【年末SS 幸せな年越し】
本編が大詰めな中、SSを挟むのもどうかなと思ったのですが、作者的にこうした時季イベントのSSを書いてみたいとの欲求と、読んでくださっているみなさまへの感謝として楽しんで頂ければなとの気持ちです。
アクセスありがとうございます!
風精霊の周季と水精霊の周季の間際、ファンデル王国では一年の感謝と、翌年も見守ってくださいとの気持ちも込めて神と精霊と一緒に楽しみながら大勢で賑わいながら過ごすのが伝統。
なのでこの日ばかりは大人だけでなく子供たちも夜更かしが許され、新年を迎える鐘の音を共に聞くのを楽しみにしている。
「なんでぇぇぇ――っ!」
……のだが、誰もが家族や友人らと賑やかな時間を過ごす中、シロは物置部屋で絶叫していた。
もちろんシロも教会や住居の清掃を終わらせた後、しっかりお昼寝もして準備万端で年越し祭を楽しむつもりだったのだが、夕食後に神父ら家族で町の中央広場に向かう前、シスターに(強引に)連れられて反省しなさいと押し込められてしまった。
「……なんでもなにも、シロのせいじゃないか」
そしてもう一人、クロも同じく反省を言い渡されて物置部屋にいるのだが。
「うぅ……せっかくの年越し祭なのに。クロと一緒に楽しめるってワクワクしてたのに……」
「ワクワクしすぎて失敗したんだね……」
「失敗じゃないもん! ちょっと……色々あったんだよ!」
「どんな色々で壊した花瓶を埋めるのかな……」
弁解にもならない弁解にため息を吐くようにシロが清掃中にシスターが大事にしている花瓶をうっかり堕として壊したのが原因。
ここで正直に申し出て謝ればお説教で済んだのに、焦ったシロはあろう事か壊した花瓶を教会裏手に埋めて証拠隠滅を計ったのだ。
普段のシロならこのような暴挙にでない。悪いことをしたらごめんなさいと正直に言える子。
ただ年越し祭に行けなくなるかもしれないとの不安から衝動的にやらかしたのだろう。しかし花瓶がなければシスターが気づく。
出発前にバレてしまい、証拠隠滅を計ったことで罪が上乗せと行けなくなる結果となる辺りが何とも間抜けだ。
ちなみにその頃のクロは料理の手伝いをしていたので、花瓶を壊したことも埋めたことも知らずシスターの尋問にぷるぷると手を挙げるシロを見るなり呆れたものだ。
つまりクロには何の非もないのだが、お転婆が過ぎるシロに大人びて冷静なクロがお目付役との構図もすっかり定着。シロが何かをやらかす度に連帯責任でお仕置きを受けるのがお約束となっていた。
まあ実のところシロを一人にするのは可哀想と、毎回クロが自ら志願しているのだが本人のみが知らなかったりするのだがそれはさておき。
「みんな年越し祭が終わるまで帰ってこないんだから、騒いでても仕方ないよ。今夜も寒いし……と」
二人が家族になってもうすぐ一年、このような事態も馴れたものとクロは毛布を二枚取りだしてシロへ。
「……クロはいいの? 年越し祭」
「ん~……楽しみではあったけど、ぼくとしてはあまりピンとこないから」
毛布にくるまりながら名残惜しさとこの町と家族で初めての年越しをダメにした申し訳なさで表情を曇らせるシロに対し、同じく毛布にくるまりながら隣りに腰掛けつつクロは安心させるように微笑みを返す。
「今までの年越しはみんなで楽しくってより、家族のんびりって感じだったから」
「そうなの?」
「母さんの希望でね。どうも東国の風習では一年間頑張ったからこそ家族でゆっくり過ごして、また来年頑張ろうねって感じらしいから」
出会った頃は両親の話をする度に辛そうにしていたが、シロを始めとした新しい家族の温もりに傷ついた心が癒やされ、今では大切な人を思い出す際の優しい表情へと変わっている。
「ぼくもあまり騒がしくは好きじゃないし、シロが居るなら家族と一緒にはなるだろう?」
「そっか……なら今年はクロのいつもの過ごし方になるんだ」
そんなクロの優しい表情が大好きで、またクロの家族で居られる幸せでシロも年越し祭に参加できない残念な気持ちよりも温かな気持ちになれて。
「でも来年はわたしのいつものだから。騒がしいのあまり好きくなくても、やってみれば楽しいよ?」
「……まあ、シロと一緒なら楽しめそうか」
「じゃあ約束、わたしたちの年越しは順番でいつものをしようね」
相変わらず妙な決め事をするとクロは苦笑しつつ、大切な約束を交わすお約束の指切りを求めるシロの小指に自分の小指を絡ませて。
「わたしたちが大人になっても、お婆ちゃんとお爺ちゃんになっても、ずっと順番でいつものするんだよ」
「ずっと一緒……だからね」
「「ゆーびきーり――」」
シロは楽しげに、クロは少し恥ずかしげに。
それでも二人は笑顔で指切りの約束を交わす。
「「――ゆーびきーった!」」
そして二人の指が離れるとこれから先の未来で交わした約束が一つずつ叶う瞬間を想像し共に笑い合う。
「わたしたちの約束いっぱい増えたね」
「まだまだ増えそうだけど」
「む~。クロは嫌な――くちゅっ」
ただ指切りをしたことでくるまっていた毛布がずり落ちシロは寒さからくしゃみを一つ。
「妙に寒いと思ったら雪が降り始めてる。シロ、毛布もう一枚使おうか」
窓から外を確認してクロが気遣い新たな毛布を取り出そうと立ち上がるも、シロは首を振り。
「いいよ。もう二枚ある……し!」
「うわっと!」
クロの手を強引に引き寄せ、瞬く間に互いの毛布を重ねて二人でくるまった。
「それにこうした方がよりあったか」
「もう……シロは」
二枚重ねの毛布より身体をひっつけ感じる体温にご満悦なシロに仕方ないなとクロも早々に諦める。
まあお互いの呼び名をシロ、クロにした日から二人で同じ部屋を利用し始めたからというもの、度々シロはクロと一緒にお休みしたがるので馴れたもの。
「クロが来てから冬にお仕置きされても寒くなくて助かるよ」
「……そもそもお仕置きされなければいいんだけどね」
ただお風呂まで一緒は徐々に気恥ずかしくなっているのでそろそろ別にして欲しいが、シロが幸せそうにしている嬉しさが勝り結局断れないでいるのだがそれはさておき。
「ね、クロ」
「ん?」
「次の年越し祭はぜったいに一緒に楽しもうね!」
「……シロがまた変な色々をしなければ」
「しないもん! クロのいじわる!」
「まあ、来年はぼくがお目付役で一緒にいるから気をつけるか」
もう一年後の今日を思い浮かべて楽しみにしている気の早いシロを宥めつつ、しかしシロとならどんな年越しでも楽しいだろうなとクロも笑顔で。
「クロは眠くない?」
「平気だよ。シロは?」
「お昼寝したから平気。だからあやとりしようよ」
「だからの意味が分からないけど良いよ」
常にポケットにあやとり紐を忍ばせている二人は早速あやとりで遊びつつ。
「あ、そうだ。もうすぐクロと家族になって一年になるね」
「なるね。なんだかあっという間だったなぁ」
「その日はお祝いしようね」
「……するの?」
「しないの?」
「まあ……シロがやりたいなら」
「じゃあ約束」
「早速増えた……でもシロ」
「なに?」
「ここでお祝いする羽目にならないようにしてよ」
「しないもん!」
「「ゆーびきーり――」」
この後、シロの思いつきで更に二つの約束の指切りを交わした二人は――
「今年も楽しい一年にしようね、クロ!」
「そうだね、シロ」
新たな年を迎える鐘の音を聞きながら、新年最初の指切りを交わしたのだった。
今さらですが今作では各三ヶ月ごとに水精霊の周季、土精霊の周季、火精霊の周季、風精霊の周季で一年との構成です。
大まかに水精霊は1月~3月、土精霊は4月~6月、火精霊は7月~9月、風精霊が10月~12月のイメージですね。
そしてこの後……というか1月も経たずにシロとクロはお別れすることになり、二人ともきつい運命が待っているのでちょっと切ない時間ですが如何でしたでしょうか?
また澤中雅として今年の更新はこれで終了となります。
今年の5月25日に今作『白き大英雄と白銀の守護者』を初めて投稿させて頂き、少しずつ読んでくださる方が増え、また別作品も投稿したりと大変でしたが楽しい1年でした。
なので来年も読んでくださる方が面白い、続きが楽しみと思ってもらえるように精進しつつ執筆を続けていくのでどうかよろしくお願いします!
……オモイデレシピは毎日更新が続いてるのに、こちらは不定期で本当に申し訳ないのですが(猛省)。
とにかく来年も澤中雅を生暖かく見守って頂けると幸いです!
それではみなさま、良いお年を!