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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
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静かな怒り

久しぶりの二日連続更新です!

アクセスありがとうございます!



「……やれやれ。相変わらずあいつは立場を弁えん」


 突如決定した代表同士の模擬戦にカイルはため息一つ。

 ベルーザの性格を逆手に取りレイドは情報を引き出そうとしていると静観していたが、さすがにこの展開は予想外で。

 ただ申し出を受け入れるだろうと踏んでいた。代表同士が親善試合前に模擬戦、しかも立場ある者同士だ。

 知られたら問題になるだろうが、申し出たのはベルーザの方。

 つまり問題の矛先はベルーザに向けられる。なら少しでも彼の情報を集めるならレイドは受けるだろうと。

 王族として立派な愛国心、しかし計算高く実に性格の悪いやり方は何とも彼らしく。


「ですが、お兄さまは何を言ったのでしょう……?」


 エレノアもレイドの狙いを読めているだけに感心と呆れ半分で見送ったが、ベルーザの態度が一変したのはロロベリアについて何かを忠告してからだ。

 まさかアヤトの名を出していないだろうが、かなり憤怒していただけに気になるわけで。


「カルヴァシアほどではないが、あいつも人の神経を逆なでするのが得意だからな。どちらにせよ、この機会を無駄にしないよう俺たちも集中しよう」

「……ですね」

「なのでモーエンさん。いくら帝国側に問題を押しつけられるとは言え……くれぐれも大事にならないようお願いします」


 帝国軍関係者を呼べば大騒ぎになるのは間違いないので審判は唯一軍人のモーエンが受け持つのでカイルは頭を下げて念押しを。

 精霊結界を張った状態での精霊術同士の模擬戦は対決する同士の精霊力の量、ダメージなどの見極めが重要、審判を務める者はある種どちらの命も預かる立場なのでモーエンが受け持つのは当然だが――


「既に充分大事ですがね……はあ、またカナリアに説教されるのか」

「ご愁傷様です……」


 両国の重鎮の命を預かるのみならず、このような野外乱闘が知られれば関係なく確実に叱咤されると踏んだり蹴ったりな立場に肩を落とすモーエンにエレノアは心底同情していた。



 ◇



 モーエンの気苦労も知らず、レイドは準備運動を。

 偵察のみの予定だったので武器がなく、帝国代表から借りたショートソードの感触を確かめつつベルーザの様子を窺う。

 腕を組んで涼しい表情をしているが、行き過ぎた提案に帝国代表メンバーは戸惑いを露わにしている。しかし制止の進言をしない辺り誰もが諦めているのか、それとも恐れているのか。どちらにせよベルーザの増長は周囲にも責任がありそうだ。


 故に同じ立場ある者としてレイドは同情してしまう。本人の自覚も必要だが、このような状況でも立場関係なく叱り、窘める者が居るからこそ成長する。自分にカイルという親友が居るように。

 そう言った意味ではベルーザは才能に恵まれても、周囲に恵まれていない可哀想な皇子で、出来るならこの模擬戦や親善試合が切っ掛けになればとも思う。

 王国の未来を思うなら皇帝の座に就く可能性があるベルーザとも良い関係を築く必要がある。お互いの父が戦いを歴て盟友となったように、自分や他の代表メンバーの誰とでも良いからと。


 そんな願望を抱いている中、ふとアヤトの存在が頭を過ぎた。

 なぜか最も皇帝の座に遠い皇女の狙いを知った上で自ら出向いて関係を築いている。この手の誘いを嫌い、関わることを拒む彼にしては珍しい行動で。

 ある種自分よりも重鎮で難しい立場でありながら自由奔放、何を考えているか読めないが故に面白い。まあ楽しんでいられるのは彼の行動には何かしらの意味があり、周囲を思うからこそ。

 その周囲がラタニとロロベリアのみだが、どちらも王国の民。つまり大きく見れば王国にとっても有益になる。

 ならば自由に動いてもらっても構わない……のだが、もう少し王国に興味を抱き、出来れば心臓に悪い行動を控えて欲しいとも思う。


「なにか不都合でもあったかな?」

「いや……何でもないよ」


 アヤトについて思いだしつい困った笑みを浮かべたようでベルーザが声を掛けてきたので首を振りさらりと交わし、準備も整ったとモーエンに視線で合図を。


「レイド殿下、ベルーザ殿下、これはあくまで交流を深める目的の模擬戦です。もし行きすぎた行為が見られたら俺も遠慮無く介入させてもらうのでご注意を」


「頼んだよ」

「問題ない」


 二〇メルの距離で向かい合い、周囲が静まり返るとモーエンが手を上げて――


「では模擬戦――始め!」


 合図と同時に精霊力を解放、すぐさま先手必勝とレイドは手を伸ばす。


『切り裂け!』

『爆ぜろ!』


 十数の風刃で狙い撃つもベルーザは両者間の空間を爆破させた力業の防御を。

 発動速度は負けているが風の精霊術は四大の中で最も速さに長けている、故に速さではなく力でねじ伏せるのは強引でも有効な手だ。


『駆けろ!』


 しかし爆風で土煙が舞うなりレイドは風を両足に纏わせて一気に距離を詰める。


『射て燃えよ!』


 ベルーザも炎矢で応戦するが土煙で視界が悪く、精霊術で飛躍的に上げた速度に対応できないのか狙いが散漫。また多少の被弾覚悟の突進に虚を衝かれたのか、明らかな焦りを見せている。


(なるほど……確かに精霊術士としては、だ)


 この反応にアヤトの言葉を思い出す。

 恐らく先ほど見せたようにベルーザは学院生の中では特出しすぎるあまり、全て精霊術のみで対応できたのだろう。火の精霊術は四大で最も攻撃力がある、彼の実力も踏まえれば相手は慎重にならざる得ないからだ。

 加えて腰にダガーを装備しているが最初から抜く素振りもないならラタニと同じく護身用程度の認識。


 つまりベルーザは近接戦闘に馴れていない典型的な精霊術士。


 そこに付け入るスキがあると土煙を抜けたレイドは更に加速してベルーザにショートソードを振るう。


『小賢しい!』


(……そう簡単にはいかないか)


 しかし寸でのところで炎の壁を顕現されて強引に後方へ回避行動を余儀なくされた。

 弱点らしきものは発見できたが、完璧に捉えたタイミングでも間に合う発動速度はやはり脅威。

 それでも距離は詰められたとレイドは即座に次の一手に入る。


『射貫け!』


 炎の壁めがけて雷を放つ。

 近距離から風よりも速い雷の精霊術、近接戦が不得手なベルーザなら回避は不可能な一手――


『噴け!』


 のはずが、同時にベルーザの身体が炎の壁から斜め後方に飛び出し雷は空しく精霊結界に衝突してしまった。


「速度を増す精霊術は風の精霊術士の特権と思っているのか?」


 再び距離が空き、ベルーザは悠々とほくそ笑む。

 予備動作なく爆発的な速度での回避はまるでアヤトを彷彿とさせるが、技能で可能とする彼とは原理が違う。

 ベルーザは自分と同じように両足に精霊術を纏わせた、ただ風ではなく爆発による推進力を利用した。

 一歩間違えれば両足が吹き飛ぶ方法。それを驚異的な制御力と発動速度で可能とした回避はまさに上位精霊術士クラスの精霊術。


『甘いわ!』


 予想以上の才覚を目の当たりにして動きを止めたレイドに対し、ベルーザは身をかがめ精霊術で足元を爆破。

 脚力と推進力を利用した突進力は確かに速い、だが直線的なだけに回避は難しくないとレイドは身体を捻りショートソードでのカウンターを狙う。


『ふん!』


「――なっ!」


 それを読んでいたかのようにベルーザは右手を突き出し精霊術を発動、足元ではなく手の平から起きた爆風で軌道を強引に変えた。

 更に突き出した左手から爆風を起こして再び突進、完全に虚を衝かれたレイドは抗う暇なく距離を詰められ。


『こんなものか!』


「がぁ――っ!」


 腹部に添えられた手から起きた猛烈な衝撃と共にレイドの身体が後方に吹き飛んだ。

 言霊の威力とは言えゼロ距離からの爆破、精霊結界によって衣服の破れと軽度の火傷で済んだが代償として精霊力がごっそり失った。

 故に地面に倒れ伏すレイドは意識がもうろうとし、立つことすらおぼつかない。


「……ふん」


 雌雄は決したとベルーザは精霊力を解除してモーエンを見る。


「勝者、ベルーザ殿下」


「レイド!」

「お兄さま!」


「これが王国の序列一位か、拍子抜けにもほどがある」


 勝利者宣言と同時にカイルとエレノアが駆け寄るのをベルーザはつまらない物を見るような目で眺めつつ吐き捨てる。


「所詮は()()()()()()()()の王子か。この程度で私の盟友など百年早いわ」

「……手痛いですねぇ」


 カイルに治療術を施されているレイドに興味を失い、背を向けるベルーザに肩を竦めてぼやくモーエンだが、内心怒りが込み上げていた。

 前回はまだアヤトや学院生に対する発言、だが今のはハッキリと王国そのものを侮辱した発言だ。


「まあレイド殿下がアレなんで、俺たちはそろそろお暇しますよ」

「好きにしろ」

「では、失礼します」


 しかしここでやり合えば本当に国際問題に発展すると堪えてレイドの元へ。

 傷は問題なくも精霊力の急激な消耗にまだ意識がハッキリしていないようで、負ぶって訓練場を後にしつつ。


「さて……どうしたもんか……」


 今後の展開が想像できるだけに重いため息を吐いた。



 ◇



「…………モーエンさん。あなたが居ながら……なぜ……」

「……その……すまん」


 モーエンは想像通り静かな怒りと嘆きを秘めたカナリアに平謝りしていた。

 レイドを抱えて訓練場を出た際、関係者に何があったと当然のように詰め寄られ、予定通りベルーザに問題を押しつけてはみたものの、聞きつけたラタニとカナリアがすぐさま迎賓館に戻り、責任の押しつけ関係なく会うなり説教を受けることになった。


「この際、レイドさまの狙いに賛同したのは許しますが……大事になる前に止めることも出来たでしょう……」

「……その通りです」


 まあ仕方のないことと猛省している。

 いくらベルーザの精霊術の扱いが想像以上だったにしても、直撃する前に止めるべきだった。カイルの治療術で傷は治っているが精霊力の消耗からレイドはまだ眠っている。医師に確認してもらったところ一晩休めば完全に回復するらしいが、一歩間違えれば危なかっただろう。

 こればかりは審判役としてモーエンに責任がある。


「まあまあ。元はと言えばレイちゃんがおいたしすぎたのが発端だし、むこうから謝罪してきたからこちらは問題なしで良いじゃん」

「そういう問題ではないでしょう……本当にもう、なぜこうも問題が次から次へと……だから隊長やアヤトさんが居ると……」

「あたしは何にもしてないけどね……」


 フォローに回るラタニもとばっちりを受け苦笑い。

 とにかく今回の一件はベルーザが安易な提案をして、やりすぎてしまったこと、王国に対して侮辱発言も問題視されて皇帝自ら謝罪があった。

 更には責任を取らせると、ベルーザに親善試合の出場停止処分まで挙がったがラタニは未熟な学院生同士だからこその暴走で、止めに入らなかったモーエンにも問題がある。レイドも大事に至らなかったのなら手打ちでどうだとの配慮で纏まったが。


「どちらにせよ、卵のカラは取れたひよっこちゃんに舐められたままってのは気にいらんしねぇ。ケンカ売られておめおめ引き下がったとなれば、むしろ国王さまが激おこだし、ここは一つ、大観衆の前で盛大に大恥かいてもらいましょうか」


 当然建前でラタニは単純に売られたケンカを買うつもりで。

 ラタニだけでなくカナリアも、事情を知った代表メンバーもだ。


 故にベルーザの出場停止を許すわけにもいかない――しかし問題がある。


「……ですが実力は確かですよ。ぶっちゃけ坊主以外に泣かせる者は居ないでしょう」

「私も同意見です。もうなりふり構っていられません、アヤトさんが戻ってくるなり打診しましょう」


 個々の実力レイドを超える学院生が王国代表にいない。

 加えて連携を取っても相手もタッグで来る以上覆せる実力差でもない。

 つまりベルーザに対抗できるのはアヤトのみ。

 

「なりふり構わずってのも、頼るのも賛成……だけど、さすがにあの子を出すのは大人げなさ過ぎでしょ」

「「え?」」


 なのでモーエンの意見にカナリアすら賛同したのだが、呆れたようにラタニが否定。


「いや、もちあの子もガキだけど。それとは関係なくガキのケンカに大人アヤトが出しゃばるのはねー。つーかあんなバカ皇子ごときにもったいないし」

「では……どうされるのですか?」

「そもそも坊主に頼るなら……出場以外に何をですかい?」

「だから、所詮あのバカ皇子はカラが取れたひよっこ程度なの。それがまだ分かんないかねー」


 首を傾げる二人に対して、ラタニはケラケラと笑う。


「とにかく王国にケンカを売った帝国には大恥かいてもらいましょうか」


 しかしその笑みはモーエンとカナリアにとって背筋が凍るほどに冷ややかなものだった。




ベルーザはちょっとやらかし過ぎましたね。

結果、一番怒らせちゃダメな人を怒らせてしまいました……まさにご愁傷様です。


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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