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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
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精霊術士殺し

アクセスありがとうございます!



「――何なんですかあれはっ!?」


 試験部屋に舞い戻ったロロベリアは振り返りざま焦りを滲ませ声を上げる。


「皆目見当もつきませぬ! ですが……」


 同じく今し方飛び出してきた隠し通路を見据えてエニシは刀の柄に手をかける。


「どうやら我々の不法侵入をお許しなさるつもりはないようですな」

「……ずいぶんと仰々しい防犯対策ですね」


 軽妙な表現をしながらも抜刀し臨戦態勢に入るエニシにならいロロベリアも瑠璃姫を抜くと、壁が『ドゴンッ』と吹き飛び、奥で見た異形の兵器――鋼鉄のサソリが姿を現し、深く輝く紫色をした八つの瞳がこちらに向けられた。

 精霊器の試験に耐える強度を誇る壁なら訓練場と同じほどあるはず、にも関わらず簡単に破壊するパワー。

 またスピードも。先ほど振り下ろされた尾の一つを躱せたのはサクラの叫びで咄嗟に精霊力を解放したお陰、それでもギリギリの回避だった。

 なぜこのような兵器がソフィアの研究施設で製造されていたのか、なぜ攻撃してきたのかは分からないが少なくともサクラの失踪――誘拐事件の黒幕は彼女で。

 本来ならサクラの指示に従いこのまま背後の扉を抜けて応援を呼ぶべきだが。


「とにかくサクラさまは逃げるよう仰いましたが……さすがに従うわけにはいかないでしょう」


 未知の兵器が故にこのまま外に解き放つのも危険だが、それ以前にサクラの身が危険だ。

 土煙の中、拘束したサクラを連れ立って悠々と現れるソフィアはまるで楽しい催しを見物するような嬉々とした表情を浮かべているだけに精神が不安定なのが見て取れる。

 このまま逃げればソフィアが何をするかが分からない、ならば出来ないとロロベリアも覚悟を決める。


「申し訳ありません……ロロベリアさま。このような荒事に巻き込んでしまって」

「私が望んで巻き込まれたんですから、今さらです」

「ご協力……感謝します」


 シュィン、シュィンと耳障りな金属音を鳴らしながら近づく鋼鉄のサソリから注意を反らさず二人は一瞬視線を交わす。


「私があのサソリもどきを惹きつけるので」

「……ご武運を」


 なによりもまずはサクラの救出、その後共に脱出との意思確認。

 囮役は危険でも素早さではエニシが上、ならばロロベリアが受け持つ。

 鋼鉄のサソリを挟んで二〇メル以上は離れているも持たぬ者のソフィアなら対応しきれないだろう。

 また移動速度は速くない、故に精霊力を脚力に集中するなりロロベリアは右へ、エニシは左へ駆け出した。


(はや――っ)


 だが鋼鉄のサソリが示し合わせたように速度を上げ、猛然と繰り出された左のスピアをロロベリアは躱しきれず瑠璃姫を盾に。


「きゃあぁぁぁ――っ!」



 しかし力任せに振り抜かれて身体ごと吹き飛ばされてしまい壁に激突。


「ぬうっ!」


 またエニシも突進を遮るように尾が伸び、ジャンプで躱すも二本目の尾が追撃――しかしすぐさま襲い来る尾を足場にしてそのまま後方へ飛び威力を相殺した。


「ロロベリアさまっ!」


 着地するなりエニシはロロベリアの安否を確認すべく駆け寄るも。


「ご自分への防犯対策も万全でしたね……」

「……あなたという方は」


 この状況において既に治療術で癒やしながら軽口まで漏らすロロベリアに安堵と共にエニシは感嘆を。伝授時から非凡な才で驚かされていたが精神力も見事としか言いようがない。

 だが実戦経験こそないものの、アヤトやラタニの訓練をくぐり抜けてきた経験があるロロベリアは下手な騎士よりも場慣れしている。いま必要なことを淡々と熟せるわけで。

 故に移動速度に加えて伸ばせば室内の端から端までカバーできるあの二本の尾が厄介、つまりサクラを救出するには鋼鉄のサソリを破壊するしかないと判断。


「エニシさん!」

「かしこまりました!」


 エニシも同じ判断をしたようで確認せずとも飛び出した。

 立ち回りに秀でて経験も豊富なエニシが近接戦闘で注意を惹きつけ、ロロベリア

が遠距離から精霊術で攻撃する霊獣討伐の基本戦術。


『射て凍れ!』


 スピアを振りかざすも受けることなく素早さで翻弄するエニシの動きに合わせてロロベリアは精霊術を発動、六つの氷塊が鋼鉄のサソリの脚や胴に直撃。


「通じないっ!? なら――」


 動じないどころか浅黒い装甲に傷すら付けられず驚愕するも、すぐさま切り替え両手を掲げ詩を紡ぎ始める。


『吹け・吹け・青の嵐――』


 鋼鉄のサソリを翻弄しつつエニシもロロベリアから感じる精霊力の高まりを察して。



『我が前に立ちふさがりし脅威を阻め――氷結輪界(レゥ・ロンドゥエル)!』


 ロロベリアが両手を振り下ろすタイミングに合わせて後方に飛んだ。

 振り下ろされた両手から地面伝いに走る蒼い輝きが鋼鉄のサソリを覆うように広がり、急激な温度低下が生じたビキ、ビキッとの音が響き。


 キィィィン――ッ


 浅黒い装甲に霜が降き、瞬く間に氷が覆った。

 そもそも精霊術が通じない装甲事態が未知、なので言霊の威力で通じないなら詩を紡ぐ高火力の精霊術をとの安易な判断ではなく、相手を封じる精霊術を選択した。

 また未知が故にどれだけ封じられるかも分からないと集中を解かず、エニシもこの隙を突いて今度こそと再び飛び出すも――


 パキィィィ――ッ


「――くう!」


 まるで薄氷のように覆っていた氷が簡単に砕け散り、尾を振る鋼鉄のサソリにエニシは再び後退することになり。


「そんな……っ」


 渾身の精霊術が足止めにすらならなかった事実にさすがのロロベリアも動揺を隠せなかった。



 ◇



「如何ですか? サクラさま」


 奮闘するロロベリアとエニシを嘲笑いつつソフィアが得意げに問いかけるもサクラは理解が追いつかない。

 鋼鉄のサソリの機動力や攻撃力を踏まえれば動力は間違いなく精霊石で、装甲は現在共同開発中の精霊石から抽出した精霊力を鉱石と共に加工したもの。でなければあれほどの出力に耐えられるはずがない。

 開発に着手したのが一〇年も前なら研究物資として与えられた精霊石や、これまで彼女が得た報酬や婚約者を失い支払われた賠償金の殆どを費やせば必要物資も踏まえてギリギリ足りるかもしれない。

 機動してからロロベリアとエニシを敵と視認し、的確な攻撃を可能とする技術も踏まえてソフィアは敢えて隠していたことになる……が、問題はそこではない。

 鋼鉄のサソリの出力を踏まえれば使用されているのは上位種の精霊石。帝国一を誇るサクラの研究施設でも数個ほどしか所持していない貴重な精霊石をどうやって手に入れたのか。


「なぜ……じゃ? なぜ精霊術が通用せん」


 なにより信じられないのは精霊術でも破壊できないこと。

 新たな素材は確かに従来の素材よりも高い強度を可能とするが、精霊術を防げるほどではない故に衝撃的な光景で。


「野蛮な精霊士や精霊術士が悪事を働かないよう一定量の精霊力を感知する、防犯対策の精霊器はサクラさまもご存じでしょう。その精霊器を精霊結界に応用したものです。精霊術を放つ際の集約された精霊力を感知して装甲を精霊結界で覆う、とのように」


 サクラの疑問に対しソフィアは感心したように頷き答えてくれたが、やはり理解が追いつかない。


 精霊力を解放すれば身体能力が飛躍的に上がり、持たぬ者では不可能な場所に侵入しやすくなのを懸念して開発された精霊器や精霊結界は誰もが知る精霊器。

 しかし精霊結界は闘技場のような規模を覆う大型の精霊器、いくら鋼鉄のサソリが大きくても備えるのは不可能。ならソフィアは小型化に成功したのか。


「加えて装甲は強度を重視しています。なのでどれほど強力な精霊術でも傷一つ付きません」


 更に付け加えられた情報も踏まえれば鋼鉄のサソリを起動させるには上位種の精霊石でも一つや二つで補えないほど必要になるはず。


「動力に関しては……事後承諾になり申し訳ありませんがサクラさまの研究施設からお借りしております」


 技術的な疑問を払拭される代わりに動力問題が膨らんでいくも、ソフィアの謝罪ですぐに解消された。


「妾だけでなく保管していた上位種の精霊石までも持ち出したのか……っ」

「これも帝国の未来を思ってのこととご理解ください」


 恭しく一礼されるもサクラの表情は忌々しいと歪んでいく。

 説得の際は霊獣の脅威や精霊石の採取を口にしていたが、あれは精霊士、特に精霊術士を殺戮するための兵器でしかない。

 元々復讐目的に開発されたのなら当然かもしれない。

 しかし起動させてから、ロロベリアやエニシが手も足も出ない姿を目の当たりにしてからソフィアはずっと恍惚な笑みを浮かべている。


 封印した復讐心が満たされ喜んでいる奴が帝国の未来を語る資格はない。



「……理解した……頼むからもうやめてくれ」


 しかしサクラの口からは罵倒ではなく懇願が漏れた。

 鋼鉄のサソリは精霊術士の天敵とも呼べる兵器、今もロロベリアとエニシは必死に抗っているがこのままでは殺されてしまうと理解したが故に。


「……兄上との対話はやめじゃ。お主のいうとおり……もう、必要ない……もう充分じゃろう……やめてくれ」


 涙を零しながらサクラは懇願する。


 だが二人を救うのに必死なサクラは理解しきれていなかった。


「ご理解いただけて何よりです」


 この兵器はソフィアの精霊術士に対する憎しみの表れ。

 個人の研究のみで成し遂げたのは才能よりも精霊術士を排除する執念があってこそ。

 それほどまでに強い復讐心の封印を一度でも解いたのなら、ソフィアの目的は完全に混濁してしまっていると。


「サクラさまもこの世に精霊術士は必要ないと理解してくださったのですね。では早速――あの二人を排除しましょう」

「違う! 妾は――」

「そう興奮なさらなくともあの二人を排除後、とりあえず帝都に巣くう精霊術士も排除しますのでご安心を」


「…………っ」


 もうソフィアの暴走を止めるすべはサクラにはないことを。


 ◇


『凍てつく刃よ!』


「――はぁ!」


 サクラが絶望する中、ロロベリアとエニシは諦めず奮闘を続けていた。

 だが顕現した氷剣も、エニシの秘伝を直接叩き込む荒技も鋼鉄のサソリには無力でロロベリアは荒い息を吐く。


「いったい……どうすれば」


 相手には未だ傷一つ無く、こちらは精霊術を使用しすぎて精霊力は消費する一方、エニシの刀は今にも折れそうなほどボロボロの状態。

 ここから逆転するのは絶望的な状況に置いてもまだロロベリアに諦めるとの選択はない。


 何としてもサクラを救出する――その一心で思考を巡らせ続けていた。


 しかし気力のみで体力、特に精霊力の消費が激しく上手く考えが纏まらず。

 また集中力の欠けた状態で果敢に攻め続けていたのが仇となり、鋼鉄のサソリとの距離を見誤ってしまった。


「しま――っ!」


 死角から振り下ろされた尾の一撃に気づいた頃にはもう躱しきれないと、来る衝撃に歯を食いしばるが――


「ロロベリアさま――っ!」


 寸でのところでエニシが飛びつき、ロロベリアと共に地面を転がり致命傷は避けられた。


「助かりました……エニシ……さ……」


 距離は開いたが油断は出来ないとロロベリアは感謝を述べつつ立ち上がるも倒れたままエニシは苦悶の表情を浮かべている。

 よく見れば()()()()()()、みるみる床を鮮血で染めていた。


「ごぶ……じ、で……なにより……です」


 必死に取り繕うもエニシは明らかな致命傷で、維持できなくなり精霊力も解除されている。


「……エニシさん! いま……治療を……!」


 故にロロベリアは慌てて治療術を施そうとするがエニシは小さく首を振る。


「必要……ありませぬ……それよりも……ロロベリア……さ――ゴボッ」

「喋らないでください!」


 ついには鮮血をはき出すが、それでも治療術を拒む理由はロロベリアも察していた。

 エニシの傷は治療術を施しても助からない。

 だから残りの精霊力は逃げるのに使えと。

 二人がかりで傷一つ付けられない相手に一人で立ち向かうのは絶望的、せめてロロベリアだけでもとの願い。

 またサクラの身は保証できないが、それでもロロベリアが救援を呼べば望みは繋がる。


 頭では理解した――しかしロロベリアは治療術を施した。


「ロロベ……さ……」

「喋らないでって言ったでしょう!」


 信じられないと目を向けるエニシを叱咤しロロベリアは集中する。

 確かに逃げるべき、サクラを救出するなら一番可能性は高い。


 だがエニシの死は絶対――故に頭で理解しても感情が理解しない。


 なら救えなくても救う。


「絶対に助ける! あなたもサクラさまも絶対に……っ」


 背後から耳障りな金属音が近づいてくるが構わない。

 何が何でもエニシも救ってみせると。


「諦めたら全て終わる……だから……諦めて……たまるかぁぁぁ――っ!」


 無情な状況、運命に抗うよう心のままロロベリアは叫んだ。



「――()()()()()()()?」



(……え?)


 だが叫びに対する疑問に、強い気持ちが吹き飛んでしまう。


 不意に聞こえた声に導かれるままゆっくりと顔を上げれば。


 こんな状況に置いても変わらず、自分を小馬鹿にするようなあきれ顔で。


 ただ同じ黒いコートでも妙にボロボロで。


 デザインも少し違うが間違いなく。


「アヤ……ト……?」


 ロロベリアの目の前に()()()()()()()()()


 なぜここに?


 いつからそこに?


 嬉しいさよりも困惑ばかりのロロベリアを無視してアヤトはわざとらしいため息一つ。


「つーか王国代表が大事な親善試合サボってなにしてんだ?」


「…………」


「たく、今ごろカナリアがキレてるぞ」


「…………」


「やれやれ……目上の者に迷惑かけるとは、これだから白いのは」


「…………」


 分からないことだらけだが、とりあえず今は反論したい。


 アヤト(お前)が言うなと。




作者もロロに同意します、お前が言うな(笑)。

それはさておき、ついにアヤトくん登場!

次回は自由奔放主人公サイドの内容、お楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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