憧れと不快
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「おはよう、ロロ」
「……おはよう」
翌朝、ロロベリアは珍しくリースよりも遅れて起床。
理由はもちろん昨夜の一件。ティエッタに充てられ、更に初めての恋バナと深夜のノリもあり自分と盛り上がってしまった。
お陰で三人が戻る頃には日付が変わる前で、秘密の共有やそれぞれの切っ掛けや愚痴(ティエッタは惚気ばかりだったが)を吐露しまくったことで身分関係なくかなり気心の知れる仲になったのはとても良いこと。
だが思い返せば実に恥ずかしい。自分の話は当然、相手のこういった話を聞いたことがないだけに何故か自分のことのような気恥ずかしさがある。そもそもエレノアのああいった話を聞いても良いのだろうかと今さらながら悩んでしまう。
しかし切り替えないといけない。
自分は王国代表として帝国に来ている。今日も訓練があるし、午後からはエニシの秘伝を教わる予定。理由は謎だがアヤトがせっかく与えてくれた機会を無駄には出来ないとロロベリアはシャワーを浴びて気持ちを切り替えて食堂へ。
「おはようございますわ」
「「……おはよう」」
ティエッタとラン、エレノアは既に来ていて挨拶を。ティエッタは変わらずだがエレノアとランも同じ気持ちなのか少し気恥ずかしげで。気のせいでもなく特定の誰かさんと目を合わせようともしなかった。
「姉貴、姫ちゃん、おはー」
「おはよう」
「おはようございます。アヤトは?」
「いつも通りあやとりに夢中」
その点ロロベリアは特定の誰かさんが居ないので気持ちは楽だったりする。
ユースが言うには昨日も夕食後に戻れば既にベッドでお休み中、翌朝はソファであやとりと相変わらずで。
「ほんとどこの爺さんだよって突っこみたいけど、突っこんでも相手にされないし……息詰まって仕方ないわ」
「ご愁傷様……でもいつ食べてるんだろ? 使用人にお願いとか……」
「してるようには見えんね。もしかしたら勝手に厨房忍び込んでるとか? あいつなら誰にも気づかれず出来そうだし」
「さすがにそれは……」
「知らないしどうでもいい」
などと談笑をする余裕もあり、朝食後のミーティングも普通に受け。
「どうしたエレノア。動きがぎこちないぞ」
「……申し訳ありません」
「お前なにぼけっとしてんだよ!」
「うっさいわね!」
訓練時も引きずっているエレノアやランとは違い、誰かさんが不在なので集中。
「フロイス、今のは良き判断よ」
「お褒め頂き光栄です」
ティエッタは相変わらずと内心尊敬をしていたりする。
それはさておき昨日と同じくロロベリアは早めに訓練を上がりシャワーを浴びて外出準備を。アヤトのお目付役もあるが、この後エニシに秘伝を教わるのであまり精霊力を消費させるわけにもいかない。
秘伝は少ない精霊力を運用する技術。しかしどのような訓練法か分からない内は出来るだけ万全にしておくべきとモーエンに忠告されていた。早めに抜けるのも調整段階が故に許され、誰も気にしないが保有量の少なさが恨めしく。
服装も訓練着ではなく私服を。皇女殿下の研究施設に王国の制服や訓練着を着た者が出入りするのを見られるのは好ましくないとカナリアから忠告されていた。まあ珍しい髪色(アヤトも含む)は目立つので身元バレはするかもしれないが、せめてもの保険として。
エニシからも動きやすい服装で大丈夫と事前に聞いているので観光時に着用するつもりだった私服に着替えて瑠璃姫を手にエントランスへ。
「お待たせ」
「行くぞ」
「くれぐれも無茶はするなよ、坊主」
エレノアやランとは違い心構えをする時間は充分あり、今さらぎこちない態度になることなく既に待機していたアヤトと合流、モーエンに見送られて出発。
「あなたいつも食堂に顔を出さないけど、いつ食事してるの?」
「いつだって良いだろ」
「良くないでしょ。ちゃんと食べないと身体に悪いわよ」
なによりアヤトと二人きりで帝都を歩く時間、というのをロロベリアはとても楽しみにしていた。
昨日は規格外な交渉に終始戸惑っていただけに、思わぬ時間を得たことで上機嫌と羞恥心を上回っていた。
「お前はどこの世話焼き女房だ」
「女房……っ!」
……のだが不意打ちに羞恥心が再熱する。
もちろんアヤトはからかうつもりで他意のない無自覚発言、過剰反応してしまうのが悲しいところで。
「なんだ?」
「なんでも……」
「ま、お前らが居ない間に食っているから安心しろ」
「……どうして一緒に食べないのよ」
「俺は集団行動に向いていない自己中だからな。一人の方が気楽なんだよ」
「何気に根に持ってるのね……」
それでもロロベリアはアヤトとの雑談を楽しんでいたが、すれ違う人から好奇な視線を向けられていた。
やはり自分たちの髪色は目立つのか、それともアヤトの服装か。
不審人物の情報は昨日から特に進展はないらしい。ただアヤトが指摘したように昼間から同じ格好でうろつく者はいない、なら純粋に炎天下なのにコートを羽織っていることに対する怪訝だろう。
とにかく注目されるも話しかけられることも、問題が起こることもなく三〇分後、無事研究施設に到着。
「ロロベリア=リーズベルトとアヤト=カルヴァシアです。サクラさまにお取次ぎ願えないでしょうか」
「伺っております。少々お待ちください」
ロロベリアが声を掛けると門衛が早足で施設内へ。
すぐさまエニシが現れ一礼を。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「すまんな」
「いえいえ。お嬢さまも首を長くしておりました……が、少々お仕事が長引いているようなので、先に応接室で待機して頂けないでしょうか」
「構わんが白いのにご教授するなら昨日の場所でもいいだろう」
「その前に一息でございますよ。暑い中、わざわざご足労いただいておもてなしもせず、とはいきませんから。ロロベリアさまも宜しいでしょうか」
「構いません」
などとやり取りしつつ昨日と同じく六階へ向かっていたが――
「おお。アヤトにロロベリアではないか」
四階まで上ったところで階段向かいのドアが開きサクラと出くわした。彼女も昨日と同じく黒のサマードレスの上に白衣という出で立ちで。
皇女なのに身なりに無頓着なのか、それとも純粋に白衣が好きなのかと意味もなくロロベリアが悩んでいるとサクラに続いて出てきた女性と目が合った。
年は二十代後半くらいか、ポニーテールに纏めたブラウンの髪、白い肌に女性にしては長身でアヤトと同じほどある。また少々疲労が滲んでいるも整った顔立ちは年相応の色気を感じさせる。
ただ目が合うなり青い瞳を細められた。
「……サクラ殿下。こちらの方々は?」
サクラに問いかける声も訝しみが帯びていて、どうやら見知らぬ者が施設内に居るのを疑問に思っていると理解した。
「そう警戒せんでよい。二人は妾の友人じゃ」
「友人……ですか?」
「お主にも会わせようと思っておったのでちょうどよい。王国代表として滞在しておるアヤトとロロベリアじゃ」
故に正体を知るなり瞳が大きく見開かれる。
友好国とはいえ他国の、しかも親善試合で競う相手が皇女の友人として研究施設に招かれるなど本来なら考えられない事態。
「……なぜ王国代表の方と友人に? そもそも……宜しいのですか?」
「奇妙な縁があってのう。それに父上の許しも得ておるし、なにも問題はない」
「そう……ですか」
なので端的な説明では納得できず、むしろ警戒されたようで。
しかし見越していたとサクラはニヤリと口角を上げた。
「お主も王国代表に稀有な者がおる、との噂くらいは聞いておろう」
「まさか……代表に選ばれた、持たぬ者……」
この情報を聞くなり女性は警戒を忘れたようにアヤトとロロベリアを交互に見据える。
精霊力でどちらがその稀有な者かは分かるはず、にも関わらず判別できないのなら女性は持たぬ者なのだろう。
「懐疑的になるのは分かるが、どうやら戯れ言ではないようじゃぞ? のうアヤトよ」
「なぜ俺に聞く」
「なるほど……あなたが」
サクラも理解しているので疑問の払拭と共に敢えてアヤトに問いかける。
皇女相手に横柄な物言いをするも、女性は気にするどころか尊敬を帯びた眼差しでアヤトに手を差し出した。
「ソフィア=マーナクトです。お目にかかれて光栄です、アヤトさま」
「そりゃどうも」
差し出された手を握り替えしもせず、適当な相づちをされても女性――ソフィアは不快感を向けることなく敬意を込めた一礼を。
「それと……ロロベリアさまも、ようこそいらっしゃいました」
「……こちらこそ」
だが続くロロベリアには明らかに立場上仕方なくとの感情がありありと見えた会釈のみ。
ソフィアの対応の違いにロロベリアは困惑してしまうも、こちらも見越していたと言わんばかりにサクラはため息一つ。
「さて、お主は先ほどのレポートを頼むぞ。客人を待たせるわけにもいかんからのう」
「畏まりました。私はこれで、失礼します」
指示を受けたソファはサクラ、アヤトに深々と頭を下げてそのまま横を抜けて下の階へ。
「……すまんのう、ロロベリアよ」
微妙な空気の中、ソフィアの姿が見えなくなるとサクラから謝罪の言葉が。
「あやつは精霊士……特に精霊術士を嫌っておるんじゃ。爺やを含めてこの施設におる精霊力持ちともほとんど話をせんほどにのう」
「……そうですか」
弁解を受けるよりも先にロロベリアも感じていた。
他国の者と知って警戒していたソフィアはアヤトが持たぬ者と知るなり好意的なモノに変わり、自分にはよりいっそう当たりが悪くなった。
またサクラの従者のエニシにまで挨拶無しと、ソフィアは分かりやすいほどに精霊力を持つ者を嫌っている。
実力主義の帝国ならむしろ逆、ならソフィアの態度もまた良くも悪くもとの部分に関係しているのだろう。
帝国に来て初めてサクラ以外の持たぬ者と接触したことでロロベリアは帝国の軋轢を垣間見た気がした。
「そんな奴が居て、よくもまあ共に研究が出来るな」
「……アヤト」
のだが、そんな軋轢も知ったことかとアヤトがデリカシーに欠ける質問を。
それでもサクラは不快を露わにすることなく、相変わらずな懐の深さで笑ってみせる。
「ソフィアは妾の良き相談相手でここに所属しておらんのじゃよ。まあ所属もなにもあやつは孤高故、どこにも所属しておらんが」
「要は自己中だろ」
「…………」
あなたが言うな……との指摘をロロベリアは我慢したのはさておいて。
「天才皇女さまの良き相談相手なら、さぞかし優秀なんだろうな」
「だから褒めてもなにも出はせん……が、優秀なのは確かじゃ。あやつのお陰で帝国の精霊器の開発が致命傷レベルまで停滞せずに済んだからのう」
「ほう?」
「妾が天才皇女と持てはやされておるのもあやつが居ってこそ。のう、爺やよ」
「その通りでございます。講師としてお嬢さまを教え導いてくださったお陰で開花したと私も感謝しております」
個人の研究で帝国の技術を牽引し、サクラの師匠的な存在になったのならソフィアは相当な才知とロロベリアは敬意を抱くもエニシは弱々しい表情を浮かべて。
「なのでとても残念にございます。私としましてもソフィアさまには労いのお茶を飲んで頂きたいのですが……」
精霊術士の煎れたお茶すら手を付けないとはソフィアの精霊力持ち嫌いは筋金入りのようで。
なぜそこまで嫌うのかと気になるものの、居ない者の話題を続けるのは忍びないと感じたのかサクラが首を振り。
「さて……立ち話もなんじゃ、まずは茶でも飲もうぞ」
五章はアヤトとロロベリアのやり取りが多くて楽しい作者です。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!