皇女の休日
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帝国滞在五日目、及びエニシの訓練二日目。
今日も午前中の合同訓練を早めに切り上げたロロベリアはアヤトと共にサクラの研究施設へ。
ただロロベリアの他にレイド、エレノア、カイルの三人も早めに切り上げモーエンと共に外出を。
目的は帝国代表の偵察ベルーザの言い分を利用して堂々と見学するためだ。
恐らく訪ねたらまた侮辱してくるだろうが構わない。
少しでも勝率を高める方法があるなら遠慮なく、向こうが言い出したのなら卑怯でもないと開き直ってと、これもアヤトにプライドをズタズタにされた成果だろう。
なので出発前にロロベリアは気をつけてと声を掛けたが、むしろそちらこそ気をつけてと心配されてしまったはさておいて――
「…………」
アヤトと共に研究施設へ行けば、本当にさておいてな事態が待っていた。
「お嬢さまがわがままな提案をしてしまい、申し訳ありません」
故にロロベリアの心情を察したエニシが心苦しい気持ちで頭を下げる。
「いえ……私に謝らなくても。ですが……良いんですか?」
「アヤトさまが同行されているなら身の安全は保証されたようなもの。加えて……お嬢さまに対するアヤトさまの態度を踏まえれば、まず気づかれないでしょうからな」
「……確かに」
「それにお嬢さまもたまには羽を大いに伸ばしたいでしょう。息抜きもできて一石二鳥……なのですが、私が謝罪したのはロロベリアさまに申し訳ないからです」
「私に?」
「アヤトさまを好いていらっしゃるのですから、やはり複雑でしょう」
「……あの、私は……別に……」
「お気持ちは分かります。私もあと五〇年若ければと思いますから」
「エニシさんはそれ以前の問題がありますよねっ?」
「ですがご安心を。お嬢さまはアヤトさまのお人柄に惚れ込んでおりますが、ロロベリアさまと同じ感情を抱いてはいないでしょう」
「ですから……」
「……恐らくなので、私も内心ヒヤヒヤしておりますが」
「…………」
安心させたいなら不穏な呟きは止めて欲しいとロロベリアは思うのだった。
◇
などとロロベリアが複雑な気持ちで訓練に挑んでいる頃、アヤトはサクラと共に平民区に向かう馬車に乗っていた。
ただ皇族専用ではなく、サクラの研究施設で利用する業務用の馬車。
本来サクラが利用することはないが今回は良い隠れ蓑に使っていた。なんせ皇女が平民区に行くものなら大騒ぎになる。
これではお忍びデートを楽しめない。
「……なら楽しまなければいいだろうが」
「何事も楽しまなければ損じゃろうて」
「たく……」
移動中の車内で面倒な手順を踏む理由を説明すれば、まさに面倒だとアヤトは盛大なため息を。
業務用の馬車を隠れ蓑にしたころで関係なく皇女として、精霊器の技術者としても顔が広いサクラが平民区を歩けば大騒ぎになるのは間違いない。またアヤトも帝国でも珍しい黒髪黒目で帝国到着時に王国代表の一員として姿を見せている。
皇女と王国代表が二人で平民区を歩くだけでも妙な噂が広まるだけでなく、両者の立場が危うくなるのは必衰で。
故に研究施設で出迎えたサクラは長い髪をお下げに、わざわざ金色に染める徹底ぶり。服装もいつものサマードレスではなく平民に合わせた物を着ていた。顔立ちの良さは隠せないがそれでも雰囲気が随分と変わっているのでまず気づかないだろう。と言うよりもこれまでちょくちょく変装して平民区を歩いていたらしく、一度もバレていないとのこと。
なぜここまでして平民区に生きたがるのかは謎だが、更にアヤトまでも変装する羽目になった。親善試合前に平民区を王国代表が歩いていればやはり目立つとの理由で。
もちろんアヤトは全力で嫌顔をしたが好きにしろと言った手前、嫌々でも了承する辺りが律義で出発前にエニシの手により灰色に染めることに。
更に服装も。そもそも火精霊の周期で黒のロングコートを羽織っていること事態が目立つので同じく一般的な服装を用意されていたが、最終的に薄手の茶色いフードに留めたのは朧月と新月を隠すため。刀を所持している者など黒髪黒目以上に珍しく、故に武器でバレる可能性があるからで。
なら帯刀しなければいいのだが、こればかりはアヤトが譲らず、なにより本人が王国代表とバレても知ったことかと言いだし、結果ロロベリアが全力で説得することになったのだが。
「そもそもなぜ俺を口説く話からデートになる」
了承はしたが愚痴や不満は関係ないとアヤトはこぼしまくるがサクラは平然としたもので。
「男と女が親密な関係を築くにはデートは基本じゃろうて」
「そういった口説くとは思っていないんだがな」
「冗談じゃよ。どのような理由で口説くにしても、友好を深める必要はあるしのう。それにお主に帝国を知ってもらうのも一つの手じゃろう?」
「否定はせんがな……にしても、良く親父さんが了承したもんだ」
「まあ兄上の一件がある、父上もお主に対して謝罪の念がある故にあまり大きくでられんのもある。加えてお主はラタニ=アーメリの弟子、持たぬ者といえど関係なく信頼しておるのじゃろうて」
「良くも悪くも実力主義な帝国の主の割には、随分と偏見を持ってないようだ」
「だから良くも悪くもじゃよ。皇帝といえど全ての民を掌握できんし……なにより王国の主とは旧知の仲じゃ」
皮肉るアヤトに対しサクラは苦笑を返す。
ファンデル王国の現国王とエヴリスト帝国の現皇帝も、親善試合で両国の代表として直接対戦した過去があり、互いを認め合い盟友となったという。
ちなみに親善試合の結果は三勝二敗で帝国の勝利、しかし未来の王同士の結果は国王、レグリスの勝利だった。
とにかく二人にとって親善試合は裏の目的よりも表向きの目的が上手くいったようで、両者が王位に即位してから両国の関係が更に良くなったのは間違いなく。
「昔は年一で会うほど仲良しだったほどじゃ。まあお互いに今の立場になってからは安易に遊べぬらしいが」
「さすがに一国の主がそう簡単に国を空けることはできんか」
「故に父上は偏った思想の持ち主ではないんじゃよ。それにしてもいつも問題ばかりで悩ませる兄上が今回ばかりは役に立ったわ。お陰でこうしてお主とデート出来るんじゃ」
「……言ってろ」
両国の主と問題児の兄がこの結果を招いたのならばと上機嫌なサクラだが、付き合わされるアヤトはたまったものではなかった。
◇
この方法で平民区を訪れているだけあり内壁のも怪しまれることなく無事通過し、関連施設に到着。
もちろん同行している施設の関係者とは打ち合わせ済みなのでサクラとアヤトは施設裏で下車を。気をつけるよう念を押されるのは仕方ないが――
「で、どこ行くんだ」
関係者の言葉も無視で適当に歩を進めつつアヤトが確認を。
思わぬ展開で実に面倒気、それでもサクラは気にしない。
そもそもサクラは口説く側、アヤトの機嫌を損ねるような行動はマイナスになる。
しかし律義以前にアヤトは本当に嫌ならどのような理由だろうと、誰が相手だろうと平気で口にする。刀を手放すのを頑なに拒んだのが良い例だ。
つまり嫌と口にしない間は問題なく、自ら確認するならむしろ気を悪くしていないハズで。
「デートと言えば食べ歩きが基本じゃろうて」
「その基本を知らんのだがな」
「なんじゃ? お主デートをしたことがないのか。まあ妾もじゃが」
「なら得意げに語るんじゃねぇよ」
上機嫌なままアヤトの隣りに並び、案内したのは商業区の市場で。
「どうじゃ? この串焼きはなかなかに美味じゃろう」
屋台の肉串を手にして得意げにサクラが豪快にかぶりつく。肉汁で口元がテカテカとしている様子は皇女以前に淑女として何か違う。
それでもアヤトは指摘せず、串肉を咀嚼し苦笑する。
「確かにな」
「そうじゃろうそうじゃろう。妾の目利きもなかなかのものじゃろうて」
「目利きもだが、俺が言っているのは下手な茶会よりもお前を知れていることだ」
目を向けるサクラを余所に、指に付いた肉汁を舌で舐めとりアヤトは続ける。
「これ程の味を出すには腕もさることながら、素材の善し悪しが物をいう。特にシンプルな味付けだと尚更な」
端的な表現だが何を指しているかは察するに容易い。
暑い日が続く火精霊の周期に屋外での食材保存は難しく、特に肉や魚などは凍り漬けにでもしない限りすぐに腐ってしまう。だが食材を瞬時に凍り漬けに出来るのは精霊術くらいなもので、平民区の市場で精霊術を扱える者など滅多にいない。
故に持たぬ者でも扱える精霊器が活躍する。室内温度を均一に保つような精霊器となれば平民に手は出せないが、食材保存程度なら問題ない値段で。また町から町への輸送時などにも活躍している。
そして他国頼りだった精霊器を自国で生産することで帝国の平民にも恩恵が受けられるようになった。他にも精霊器に必要な部品や素材なども自国生産することで雇用も増やせたりと、商業区の活気はそのままサクラの功績と言える。
サクラも日々研究に勤しむに必要な活力を民の笑顔で得ているなら良い相乗効果だ。
こうした実感は室内でお茶会をしているよりも確かに感じられるもので。
「お前がもたらした恩恵の結果、帝国の平民にも精霊器が広まった。お陰で安値で美味い串焼きが食える」
「実に魅力的な女じゃろう?」
「図に乗らなければな」
「それは残念じゃ」
否定はしないがこうも素直に褒められては照れくさいのか、サクラは澄まし顔で戯けつつ串焼きを完食。
「しかし王国の屋台に比べて少し辛みが強いな」
「お口にあわなんだか?」
「美味いと言ったんだがな。むしろ辛みのある方を好む」
「やはり妾らは気が合うではないか」
「串焼き一つでよくもまあ自惚れるもんだ」
アヤトも完食しサクラの串も一緒に近くのくず入れへ。
「ただ美味いが喉も渇くな。気の合う皇女さまなら俺にあう飲み物を出す店を知ってるだろう」
「むろんじゃ。お勧めを紹介してやるわ」
そのままサクラの案内で二人は商業区を巡った。
どのような経緯で調理師をしているかは不明だが、エニシからお茶や茶菓子について興味深く聞いていただけあり屋台巡り中はアヤトも口数が多く、料理関連ばかりでも会話が続き。
また知識欲旺盛が故に古書店でも興味を示し、改めて博識な一面を披露したり。
ただ興味を示すだけで何も購入しない理由が、荷物が増えるのが面倒と物臭な一面も見せたりもする。
それでもこの三日間で一番アヤトとの交流が出来ているとサクラは終始機嫌が良く、持てなす側なのも忘れて楽しんでいたが、変に取り繕わない自然な振る舞いこそエニシが賞賛していた魅力でもある。
それが功を奏して相変わらずなローテンションだろうと気むずかしいアヤトと普通に会話を楽しめる仲になれたのなら充分成功と満足しつつ、もうすぐ終了なのを残念に感じていたが――
「そこの兄ちゃん。良い女連れてんじゃねぇか」
「羨ましいねぇ。ちょいと俺らにも分けてくれよ」
商業区の中央広場で一休みしていると体格のいい男が二人、ニタニタと下品な笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
人が賑わう商業区ならこうした輩もいるわけで、特にあどけない顔つきでもサクラは妖艶な魅力があるので仕方がなく。また目付きは悪くもアヤトは華奢な体格なので舐められているのだろう。
そもそもサクラしかいないのに分けるとはどういうことかと、全く危機感もなくアヤトが呆れてため息一つ。
「聞いたか? 妾は良い女らしいぞ」
「なに目をキラッキラさせてんだ……?」
……だが、もっと危機感がなく得意げに服を掴んでくるサクラの方に呆れてしまう。
「しかし珍しいのう。いつもならこのような輩に目を付けられんのじゃが」
「お前はいつも一人でうろついてねぇだろ」
「爺やと一緒じゃが、爺やも変装をしている故……なるほど、精霊力か」
「そういうことだ。だがまあ、また国を知れたな。有無でケンカ売る相手を決めるとは、この国はなんとも実力主義だ」
「……悪い方向に知られてもうたわ。やれやれじゃ……」
更にはせっかくのデートを台無しにされてサクラは狙われているにも関わらず脱力を。
まあ相手が精霊士や精霊術士だろうとアヤトが居る限り危険はまずないからこその落ち着きだが。
「とにかくどうするかのう。やはり逃げるか?」
危険はなくともここで諍いを起こせば自警団が来る。
立場的にそれは避けたいとサクラは男二人を無視で提案を。
「おい、聞いてんのかお前ら?」
「なにコソコソ話てんだ? ああんっ?」
「なら妾はお姫様だっこを所望するぞ」
「だから目をキラッキラさせてバカ抜かすな」
「なに余裕こいてんだ? おい!」
「俺らの話を聞けよ!」
「そもそも逃げる必要もないだろうが」
「確かにお主なら必要なかろうが……のしてしまえば目立つぞ?」
「なんだ知らんのか。俺は弱い者イジメが嫌いなんだよ」
「テメェら……っ」
「いい加減に……っ」
恫喝しても相手にしない態度に痺れを切らし、男二人は実力行使に出ようと手を伸ばすが――
「……たく」
「こひゅ……」
「……な……ぁ……」
触れるより先に面倒げに立ち上がるアヤトと目が合った瞬間、二人の顔色が青ざめ脱力したように尻餅をついてしまう。
「行くぞ」
「う……うむ……」
そのままへたり込む二人を無視し、アヤトに促されるままサクラも立ち上がった。
「お主……何をしたんじゃ?」
「うるせぇから黙らせたんだよ」
男二人の豹変は他にないと問いかければ何とも端的な返答。
それでも十分理解できたのかサクラは小さく頷く。
「……殺気、というものか。しかし他の者らは気にした様子もなかったが……」
「あのバカ二人にだけ向けたからな」
だが続く返答に目を丸くする。
人が賑わう商業区だからこそあの男たち以外にも人が居たし、なにより自分は隣に座っていたのだ。にも関わらず男たちの背後にいた者も、自分と同じくなにも感じずただ突然の豹変にキョトンとしていた。
殺気を向けて黙らせるのは分かるが、ピンポイントに向けられるものなのか?
「……そのようなことが可能なのか?」
「出来るから大人しくなったんだろう」
相変わらずしれっととんでもない芸当を見せるとサクラは苦笑を漏らしポケットから取り出した懐中時計で時間を確認し、頃合いとため息を吐く。
「さて、名残惜しいがそろそろ戻るか」
「少し寄り道をするぞ」
が、ここでもアヤトは相変わらず自由気ままな発言を。
まあ少しくらいなら問題ないし、名残惜しいが故にサクラもどこへ向かうかと興味津々に後を追い。
「ここで良いか」
適当に選んだのか一件の露店でアヤトは立ち止まる。
その露店は主に染色の工芸品を扱っているようで、色とりどりの布が綺麗に並べられていて。
「お主はこういった物にも興味があるのか?」
「俺のじゃねぇ。白いのに土産だ」
興味本位に尋ねれば思わぬ理由にサクラの目が細くなる。
「…………お主、デート中に他の女に土産を買うのはどうなんじゃ?」
「あいつは構ってちゃんでな、たまに構ってやらんと面倒なんだよ」
「……そうかえ」
やはりアヤトにとってロロベリアは特別なのが嫌味口調でも充分伝わり、何となく面白くないとサクラは背を向けふて腐れてしまう。
もちろんサクラとしてもアヤトをそういう目で見ていない。あくまで自分の目標に必要と判断したからこそ交友を深めて引き抜くのが狙い……なのにこのもやもやは何だろうか。
などと自分でもよく分からない感情に苛々していると買い物を終えたアヤトが隣りに立ち。
「ほらよ」
「……なんじゃ?」
折りたたまれた手のひらサイズの淡い朱色の布を差し出されて苛立ちのまま横目で睨むも――
「デート代を持ってもらった礼だ」
予想外な言葉に顔を向けるとアヤトは嘲笑を浮かべていて。
「口周りを肉汁でベタベタさせてる皇女さまにはピッタリだ」
「妾が誘うた上に接待する側なんじゃが……」
皮肉はさておいて今回の帝都観光はサクラの提案であり、アヤトを持てなす趣旨からして費用を持つのは当然のこと。
なのにお礼をされるとは思いもよらず。
「一方的に持てなされるのも嫌いなんだよ」
だがそんな驚きもアヤトは一蹴、早く受け取れと急かしてくる。
「所詮は安物だからな。気に入らなければ捨てても構わんぞ」
「……人からもろうたものを捨てるように見えるのか?」
「どうだろうな」
「ほんにお主はいけずじゃのう……」
どこかぎこちなく受け取った布を広げればハンカチのようで、優しい色使いにサクラははにかむ。
例えロロベリアのお土産ついでだろうと自分の立場を立てた上で、安物だろうと最後に感謝の気持ちを返す心配りは何とも憎らしく。
「その上……天然タラシじゃ」
恨みがましい言葉が出るもサクラの表情は華やいでいた。
◇
「お嬢さま、アヤトさまとのデートは如何でしたかな?」
研究施設でアヤトとロロベリアを見送った後、応接室に戻るなりエニシは早速質問を。
「楽しくはあったのう」
ソファに腰掛け元の灰色の髪を一つに束ねながらサクラは微笑を浮かべる。
ちなみにアヤトは服装こそ戻しているも髪は灰色に染めたまま、なので共に施設を出たロロベリアが奇異な視線を向けていたが、髪色だけが理由ではないだろう。
まあ土産を渡せば機嫌も直るだろうとサクラは内心笑いつつ改めて一日を振り返る。
食べ歩きをしながら帝都を案内する平凡な時間。
しかし皇女のサクラにとっては逆に特別な時間。
ただこれまでエニシと何度か過ごしているのに、特別と感じたのはアヤトの対応が大きい。
自分を皇女と知りながら特別扱するどころか皮肉り、横柄な口をきく。
これまで特別扱いを受けていたサクラだからこそ、アヤトの対応は新鮮で。
また横柄なのに尊重もしてくれる。
身長差がありながらもサクラはいつもの歩調で歩けた。疲れを感じ始める度にアヤトが何かしらの理由で皮肉ったり、一方的に店に立ち寄ったりたしていたのは偶然ではないだろう。お陰で体力差があれどサクラは疲れず最後まで楽しめた。
何とも不器用なのか器用なのかと呆れてしまうも、接すれば接するだけ見つけられる良さがあった。
本来は自分を知り、帝国を知ってもらう為の時間だったがそれでも改めてアヤトの為人を知れたのは収穫で。
「色々と知ることもできたし、言うことなしじゃ」
「それはようございましたな」
目的が逆になっているのを本人は気づいていないようだが、主が楽しげならばとエニシも指摘することなく満足げに微笑むのみで。
「ロロベリアの方はどうなんじゃ?」
「いやはや……何と言いますか」
しかし不意に確認された途端、困った表情に変わった。
秘伝の伝授を初めてまだ二日、当然ながらロロベリアは習得に至っていない。
だがまだ二日なのにもう無解放時で自身の精霊力を感じ取れるようになった。精霊力の部分的集約を事前に習得していても異常なスピード。
彼女は精霊力を本当に自身の一部のように扱える天性の感覚を持つ、だがその感覚がむしろ仇となって自身以外に集約する感覚が掴めないのかもしれない。
それでもこと精霊力の扱いに関してロロベリア以上の才覚を持つ者をエニシは見たことがなく。
「あの御方はアヤトさまとは別の意味で規格外。まさに精霊術士の申し子、でしょうか……。恐らく、秘伝を習得する日はそう遠くはないかと」
「……ほんに、アヤトといいロロベリアといい……どれだけ驚かせるのか」
エニシをここまで唸らせるロロベリアにサクラはため息一つ。
故にロロベリアにも個人的に興味を抱き、今日のお詫びも込めて明日は彼女を含めた方向でアヤトとの距離を縮める予定を組むかと思考を巡らせていたが――
「……なんじゃ」
不意にノックの音が聞こえて思考中断、すぐさまエニシが対応するも。
「お嬢さま、陛下がすぐに帝城に戻るようにとのことです」
「……父上が?」
思わぬ呼び出しが楽しい一日の最後を最悪な報告で締めくくることになった。
何気にこの二人は気が合ってますね。
ただ執筆していてやはりアヤトにとってロロベリアは特別なんだとも思いましたが。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!