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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
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執事さんの精霊力講座

アクセスありがとうございます!



 サクラとしては応接室で一息吐き、ロロベリアが秘伝についてエニシに教わっている間、まず昨日できなかった会話を二人きりで楽しみアヤトとの距離を少しずつ縮めるつもりでいた。


「確かに茶を飲もうとは言うたが……わざわざここで飲む必要もなかろうて」


 どうも口説く相手は一筋縄では行かないと肩を落とす。

 何故なら二人きりどころかそもそも場所が応接室ではなく、昨日アヤトとエニシが模擬戦を行った試験施設。

 応接室に招こうとしたのだが、アヤトから訓練を観覧したいと希望されてしまった。

 更に昨日同様ここで器の大きさを見せるとチャンスはある、との挑発まで。

 アヤトに好印象を与えたいサクラとしては受けるしかなく、エニシに頼んで施設内にテーブルと椅子を用意することに。


「どこで飲んでも爺さんの煎れる茶が美味いのは変わらんだろう」

「アヤトさま、褒めても追加のお茶菓子しか出ませんぞ?」

「テメェら主従はそのネタが好きだな」


 そのアヤトは向かいに腰掛けエニシが煎れたお茶を口にしほくそ笑む。施設ここの主である自分以上に堂の入った姿だ。

 皇女相手にこの態度や要求は一見足元につけ込んでいるように思えるが、皇女相手だからこそもっと悪質な要求をしてくるもの。

 むしろアヤトの要求は予想外でも子供染みた可愛さがあるのでサクラは不快よりも面白く感じていて。


「ま、時間の浪費は嫌いでな。俺も爺さんの秘伝には興味があるんだよ」

「持たぬ者のお主がか?」


 故に交渉もあるが純粋にアヤトという人物に興味を抱き、何気ない言葉に質問すればわざとらしく驚かれてしまう。


「これはこれは、天才皇女さまともあろう御方が物事の停滞や衰退を生む要因の一つを知らんとは驚きだ」

「……偏見か」

「知ってるじゃねぇか」


 煽るような物言いと状況から即座に答え口にすれば、アヤトはにやりと口角を上げてティーカップを置いた。


「精霊力の有無関係なく、どのような技術でも学んで損はない。要は学んだ知識を活かすも殺すもテメェ次第ということだ」


 持たぬ者は精霊力を感じられず、扱うことも出来ない。

 自分の生活には関係ないものと割り切る傾向があり、技術者を志さない限り精霊力を含めた精霊学に興味を持たない。

 だがアヤトはそのような偏見を持たず、チャンスがあれば貪欲に得ようとする。持たぬ者が故に精霊士や精霊術士と渡り合う為か、それとも知識欲が強いだけか。

 どちらにせよ、サクラの知る武人にありがちな概念的な者よりも、柔軟に物事を把握する姿勢は好感が持てて。


「なるほどのう……お主の強さの秘密を一つ理解した気がするわ」

「そりゃなにより」


 その姿勢を特別なものではないと言わんばかりの返答に、だからこそ常識を覆したのかもしれないと一つアヤトを知ることが出来た。


「…………」


 のだが、サクラの予想を知ってか知らずか、エニシがお茶会の準備をしている間、身体を温めていたロロベリアは微妙な気持ちに。

 確かにアヤトの強さ、その根本は頭脳面にあるとラタニから聞いている。口には出来ないが神気という未知の力を精霊力から応用して擬神化を可能としたのが良い例だ。

 ただこれから訓練をするのに側でお茶会をされては気が散ってしまう。

 特に未だユースに対してすらロクに会話もしないアヤトが昨日であったばかりのサクラとは楽しくお茶をしている(ように見える)のだから尚更で。


「ではロロベリアさま、今より私の秘伝を伝授させていただきます」

「お願いします」


 それでもこの時間はアヤトが交渉してくれた場、自身の目標に一歩でも前進できる可能性があるのならと準備を終えて向き合うエニシに一礼を。


「ですが……その前に、そちらの剣を拝見させていただけませんか?」

「え? あ……どうぞ」


 したのだが、エニシの視線が瑠璃姫に向けられ、ロロベリアは素で返し鞘から抜いて手渡した。


「ふむ……剣と言うよりもレイピアに近い形状。それにこれは蒼銀石……にしては軽い。もしやこちらも新月の作成者が?」

「恐らく……アヤトが言うには蒼銀石の三倍の強度があるそうですけど」

「これはまた驚きですな。本当に、どのような御方かお会いしとうございます」

 相変わらずの鑑定眼を披露し、補足すればエニシは興味津々で。



「時間は有限なんだがな」

「これはこれは、アヤトさまともあろう御方が物事の停滞や衰退を回避する要因の一つを知らんとは驚きじゃ」

「好奇心だろう……パクるんじゃねぇ」



 ……あの二人、妙に馬が合うなとの感情も押し殺しロロベリアはエニシから瑠璃姫を受け取った。


「ありがとうございました。では改めて、秘伝についてですがロロベリアさまはお試しになりましたか?」

「はい……でも精霊力を外部に流す感覚すら掴めませんでした」


 改めて秘伝の伝授が始まりエニシの質問に正直に答え、ならばと好奇心から敢えて追加情報を口にする。


「ただ……アーメリさまは」

「ラタニさま、ですか?」

「……その、短剣で試した際、流すところまでは出来たのですが、すぐに霧散するらしくて。他にも集約ではなく凝固のような感じや、流してすぐに放とうとしても霧散すると……なので制御力よりもコツではないかと言ってました」


 ラタニの分析は正しいのか、そもそもしれっと出来るものなのか。編み出したエニシの感想を求めたのだが。


「いやはや……さすがは最強と名高いラタニ=アーメリさま。私が年月を掛けて得た秘伝をそこまで解析されるとは。本来は聞いただけで集約するのも不可能なのですが……立つ瀬がありませんな」


 やはりラタニの技術と知能が規格外のようで、賞賛しつつもエニシの表情が強ばっていた。


「まさにラタニさまが仰るように、この秘伝を習得するにはコツ、つまり独特の制御力を掴む必要があります。なのでまずは講釈から……誰かにお教えするのは初めてなのでご理解できるよう努めますが、疑問があれば何なりと」

「わかりました」


 それはさておき改めて秘伝についての講釈が始まった。


「まず精霊術士はどうしても精霊術に頼り、近接戦闘を避ける傾向がございます。故に武器を武器として扱いがちになります。対し騎士などは武器に命を預ける。つまり武器を武器ではなく自身の一部として認識する、というのは分かりますかな?」


 感覚的なものだが間違ってはいないとロロベリアは頷く。

 精霊術士は精霊術が強力が故に武器などはあくまで保険との認識が強い。

 だが騎士や精霊騎士の攻撃手段は武器がメイン、結果精霊術士よりも武具に拘る。

 なので武器を外部ではなく内部と認識するとの理屈は通っているが、しかし近接戦闘に秀でている精霊術士も少なからずいる。

 現にリースの近接戦闘は下手な精霊騎士を余裕で凌駕しているし、武器を自身の半身のように大切にしている。特に炎覇を手に入れてからは一緒に寝るほどだ。

 また精霊力の保有量は少ないが精霊士も武器を大事にしている。

 ならリースや精霊騎士の方がこの秘伝を習得しやすいのだろうか。

 

「こう聞けば精霊士ならば容易く扱えるのでは? と思われるかも知れませんが、精霊士は逆に自身の精霊力を世界に干渉する精霊術の感覚や制御を知りません」


 質問する前にエニシの補足で言葉を飲み込んだ。

 精霊士は精霊力を身体強化をする手段としてしか扱えず、リースのように近接戦闘に秀でている精霊術士は精霊術を使うに必要な制御力を不得手にしているからこそで。


 これまでの情報を纏めると、習得しやすいのはむしろ精霊術士だ。


「ロロベリアさまは察しが宜しいようで。更に補足すれば保有量に恵まれず、近接戦闘を余儀なくされても尚、強さを求めてしまう諦めの悪い精霊術士、となります」



「良かったな白いの。悪足掻きが得意なお前にピッタリな条件じゃねぇか」



 ……否定はしないがもう少し褒めた言い方をしてほしい。

 ただそれよりもロロベリアには気になることが。


「……なら、アーメリさまは」

「……本当に、立つ瀬がありませんな」


 心情を察してエニシが苦笑いする気持ちがよく分かる。

 保険として短剣を所持しているはずなのに、しれっと流し込んだラタニの制御力がどれだけ規格外かを口頭説明で更に理解させられた。



「講釈を聞けば聞くほどラタニ=アーメリがとんでもない奇才と理解せざる得んな」

「あいつは正真正銘のバケモノだからな」



 ……なのでサクラが感心するのも当然だが、ラタニもアヤトに言われたくはないだろう。


「ここからはラタニさまの精霊力が霧散してしまうかについて、つまり独特の制御力についてのコツをご説明します」


 とにかくラタニは別次元の存在だと除外して、エニシの講釈に集中することに。


「精霊術士が詩や言霊に精霊力を込め、世界に自身の精霊力を干渉させて精霊術を発動させるのはむろんご存じでしょう。なので自身の精霊力を精霊術と同じ認識で武器に集約すれば、世界に満ちる精霊力に飲まれてすぐに霧散しないのです」

「それが独特な制御力……ですか?」

「そんなに難しいものではないのでは? と思われるやも知れませんが、想像力を省くが故に厄介なのですよ」

「なるほど……私たちは威力、射程距離、速度をイメージした詩や言霊に必要な精霊力を込めるのに馴れているから、制御力のみで武器に集約させた精霊力は自身のものと意識できていない。つまり精霊術と同じように自身の精霊力だと自己主張すればすぐに霧散しない、この意識がないまま集約させたからアーメリさまは失敗した」

「その通りでございます。この情報に先ほどの講釈を踏まえると、秘伝とは武器だけでなく想像力を省いた上で精霊力も自身の一部として扱う必要があるのです」


 全ての講釈が終わりロロベリアは理解した。

 理論は精霊術と同じ、しかし想像力を省いて世界に自身の精霊力を干渉させる。

 秘伝は精霊術士が習得しやすい、だが精霊術士は精霊術を発動する方法に馴れすぎているから難しい。

 これは確かに独特な制御力だ。

 まずは意識改革が重要で、ならば訓練法はどのようなものだろうか?

 などとアヤトに頭を使えと叩き込まれているロロベリアは自然と思考を巡らせる中、エニシが微笑みを向ける。


「ここで質問を一つ。ロロベリアさまは常日頃からご自身の精霊力を意識していますか?」

「常日頃というのは解放していない時も、ですか?」

「意識すれば相手が精霊力持ちか否かを認識することが可能なのように、精霊士や精霊術士は無解放時でも精霊力を秘めております。ならば自身の精霊力も感じ取れると同意でございましょう?」


 秘伝に必要な制御力が独特ならエニシの観点もまた独特で、だからこそ彼は精霊力の扱いに長けているのだろう。

 無解放時でも意識できるから精霊士と勘違いするレベルまで精霊力を隠蔽できる。

 解放した瞬間やアヤトとの模擬戦でも微弱な精霊力しか感じ取れなかったのは、秘伝を編み出すまでに必要な訓練を続けたからで。


「ですが精霊術士は精霊術を扱う際、自身の精霊力を世界に干渉させる時や、解放時で保有残量を確認する時にのみしか意識を向けません。必要ないので当然かもしれませんが、だからこそ自身の精霊力との認識が甘くなるのです」


 精霊術のような感覚で精霊力を集約し放つことが出来るようになった。

 ただ言葉にすると簡単だが、馴れているが故に精霊力を制御するのは相当に難しく。


「むろん無解放時の微弱な精霊力をいきなり意識して制御する、というのはとても困難。なのでまずは解放した状態で精霊力を意識して扱ってみましょう。ロロベリアさま、精霊力を解放してください」


 故に気持ちを引き締めロロベリアは精霊力を解放する。

 知識としては理解した、後は必要な技術を得るのみ。

 どのような訓練か分からないが、必ず習得してみせると――


「そのまま精霊力を部分的に集約する訓練から始めましょう」

「部分的に集約……?」


 ……気を引き締めたのだが、自分にとっては身近な制御力が聞こえた。


「手足といった身体の一部に精霊力を集中させるのですよ。可能とすれば近接戦闘でかなり重宝します。足に集約させれば脚力が、手に集約させれば腕力が格段に上がりますからな。現に私もこの方法で身体能力を引き上げアヤトさまの速度に対応していました」


 対しエニシは端的すぎて理解していないと捉えたのか懇切丁寧な説明を。

 だがそれもまたロロベリアにとっては身に覚えのある対処法で――


「むろん高度な制御力を必要とします。一朝一夕では――」

「……あの、こんな感じ……でしょうか」


 申し訳なく思いつつ、アヤトとの訓練で得た精霊力の運用を実践。

 とりあえず両手に集約をすれば正解のようで、集約した精霊力を感じ取ったエニシが呆然。


「……王国ではこのような制御法を学院の訓練に取り入れているのでしょうか」

「独学というか……アヤトとの訓練で必要に迫られて。彼の速度に対応や反応できないから部分的に集約すればと思いまして……」

「……つまりロロベリアさまはアヤトさまを相手にしても扱えるレベルで集約できると?」

「エニシさんを相手にしているほど本気を出していませんが……一応」

「どれほどの期間で可能になりましたか……?」

「思いついてから……十日ほどでしょうか」


 ちなみにロロベリアが独学で編み出した精霊力の運用法を知れど、未だ王国代表メンバーは可能としていない。

 またラタニは皮膚に集約する更に高レベルな制御を可能としているが故に、カナリアやモーエンもロロベリアが使用しても感心すれど驚かなかっただけで、未だ習得していない。

 つまりエニシの持論は間違っていなく、本当に高度な制御力を必要とするのでたったの十日間でロロベリアが可能としたのなら。


「……ロロベリアさまなら先ほどの講釈を意識すれば習得するのではないでしょうか」


 思わぬ才覚を目の当たりにしたことでエニシが本気で思うのは無理もなく。

 さすがのロロベリアも簡単には習得できなかったようで、試してみるも瑠璃姫に精霊力を流すことさえ不可能だった。


「なぜか安心してしまったこと、お許しください」

「いえ……こちらこそ」


 深々と頭を下げるエニシに、なにがこちらこそかは分からないがとにかく。


「ではロロベリアさまがどれほど円滑に集約できるかを確認したいので、お手合わせしましょうか」

「お願いします」


 習得する為の本格的な訓練が始まり。


 いつの間にかアヤトとサクラの姿は消えていた。



 

ラタニやアヤトが規格外と良く呆れるロロベリアも大概でしたのオチです。


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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