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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
158/777

暗躍 王国サイド

アクセスありがとうございます!



 序列継続戦の翌日――


「――チェックメイトだ」

「ぬぅぅ……っ」


 黒のナイトを動かしたアヤトが宣言するとレグリスから悔しげな呻きが漏れる。


「……もう一戦するぞ」

「まだ負けたりんか」


 からの指を立てて再戦を申し出るレグリスにうんざり顔でアヤトは紅茶を一口。

 まあ無理もない。予定通り午前中に調べ物を済ませたついでにレグリスの元へ訪れてからこれで八戦目、チェスが嫌いではないものの相手が弱すぎると面白みを感じなかった。

 つまりレグリスは下手の横好き、ただ面白みを感じなくとも付き合っているのはこうして手合わせをするのはアヤトがマイレーヌ学院の調理師に赴任する少し前以来、つまりレグリスにとって久しぶりの息抜きならばと律義な性格からで。

 ただ駄々をこねる姿は一国の王としての威厳がなく、国民が見れば支持急降下は免れないだろう。なによりアヤトの態度は公私関係なく完全な不敬罪だ。

 そうならないのは一重にアヤトの特殊性があってこそ。そもそも国王との謁見は当然、私的な時間を平民が共に出来るはずがなく、更に二人の繋がりは非合法の実験が切っ掛けと正規の方法でアヤトを王城に招くことは出来ない。

 つまり周囲に悟られず招くしかないのだが、その方法が潜入だったりする。要は警備や人の行き来が激しい王城へ誰にも気づかれず忍び込める者など王国広といえどアヤトくらいなもの。

 もちろん勝手に忍び込むわけではないし、アヤトは余程の理由がない限り他人の領域に潜入しないと決めているのだがそれはさておき。

 レグリスは国王、自由な時間など早々ないので自由に潜入できても会えなければ意味がない。なのでアヤトから会いに行く場合、事前に宰相と接触して直接交渉。問題なければ時間を決めて落ち合う場所に潜入と言った形を取っているので、宰相も同席している。

 その宰相――マーレグは手帳に『これで陛下の〇勝九七敗』と淡々と書き込んでいるのは二人の関係性を知る数少ない者の一人で、要は今さらと馴れていた。

 ちなみにレグリスから呼び出す場合はラタニに言伝を頼むのみなのだが、マヤの正体や神気のブローチをレグリスらは知らないのでわざと時間を掛けていたりする。

 とにかく今回も前者の手順で会いに来たのだが――


「チェスも良いが、いい加減用件を言え」


 アヤトがうんざりしている理由はもう一つある。今朝方執務室で業務中のマーレグと接触した際、ちょうど呼び出すつもりでいたと言われたからで。

 潜入中故に長話もできず詳しくは陛下からと保留にされて来てみればチェスばかり、催促もしたくなる。


「それは全員が揃ってからに」

「あん?」


 相変わらずチェスに没頭しているレグリスに代わりマーレグが返答、同時にノックの音が。


「お呼びでしょうか、陛下」


 マーレグが入室を許可すると扉が開きラタニが余所行きの声音と対応で現れて。


「なぜお前が来る」

「だから国王さまにお呼ばれしたんよ――どっこいしょ」


 所詮は余所行き、扉を閉めるなり許可もなくアヤトの隣りに着席を。


「んで、飽きもせずチェスですか……あれまあ、国王さまそれは悪手ですよ」

「だまっとれラタニ!」

「かしこまり~」

「ラタニ、お茶を飲むか」

「ごちになります」


 からのアヤトと同じく不敬罪この上ない態度を。

 それでもマーレグが叱咤どころかお茶まで煎れるのは馴れもあるが一番は宰相という立場故。

 ラタニとアヤトは能力共々王国には欠かせない人材、加えてレグリスが二人の気ままな対応を気に入っている。

 国王としての立場から離れた息抜きとして楽しみ、更に王国の二大戦力(ラタニとアヤト)を留められるのなら安いもの。公の場でさえなければ自由にさせるべきと宰相として国の利益を考慮しているまで。

 こうした打算と配慮が出来るからこそレグリスも信頼し、二人もまた好感を持っていた。


「そんで宰相さま、急に呼び出してどうしたんです? まさか国王さまとアヤトのチェス観戦させるためでもないでしょうに」

「さすがにそんなくだらない理由で呼ばん。一応保護者のお前にも了承を得ておこうとの配慮だ」

「つまりアヤトにお仕事依頼? それでわざわざ呼び出すって……あんたどんな厄介ごと頼まれたん?」

「お前が来てからだとよ……つーわけだ、さっさと話せ。チェックメイトだ」


 勝敗も決したとアヤトは黒のクイーンを動かし宣言を。

 レグリスは表情を歪ませていたがそこは国王、すぐさま切り替えれば威厳に満ちた声音で告げた。


「アヤトの存在をエヴリスト帝国に打ち明けようと考えている」


「……あん?」

「……へー」


 予想外の本題に首を傾げるアヤトに対し、ラタニの態度が一変――冷徹な目に変わる。


「まあ落ち着けラタニ。むろん打ち明けると言っても素性を隠してだ」


 ただこの反応は予想の範疇とマーレグは補足を。なんせラタニはアヤトを政治利用すればそれこそ反旗を翻しかねないほど大切にしているのだ。

 故にアヤトと共に意見確認するためこの場に同席させているわけで、レグリスに対する信頼もありラタニはため息と共に冷気をはき出す。


「そんでまたどーして急に?」

「……まだ確定ではないがどうも帝国側の動向が妙でな」


 改めて説明を求めればマーレグは眉根を潜める。

 王国の諜報部が掴んだ情報によれば帝国の一部過激派が妙な動きを見せているらしい。一月後には帝国側で親善試合も行われる予定もあり、もし滞在中に王国代表が何らかの内輪もめに巻き込まれれば過激派の思うつぼになる。

 故にアヤトを秘密裏に帝国へ向かわせて内情を調べ、求められれば鎮圧の協力をして欲しいらしく。


「いくらアヤトでも単独で、しかも他国で活動するのは危険。王国側が勝手に調査するのも問題があるだろう」

「だから皇帝の許可と後ろ盾になってもらうから素性隠して打ち明けるってわけね……でもさ、帝国の問題なら王国が首突っこむこともなかろうに。他国は他国っしょ」

「両国が友好関係を築き上げつつある中、一部のバカ共のせいで再び戦争になるよりはマシだろう」

「そのバカ共を上手く押さえられないって……帝国大丈夫なん?」

「あちらにはお前のような規格外の抑止力がない。加えてアヤトという抑止力もな。そこは同情してやれ」

「その抑止力を上手く使えなかった宰相さまだけに、説得力あるお言葉だ」

「……反省している」


 手痛い反撃にマーレグは目を伏せる。

 なんせ国王、つまり王国側からアヤトへの依頼こそ諜報活動がメイン。

 貴族や力を持つ者の周囲は手練れが多く、精霊力を感知する精霊器を所持している。

 だが精霊士や精霊術士も凌駕する実力、技術的な能力でも王城だろうと安易に潜入できる持たぬ者のアヤトだからこそ、そう言った相手を調べるのは最適で。不正や黒い噂がありながら狡猾で尻尾を掴ませない貴族や大商家を調べ上げ、言い逃れが出来ない証拠を掴む。このサイクルでこの一年、王国はかなりの膿を摘出している。

 故にアヤトは陰の抑止力と言える……のだが、調査対象を選別するのは宰相、ならばヴェルディク=フィン=ディリュア卿の一件はマーレグの落ち度になるわけで。


「ディリュアの反乱は予の落ち度でもある。ここは予の顔を立ててそこまでにしてくれ」

「国王さまのお顔立てるなら、ここまでにしときます」


 ただいくら優秀な人材があろうと全て上手く回せるわけもなく、また同時期にそのアヤトを自分の都合で学院に呼び出した手前もあり元よりラタニは追求するつもりはない。


「助かる。まあ他にも予とアグレリアが知己なのは知っているだろう」

「……なるほどねー。お友達が困ってるから、こっちは秘蔵っ子を貸してあげようと。これまたお優しいことで」

「なにより貸しが出来るだろう。つまり戦争回避と王国の利益、一石二鳥の手段だと思わんか?」


 加えてそれを理解しても王である自分に責があると認め、私情も含めた本心をこうして口にするレグリスだからこそラタニも忠誠を誓うに値する人物だと慕っているわけで。

 またマーレグの言い分も理解している。

 現政権に楯突けばラタニが敵に回る、陰から狙おうとすればアヤトが敵に回るとまさに表裏の規格外な抑止力。それも様々な偶然を得て手に入れた王国は運が良いだけのこと。

 もちろん国王の手腕があってこそ……だが、そんな規格外を他国に求めるのは無理が過ぎるというもの。

 なによりラタニも戦争など望んでいない。回避そのものが利益になる上に帝国(相手側)に恩を売れるなら拒む理由はなく。


「まあねー。アヤトはどー思う?」


 なら後は本人次第。

 依頼の難易度や利益よりもアヤトの意思優先がラタニの結論で。


「そもそも帝国に行くなら学食を閉める必要がある。時間がねぇよ」


 そのアヤトが拒否すれば、理由にマーレグはあきれ顔を。


「……そんな理由で」

「そんな理由とは己の職務に誇りを持つ宰相さまらしくない発言だな。任せられた職務に責任を持つ、常識だ」

「……すまない」


 まあらしい理由でもあり、嫌味で言いくるめるのもアヤトだが――そのらしい理由にラタニは内心苦笑してしまう。

 ならばと即座に懸念材料を拭うだけでなく、自身の望みも踏まえた妙案を思いつき。


「んじゃさ、アヤトが学院生になればいいんじゃね?」

「……ん?」

「……は?」


 提案してみればレグリスとマーレグはあまりの内容に訝しみ。


「なぜそうなる」

「いやだってさ、相手側にはあくまで素性隠して協力するっしょ? で、あんたみたいなバケモノな持たぬ者なんか他にいない」

「バケモノにバケモノと言われるのは心外だな。で?」

「お相手には協力者が持たぬ者って気づかれる、誰だろうって王国調べればまずあんたに行き着く。最近は特に目立ってるからねー。だから特別学院制度で騎士クラスに入って、選抜戦に出場して王国代表として帝国に行けばいいんじゃね?」


 その大胆な方法に目を見開くがラタニは構わず続けた。


「まあ向こうで動きやすくするなら補欠メンバーが妥当か。とにかくリーちゃんとユーちゃんはあんたの素性も知ってるから協力頼める。どっちかと組んで補欠メンバーになれば一緒に帝国だ」

「バカかお前は。リスと同室になるわけにはいかんだろう」

「組む相手はどっちでも良いっしょ。要はユーちゃんに夜中のアリバイ証言してもらって、あんたは変装でもして動き回る。さすがのあんたもまっ昼間から諜報活動なんてせんだろーし。これなら帝国さんも正体があんたって決め手がなくて迷走、隠し通せてばんばんざい」

「それはユースが代表になれたらの方法だろう」

「……ならばレイドに協力させれば良い」


 難色を示すアヤトだったが、ここでレグリスが口を開く。


「元より子供らにもお主の素性は話すつもりでおった。これも良い機会だろう」

「それよりも機を見てアーヴァイン侯爵の次男にも伝えるべきかと。向こうで王族の者とアヤトを同室にする、というのはいささか不自然。それにアヤトが学院生になれば一波乱もあるでしょう、そこも踏まえて彼に協力してもらうのです」


 更にマーレグまでも乗り気になる。

 ラタニの提案は大胆だが王国としては協力したい、しかしアヤトの素性は隠したいとの希望を叶えるに適しているからで。


「親善試合の時期なら学院も長期休暇中。学食も閉めるし、アヤトの素性も上手く誤魔化せる。調べる期間はゲキ短だけど、あんたなら難しくもないっしょ」


 二人を味方に付けたラタニは最初の理由を払拭させたに留まらず更なる追い打ちを。


「もちロロちゃんでも良いよん。あの子なら誰と組んでも代表になるだろーし」

「だから、白いのと同室になるわけにもいかんだろう」


 それでもアヤトは否定的だが、しばしの思案後ため息一つ。


「……仕方ねぇ。面倒だが受けてやる」

「そうか。助かるぞ、アヤトよ」

「ならそれなりの報酬は出るんだろうな」

「むろんよ。とりあえずお主の希望があれば言ってみい」


 頷き、早速レグリスと交渉を始めるアヤトを尻目にラタニはしてやったりの笑み。

 少しでも失った時間を取り戻して欲しいと学院に招いたが、結果はロロベリアに付きっきり。むろん良い傾向で、予想外の再会もあったがまだ足りない。

 だから特別学院制度を持ち出した。同じ学院生同士で更なる交流を持ち、更に青春を謳歌して欲しい。これがラタニの望みで。

 そして元よりアヤトも戦争など望まない、しかしそれ以上の譲れないものがあるわけで。

 単身で帝国に向かい、依頼を熟すならどうしても長期間王国を離れることになる。口にこそ絶対にしないだろうが、アヤトはそこを懸念していた。

 ならば払拭するのは簡単、単身でなければいいだけのこと。

 彼女の実力なら間違いなく王国代表に選ばれる、要は――


(ロロちゃんと離れたくないだけでしょうに)


 大事な大事なロロベリアと一緒に帝国に行けるなら、アヤトも拒む理由がないだけだった。




国王の依頼にが明らかになり、後にサーヴェルの依頼が絡んで第三章に繋がるわけですが……やはり帝国編になってから妙にアヤトが隠れてデレしてる……。

しかしアヤトの懸念に気づき、自分の望みも叶える提案をしたラタニはさすがです。アヤトを最も理解しているのは間違いなく彼女でしょう。


そして次回は帝国サイド、アヤトがどう暗躍していたかの内容。加えてマヤがどう絡み、結果としてロロベリアが依頼と関係なく巻き込まれたかについても明らかになる予定なのでお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!


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