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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第一章 出会いと約束編
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二人の過去 1

アクセスありがとうございます!



「いいだろう」


 翌日、学食の清掃チェックを終えたアヤトが満足げに頷きロロベリアは胸をなで下ろす。


「では今日も遊んでやるか」


 後は訓練着に着替えていつものように専用訓練場で模擬戦を行うが今日は違う。


「話があるの。聞いてもらえないかしら」

「あん?」


 確認しながらもロロベリアは近くにあるテーブルに着くのでアヤトも訝しみの表情。


「とても大切な話よ」

「…………」

「お願い」


 確固たる意思を宿した瞳を向けるロロベリアに根負けしたのかアヤトは嘆息、理由を聞かず向かいの席に着いた。


「ありがとう」

「で? 遊び相手を放棄してまで俺にしたい、大切な話とはなんだ」


 アヤトの嫌味にも表情を緩めない。

 これから話す内容は何よりも大切、むしろよく今まで我慢したと褒めてあげたい。

 マヤの話を聞いてからずっと決めていた。

 どう切り出すかも、どう進めていくかも。


「私は孤児なの」


 故にロロベリアは淀みなく話していく。


「産まれてすぐ、ここから少し離れた町にある教会の前に捨てられていたらしくて。ロロベリアという名は私を拾って育ててくださった神父さまが付けてくれて、リーズベルトという姓も神父さまのもの。だから私はいつ、どこで産まれたのか知らない。両親も知らないの」

「…………」

「教会には私のような境遇の子供が他にも居たわ。貧しくてもみんなで助け合って、本当の家族のように暮らしていたからあまり気にしたこともないのだけど」


 突然始めた生い立ちを意外にもアヤトは顔色一つ変えず静聴している。


「でもね……五年前、私は独りになった」


 ロロベリアも目を反らさず、淡々と語っていく。


「盗賊の夜討ちだった。どうも礼拝堂に祀られてた女神像が値打ち物だったみたいで、それを狙われて。機嫌も悪かったのかな? 女神像だけでなく命まで盗んでいった」


 胸を締め付けるような辛い過去を、ただ淡々と。


「神父さま、シスター、二人の兄。一番幼かった私は異変に気づいた姉が床下の空間に押し込んでくれたお陰で見付かることはなかったけど、私以外の全ての命が盗まれた」


 今でも鮮明に思い出せる記憶。

 大丈夫だからと最後まで安心させようとしてくれた姉の精一杯の笑顔。

 狭く息苦しい暗闇の中で聞こえる乱暴な足音、嫌悪する笑い声、悲鳴。

 泣くことも出来ず、ひたすら目と耳を塞ぎ震えていた。

 気が遠くなるような時間を、永遠とも続くような恐怖に怯えて、助けてと神に祈りながら。

 しかし無情なことに神の助けはなく、それどころか徐々に蒸されるような熱さが襲った。

 全てを終えた盗賊が最後に教会へ火を放ったのだ。

 状況が分からず熱に浮かされ、朦朧とする意識の中でロロベリアは死を悟った。


 悟った瞬間、思い出されるのは彼の顔。


「死にたくなかった。私にはどうしても生きて、やり遂げたい願いがあった。だから死を拒絶した」


 風の便りで死んだと知り、それでも確信はないとの否定から、もう一度会うまで死にたくないと願った。

 助けではなく生きたいと、クロと再会するまで死んでたまるものかと心を強く持った。

 そして、その願いを叶えたのは神ではなく精霊で。


 ロロベリアは精霊術士となった。


「なにをどうやって精霊術士として開花したか、どうして生きていたのかまでは覚えてない。でも次に目を覚ました時には精霊術士になっていたし、助けてくれた王国騎士団の人から状況的に水の精霊術で自分の周囲を覆う火を消したみたいだって教えてくれたの。それと、到着した時には私以外の全てが燃え尽きていたことも」


 建物も、庭園の花も、みんなの死体も全て炭と化した跡地をロロベリアは後に訪れている。

 あの虚無感は生涯忘れられないだろう。

 治療中に教会を襲った盗賊は全て捕らえられ処刑されたことも聞いていたので復讐心すら抱けず、沸き上がったのはもっと早く精霊術士として開花していればみんなを救えたかもしれないとの後悔のみ。


「そんな私に声をかけてくださったのがリースとユースさんのお父さま。復讐ではなく弱い自分に後悔していた私を見込んでくれたの。精霊騎士団長として国の未来を思い、貴重な精霊術士を惜しんだのかもしれないけど、身寄りを無くした私を引き取ってくださった。ちなみに私が今でもリーズベルトを名乗っているのは、その時の悔しさを忘れないようにと、亡くなったみんなに救われた命を大切にしなさいとの気持ちから」


 淡々とアヤトから目を反らさず語り続けたロロベリアがふと表情を和らげて。


「後はリースやユースさんと共に、精霊術士となるべく訓練を積み重ねて今年マイレーヌ学院の門を叩いた。そして今、あなたの前に居る」


 生い立ちの最後を締めくくった。


「いきなり昔話を始めてなにがしたいんだ」


 壮絶な半生を最後まで表情変えず静聴していたアヤトといえば、呆れたようにロロベリアを見据えてため息一つ。


「まさか同情でもしてほしいのか。白いのは生粋の構ってちゃんだからな」

「私はそこまで構ってちゃんじゃないわ。これはそうね……強いて言うなら自己満足の誠意みたいなものかしら」

「誠意なんざ元をたどれば自己満足だ。それで、俺に誠意を示した理由は」

「例え偶然でも私ばかり知るのはどうかと思って」


 ロロベリアは一部でもアヤトの過去を知ってしまった。

 ならアヤトもロロベリアの過去を知らなければ不公平、興味のない話に付き合わせたのは申し訳ないが。

 それともう一つ、大きな理由がある。


「神父さま、シスター、二人のお兄さま、お姉さまの他に、私にはもう一人家族がいたの。歳が同じで、とても大切な家族が」


 今までは前置き、そしてここからが本題とロロベリアは緊張気味に進めていく。


「その家族は七年前に賊の襲撃で両親を亡くして教会に引き取られた。一年後に突然養子縁組が決まってお別れすることになったけど」

「…………」


 不意の話題転換でも同じように静聴するアヤトの表情を見据えて、どんな些細な変化も見逃さないようにと。


「私と同じでその家族も髪の色が特徴的で、互いに『シロ』『クロ』と呼び合っていた」


 髪をかき上げ照れくさそうに微笑むロロベリアだがアヤトは変わらずの無反応。


「一緒に暮らしていたのはたったの一年。でも私たちはとても仲良くしていた。いつも一緒で、なにをするのも一緒。それでその男の子……クロの大好きな遊びが、祖国伝統のあやとりだった」


 だが、あやとりというワードを聞いた瞬間、微かだがアヤトの眉根が動く。


「単純な遊びだけど私も楽しくて、今でもよく遊んでる。クロも暇さえあればいつもやってて、私にも教えてくれて……他にも色々と話してくれた」


 ようやく見せた反応にロロベリアは満足することなく、落ち着いたまま。


「例えばあやとりを教わったのは亡くなったお母さまだということ。そのお母さまもあやとりが大好きで、産まれてきた息子の名前にもじって付けたこと」


 今はもう逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと口を開く。



「……アヤト=カルヴァシア。それが()()()()()



 告げてから深呼吸を一つ、ロロベリアはアヤトに向けて笑いかけた。


「偶然ってこんなにも続くのかしら?」


 問いかけておきながらロロベリアもあり得ないと否定する。

 昨日マヤが教えてくれたアヤトの過去は二つ。

 一つは共に身寄りのないアヤトとマヤが四年前に義兄妹の契りを交わしたこと。

 もう一つは、アヤトの名が亡くなった母親の好きな遊びが由来ということ。

 王国でも珍しい黒目黒髪が特徴の同じ歳、加えて名の由来が全く同じの姓名を持つ人物が別人であるはずがない。

 偶然で片付ける方がおかしいのだ。

 もしマヤの話してくれた過去が真実なら、間違いなくアヤトはクロ。


「ま、あり得んだろうな」


 期待するロロベリアへアヤトも肩を竦めて同意。


「しかし俺が記憶を失っている可能性を考慮してわざわざ昔話から入るとは、白いのも策士と褒めるべきか、回りくどいバカと貶すべきか」

「バカは余計ではないかしら」


 こちらの意図を読まれていたとロロベリアは苦笑。

 マヤからの情報でアヤトはクロだと確信しているが、少なくともロロベリアを覚えていないのは出会い際の反応でわかっている。

 なのにあなたはクロだと言ったところで理解してもらえない。

 故に道筋を立ててみたのだが、あまりにアヤトは冷静で内心戸惑っていた。

 どうすればいいのかと微妙な空気の中、椅子にもたれつつアヤトは一息。


「なぜお前が知っているのか予想は付くが、まあ今は置いておくとして。確かに俺の名は亡き母があやとりにちなみ名付けてくれた」

「……っ」

「両親が賊の襲撃で亡くなったのも七年前と時期もあっている。なにより完全な黒髪黒目をした奴なんざ王国には滅多にいない。俺も数えるほどしか会わんしな。これほどの共通点をただの偶然で済ませるのは難しい」


 唯一の懸念を払拭し、本人も肯定的な言葉を述べるのでロロベリアは打ち震えていた。

 やはりアヤトはクロだ。

 後は無くした記憶を取り戻せば――


「だが、残念なことに偶然だ」

「…………え」


 希望が見えた矢先、続けられる言葉が理解できなくて。


「偶然とはこれほどまでに重なるのか。ここまでくればもやは奇跡だな」

「ちょ、ちょっと待って。何を言ってるの?」


 理解したくなくて目の泳ぐロロベリアに向けて、アヤトはハッキリと告げた。


「勘違いしているところ悪いが、俺はお前の言うクロとやらじゃねぇ」

「でもあなた認めたじゃない。偶然はあり得ないって」

「今までの見解でな。正直、俺も驚いている」

「……でも」


 自信を持って否定されて声が尻すぼみしていく。

 その反応でアヤトは理解したと捉えた。


「考慮するまでもなく俺は記憶を失ってなどいない」

「それは……あなたが自覚していないだけで、もしかしたら……記憶喪失なのだし……」


 それでもロロベリアは必死に可能性を提示する。

 確信を得ていただけにやはり抱いた期待を捨てきれないのか。

 六年もの時間、この瞬間を夢見ていたのだから無理はない。


 しかし現実は無慈悲。


「では俺も回りくどいやり方でお前の目を覚ましてやる」


 お返しとばかりに今度はアヤトが淡々と語り始めた。




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読んでいただき、ありがとうございました!


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