緊急事態からの核心
今回も遅くなり申し訳ありません!
アクセスありがとうございます!
親善試合当日。
ラタニ、カナリア、モーエンの三人と王国代表の面々は朝食後、準備を済ませるなり午前七時に闘技場へ出発。
皇帝の開会宣言などはあれど、三時間前から会場入りするのは多くの観覧者が詰め寄る催し故に混雑を避けるためやウォーミングアップ、また審判を中心とした教国の役員から注意事項を受ける時間があるからで。
「ほんと、マジ焦ったわ」
当日とはいえ貴族区らしくお祭りムードからかけ離れた町並みを馬車から眺めながらユースがため息一つ。
ちなみに同じ馬車にはロロベリアとリースのみ、本来は二日目の謁見や下見時と同じようにアヤトも同席予定だが姿はない。先頭を走るラタニ、カナリア、モーエンが乗る馬車にいるのだが。
「まあでも、さすがのアヤトもサボるわけないか」
「むしろサボると思ってたから意外」
身も蓋もないリースの呟きにあやとりをしつつロロベリアは苦笑を漏らす。
というのも今日も今日とてアヤトが早速やらかして一悶着あったりする。
同室のユース曰く目を覚ませばいつもなら先に起きてソファを占領して読書かあやとりをしているアヤトの姿がなく、ベッドどころか部屋にすら居なかったらしい。
最初は当日くらい一緒に食事をするつもりかと気にせず食堂に向かえばやはり姿がなく、使用人を含めて誰に聞いても見ていないとの返答。
本来なら何事かと大騒ぎになる場面、しかし誰もがあいつサボるつもりだと違う意味で大騒ぎになった。
伝統ある親善試合をサボらせるわけにはいかないとカナリアが焦り狂うも、ラタニがアヤトの捜索は使用人に任せるよう宥めて代表メンバーも食事と身支度を済ませたのだが見つからず終いで。
ただ出発時間ギリギリになってようやくアヤトは姿を見せたのだが、今度はどこへ行っていたと怒り狂うカナリアを無視でそのまま馬車に。結果としてカナリアらが追いかけるように乗ったで予定変更に至った。
つまり今ごろ馬車内でカナリアから追求と説教をされているだろうが、本当にどこで何をしていたのかと呆れてしまう。
「そもそもあいつは出場しない。なら居ても居なくても関係ない」
「体調崩して寝てますって言い訳すりゃあだけど。でも目ぇ覚ましたら居ません、ってのはさすがにヤバイって。なんせアヤトだぞ?」
「……他国であいつを自由にさせたらなにをするか分からない」
「あのね……確かにアヤトは好き勝手だけど、悪事に手を染めないのは二人も分かるでしょ。だからそんな悪く言わないの」
「迷惑は振りまいてる。今朝のもどこに行ったのかはどうでもいいけど勝手過ぎ」
「もう……」
リースの言い分は最もなのでロロベリアもフォロー出来ずに嘆息するのみで、あやとりで満足のいく形を作り上げると紐を丁寧に折りたたみつつユースへ視線を向けた。
「ところでユースさん。昨日の夜もアヤトと会話は無し?」
「飯食って戻った時はいつも通りソファであやとりしてたけど……そういや昨日はずっとそのままだったか。まあオレも早めに寝たしな」
「……そう」
「とにかく灯り消すって確認した時に『好きにしろ』くらい? 会話と言えるかは微妙だけど……姫ちゃんなんで毎日聞いてくるんだ?」
ユースが訝しむようにロロベリアは帝国に来てから毎朝アヤトの様子を確認してくる。こちらとしては特に変わりない時間なので面白くないと思うのだが。
「まあ、ちょっとね」
「さいですか」
まあ好きな人と一つ屋根の下で生活しているなら気にもなる。特にアヤトの私生活が謎だけに自分としては面白くなくても興味はあるかとユースも追求せず。
「でもそんな気になるなら、部屋変わってくれれば良かったのに」
「だから、それは無理でしょ」
「そもそも愚弟と同じ部屋とかいや」
「ひでぇ!」
などと三人で談笑している間に闘技場に到着。
時間も時間なだけに周辺はまだ人気も少なく、屋台の準備で忙しくしている者が制服姿で王国代表と気づくなり良い試合をとの声援が。
アウェーでも歓迎ムードなのはやりやすいと手を振りつつ、役員の案内で場内へ。
控え室に荷物を置いてまずはラタニから試合に向けて激励を――
「おいラタニ」
する前に、ここまで無言で最後尾を歩いていたアヤトが控え室に入るなり口を開く。
「なんだい?」
「ここまで顔出せばもういいだろ。俺は適当に見学させてもらう」
「はぁっ?」
気怠げに言い放ちつつ、閉めたばかりのドアノブに手を掛けるのでカナリアから目を見開くも、ラタニは肩を竦めるのみで。
「たく……どこまで好き勝手なんだい? あんたは」
「人混みは嫌いなんだよ」
「へいへい。せめて闘技場の周辺には居るんよ」
「隊長なにを勝手に! アヤトさんもこれ以上――」
「へいよ」
「へいよではありません! ちょ、待ってください!」
本当に退室してしまうので慌ててカナリアが追いかけるが通路に出ても既に姿はなく。
『…………』
自由気ままなアヤトの行動にさすがのロロベリアらも、ここまで来て集団行動をしないのかと呆気に取られる中、ラタニが笑いを堪えつつカナリアの肩を叩く。
「てなわけでカナちゃん、いつものように役員には適当に言い訳よろしくん」
「……今度高い酒おごってやるから頼むぞ」
もう片方の肩をモーエンが労うように叩けば、現実を受け入れたのかカナリアがぷるぷると震えて。
「ああぁぁぁぁぁぁもおぉぉぉぉぉ――――っ!」
「……カナリアさんの昇給か特別休でも、ボクらから父上に頼んでみようか」
「……ですね」
闘技場の外まで響かんばかりの絶叫を聞きながらレイドとエレノアを始めとする学院生らは同情するしかなかった。
◇
カナリアの絶叫を聞いた役員が駆けつけるとの一悶着はあったが、親善試合に向けて準備を始めることに。
アヤトの捜索を早々に諦めた一同は気を取り直して(カナリアは必死に言い訳を思案していたが)着々と準備を進めていく。
武器や連携確認、対策などの話し合いも終わり、後は教国の役員を待つばかり。
注意事項を受けてオーダー表の提出が終われば別室にある室内練習場で身体を解しつつ集中力を高めていくのだが、ロロベリアは一度退室を。
もちろんアヤトを探しに行くのではなく、少し確認したいことがありトイレに向かっていた。
「ロロベリアさま!」
だが入る前に呼び止められて視線を向ければエニシが駆け寄ってきて。
確か運営の手伝いがあり、サクラをここで出迎えると聞いていたが、彼にしては珍しく慌てた様子に嫌な予感を覚えるロロベリアの前で立ち止まり。
「ちょうど良いところに……急なお願いで申し訳ないのですが、王国の方々に内密でアヤトさまをお呼びして頂いてよろしいでしょうか」
「アヤトを……ですか? しかも内密で?」
「はい……どうか……お願いいたします」
親善試合前にアヤトを呼び出す、しかも内密で。
妙な懇願にロロベリアはある可能性が脳裏に過ぎり。
「……なにか、あったんですか」
「それは……」
「お願いです。教えてください」
言い淀まれるもむしろロロベリアが懇願し、折れたようにエニシは周囲を確認して顔を近づけた。
「……このようなお話しをロロベリアさまにするのは忍びないのですが……お嬢さまが行方不明なのです」
「えっ?」
予想外な事態に耳を疑うも、エニシは続ける。
昨日は研究施設で研究をしていたサクラは夕刻から人払いをして寝室に閉じこもっていたらしい。
アヤトの忠告から一人考える時間が欲しかったのか。思い悩んでいたのを使用人らも察していたので従っていたが、今朝になっても出てこず終いで。
さすがに準備をしないと親善試合に間に合わない時間となり、使用人が声を掛けたが返答はなく、不審に思いドアを開ければサクラの姿はなかった。
外出した形跡もないことから施設に居る者総出で探したが見つからず、慌てて皇帝へ報告したのだが――
「陛下はこの事態が広まり国民が動揺するのを危惧しております。また万が一誘拐の場合、犯人を刺激する可能性があると……」
未確定な状況が故に大事にするのは悪手と判断し、信頼できる者数名で捜索に当たらせるよう命じ、闘技場で待機していたエニシにも使いが来たという。
「アヤトさまは出場されないとお聞きしておりますし、あの方が協力してくだされば心強くと私の独断でお願いに参ったのです」
確かにアヤトは持たぬ者でありながら精霊術士以上の強さがあり、隠密行動にも秀でていて諜報活動で重宝していると国王が太鼓判を押しているほど。こうした内密の捜索に関して彼以上の協力者は居ないだろう。
「どうか……お願いします。このようなご協力を王国民のアヤトさまにお願いするのは筋違いなのも分かっております。ですが私に出来ることでしたら何でもします。陛下の許可なく情報を漏らした罰は受けますので……お嬢さまの安否を……ご協力を……」
そしてアヤトの実力を知るからこそ罰せられる覚悟で協力を仰ごうとしているエニシの気持ちも分かる。
書き置きすら残さず行方をくらませたとなれば焦燥感ばかりが募るし、もし何らかの事件に巻き込まれたのならサクラの身が危険、一刻も早く救出しなければならない。
エニシの縋るような懇願にロロベリアもなりふり構っている状況ではないと理解しているが故に――
「分かりました……エニシさん、少しだけ時間をください」
「ありがとうございます……っ!」
「ただしこれから私が何をしても疑問に思わず、何も質問しないでください。もちろん誰にも言わないでください」
「? それは……」
「必要なんです。約束してください」
「……かしこまりました」
意味深な条件に困惑するエニシだが真摯に受け止めてくれて。
ならばとロロベリアは目を閉じポケットに忍ばせていたブローチに触れた。
『――マヤちゃん、聞こえる』
『はい、聞こえていますよ。ロロベリアさま、如何なさいましたか?』
念じて呼び出せばマヤから返答が。
端から見ればロロベリアは棒立ちにしか見えないが約束した手前エニシは何も聞いてこない。
そう、どこかで見学しているアヤトを呼び出すのはこの方法が一番早く。
後はマヤに事情を説明して合流するか、場所を聞いてエニシと向かうのみ。
しかしロロベリアはどちらの問いかけも選ばなかった。
『アヤトはまだお仕事中?』
◇
「隊長、どこに行っていたんですか」
間もなく教国の役員が訪れる頃、退室していたラタニが戻るなりカナリアがじろりと睨む。
「だから、おトイレ行くって言ったじゃん」
「……それにしては遅かったですね」
もちろんラタニには通じず手をひらひら、カナリアもため息と共に苛立ちを吐く。
「それよりもリーちゃんの姿がないけどどうしたん?」
「リースさんはロロベリアさんを探しに。彼女もどこに行ったのか……アヤトさんの悪影響を受けすぎです」
「それは大変……けど、入れ違いか」
「入れ違い? どういうことですか?」
「まあそれよりもカナちゃん、とりあえずオーダー変更するから」
「今から、ですか?」
カナリアを始めとする面々が訝しむ中、ラタニは苦笑しつつ天を仰いだ。
「これも神さまのお導きってもんなのかねぇ」
果たしてアヤトのお仕事とは?
ロロベリアは何を察しているのか?
サクラの行方は?
ここから色々な真実が明かされていくのでお楽しみに!
みなさまにお願いと感謝を。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!
また感想もぜひ!
作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!