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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
155/777

ソフィアの忠告

アクセスありがとうございます!



 親善試合前日――


 エニシが迎賓館でロロベリアと相対している頃、サクラは研究施設の応接室に居た。

 研究に身が入らず休憩のため休むようにソファに寝そべり、天井を見据えているも視覚情報は一切脳裏に入っていない。


(アヤトの言い分は最も。しかし今さら兄上と協力などできるはずなかろうて……)


 サクラの脳裏を支配するのはアヤトとのやり取り。

 愚痴から始まり自身の夢を語り、協力を仰ぎ。

 最後にアヤトを失望させた。

 精霊力の有無も実力も関係ない、言わば精霊力ありきで物事を差別しない帝国に変革するのが自分の夢ならば、持たぬ者同士で手を組むよりも持つ者側の観点に立てる者と組むべき。

 エニシは精霊術士だがサクラの側近として立てる傾向があり、発言権も弱い。

 対しベルーザは同じ皇族で兄妹と言わば平等な立場、加えて民を導く皇族同士が精霊力の有無関係なく手を取り合う姿を見せることこそ模範になる。


 まさにアヤトが賞賛する尊く、可能性を示す光景――だが頭で理解していても心が割り切れない。


(兄上が妾を裏切ったんじゃ。共に帝国を変えようと……なのに強さに自惚れた挙げ句、妾らが最も批判しとった暴挙の数々……許せるはずない)


 誓い合ってから共に新しい帝国を夢見て進む時間は幸せだった。

 当然根付いた価値観を覆す道は険しく楽しいことばかりではなかったが、自分には同じ志を秘めて努力する兄がいるなら、同志がいるなら負けてられないと。

 今の努力が報われた先に、愛する民の笑顔があるなら自分たちも笑顔でいようと励ましてくれた兄が頼もしく、ならばとサクラも笑顔で歩み続けられた。

 だからこそ許せない。

 開花した当初こそ祝福した自分に照れながらも今以上に自分たちの夢に貢献できると兄は微笑んでくれたのに。

 精霊術の訓練で忙しくなり、以前のようにゆっくりと過ごす時間が減っていても会えば変わらない笑顔を向けてくれたのに。

 その笑顔が徐々に曇り始めて、でも忙しくて疲れているからと労うサクラに対して不意に変貌した。


『キサマに私のなにが分かる』


 苛立ちと憤りに歪んだ笑顔を向けるようになった。

 それどころか徐々に自分たちが変えようとした差別的発言までぶつけるようになり、なぜと問いただしても耳を傾けてくれず。

 あの幸せな時間が嘘のように、力を得た兄が自分を裏切った。

 この事実を受け入れた瞬間、サクラは深い虚無感を味わった。

 片翼を失った鳥のように、もう二度と美しい大空を舞えないようなあの思いを味合わせたあの兄をどう許せというのか。

 今さら再び手を取り合うことなど不可能……第一ベルーザが拒絶する。

 あの時のように、自分から手を伸ばしたところで無視し、見ようともしないだろう。

 完全に道を違えたのだから当然――


『そもそも道を違えた理由をテメェは必死に考えたことがあるのか』


 不満や憎しみに苛まれていたサクラの脳裏にふとアヤトの言葉が過ぎる。

 これまでベルーザを思い出す度になぜばかりが先行し、最後は負の感情に苛まれていたからこそ根本を考えようともしなかった。

 いや、決めつけていただけだ。

 同じように力がなく蔑まれていたベルーザが力を得た、だから周囲と同じように力の無い自分を見限った以外にないと。


『ねぇだろうな。だから兄貴が豹変した真の理由にテメェは気づいてねぇ』


 しかしアヤトは違うなにかを見出したからこそ、このような指摘をしたハズ。


(……そもそも兄上が豹変した真の理由とは何じゃ? あやつには何が見えておるんじゃ?)


 物心ついた頃から共にいた自分ですら気づけなかったなにかを、まだろくに会話すらしていないはずのアヤトは気づけた。

 先入観がないから見えたのか。

 それとも客観的だからこそ見えたのか。


(……結局のところ本人のみぞ知る……か)


 どちらにせよアヤトが見えたなにかはあくまでアヤトの観点で見えたもの。

 だから助言をしたのだろう。


『知りたいなら今の兄貴と一度でもいいから本気で向き合ってみろ』


(今こうして正しい選択から目を反らしておるのと同じように、妾は目を反らしておっただけ)


 決めつけず。

 先入観で判断せず。

 相手の立場も考慮しろと。

 それこそが精霊力の有無も実力も関係ない、言わば精霊力ありきで物事を差別しない帝国を目指すに必要な在り方。


(故に……妾も知らぬうちに間違えてしもうた……)


 持たぬ者だからこそ持つ者を知らない。

 志した夢を間違えたのはきっとそこにある。

 ベルーザという片翼を失ったことで自身の夢もいつしか道を外していたのなら。

 無視されようと。

 蔑まれようと。

 必要ならば怯むことなく向き合うべきで――


「はは……なんじゃ、そういうことか」


 助言から進むべき道を導き出した途端、サクラは笑った。

 なにを考えているか分からず、勝手なことばかりで振り回し、肝心なことは黙秘を続けるアヤトに怯むことなく向き合い続けているロロベリアの顔が思い浮かんだからで。

 どのような出会いを果たし、どのような時間を過ごしたかは知らないが少なくともサクラから見れば二人は手こそ取り合っていないが共に歩んでいる。

 これが笑わずにいられるか。


「アヤトよ……お主のどの口がそれを言うか」


 微妙な距離感でもすれ違いなく二人の関係が成り立っているのはロロベリアが踏ん張り続けているからで、アヤトは好き放題。

 なのにアヤトの助言はロロベリアの在り方を真似しろと言っているようなもの、好き放題している側が良く口に出来る。

 それでもアヤトの実体験から出た助言なら説得力がある。

 立場こそ逆だが持たぬ者と持つ者が共に進む、まさに精霊力の有無も実力も関係ない未来を二人が体現しているなら。


「とにかく妾もロロベリアを手本に突き進むかのう。その後にもう一度アヤトを口説く……が、なによりまずやるべきことがあるか」


 導き出した道を歩む価値はあるとサクラの瞳に輝きが戻るが、表情はまだ浮かないままで。

 ベルーザとサシで向き合うのは決定でも、その前に筋を通す必要がある。


「爺やは……明日になるか。心配させてしもうた謝罪も込みでのう」


 これまで夢を実現するために尽力し続けてくれたエニシに。

 そしてもう一人、ただこちらはどんな反応をするかは予想できるだけに気が引けてしまう。


「しかし決めたなら突き進めじゃ」


 それでも突き進むとサクラは使用人を呼び出し――


「ソフィアを呼んでくれぬか」



 ◇



 しばらくして自宅から訪れたソフィアとサクラは向き合った。

 導き出した進むべき道、ベルーザとの対話。

 もちろんこちらから懇願するのではなく、なぜ自分たちの道は違えたのか、なにを思いなにを求めているのか。

 帝国をどのようにしたいのか、民をどう導きたいかを徹底的に話し合うためで。

 ベルーザの真意を知り、結果として本当に違えてしまったのならそれまでだ。

 しかし対話することでお互いの齟齬を取り除くことが出来れば再び手を取り合うかもしれないと。


「……サクラさまは既に裏切られたのです。今さら対話をする必要性を感じません」


 可能性を提示するなりソフィアは淡々と、しかし向ける瞳には明らかな嫌悪が宿っている。


「かもしれん。しかしアヤトの助言も捨て置くには惜しい」

「真の理由などありません。ベルーザ殿下も所詮は精霊術士、持たぬ者の気持ちなど分からないのです」

「妾らも持つ者の気持ちを分からぬ。故の対話じゃ」

「必死に努力する者を、ただ精霊力を持って生まれただけで見下すような者の気持ちなど分かりたくもありません」


 それでもサクラは向き合い続ける。

 裏切られた際、自分に可能性を見出し手を差し出してくれたソフィアにもこの道を、可能性を伝えておくのが筋で。


「お主が居てこその妾じゃ。ならばこそ妾はお主にも受け入れて欲しい」

「…………」

「どのような結果になるかは分からぬ。それでも変わらず妾の夢を叶えるべく協力してくれるか……この通りじゃ」


 真摯な気持ちで頭を下げた。


「少し……頭を冷やしてきます……」


 数秒後、簡素な呟きと共にソフィアは退室してしまい。


「ほんに、ままならん」


 顔を上げたサクラは背もたれに身体を預け、天を仰いだ。

 やはり予想通りの反応。

 精霊力の有無に振り回され、精霊術士に生涯を誓った相手を殺されたソフィアは元よりベルーザとの同盟を良しとしていなかった。

 しかも相手が一方的に裏切ったのに、再び手を取り合う可能性を提示されても受け入れきれないだろう。

 それでも受け入れて欲しい。

 ソフィアの才や培った技術は今後の改革に必要、だがそれ以上に現帝国の被害者のソフィアだからこそ共にこの道を歩みたい。

 一方を切り捨てた先にある未来にサクラの望むものはないのだ。

 なにより夢を叶えた際、ソフィアの笑顔が報いとなる。

 失意の中、手をさしのべてくれた彼女を今度は自分が救いたい。

 利己主義かもしれないが、サクラの望みは民の笑顔。

 ならばソフィアの笑顔も望む。

 その為にはここでわだかまりを残したまま突き進むわけにはいかない。

 明日の親善試合が終わり次第、ベルーザとの対話に挑むために何としてもソフィアを納得させなければならないが。


「弱気になっておる暇はないじゃろうて」


 難しいと弱腰になる自分を一喝し、サクラは気合いを入れる。

 あの気むずかしいアヤトに怯まず向き合い続けているロロベリアをお手本とするなら、この程度で怯むわけにはいかない。

 故にソフィアが心の整理をつけて再び向き合ってくれるまで、サクラは気丈に待ち続け。


「失礼します……」


 日が傾き始めた頃、改めて対話に挑むつもりで戻ってきたのかティーワゴンを押しながらソフィアが入室を。


「サクラさま……先ほどは不遜な態度を取り、申し訳ございませんでした」

「かまわぬ。妾とお主の仲じゃ」

「お詫びといっては何ですがお茶を……使用人に頼んだものですが」


 表情はまだ沈んでいるも向き合い続けてくれる意思があるだけでサクラは嬉しくて。

 ティーカップを二つ、テーブルに置き対面に腰を下ろすソフィアと改めて向き合い。


「ちょうど喉が渇いておったから助かる……して、ソフィアよ」

「ベルーザ殿下との対話……ですね。正直なところ……私にはどうしても必要性を感じません」

「やはりか……」


 さてどう説得しようとお茶で喉を潤しつつ思案する。


「ところでサクラさま、私から一つご忠告を」

「なんじゃ?」


 が、ソフィアの不意な申し出にカップを置き視線を向けると――


「いつも思うのですがあなたは皇女でありながら()()()()()()()()()()()

「……というと?」

「そのままの意味です」


 沈んだ表情が一変、ソフィアは嗜虐的な笑みを浮かべる。


「……な……どういう……こ……」


 急な変わりように問いただそうとするもサクラの視界が意識が徐々にぼやけ始めて。


()()()()()()――サクラさま」


 事態が飲み込めないまま完全に意識を失った。


 ◇


 応接室を後にしたソフィアはティーワゴンを返却すべく調理室へ。


「ソフィアさま……わざわざお持ちしなくてもお呼び頂ければ向かいますのに」


 待機していた使用人が慌てて駆け寄るも首を振り。


「ついでですから」

「ついで……?」

「サクラさまから言伝を預かっています。明日の親善試合には出席するそうですが、それまでは一人にして欲しいと寝室へ入られました」

「……そう、ですか」

「先ほど伝えたように、精霊器の新しい研究について随分と悩まれていましたから……今回の開発は今後の帝国になくてはならない貴重なもの。仕方ありません」


 使用人も昨日からサクラが思い悩んでいるのを察していたので、師であるソフィアに相談を持ちかけるために呼び出したと思い込んでいて。


「私も微力ながら協力すべく、一度この案件を持ち帰ろうと。なので精霊石をいくつか持ち出させてもらいます。むろんサクラさまの許可は得ていますから」


 加えてサクラやエニシが信頼を置いているソフィアへの言葉を鵜呑みにしてしまい。


「あと試作品もお預かりしているので運ぶのを手伝ってもらえますか? くれぐれも丁重に扱ってください。帝国の未来がかかっている貴重なものなので」


 応接室に置いてあった精霊器の試作品が入った、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を馬車まで運び出すのに協力した。




本編がそれどころじゃないのも分かっていますが……アヤトの出番が急に減った……むしろここ数話(SSやマヤが入れ替わっていた場面は除く)出ていない。

帝国編は出番が多かったのに……ままならない。


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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