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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
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暗躍 帝国サイド

アクセスありがとうございます!



 王国代表が帝都に到着した翌日。


 謁見を前に皇帝、アグレリア=ラグズ=エヴリストは帝城の私室に居た。

 周囲には時間まで休むと人払いしているも、理由は別にある。

 一月前にファンデル王国の王で盟友のレグリスから送られた親書には帝国の抱える問題に秘密裏で協力する旨が綴られていた。

 秘密裏なのはその問題が一部過激派が他国侵略を目論む故。表だった協力をしてしまえば暴走の恐れがあり、いくら両国の王が盟友であろうと安易に他国の介入を許すのは面子が保たないとの配慮。

 また王国側としてもこの問題を捨て置けないので協力を惜しまないのも分かるし、こちらも是が非でもない提案。しかし問題が問題だけに秘密裏というのが難しい。

 それでもレグリスの為人を知るアグレリアは宰相を含めた信用における家臣数名と話し合い、了承と感謝を返してから秘密裏で何度かやり取りしたのだが。


「レグリスが我を謀ることはないだろうが……どうやって来るのだ?」


 最後に送られた親書にその協力者がこの時間に直接会いに来るので私室にて待機すること、かなり無礼ではあるが面白い奴なので気に入るだろうとの内容がレグリスの直筆で綴られていたのだ。

 故に王国の協力を知る者も『なにをバカな?』と口々に批判していたがアグレリアは盟友を信じ、部屋の外に宰相と精霊術士団長を待機させこうして一人待っているも、警備が万全な帝城の上階に位置する私室にその協力者がどう挨拶に来られるのかとの疑問はある。

 まあこの状況下で本当に誰にも気づかれず会いに来られる者がいるなら、これ以上ない協力者であるのは確か――


 コンコン


「――――っ」


 などと思案していれば窓を叩く音が聞こえてアグレリアは息を呑み、視線を向ければバルコニーに裾がボロボロの黒いコートを羽織った人影が立っていた。

 しかもその人影は左目のみ見える奇妙な仮面で顔を覆い、目と同じく煌めきを帯びた銀色の髪をしていて。

 不審な格好から驚きのあまり精霊力を解放するも、銀の瞳が見据えるなり首を傾げるような仕草で。


「あん? 国王から話は伝わっているだろう」


 仮面越しに聞こえるくぐもった声で男だと理解し、同時にこの男がレグリスの言っていた協力者らしく。


「……お主がレグリスの言っていた協力者、なのか?」

「他に当てが無いならそうだろうよ」


 思わず確認してしまえば太々しい物言いを返されてしまう。

 それでも上階に位置するここに、万全な警備を誇る帝城にこうして侵入できること事態が信じがたく、硬直していると男は面倒げに懐から親書を取り出した。


「国王からお届け物だ。これでも信じられんのなら俺は帰るが?」

「い、いや……信じよう。それを渡してくれぬか」


 ただこれが夢ではないのならまさに最高の協力者だとアグレリアは我に返り窓を開けて男を招き入れ、手渡された親書に目を通す。

 レグリスの直筆で王印も本物、本当に協力者だと確認したのだが。


「お主……何者だ?」


 たたずまいや雰囲気でただ者ではないと分かる、そもそもここに侵入する時点で規格外この上ない存在。

 だからこそ分からない。男からは精霊力を感じられないなら持たぬ者、しかし持たぬ者がどのようにしてここに侵入できたのか。


「だから、国王に頼まれた協力者だろ」

「そうではなく……持たぬ者がどうやって……」

「その親書に詮索無用と書いてないのか?」

「…………」


 問われてアグレリアは言葉を飲み込む。

 確かに男に関して詮索しないことが書かれていた。

 また忠告として、目の前に居る男は自分の家臣でもなければ王国に忠誠を誓っている者でもなく、あくまで自分の友人として今回の協力を頼んでいること。

 そしてこの親書を読んでいるなら目の前に居る男がどれほどの価値かを理解し、懐の深さを見せておけば今後も自分のように協力してもらえるかもしれないとも。

 正直なところ男の価値を瞬時に理解したが故に、アグレリアは帝国に引き込みたいと思えるがレグリスの忠告で無理だと判断していた。

 恐らくこの男は地位や名誉などで引き留めるのは不可能、出来るのならレグリスがとっくにやっているだろう。

 ならば皇帝として繋がりは残すべき、それだけの価値がこの男にはある。


「……そうだったな。すまない」

「気にするな。しかしあんただけか」


 故に詮索について謝罪をすれば、男は気にせず室内を見渡す。

 内容が胡散臭いだけに護衛の一人は居ると思っていたのか。


「家臣には止められたが、レグリスが寄越すなら危険な者でもないだろう」

「随分と仲良しなことで」

「それに……お主がここに居ることこそ信頼ではないか? もしあやつが我を裏切るなら既に我の命はなかろうて」


 これはアグレリアの本音だ。

 盟友を信頼しているからこそ、証として家臣の進言を押さえてまで一人で居た。

 またこの顔合わせ方もレグリスが向けている信頼の現れ。誰にも気づかれず帝城に侵入できるような者と友人であれば、協力ではなく暗殺を企てるはず。

 なのに協力者として紹介したのなら、王国は帝国との友好をなによりも優先していると言葉以上に伝わるわけで。


「そんな依頼をするような国王なら、それこそ国王の首を飛ばすさ」

「……物騒な男だ」

「国同士の諍いなんざ、本来誰も望まんだろう」

「確かに……」


 そしてレグリスが立場関係なく友人と呼ぶ理由も納得。物言いは物騒でも男は両国の友好を、平和を望んでいる。故に今回の問題にも協力してくれたのだろう。

 ならばその本来誰も望まない諍いを望む者を排除する協力者として、また自分とも友人として接して欲しいとの意味合いを込めて手を伸ばす。


「なら我もお主の判断で首を飛ばされないよう努力しよう」

「そりゃどうも」


 男も手を伸ばして友好の握手を交わし。


「それで、お主はどのように協力してくれるのだ?」

「国王に頼まれたように噂は流しているか」

「ああ……あれか。問題なく」


 早速今後の予定について相談すれば男から確認が。

 噂とは帝都内に夜な夜な不審者が目撃されているというもの。

 今回の問題解決に必要と書かれていたので、事情を知る家臣を中心に帝都に広まるようデマを流したのだが何の意味があるのか詳しくは書かれていなく。


「なら簡単だ。また夜にでも来るからそれまでに不審と思われる者のリストを用意しておけ。後は俺がそいつらを探る」

「…………お主一人でか?」

「一人の方が侵入しやすいだろう。それに親善試合を前に地方の貴族共も帝都に来ているなら難しくもない。あれば証拠を持ってきてやる」

「…………もしかして、その行為を隠れ蓑にする為の噂だと?」

「後ろめたい者が後ろめたい物を盗まれたところで報告はせんだろうが、盗みの罪をなすりつけるには打ってつけな身代わりだろう? 問題が解決すれば用無しと再び噂を流して消せば良いしな」


 その意図を説明されてアグレリアは感心する。自分たちで流した噂なら自分たちで利用しコントロールできる、なら諜報活動には打ってつけな隠れ蓑だ。

 ただこの噂を利用できるのはやはりこの男が居てこそ。誰にも気づかれず潜入し、情報を盗み出すこと事態が難しいが帝城にすら侵入できるなら容易いはず。


「用意させよう。その時に我の家臣を同席させてもいいか?」

「好きにしろ。場所はどこだ」

「議会室に二一時で」

「へいよ。なら俺はそろそろお暇するか」


 簡単な打ち合わせを終え、再びバルコニーへ向かう男に呆れつつアグレリアはふと思つく。


「お主のことを詮索せぬよう伝えておくが……しかし紹介するのに困る。何と呼べば良い?」

「何でも良いだろ」

「ならばその見事な髪から『白銀はくぎん』と呼ばせてもらう。協力感謝するぞ……白銀よ」


 皇帝としての立場からすべきではなくとも、誠意を示す為にアグレリアは頭を下げる。


「礼は終わってからにしろ」


 だが男こと白銀は振り返ることなくバルコニーに出るなり姿を消した。

 その呆気ない態度にやはり呆れながらアグレリアは笑った。


「レグリスめ……とんでもない友人を紹介してくれたものだ」



 ◇



「――遅いんだよ」


 同日夜、割り当てられた客室に戻ったラタニを批判する声。


「あんたのせいでしょうに。つーか皇女さまとお茶会って、カナちゃんがお腹押さえてたよん」


 だがアヤトが原因なのでラタニは嫌味で返す。

 大使としての業務を終えて戻ってみればアヤトがサクラのお茶会に招待されたとの報告、しかもロロベリアを同席させてだ。

 表向きはベルーザの持たぬ者に対する失言を皇族として直接詫びるもの、だが確実に裏があるのは目に見えているが故にカナリアが頭を抱えていた。

 まあ裏よりもアヤトが皇女相手になにかしでかさないかが大きいも、知らぬところで思わぬ話が纏まっていたことにラタニもさすがに驚いたものだ。


「んで、ロロちゃんまで連れてなにしたいん?」

「白いのはお目付役らしいからな。後は皇女のお付きと遊べる良い機会だと思ったまでだ」

「旅行してる時に遊びそびれたって人? まあ遊ぶのは良いけどあんまし情報もらさんようにしんさいよ」


 それでも執務机であやとりをしているアヤトに詳しく聞かず、執務机に腰を下ろして本題を。


「そんで、皇帝さまにはちゃんと挨拶できた?」

「まあな。あちらさんは俺を白銀と呼ぶらしい、覚えておけ」

「白銀ね……また安易なお名前だこと」


 まあ分からなくもないとラタニはケラケラと笑う。

 なんせ皇帝に会う際、少しでも素性が知られないようアヤトは擬神化をしている。加えて変化した左目だけ見える仮面で覆っているなら最も印象が強いだろう。

 ちなみに国王へは髪を染めて、瞳も仮面越しで違う色に見えるよう変装して会うと伝えていた。アヤトの目や髪は珍しい色、なので当然と納得しているが実ところ擬神化について知らないが故の言い訳でもあった。

 更に言えば謁見前を選んだのもアグレリアが推測した信頼の表明もあるが、協力者の白銀とアヤトが同一人物と完全に疑われないため。このタイミングならまずアグレリアは後に謁見した王国代表のアヤトだと分からない、また国王にはアグレリアと会ってすぐにアヤトは合流すると伝えている。

 王国メンバーで今回の一件を知るのはラタニのみ、つまりマヤの協力により確実な方法で悟られない方法を選んだ。

 帝国でアヤトがどう協力しているかを知るのものラタニと帝国側の一部のみ、王国側も自分やアヤトの報告でしか概要を知れないのならまず気づかれないとの作戦だが。


「順調だけど……逆に怖いねぇ。あの子が絡むと嫌な予感しかしないし」


 確実な方法、しかしマヤが進んで協力を申し出たのにラタニは微妙な気分。

 レグリスから依頼を受けた後、一度ラタニと打ち合わせのために王都の屋敷でアヤトと落ち合ったのだが(その前にサーヴェルがアヤトに更なる依頼を受けたのでそれを含めて)、その席でマヤが突然協力を申し出た。


『兄様の素性がバレないように、兄様がお仕事をされている間、わたくしが代わりを務めましょうか?』


 確かにユースやカイルに協力を仰ぐよりもマヤが協力する方がより確実な方法になる。なんせマヤの姿形は神気でどうとでも出来る上、持たぬ者のアヤトなら精霊力の有無で気づかれることはない。

 秘密裏の依頼なら事情を知らない者は少数であればあるほど達成率は上がる、だが本来マヤの協力は対価を必要とする。

 故にこの方法が頭を過ぎってもラタニは当然、アヤトも実行するつもりはなかったので警戒したが――


『むろん協力する代わりに対価を頂きます。ですが頂くと言うより一つ、わたくしのわがままを聞いてくだされば結構ですよ』


 そのわがままが『もしロロベリアが入れ替わりに気づいたら、ロロベリアの望み通りにさせてほしい』との意味深なもので。

 なぜこのような条件を提示したのかを追求するも、マヤが理由を説明するはずもなく。


『そもそも兄様は少しロロベリアさまを過保護にしすぎではないでしょうか? ロロベリアさまが望む大英雄の道を応援するのであれば、甘やかすばかりでは叶いませんよ。それとも大切にするあまり、荒事に巻き込みたくないのでしょうか』

『誰が過保護だ。大切にしてもねぇよ』

『ならば問題ありませんね。交渉成立です』


 むしろ挑発したことでアヤトが呑んだのは言うまでもなく。

 ただ『マヤからロロベリアを煽らない』『もしロロベリアに危険が迫っていれば必ず報告する』との条件を付け加えた。まあこの条件を加えたのはラタニだったが、これでロロベリアを最低限は守られる。

 なによりマヤの協力は魅力的、お陰で誰にも悟られることなく依頼をこなせる。

 こうして秘密裏の情報交換ができるのも入れ替わりが可能だからこそ。

 入れ替わるタイミングを考えれば夕食時になり、かといって朝食にだけ顔を出すのも違和感があるとアヤトは帝国滞在中代表メンバーと食事が出来ないのだが、やはり嫌な予感はするわけで。


「むしろ条件付けたお陰でいらんことをされる心配もないだろう」

「確かにねー。あの子は傍観決めてるけど、面白そうなら何でもしちゃうし」


 まあ今さらだとラタニも考えるのをやめて。


「あちらさんと会う前に、帝都の地理を確認しておきたいからもう行くぞ」

「ほいさ、気をつけてね~」


 仮面は会う前に付けるのでコートのみ変えたアヤトが窓から出発するのを見送った。




帝国サイドと言うよりマヤの暗躍に思える内容……ただマヤも未来視しているわけではなく、四章の終章で書いたようにアヤトとロロベリアが帝国に行くなら必ずなにかある、それだけの運命を秘めているとの予想から少しでも楽しめそうな提案をしただけ。

要はロロベリアを蚊帳の外にしたままだと面白くない、なら介入する機会を用意しようとの考え……本当に快楽主義といいますか、意地が悪いっすね……神さま。


とにかく次回はロロベリアの前に現れるまでの内容、物語も元の時系列に戻りアヤト大活躍……の予定なのでお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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