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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
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勝手な期待

アクセスありがとうございます!



 レイド、サクラという両国の重鎮が会談をしている最中に許可なく乱入。

 当然不敬罪で罰せられる行動で。


「坊主……状況を考えろ」

「ノックはしただろ」

「……ならせめて返答を待て。そもそも使用人に止められなかったのか」

「声すら掛けられなかったが?」


 モーエンが窘めるもどこ吹く風。一応配慮したのか使用人に気づかれぬよう気配を消したらしいが別の意味でも配慮してほしい。


「それで、キミがここに訪れたのはお友達のサクラ殿下が来ているからかな?」


 まあここに居る四人は既にアヤトの非常識っぷりを理解しているので今さら咎める気も無く、代わりに自ら訪れた用件をレイドが確認を。


「それ踏まえてだ。お前らが来ているなら今日はこちらで訓練するか」


 アヤトの疑問に時計を見れば、いつもなら合流して研究施設に向かう時間になっていた。

 実のところ昨日の一件から控えるべきとカナリアに助言され、ロロベリアは納得したがアヤトは相手次第だと保留にしていた。

 そこにサクラが訪れたので意思確認に来たらしいが。


「……サクラ殿下は謝罪をしに来てくれたから、どうかな……」

「謝罪? ああ、お前が調子に乗って調子に乗った皇子さまにボコられた件か」

「アーメリ殿といい、キミも容赦ないね……」

「容赦の余地もないからな」


 嘲笑するアヤトに手痛い返しを受けてレイドは肩を落とす。

 またサクラは自国の王子相手とは思えない態度に驚き半分、本当にブレないとの妙な感心半分と口元をヒクヒクさせていればアヤトの視線が向けられて。


「なるほど、妙におめかししているのはその為か」

「妙は余計じゃろうて……」

「まあそんなことはどうでも良い。謝罪中なら出直すが」

「そんなこととは……お主は本当に……」


 正装姿を見られた気恥ずかしさも無粋な反応にため息一つ。


「出直す必要もなかろうて。しかし……昨日、あのようなことがあっても、お主は変わらず妾に会いに来てくれるんじゃな」

「レイドがお前の兄貴にボコられたことと、俺とお前の契約に何の関係がある」


 今回は王国側の寛大な処置で痛み分けとなったが、ベルーザが起こした問題は決して軽くない。故にサクラも心配していたがアヤトにとって他者は他者、自分は自分と意にも介していなかったようで。

 周囲や状況に振り回されない自己の強さに安堵しながらも、同じ強さがあればあの誓いも消えていなかったのではとの惜しむ気持ちがわき上がる。

 昨日久しぶりに顔を合わせたからか、なぜ今さらと滑稽でサクラから弱々しい笑いが漏れた。


「やはり、お主はいいのう……」

「随分とお疲れなのは馴れぬおめかしが原因か」

「……そうかもしれん」


 故にアヤトの茶化しが心地よく、弱った気持ちを吐露するように頷き。


「サクラ殿下、ボクはここで失礼するよ」

「自分も失礼いたします」


 年相応な弱さを見せるサクラの様子にレイドとモーエンは目を見合わせて、気を利かせるように退室を。

 エニシも同じ気持ちなのか、息を潜めるように二人に続き室内にはアヤトとサクラのみが残されて。

 三人の気遣いを察したアヤトはため息を吐きつつサクラの向かいに着席。


「……愚痴りたいならさっさと吐け」


 仕方なしとの促しでも、付き合ってくれるのがアヤトらしく。

 今も面倒気な表情を浮かべているが、見据える黒瞳からは対照的な温もりを感じて。


「……兄上も、昔はああではなかったんじゃ」


 無意識のうちにサクラは弱音を吐き出していた。

 期待された兄姉と、期待されなかった自分とベルーザとの間に芽生えた特別な絆から、帝国の差別問題を幼いながらも変えようと共に誓ったこと。

 自分たちに出来ることを模索し、励まし合いながら共に努力を重ねた日々はベルーザが精霊術士として開花して一変した。

 力を手に入れてからは自分たちが変えようとした帝国を体現するように他者を見下し、傲り始めて。

 自分の言葉にも耳を傾けなくなり、あの絆と誓いはいつしか失われて。

 失意のサクラに手をさしのべてくれたのがソフィアだった。

 精霊学を習得し、精霊器について本格的に学び始めた際に帝国の第一人者として宮廷に招かれてからの繋がりで精霊力持ちを嫌うが故に、精霊士のベルーザと共に帝国を変えるとの誓いにはいい顔をしなかった。


「妾の可能性を見出し、兄上に代わり共に帝国を変えるべく協力してくれると申し出てくれてのう」


 それでも精霊力の有無も実力も関係ない帝国には共感してくれたからこそ講師として教え導き、ベルーザが豹変してからは共に歩み続けてくれた。

 何故ならソフィアにも帝国を変えたい気持ちがあり、それには精霊力持ちを嫌う理由が関わっていて。


「お主なら感づいておるじゃろうが、ソフィアも今の帝国の被害者じゃ」


 元々それなりに身分のある家系に生まれ、しかし持たぬ者として生まれたが故に家族にも冷遇されて。

 そんな周囲を見返すべく精霊学を学び始めたのはサクラと似たものがあり、才能にも恵まれていたからこそ優秀な成績を収め続け、若くして帝国の精霊器開発を牽引するまでになった。

 冷遇された過去から努力して認められる地位を手に入れたソフィアの人生は順風満帆になるはずだったが現実は厳しく。周囲の精霊持ちにその才を疎まれ、持たぬ者が故に精霊力を感じられないハンデから足を引っ張られた。

 それでも協力してくれる者も少なからず居て、その一人である精霊士の男性と恋仲となり、将来を約束していたのだが――


「ようやく幸せを掴めるはずじゃった……が、婚姻を結ぶ前に相手が殺されたんじゃ」


 精霊器に必要な精霊石の調査員として精霊士の彼も霊獣地帯の調査に派遣されたのだが、霊獣の討伐中に精霊術士が放った精霊術が誤爆という不運に巻き込まれて帰らぬ者になったと。

 ソフィアは抗議するも事故として処理されて、その精霊術士は軽い罪で済み。

 元々精霊力持ちに対する印象の良くなかったソフィアが決定的に精霊持ちを嫌うようになり、精霊術士を特に嫌悪する悲惨な過去。

 自身の境遇を語ってくれたソフィアの憎悪と悲観に満ちた表情を思い出し、沈痛な面持ちでサクラが目を伏せる。

 だからこそ皇女のサクラに期待し、帝国の未来を変えて欲しいと。


「精霊力の有無関係なく、正当な評価を受ける国。持たぬ者が冷遇されず、幸せになれる国……あやつは妾に賭けてくれたんじゃ」


 そして、だからこそアヤトという存在にサクラもまた可能性を見出した。


 最初は親善試合の代表になった異例の持たぬ者として。

 その実力は本物でエニシにすら勝利した強さに畏怖を感じながらも、これまで出会った誰とも違う不思議な魅力を持ち、自分もいつしか魅入られて。

 レイドやモーエンとの対話で確信した。


 アヤトこそ精霊力の有無関係なく、周囲を変える存在だと。


 故に帝国を変えるとの夢を実現させるためにはアヤトにも協力して欲しくて。

 エニシやソフィアと共に自身の側で支えて欲しくて。


「お主は妾らのような持たぬ者にとっての可能性じゃ。故に――」


 勢いのままサクラが懇願するべく顔を上げるも言葉が続かない。

 自分を見据える安心するような温りを感じていた黒瞳が、冷ややかなものに変わっていて。


「それなりに期待していたんだがな」


 感じる温度そのまま落胆したようにアヤトが嘆息。

 なぜ急にと硬直するサクラに対し、冷ややかな視線を向けたままアヤトが続ける。


「サクラ、お前は皇族として民を思うが故に帝国を変えたいんだろう?」

「むろんじゃ。他にどのような理由に聞こえる」

 当然の質問に硬直が解けたサクラは即座に同意するも――



「ならお前にとって()()()()()()()()()()()?」

「…………っ」


 更に質問された瞬間、息を呑む。


「精霊力の有無関係なく、正当な評価を受ける国までは良い。だが持たぬ者が冷遇されず、幸せになれる国というのは、持つ者を無視しているだろう」

「…………」

「昨日、お前と共に見た民の笑顔、活気に精霊力の有無なんざ関係ないはずだ。なのにお前はなぜ持たぬ者にばかり目を向ける」

「…………」

「少なくとも俺の知る国王は持っていようがいまいが関係なく、民を愛している出来る男だ。しかしお前の言い分は今の帝国と大差ない、つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………」

「つーかお前が兄貴と共に誓ったのは精霊力の有無も実力も関係ない帝国だと先ほど聞いたばかりだが、ソフィアとは別の誓いを立てたのか?」


 指摘されてサクラは初めて自分の夢も、いつしか持たぬ者にだけ目を向けていたことを自覚した。

 いや些細な間違いだ、ベルーザと違えたとはいえ自分の夢は変わらず帝国民の幸せで――


「些細な疑問と一蹴しても構わんが、その僅かな心構えが命取りになる」


 言い訳染みた葛藤をまるで見透かすようにアヤトが忠告を。

 手痛いがその通りだ。民を、国を導く者は、皇族とは僅かな慢心が命取りになり、その被害を最も受けるのが他ならぬ民で。


「でだ、お前が真に手を取り合う必要があるのは俺じゃねぇよ」


 再び葛藤するサクラに容赦なくアヤトは持論をぶつけてくる。


「そもそも好き勝手に生きている俺にどんな可能性がある。むしろ精霊力を持つ兄と、持たぬ妹が協力するからこそ皇族として尊く、可能性のある姿だと思うがな」


 最初に誓い合ったベルーザこそ共に夢を叶えるに相応しい相手だと。

 しかもこの持論こそ正しい。

 持たぬ者同士で手を取り合うのではなく、持たぬ者と持つ者が手を取り同じ目標を叶えるべく協力し合うからこそ、精霊力の有無も実力も関係ない帝国になるだろう。

 それが民を導く皇族同士なら尚更で――


「しかし兄上と妾は既に道を違えてしまったんじゃ。今さらどうやって協力し合えと言うんじゃ」


 それでも今さら過ぎるとサクラは自らの痛みをはき出すように反論。

 最初に裏切ったのは兄で、今では修復すら不可能な関係からどうして再び手を取れとの残酷な現実を突きつけるのか。


「そもそも道を違えた理由をテメェは必死に考えたことがあるのか」


 だがアヤトは怯むことなく強い眼差しで突然の追求。


「妾らが……違えた理由?」

「ねぇだろうな。だから兄貴が豹変した真の理由にテメェは気づいてねぇ」

「そ、それはいったい――」

「知りたいなら今の兄貴と一度でもいいから本気で向き合ってみろ」

「…………」

「ま、あくまでお前の話を聞いた俺の勝手な憶測だ。事実かどうかは知らんが、少なくともお前が俺の口説き方を間違えたのは確かだ。つまり今のお前に協力する気はねぇよ」


 縋るサクラに対して意味深な助言を最後に、交渉決裂との意思を残してアヤトは無情にも立ち去っていく。


「しかし俺が勝手に抱いた期待通りのお前なら、もう一度くらい口説きに来ても良いぞ」


 だがドアノブに手を掛け、退室する前に今一度サクラに向けてほくそ笑む。

 先ほどの失望が嘘のように、まだ期待しているとの優しさを皮肉に変えて。


「その時は口説き方を間違えんようにな。むろんもういらんのなら構わんが」


 今度こそ室内を後にした。

 一人残されたサクラはアヤトが去ったドアを見つめていたが、やがて力が抜けたようにソファへ倒れ込んだ。


「……どうすればいいんじゃ」


 変わって写る天井に問いかけるも、もちろん答える者は誰も居なかった。


 ◇


 応接室を後にしたアヤトを出迎えたのはエニシで。


「お嬢さまにもう一度、チャンスをお与えくださり感謝します」

「わざわざ解放して聞き耳とは随分と良い趣味をしている」


 誠心誠意の一礼に待機していただけでなく、精霊力を解放した聴覚でやり取りを聞いていたと嫌味を漏らすがアヤトは気にせずそのまま通り過ぎる。


「……アヤトさま」


 だが背後から聞こえるエニシの弱々しい呼び止めに足を止め。


「私も……間違っていたのでしょうか」

「守り方はそれぞれだろ」


 振り向きもせず端的な言葉を残して再び歩み始めた。




アヤトの指摘は厳しいですが、だからこそサクラの何かに期待していたとも捉えられますね。

しかし相変わらず意味深なアヤトくん、キミはいったいどこまで察しているのやら。


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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