【年始SS 神は導かない】
明けましておめでとうございます!
今年一発目の更新、アクセスありがとうございます!
風精霊の周季と水精霊の周季の間際、ファンデル王国は一年の感謝と、翌年も見守ってくださいとの気持ちも込めて神と精霊と一緒に楽しみながら大勢で賑わいながら過ごすのが伝統。
なのでこの日ばかりは大人だけでなく子供たちも夜更かしが許され、新年を迎える鐘の音を共に聞くのを楽しみにしている。
特に王国の最大都市、王都ファンネルの年越し祭は日の出が上るまで盛り上がり、必要最低限の商店以外は休業する。夜通し騒いげばほとんどの住民が一日活動しなければ需要もないとの理由で、早朝から活動している方が珍しいほど。
「だから毎年みんな昼までグースカ寝てんのに……なんでオレらは朝も早くにいい汗かいてんのかね」
故に普段の活気が嘘のように静かな王都内を走りながらユースがぼやく。
「なら愚弟は寝てればいい」
「リース……そもそも、二人とも私に付き合わなくても良いのに」
並んで走るリースの冷ややかな返答に呆れつつ、ロロベリアは苦笑を。
普段なら屋敷周辺を走り込むのだが、今朝は平民区まで足を伸ばしていたりする。
いつもなら早朝から活気立つ王都内も年越し祭の影響で人気がなく、走り込んでも邪魔にならないとロロベリアが思いつき、それにニコレスカ姉弟が付き合っているのだが。
「ロロが行くならわたしも行く」
「一人で残ってても暇なんで」
「なら良いけど」
ロロベリアがニコレスカ家の養子となって早五年、最初の一年こそリースは避けていたが親友となってからはユースを含めた三人で行動するのが日常となった。
なので今回の年越し祭にも参加しないロロベリアに二人も付き合い、昨夜も三人でノンビリお茶を楽しみながら新年を迎える鐘の音を聞いてすぐ就寝したので日課の早朝訓練も行事関係なく行っていた。
そしてロロベリアが年越し祭に一度も参加しない理由も知っている。
幼少期にお別れした大切な思い人との約束を果たすため、脇目も振らずに強さを求め続けるが故に行事ごとに浮かれず訓練を欠かさないのだ。
また、その思い人との約束も関係している。
年越しは家族でのんびり過ごす風習があると知り、なら年越しは毎年交互にお互いのいつもの年越しを一緒にしようと約束したからこそ、次の年越し祭は絶対にその思い人と一緒に参加すると決めたらしい。
故に思い人とお別れして以降ロロベリアは年越し祭に参加しなくなり、その約束と思いを知った教会の家族も翌年はのんびり過ごしたらしい。
だからこそ風の便りで亡くなったと知りながらも希望を捨てず、約束を果たすべく邁進するロロベリアが独りにならないように、ニコレスカ姉弟も家族として共に年越しを迎えるようになり、両親は立場上の付き合いがあるので参加すれど、ギリギリまで団らんを楽しむようになった。
まあリースは元々同年代の友人が居なく、ユースはそれなりに居るが幼少期のイジメから貴族として仕方なく程度の付き合いなので二人が参加しない年越し祭にも興味が無いのだがそれはさておき。
「にしても……夜中のどんちゃん騒ぎが嘘みたいに静かだな」
「走りやすくて良い」
「リース、ユースさん」
「なに?」
「どうした?」
いくら興味が無くとも自分の約束に付き合わせているのは申し訳なく。
「訓練が終わったら気分だけでも年越し祭を味合わない?」
ロロベリアはせめてもの提案を口にした。
◇
いくら王都の年越し祭が盛大とはいえ、関係なく業務に努める者も居る。
国民の平和を守る警備隊や軍関係者などはこうした行事中だからこそ、気を引き締めているのだが――
「……おいラタニ、邪魔なんだよ」
「うみゅん……アヤトのいけず」
「なにがいけずだ」
リビングのソファで眠りこけるラタニにアヤトは煩わしげにため息一つ。
ラタニも新年を迎えるまではアヤトの知る風習に付き合い住居でのんびり過ごしていたのだが、酒を飲み過ぎてそのままソファで眠りこけていた。これが王国最強の精霊術士であり若くして王国軍の小隊長を勤める者の姿かと情けない。
「良いではありませんか。ラタニさまも久しぶりに兄様と年越しが出来ると楽しみにしていたのでしょうし」
などと呆れるアヤトの背後から不意にマヤが現れクスクスと微笑むように、ラタニと年越しを過ごすのは一年の武者修行に出る前が最後なのでまさに一年ぶりのこと。
アヤトの姉として、家族として平民区の片隅に住居を構え、帰ってくるのを待ちわびていただけに柄にもなくはしゃいでいたのだろうが。
「それの何が楽しいんだか」
関心なくアヤトは肩を竦めるも、依頼などで忙しなく過ごしているが故に帰国しても滅多に顔を出さないこの住居に年越しに合わせてわざわざ足を運んでいるならラタニと過ごしたかったのだろう。
にも関わらず捻くれた態度ばかり、相変わらず面白い人間だとマヤは食事の下ごしらえを始めるアヤトを観察していると来客が。
家主が潰れているので仕方なくとアヤトが対応すれば――
「おはようございます」
「久しぶりだな」
「朝っぱらから何しに来たんだ」
面倒気な対応もカナリアとモーエンは馴れたものと気分を害することなく中に入り、眠りこける家主を無視してアヤトが用意したお茶を囲みマヤも交えてリビングで談笑を。
「隊長殿に新年の挨拶をしにな。それに坊主と嬢ちゃんも久しぶりに帰ってくると聞いてたんで顔出したんだよ」
「王国に帰ってきても会う機会がありませんでしたからね。マヤちゃんもアヤトさんに付き合わずここでゆっくりしていれば良いのではないですか?」
「カナリアさま、お気遣いなく。兄様と一緒にいる方が刺激的で楽しいですから」
「……そうですか」
「後はまあ、隊長殿は今年から王都とラナクスを往復するからな。この機会を逃すと次はいつ会えるか分からんだろう」
「ですね。ただでさえ帰ってこないアヤトさんですから」
「俺の勝手だろ……しかし、こいつが特別講師なんざ勤まるのか」
「こんな隊長でも実力はありますから」
「ついでだから坊主も通ってみるか?」
「なんのついでだ。つーか今さら学院生なんざやっても暇つぶしにすらならんだろ」
だろうなとモーエン笑うを余所にアヤトが席を立ち。
「どこ行くんだ」
「スレイとジュシカも来るんだろう。食材が心許ないんだよ」
「なら私も手伝います」
「いえいえ、カナリアさまはお客人ですから。ゆっくりしてください」
「そういうわけだ。ラタニのお守りを頼んだぞ」
カナリアの申し出を断り、マヤを連れてアヤトは買い出しに出かけてしまい。
「……やはり興味なし、か」
「少しは年相応の時間を楽しめばと思いますね」
残されたモーエンとカナリアはため息一つ。
アヤトの年齢なら学院に入学する頃で実力はさることながら知力でも充分マイレーヌ学院に入れるだろう。ラタニが次世代の底上げとして今年から特別講師として加わるなら良い機会と誘ってみたが予想通りの反応。
帰国して以降も一つの場に留まらず、依頼などで地方へと足を運ぶ。
このような生活を続けているからこそ二人としては気掛かりで。
過去が過去だけに余り目立つわけにもいかないが、同年代と関わりればとの気持ちもあるだけに複雑だった。
◇
そんな二人の思いも知らず、アヤトとマヤは商業区で買い物を続けていた。
年越し祭の影響で開いている商店も少ないが元より必要な物は少ない、なんせ今夜国王とチェスの相手をする約束があるくらいでそのまま王都を発つ予定だ。
つまりこれから行われる小隊の新年会用とラタニの朝食分の食材があれば良いと、早々に買い物を済ませてアヤトは戻ろうとしたが、ふとマヤが大通りの先にある広場に視線を向けて足を止める。
「何してんだ」
「いえ……商店はほとんど開いていないのに屋台は変わらずあるな、と思いまして」
警備隊や年越し関係なく働く者には手軽に食事を楽しめる屋台は需要があり、普段よりは少ないながらも営業をしていたりするのだが。
「何か食っていくか」
「あら珍しい。兄様が寄り道なんて」
「普段と違い空いてるからな。ノンビリ食えるし、たまには良いだろう」
「人混みが嫌いですからね、兄様は」
いつもなら余計な行動をしないアヤトからの提案に首を傾げるも、らしい理由にマヤも納得しつつ広場へと向かった。
◇
同時刻、訓練を終えたロロベリアらは商業区の広場で食事をしていた。
「……確かに気分だけでも味わえるか」
「でしょう?」
年越し祭ほど屋台は出ていないが普段利用しないだけに、これはこれで楽しめるとベンチに腰掛け串肉や焼き菓子などを広げていた。
「人も空いてるからゆっくり食べれる」
「だからってリースは頼みすぎ」
「違いない。でもま、年越し祭の余韻に浸りながら飯食うのも良いもんだ」
「なら来年も余韻に浸りましょうか」
「それ賛成」
「姉貴は飯食えれば何でも良いんだろ」
三人は新年最初の食事をゆっくりと楽しんでいた。
◇
「惜しかったですね」
広場に背を向けて歩きつつマヤが残念そうに息を吐く。
もう少しで広場に足を踏み入れるというタイミングでラタニからペンダントを通じて連絡が入り――
『ラタニさまがお腹空いたー早く帰ってご飯ーと仰っていますが、如何しますか?』
『……たく、なら寄り道せず戻るか』
『少しくらい宜しいのでは?』
『少し待たせるだけでもうるせぇだろ、あいつは』
『……ですね』
結局踵を返すことになったのだが本当に残念だ。
「そんなに屋台で飯食いたいなら行けばいいだろ」
「兄様とご一緒でなければ意味が無いので」
そう、アヤトが居ないと意味がないとマヤはとても残念で。
張り巡らせた神気であの広場に彼女がいるのは察していた。
故にマヤはラタニの連絡を無視しても良かったのだが、それは面白くないと敢えて告げてみればこの結果。
実のところアヤトが王都に足を運ぶようになってから、こうした機会は何度もあった。
なのに今回のように何らかの邪魔が入り、結局両者が顔を合わすことはなかった。
本当にこの二人は面白いほどすれ違う。
同じ王都に居ても、少し歩けば会える距離でも関係なく。
だからこそ余計な真似はしない。
もし二人が再会を果たすなら全てを知る自分が横やりを入れない方が面白いからで。
なにより何かの導きなく偶然の再会を果たす方が運命的ではないか。
「楽しみですね、兄様」
「……テメェが楽しむ時は、ろくでもないことばかりなんだがな」
「酷いですわ」
それがいつの日かと待ちわびつつ、マヤはクスクスと笑った。
本編が大詰めなのにまたSSかと思われるかもしれませんが、年末のSSが切ない内容なだけに希望ある内容も書きたかったので……年始ですし(笑)。
とにかく本編の前日譚として絡めてみましたが如何でしたか?
神が導かなくともアヤトとロロベリアは再会する運命、まさに赤い糸で結ばれている二人でした。
そして次回更新から本編も再開。
大詰めの帝国編をお楽しみと共に、今年も『白き大英雄と白銀の守護者』をなにとぞよろしくお願いします!
みなさまにお願いと感謝を。
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また感想もぜひ!
作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!