王子の警告と皇子の提案
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研究施設に徒歩で向かうアヤトとロロベリアを見送ったレイド、エレノア、カイル、モーエンは馬車で移動を開始。
向かうは軍野外演習所、ベルーザの挑発から遠慮なく偵察する為で。
到着すると軍関係者がわざわざ出迎えてくれたのはベルーザからいつ来訪しても良いように伝えていたのか。ただ案内役は苦笑いを浮かべていたので偵察許可を出したことには内心呆れているのか。
とにかく帝国代表が利用している演習所では既に訓練が始まっているようで、精霊結界が張られているのを外観から感じつつ四人は中へ。
「隊長殿が皮肉るように、ここも随分と豪華絢爛だ」
闘技場と同じく簡潔に確認しただけでも王国の軍設備より華やかな造りにモーエンが嫌味をこめてぼやく。
簡素が良いとは言わないが演習場の出入り口に大きな彫刻を飾る帝国の感覚が王国軍所属のモーエンにはいまいち理解できなかった。
「それだけ強さに誇りがあるんでしょうね」
「お前も中々に皮肉っているぞ」
「全くです」
フォローを入れるレイドだが明らかな含みにカイルとエレノアが指摘している間に通路を抜ける。
広さは王国の演習場と大差はなく、中央では模擬戦が行われていてベルーザは監督役なのか時折檄を飛ばしていた。
指導員を加えず訓練をするのは帝国代表がベルーザのワンマンチームだとより印象づける。
「殿下の指導が上手いのか、元々の資質か……こりゃ随分とやるな」
だが模擬戦の様子にモーエンは素直に感心を。
水の精霊術士が氷を、火の精霊術士が炎を剣に纏わせての近接戦。同じ系統を扱うカイルよりも上手く制御が出来ていることで散漫な動きになっていない。
土の精霊術士は素早い発動と読みで誘導と迎撃を、槍を扱う精霊士は俊敏性を活かして精霊術をかいくぐるとお手本のような攻防を繰り広げていた。もちろんラタニとアヤトのようなデタラメさはないが、基本を忠実に修練を積んでいるのをうかがえる。
気になるのは親善試合はタッグ戦。この模擬戦も立ち位置的に火の精霊術士と精霊士が、水と土の精霊術士がペアに思えるが全く連携を取る素振りがなく、四人とも目の前の相手に集中しているようで。
そもそも親善試合がタッグ戦なのは霊獣を単身で相手にするのは危険が故に、精霊術士や精霊士の連携が必衰との理由から。しかし過去の親善試合でも帝国代表はお国柄から個々の実力に特化し、あまり連携を取らない傾向があるも今年の代表はそれが更に顕著だ。
ならばそこに付け入る隙はある。
個々の技術力は劣るかもしれないが力業で押されるほどの差はない。加えてこちら側の代表は数日といえどラタニやアヤトという強者を相手に模擬戦を積んでいる。
その経験を踏まえて上手く連携を取れれば勝機は充分、これが確かめられただけでも偵察に来た価値はあるだろう。
レイドやエレノア、カイルもそう感じたようで少しでも相手の情報を得ようと模擬戦に注視している。
故にモーエンも情報収集に努めようとするも、勝敗が付くと同時にベルーザが振り返り目が合った。
今気づいたのか、既に気づいていたのか分からないが声を掛けるより早く前を向き――
「おい、私の相手をしろ」
「畏まりました」
側にいた男子学院生に声を掛け、模擬戦をしていた者らと入れ替わりに対峙する。
「遠慮はいらん。全力でこい」
一対一なのは己の力を見せつける為だろう、まあ情報をくれるならと注目するが。
「王国代表、良く来たな!」
開始の合図があったにも関わらずベルーザは精霊力を解放するのみで、身体ごとレイドらに向けて両手を広げた。
「歓迎しよう、ゆっくりと偵察していくが良い!」
「なら遠慮なく……だけど、模擬戦中によそ見は危険だよ」
相手は言霊で氷槍を放つ寸前、あまりの傲慢な態度に半ば呆れながらレイドが応対するも。
『ふん!』
放たれた岩槍に目を向けることなくベルーザは手をかざして精霊術を発動。遅れて発動したにも関わらず炎壁が氷槍を遮り溶かし尽くした。
「このような模擬戦、所詮は児戯に過ぎん」
傲慢な言葉だが言うだけあり、追撃する相手をせせら笑いで見据えるなり右腕を振るう。
『舞え!』
「がはぁ!」
同時に相手の周囲がボンッ、ボンッと爆発。舞うように身体が吹き飛び倒れた。
精霊結界で外傷は軽度で済んでいるも代償として精霊力を一気に消費したようで、他の代表が運びながら治療を施し始める中、ベルーザは悠々と歩み寄ってくる。
言霊よりも早い発動だけでなく、無意味な言葉でも相手以上の精霊術を放てる辺り、やはりベルーザの実力は頭一つ抜き出ているようで。
「分かってもらえたかな?」
自信満々の問いかけに沈黙するレイドらに変わりモーエンが頷き一歩前へ。
「確かに殿下の実力には驚かされています。ああ、先日は自己紹介をする余裕もありませんでしたね。私はモーエン=ユナイスト。先日は隊長がお世話になりました」
「ラタニ=アーメリ直属の部下か。なるほど、隊長ほどではないが中々に愉快な男だ」
暗にあなたのせいで、との含みを込めた名乗りだがベルーザは気にせず受け入れるのはラタニがそれ以上に不躾だったお陰か。カナリアが居れば確実に頭を痛めていただろう。
「ご存じでしょうが一応私から紹介を。レイド殿下、エレノア殿下、侯爵家のカイルさまです」
対しモーエンはラタニの影響をより受けているだけあり、ベルーザ相手に自国の王族や貴族を適当に紹介。
もちろんレイドらは気にせず会釈するが、ベルーザは周囲を確認するなり首を傾げてしまう。
「……偵察に来たのはお前たちだけか」
「あまり大勢で来ても迷惑かと思いましてね。それが?」
「あの白髪の女は来ると思っていたが、当てが外れたようだ」
思わぬ疑問を前に訝しむモーエンに変わり、同じ立場上同列のレイドが変わって対応を。
「ロロベリアくんは少し用があってね……でも、当てとはどういう意味だろう?」
「ロロベリアか……いや、なに。私に対してあのような進言をする者は珍しいからな。来ていれば盛大に持てなしてやろうと思ったまでだ」
「それはそれは彼女も勿体ないことをしたね。ただ安心したよ、もしかしてベルーザ殿下は彼女に一目惚れでもしたかと思ったから」
が、笑顔でとんでもない発言をしたことでモーエンらはギョッとなりレイドに注目、ベルーザもまた不意を突かれたように唖然とし。
「私がか……ふん、どうやらレイド殿下は精霊術よりも冗談が上手いようだ」
我に返るなり首を振りレイドに向けてほくそ笑む。
「まあ美しい女なのは認めよう。望むならば私の妾にしてやってもいいくらいにな」
「……えっと、ベルーザ殿下」
「なんだ? もしや既にお前が目を付けているのか」
「そんな恐れ多い……のは良いとして。彼女には既に思い人がいるから望むことはないよ」
「なに?」
「それと王族、皇族と違えど同じ第二王子としてボクからの忠告だ」
明らかに不穏な空気が漂うもレイドはフランクな笑みを絶やさず、ベルーザの肩に手を置いて彼にだけ聞こえる声で告げた。
「万が一惚れたとしても、彼女に手を出さない方が良いよ――殺されたくなければね」
「…………っ」
脅迫染みた物言いにベルーザが睨み付けるも、手を離し一歩下がったレイドの表情は変わらず笑顔で。
「とまあ、キミの言うようにボクは精霊術よりも冗談がとても上手いんだ」
「……そのようだな」
その笑顔に釣られるようベルーザも笑みを浮かべるも明らかに強ばっていた。
まあレイドとしては本気の警告でもある。
なんせロロベリアに何らかの危害を加えればアヤトが黙っていない。ベルーザが皇族だろうと容赦しないのは王族の自分にすら本物の殺意を見せたことで証明されている。
そしてアヤトの技量なら誰にも気づかれることなくベルーザを粛清することなど簡単にやり遂げるだろう。
ただ真実を伝えられないので冗談交じりに忠告したのだが、レイドの狙いは別にあった。
「同じといえばボクらの父上も親善試合の代表として戦ったんだっけ。まあ結果は王国の敗北だけど、個人の……というかタッグ戦での結果は父上が勝利したけど」
「……それが?」
「なに、その経緯から両者に友情が芽生え盟友となり、両国の交友は更に深まった。なら将来共に国王、皇帝になる可能性のあるボクらも同じように戦い、友情が芽生えたらいいなって」
「確かに……両国の為を思えば、王座に就く者同士の友好を深めるのは悪くない」
「だろう? だから親善試合でキミと同じ舞台で向き合えるのを願っているよ」
故に友好的な態度を崩さず、しかし挑発染みた物言いで握手を求める。
レイドの差し出す手をじっと見つめていたベルーザも、やがて手を伸ばし両者の手が固く結ばれ――
「……願うまでもない。私は先鋒で出場する」
挑発を返すような宣言にレイドは内心ほくそ笑む。
そう、レイドの狙いはベルーザの出場順を引き出すことだった。他の代表メンバーと違い彼の実力は確実に抜きんでているからこそ、確実な対策を練る必要があった。
なのでベルーザの性格上、過去の戦績を引き合いに出せば確実に乗ってくると踏んでいた。実力主義の帝国で、現皇帝が敗北しているのなら自分が勝利することで更に支援を増やそうとするはず。
つまり情報さえ引き出せば後はラタニやカナリア、出来ればアヤトの助言からベルーザ攻略を練るだけで、その結果自分は別の順に回るつもりだ。
ベルーザは逃げたと嘲笑するだろうが、自分のプライドよりも王国代表が勝利するなら笑われようと構わない。
ただ性格上、大将戦ではなく先鋒で出場するのは意外で。
「帝国最強の学院生のキミが先鋒に?」
「部下の士気を高めるべく自らの戦いで鼓舞するのも未来の皇帝としてあるべき姿だ」
「王座にふんぞり返るだけの王も違うからね。その志、学ばせてもらったよ」
「気にするな」
その理由に少しだけ感心する。
横柄でも上に立つ者としての矜持はあるようで、レイドは素直に賞賛するが――
「しかし友好を深めるなら、タッグ戦よりも個人戦の方がより深められると思わんか?」
「……つまり」
「親善試合の前哨戦として、私とレイド殿下の一対一で模擬戦をしてみてはどうかな?」
当然の提案にこれまで静観していたモーエンらだけでなく、帝国代表メンバーも息を呑む。
両国の代表同士が親善試合前に模擬戦とはいえ戦うなど、まさに前代未聞。しかも王族、皇族という本来自重する立場同士で、規律を乱す行為をするのなら当然で。
どうやら挑発しすぎたらしいとレイドは呆れ半分、反省半分。
「ベルーザ殿下の申し出を断るわけにもいかないね」
「話が分かるではないか」
それでも態度に表すことなく了承した。
アヤトがまるで暗殺者扱いですね……まあ、出来るけども。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
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