導きの先は
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『アヤトはまだお仕事中?』
確信めいた問いかけから数秒後、ロロベリアの脳裏にクスクスとの笑い声が響く。
『さすがはロロベリアさま、でしょうか。なぜお気づきになられたのでしょうか』
問いに対する答えではないが、マヤの返答で少しは自信を取り戻せたとロロベリアの口角が上がる。
なぜも何もこれまでアヤトと過ごした時間でヒントは得ていた。
アヤトは基本人前で休む時は必ず座って得物を手放さない。
更にサクラとのデートでは得物を手放す変装を頑なに拒み、挙げ句王国代表と知られても良いとまで言い出した。
そもそもアヤトがここまで得物を手放さないのは、用心深く陰険な性格から簡単に無防備な姿を見せないとマヤが教えてくれた。
ならば壮行会といった公の場を欠席するのは面倒だけでなく、武器所有不可を嫌がっているとロロベリアは推測していた。
なのに帝国滞在時は同室にユースがいるのに毎晩先にベッドに潜り込んでいたらしい。
また二日目の謁見にもアヤトは参加している。むろん謁見時には武器の所有は不可なので制服に着替えて、朧月と新月を迎賓館に置いてまでだ。
いくら同室の相手がユースでも、いくら謁見にはラタニが同席してようとアヤトが朧月や新月を手放した無防備な姿を露呈しないはず。
更に帝国には国王の依頼で訪れていることと、マヤの姿は神気でどのような姿にも出来るとの情報を踏まえれば、アヤトのらしくない行動に対する解は一つ。
人前で武器を所有していない時、または無防備な姿を露呈している時のアヤトはマヤだということ。
恐らく依頼遂行に必要な処置でこのような入れ替わりをしているのだろうが、その内容まで特定できていない。
しかしユースが言うには昨夜のアヤトはベッドを利用せず、就寝した姿を見せなかったとの情報と今朝は姿を消していたのなら闘技場まで行動していたアヤトはマヤで。
毎夜入れ替わっていたのは依頼に必要な何かをするためで、その決行日が今日だと推測している。
何故ならマヤは一定の距離アヤトから離れられない、つまりその範囲外で何かをしていたが故にマヤも入れ替われず今朝アヤトの姿がなかった。
最終的に姿を現したのなら依頼を終えたのか、それともマヤが顕現できる範囲内に戻ってきたのかのどちらかになるが、ロロベリアは後者だと自信はある。
謁見の際はあまりのインパクトに動揺したとはいえ、情けない話だが入れ替わりに気づいたのは三日目にユースからアヤトがベッドで寝ていたと聞いてから。さすが神さまというべきか姿形は完璧だった。
しかし入れ替わっているとの情報から思い返し、ちゃんと見ればすぐに分かる。
姿形はどれだけ似せてもアヤトじゃなければアヤトじゃない。
故に愛する人を一度でも間違えた自分が情けなく、しかし今度は間違えなかったと自信を取り戻せたわけで。
先の質問もマヤに出来たのだが――
『実に興味深いですが今はお急ぎのご様子。なので我慢しますわ』
今は緊急事態なのでお話しする時間も惜しく、マヤから先送りを申し出てくれてロロベリアは安堵を。
『ですが一つだけ、わたくしの質問にお答えください』
……した矢先にマヤから要望が。
それでもこの状況を打破するにはマヤの助けが必要と、辛抱強くお付き合いすることに。
『兄様のお仕事が既に終了しているなら、ロロベリアさまは如何なさるおつもりで?』
『一緒にサクラさまの救出に向かうおつもりだけど?』
ただ今さらな質問に他に何があるのかとロロベリアは眉根を潜めてしまう。
しかしマヤにとってはとても楽しめたようでブローチの向こうで笑みを浮かべているのが見えるほど声が弾んでいた。
『ふふふ……即答ですか。本当にロロベリアさまは期待を裏切りません』
『ここまで我慢したんだから、後は好きにやらせてもらうだけよ』
アヤトの忠告は違和感を抱いても何もするな。
しかし特に緊急事態と感じなければ何もするなだ。
つまり緊急事態ならロロベリア自身の考えで行動しても良いとなる。
加えてこの忠告はあくまで依頼に関してのこと、サクラの行方不明という緊急事態はさすがに含まれていないだろう。
もしアヤトが動けないのなら自分が変わって動く。
もしアヤトが動けるなら共に解決する道を選ぶ。
例え何も出来なくても、出来ないから何もしないでは本当に何も出来ないままで終わってしまう。
なら好きにさせてもらう――大英雄に近づく為に、挑戦し続けることがロロベリアの望み。
『ロロベリアさまの思い、楽しませて頂きました』
この答えに満足したのかマヤは一呼吸分の間を空けて。
『お礼と言っては何ですが、まずはエニシさまに闘技場の外で落ち合う約束を取り付けてください。ロロベリアさまは……そうですね、そのままおトイレで待機を。その間にわたくしがロロベリアさまが望まれる状況をご用意しますので』
『よく分からないけど了解……の前に。マヤちゃん、私と交渉しない?』
どうやら協力してくれるらしいが、先にやっておくことがあるとロロベリアは話題を変えた。
『ロロベリアさまがわたくしに交渉を持ちかけるとは実に興味深い。どのような交渉でしょうか?』
『サクラさまの居場所が分かるなら、それを教えてくれるお礼に私がなぜ気づいたかお話しをする、でどう?』
マヤは神気の届く範囲なら相手の居場所を突き止められる。
もしサクラが範囲内に居るのなら居場所を見つけてもらう約束を取り付けるべきで。
しかしマヤの協力を得るには対価を必要とし、その対価は彼女の気分次第。
果たしてこの対価は協力を得るだけの魅力があるのか。
『いけませんわ、ロロベリアさま』
内心緊張していたロロベリアの脳裏にマヤのため息が響く。
『兄様の悪影響を受けてずる賢くなっていますよ』
『褒め言葉として受け取りましょう』
『交渉成立です。では手はず通りに』
『了解!』
だが約束を取り付けたようでロロベリアはすぐさま言われた通りに行動開始。
心配そうに見守っていたエニシに闘技場外で人気の無い場所を確認し、そこで落ち合う約束を取り付けた。
急になぜ? との疑問を抱かれるも必ずサクラを見つけるとの説得と、事前にお願いしていた通り何も聞かずに従ってくれて。
「……ロロちゃん、気づいちゃったかー」
そのままトイレで待機していると数分も待たずにラタニが諦めたように登場し。
「あの子から簡潔には聞いてるから……言いたいことは色々あるけど、皇女さまの大ピンチみたいだからねー。とりあえず神さまのお導き通りにしようか」
どうもマヤから連絡が入り、医療室の窓から抜け出すために急な体調不良で医療室に運ばれるとの一芝居に協力するよう言われたらしく、どこから持ち出したのかフード付きのローブまで用意していた。
更にラタニが医師の注意を惹きつける間にマヤが入れ替わってくれるとのこと。これならロロベリアまで居なくなっても誰も疑問を抱かない、まさに神さまらしい反則的な方法だった。
「死に物狂いであいつを追いかけるのは良い、むしろ応援する。でも死んじゃったら元も子もない」
そして医療室に入る前、ラタニがロロベリアの肩に手を添えて。
「状況が分からなくてもヤバイ雰囲気は確定だ――必ず帰ってきんさいよ」
「約束します。ありがとう――お姉ちゃん」
進む道しるべになるようその手が背中を押してくれて、ロロベリアは感謝と共に誓った。
後は予定通り医師が仕切りのカーテンを閉じるなりラタニが連れ出し、その隙にロロベリアはローブを羽織り目立つ白髪をフードで隠して窓から外へ。
『結論から申し上げますと、依頼を終えていれば兄様から連絡がある予定なのですがまだ何もありません』
すぐさま脳内に響くマヤの声。
エニシの元へ向かいながらロロベリアもブローチに触れて疎通をはかる。
『つまり今は動けない状況……か』
『加えてとある理由以外でわたくしから連絡はしない取り決めをしています。なので今は不可能なのです』
『とある理由?』
『知りたくば新たな対価のご呈示を』
『……マヤちゃんも充分ずる賢いわ』
『お褒めの言葉としてお受け取りします。ですが兄様の手が空き次第、ロロベリアさまの状況は報告するとお約束しますので』
『神の名に誓って、ね。ならいいわ。それでサクラさまの居場所だけど――』
『むろん確認済みです。ですが以前も申したように、わたくしの力は兄様との契約によりいくつかの制限があります』
急かすロロベリアに対し、マヤはどこか楽しんでいるように軽やかな口調で続ける。
『そもそもわたくしにとって人間は有象無象な存在故に、どれも同じに感じてしまうのです。兄様が興味を向けているお相手ならば別なのですが。例えばロロベリアさまやラタニさまならハッキリと確認できるように』
『……つまり?』
『つまり兄様にとってサクラさまはそれなりに、のようですね。なので分かるのは大凡の場所のみ、まずはロロベリアさまとエニシさまのみで向かい探されるべきかと。サクラさまの失踪は公に出来ないようですし』
正直なところマヤの力に対する制限をロロベリアは知らない。
ただ口調やらしい条件も踏まえて、ロロベリアがどこまでやれるのかを楽しみたいが為に他者を介入させたくないだけに感じる。
それでも真偽を確かめるすべもなく、今は少なくともサクラは生きているとの情報を得られて良しとする。
『この程度の協力になりますが、興味深いお話をしてくださるでしょうか?』
『上等!』
『感謝します。ではエニシさまと合流次第、大凡の場所までご案内いたします』
なにより手掛かりなく探すより充分条件も良いとロロベリアは受け入れた。
「ロロベリアさま……」
「エニシさん走って!」
そしてエニシと合流するなり有無も言わさずマヤの誘導に従い疾走。
ロロベリアの気迫に押されるままエニシも後を追い。
(一応……配慮はしてくれてるのかな)
親善試合の影響から大通りに人が集まっているとはいえ、妙に人気の無い裏通りが続き苦笑する。
「精霊力を解放しましょう!」
「……かしこまりました!」
ならばとロロベリアは精霊力を解放、強化された身体能力で移動速度が格段に上がり。
『――この近辺にサクラさまは居られるかと』
「……この近辺と言われても」
到着した場所にロロベリアは困惑する。
何故なら目の前には貴族区と平民区を隔てる内壁がそびえていて、貴族区の外れだけにポツポツと屋敷があるくらいで。
『ではロロベリアさま、ご武運を』
「……ご武運をとも言われても」
他人事のように案内を終えたマヤにロロベリアは途方に暮れてしまった。
「エニシさん、この辺りにサクラさまと関係がありそうな場所とか……あります?」
故に先ほどの勢いが嘘のように情けない問いかけを。
急に頼りない雰囲気に変わるロロベリアに困惑しながらエニシは周辺を見回す。
「関係ならば……ソフィアさまのご自宅がすぐ近くにございます」
「ソフィアさんの……ですか」
「はい。あの方は貴族ではありませんが、精霊器開発の功績から住居と共に個人でも研究を進められるよう小さな研究所を与えられています」
「…………」
「ですが、それがいった……いえ、今は何も聞かぬお約束ですな」
「……ありがとうございます」
サクラが心配でも律義に約束を守り、信じてくれるエニシに感謝しつつ思案したロロベリアは――
「……そこに案内してください」
他に当てが無いならまず行動と、どこまでも頼りない方法を導き出した。
あいにくソフィアは留守らしく、再び途方に暮れかけたロロベリアだったが見つけられた。
「……なぜ、このハンカチがこのような場所に」
アヤトがサクラにプレゼントをした淡い朱色のハンカチという手掛かりを。
シロ時代のロロベリアで分かるように彼女は根っからの感覚派です。
なので要所要所で締まりませんが、それでも最終的に持っていますね。
そして少しずつ全貌が明かされていますが、まだもう一人の主人公サイドはお預け。
次回更新はサクラがメインの内容です。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!