば芋づる式に不正も見つかるので短期間の調査でも充分な成果を上げた。


「……僅か五日間でこれほどの情報を集めるとは」


 故に議会室にいるアグレリアを含めた家臣らを驚嘆させたのは当然のこと。

 いくら親善試合を前に帝都へ地方貴族が集っているとはいえ異常な量、それこそこの五日間で何軒の屋敷に忍び込み、いくつの密会を偵察したのかと思えるほどで。


「レグリス陛下が自信を持ってこちらに送り込むだけありますね……」

「逆を言えばそれだけ帝国との友好を重視されているのか……どちらにせよ、白銀殿の協力には感謝せねば」


 結果として紹介時は不審な風貌や規格外な能力から警戒していた宰相や団長らも白銀――アヤトの評価を改めていた。

 なんせこれまで頭を悩ませていた過激派の多くを手に入れた情報で裁くことができる。もちろん一掃することはできないし、そもそもするつもりはない。

 一度に多くの権力者を取り締まれば混乱は必至、領主も含まれているなら尚更。しかし相手を揺さぶる手札があるとないとではいくらでもやりようはある。

 だからこそ、今回の協力はあくまで過激派についての調査というのが惜しい。

 これほどの諜報活動が可能なら、不正疑惑のある権力者の調査も頼みたいとアグレリア同様帝国に引き入れたく思うのも当然で。

 しかし引き入れるのは不可能と事前にアグレリアにクギを刺されている。故に白銀が王国を重視せず、ただ純粋に両国の和平を望んで協力しているのを安堵するばかりだ。


 ちなみにアグレリアの信頼を得ている感心らは帝国の古式的な思想に浸っていないもさすがに持たぬ者がこれほどの能力があるとは信じられず、同時に王国にはラタニの弟子という持たぬ者が代表で訪れていることもあり当初は同一人物と疑っていた。

 しかし事前に収集した情報だとその代表は精霊術士と渡り合えるほどの強さはあれど、あくまで学院生では異例のレベル。まあこの事実すら疑わしくあるが、熟練の精霊術士ですら帝城に忍び込むのは不可能。

 またその代表はとある切っ掛けからサクラ殿下と交友を深め、毎日のように会っているとの報告も受けている。ただでさえ五日間で調べ上げたとは思えない情報量なのに、日中に活動していないとは思えない。

 なにより王国に白銀が最初に姿を見せたのは謁見前、同時刻に王国代表として謁見のためその代表が馬車で向かっていたなら違うと判断。むしろラタニがどのようにして持たぬ者を代表までのし上げる実力に鍛えたのかとの興味が尽きなかった。

 こうして帝国側はアヤトの規格外な実力とラタニの術中にはまり『白銀=アヤト』と結びつけられないのだが、まさか更に神さまが協力しているなどと夢にも思わないので当然で。


 とにかく親善試合を前にして事を荒立てるわけにはいかず、後ほど帝国の浄化を始めていく算段を煮詰めていけばいいのだが、全てがそう簡単に解決すると楽観視していない。

 白銀が調査したのはあくまで現在帝国側が掴んでいる不審な者のみ、また異常とも言える情報量でもたったの五日間。掴みきれていない者もいれば取りこぼしもある。

 そして最も危険視するべきは親善試合当日。

 もちろん厳戒態勢は取れているが前夜祭と称して帝都は前日から賑わう。他国の重鎮も帝都入りしていることを考慮すれば、リスク覚悟で動く可能性が高い。

 特に王国代表が利用している迎賓館、今回の代表には王族も含まれているなら標的としてはこの上ない。帝国側はそれこそ問題が起きてからではなく起きる前に対処し、尚且つ事実そのものを内密に処理したい。

 もちろんレグリスもこの難しい状況を考慮した上で持たぬ者が故に精霊力で感知できず、隠密行動に秀でている白銀を送り込んでいる。彼がレグリスの依頼を受け、帝国の協力をしていると知るのは王国側ではラタニのみ。

 表で王国最強の精霊術士が、裏で白銀が王国代表を護衛するのなら頼もしいと、帝国側も他の重鎮に人手を回せるわけで。


「白銀よ。最後まで頼らせてもらって良いだろうか」


 警備の最終確認を終えてアグレリアが代表して要となるアヤトに改めて協力を願い。


「元よりそのつもりだ」


 皇帝を相手に太々しい返答をするも、咎める者は誰も居なかった。



 そして親善試合前日の夜――



「これで帝国を泣かせる……けど、やれやれだ」


 ベルーザの失言からアヤトに帝国代表メンバーの訓練偵察だけでなく、オーダーまで入手してもらい王国代表全勝の算段は付いたが、まだ気は抜けないとラタニはため息一つ。

 いくらアヤトでも全てを調べるには時間が足りず、最も警戒すべきは今夜から明日にかけて。今夜は寝ずの番なので無理はなく。


「とにかく害虫はちゃんと駆除しておく方が憂いもないだろし頑張りますか」


 それでも余裕があるのは自信というより国王の依頼については入れ替わりだけでなくマヤが協力しているのが大きい。

 つまりラタニの精霊力感知力、アヤトの気配察知力、そしてマヤの神気による周辺警戒と反則的な方法。この三段構えを突破できる者はまず居ないだろう。


『期待してるよん、神さま』


『お任せください』


 故に今ごろ同じく寝ずの番をしているアヤトと共に居るであろうマヤにブローチで問いかければ頼もしい返答が。

 ただ同時に嫌な予感もある。

 今のところロロベリアが気づいた素振りはなく、このままいけば巻き込むことなく依頼は終えるだろう。


 しかし物事は必ずしも順調に進むことはなく。


『――ラタニさま、迎賓館に近づく不審な人間の気配がありました』


 前夜祭も終わりを迎えた深夜過ぎ、マヤから連絡が入りラタニは警戒を強めるも首を傾げる。


()()()()()?』


『はい。既に兄様が処理されましたので』


『……これまたお早い対処なことで』


 マヤの察知が先か、自身が先に気づいたのか、どちらにせよ過去形からやはりと呆れてしまう。


『んで、アヤトは?』


『処理した人間を拾いに行くようお伝えするついでに、聞き出した情報を元に害虫の大本を駆除しにいくそうです。むろん皇帝陛下の許可を得て、ですが』


『ほんとお早いことで……そんでもってお仕事に関してはマジ律義だ』


 独断専行せず依頼主の真意を問い、相手の面子も立てるのも忘れないのはさすがと言えるが問題が一つ。


『それってお早く終わりそう?』


『情報から緊急に動く必要もないと判断したのでしょう。なのでわたくしに代わりを務めるよう指示されましたが』


『まあ……あいつは出場せんし、マヤちゃんでも良いだろうけど……』


『それと、ロロベリアさまとは出来るだけ接触するなとも。なので出発ギリギリまでわたくしは兄様として姿を見せないのでご了承を。ですが……兄様はいったいなにを警戒しているのでしょうね』


 クスクスと聞こえる笑い声にラタニも笑うしかない。

 気づかれた様子はなくも、謁見時以外は一度も入れ替わってロロベリアの前に姿を見せていないのでラタニも危惧していたが、どうやらアヤトも同じ考えのようで。

 ただ警戒ではなく期待かもしれないがとにかく、依頼の概要は知らなくともロロベリアが気づけば何を言い出すか分からないのでラタニも良い判断と思うが。


『またカナちゃんが大騒ぎだねぇ……どちらにせよマヤちゃん、そのまま警戒をよろしくねん』


『お任せください』


 依頼とは別の問題で頭を悩ませていたラタニは、サクラ失踪という思わぬ事態からまさにマヤの望む状況になったことで更に悩む羽目になるのだった。



 ◇



 一方、襲撃者を秘密裏に処理したアヤトは皇帝に変わり裏の陣頭指揮を執る宰相と秘密裏に接触。

 やはり首謀者は帝国側も掴みきれていなかった大物貴族で、嘆きつつ部下に襲撃者の回収を指示、白銀に扮するアヤトには襲撃失敗が伝わっていない間に駆除を依頼。

 秘密裏に駆除できるなら多少手荒な方法でも構わないとの条件をいいことに、アヤトはそのまま屋敷に潜入しいくつかの証拠と共に襲撃計画の内容を持ち出しただけでなく、多少手荒でも合法的に本人を術士団長に突き出した。

 ちなみに、突き出された首謀者が『早くこの悪魔から私を引き離してくれ!』と錯乱していたことに宰相は若干引いていたがそれはさておき。

 この時点で襲撃者からの情報を元に警備を改めたこともあり王国代表を始め、皇帝陛下や各国の重鎮も無事闘技場入りしたので一先ず依頼終了になった。


「白銀よ……恥を忍んで貴殿に依頼したいことがある」


 はずだったが、宰相から新たな依頼を提示された。

 その依頼内容は研究施設から姿を消したサクラの捜索というもの。

 親善試合目前という状況から、混乱を危惧して内密の捜索を強いられた中で帝国としては是が非でも白銀に協力して欲しい。


「貴殿の望む限りの報酬を用意する……どうかサクラ殿下を……この通りだ」


 国王の依頼とは関係のない、皇帝を通じての個人的な依頼と分かっていても宰相は頭を下げたが。


「善処しよう」

「ほ、本当かっ?」


 あっさり成立してしまい、喜びのあまり詰め寄る宰相をひらりと躱し。


「ただし皇女さまに俺の情報は漏らすなよ。それが報酬で構わん」

「それは当然だが……」

「なら儲けたな」


 意味不明な報酬に唖然となる宰相を残して白銀は姿を消し、アヤトはため息一つ。


『おいマヤ。そっちはどうなってる』


『兄様。お仕事は終わりましたか?』


 脳内で呼びかければすぐさまマヤから返答が。

 ブローチもなく受け答えが可能なのは契約者が故の繋がりだがそれはさておき。


『一先ずな。それよりも報告することがあるだろう』


『あらあら、まるで何かをご存じのような口ぶりですね』


『サクラの捜索を依頼された。お前も知ってるんだろう』


『はい。なので現在ロロベリアさまがエニシさまと共に捜索しています。つまり、気づかれてしまいました』


『ならお前は白いのに化けてるわけか。ラタニも知ってんだろうな』


『むろん。ロロベリアさまが抜け出すために協力して頂きました。そしてロロベリアさまがわたくしと交渉し、サクラさまのお近くまでご案内したところです』


『白いのがどんな対価を出したかは知らんが、随分と大盤振る舞いじゃねぇか。とにかく、白いのはサクラの近くにいるんだな』


『徐々に近づきつつありますが……ところで兄様?』


『なんだ』


『帝国の方に捜索を依頼されたのに、わたくしにサクラさまの居場所を聞かれないのですか? というより、捜索しないのですか?』


 そして契約者が故にマヤは離れていてもアヤトの位置を正確に把握できるが故に問いかける。

 何故ならアヤトは帝城の、正確には皇帝と顔を合わせたバルコニーに居た。

 依頼されただけでなく、ロロベリアが向かっているのに動く気配がないので興味津々なマヤに対し――


『お前が何も報告しないのなら、まだ白いのに危険は迫っていないんだろう』


 何を今さらと呆れたような返答が。


『逆を言えば白いのに危険が迫れば、お前は俺に協力せざる得ない。要は無駄に探し回り無駄に時間を消費するよりもここから向かう方が確実だろう』


 確かに今回の協力に対してラタニが提示した条件には、報告と共に救出する協力という約束も含まれている。加えてアヤトの指示で帝国に到着してからマヤはブローチ越しにロロベリアの状況を把握できるようにしていた。

 元よりアヤトはロロベリアを守る約束をしていて、マヤは二人の運命を傍観するのが目的。ロロベリアの身の保証は利害一致と必要あらば無条件の協力体制でもあった。

 なのでロロベリアがどこにいるか分からない以上、帝都の中心にある帝城に待機するのは得策だろう。


『ですがそれとサクラさまの身の安全は関係ありませんが?』


 だがマヤの協力はあくまでロロベリアの身の保証、その約束にサクラは含まれていない。捜索を依頼されたのに見捨てるつもりだろうかとマヤは興味津々に問いかける。


『白いのを近場まで案内したならサクラは生きている。それにサクラを連れ去った奴はおおよそ見当が付く』


『その連れ去った相手がサクラさまを害することはないと?』


『ま、死んでいなければどうとでもなるしな。だがわざわざ連れ去っておきながら、現時点で生きてるなら目的は()()()()()()()()()()


 まるでこの案件も想定内のような口ぶりにマヤは楽しくて仕方がない。

 本来なら焦る状況、なのに余裕な態度を崩さないアヤトは興味深い。

 そしてロロベリアと再会して更に興味深い存在になった。


 この二人は再会する前から面白いほどすれ違いを続けていた。

 現に今も僅かの差ですれ違った。あと数秒早くアヤトが連絡していれば案内していたロロベリアにも伝えることが出来たのだ。


 しかし再会する前と今は違う。


 お互いを認識する前からすれ違いを続けても、必ず再会を果たせる運命という繋がりがある。


 故にロロベリアがアヤトを追い続けているなら。


 アヤトがロロベリアを迎えに行くのなら。


 互いを求める二人を引き離すには、それこそ運命を覆さなければ不可能かもしれない。


『――兄様、ソフィアさまのご自宅はご存じですね。地下の研究室です』


「やはりそいつか」


 ブローチ越しにロロベリアが劣勢と分かるなりマヤは約束通り情報を提示、擬神化したアヤトは最短距離をまさに神速で駆け抜けた。



 ◇



「――まあいい。白いのが迷惑かけたがりな構ってちゃんなのは今さらだ」


 そんな態度をおくびにも出さずアヤトは呆け顔のロロベリアと重症のエニシ、更に徐々に迫る鋼鉄のサソリを一瞥し。


「迷惑かけたと反省しているなら爺さんを治療しろ」


 対し微妙な気持ちだったロロベリアはその命令に表情を曇らせる。

 治療術とて万全ではない。失った血液、抉れた脇腹は戻らない。

 エニシの傷は深すぎて施しても延命が精々。


「白いの、爺さんの治療をさっさと始めろ。それがお前に出来る唯一の()()()

「……っ。分かったわ」


 だが言い直された言葉にロロベリアの表情に迷いは消えた。

 アヤトも理解しているはず、なのに協力しろと口にした。

 その期待に応えなければロロベリアがここに居る意味がない。


(できるできないじゃない……()()()()()


 ならばとロロベリアは残る精霊力で治療術を施し始める。


 その様子を確認したアヤトはロロベリアとエニシを守るように鋼鉄のサソリに立ちふさがり――


「さて、害虫駆除でも始めるか」


 擬神化するなり不敵に笑った。




アヤトくんはどこまで見透かしているのやら……冷静な思考も含めて作者もこの子怖いです。

とにかく時系列が戻り次回はついに害虫(笑)VSアヤト、これまではとひと味違う強敵を相手にアヤトがどう戦うかをお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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