幕間
本日二度目の更新です! 短いですが……。
なので夕方に再び更新予定――アクセスありがとうございます!
たまたますれ違った人間が次は死体袋に詰められて焼却炉に捨てられるのが茶飯事な施設で少年は生きていた。
なぜこんな場所に居るのかは分からない。
孤児となった自分を王国騎士団が保護して気づけばここに居た。
つまり王国がきな臭い目論見を抱いている。
その程度の理解力が少年にはあった。
しかし理解したところで何かが変わることなく、少年はただひたすらに毒薬のような液体を飲んでは苦しみ、拷問のような訓練を受け続けた。
時間の経過も分からない世界で。
後にラタニ=アーメリという精霊術士に保護された少年は両親が夜盗に襲われた記録を便りに自分があの施設で過ごしていた時間を知り。
自嘲気味に笑った。
よくもまあ狂いもせず、三年も生きていた。
◇
「おはようございます」
目を開けると耳元から聞こえる声。
見えるのは仮宿舎の天井ではなく漆黒の闇のような黒髪で。
身体を覆う温もりも布きれでは到底感じられない柔らかさ。
視線を少し落とせば黒い瞳とアヤトの黒い瞳が交わった。
「お目覚めはいかがですか? 兄様」
妖艶な笑みで問いかけるのはマヤ。しかも一糸まとわぬ姿でアヤトの胸板に指を這わせていた。
「……最悪だ」
幼くも工芸品のような美しい裸体を前にしても、アヤトは鬱陶しげにマヤを払いのける。
「それはお気の毒に」
「不愉快にさせたテメェが言うな」
ぞんざいな扱いでもクスクス笑うマヤにため息を吐きアヤトはベッドから抜け出した。
「で、俺の安眠を妨害しにきたのか」
「心外ですわ兄様。わたくしは良き夢が見られるよう添い寝のサービスをしてさしあげたのに」
「なにがサービスだ」
「それで、良き夢は見られましたか?」
「さあな。どうでもいいが少しは恥じらいをもて」
机に置いていた刀とナイフを身につけながらアヤトが注意するようにマヤは裸体のままで、シーツで隠すこともなくベッドに座っていた。
「これもサービスですのに。それに、兄妹なのですから羞恥を持つ必要もないかと」
「兄妹以前に淑女としての慎みだ」
「相変わらずお堅いですね、兄様は」
嘆息しつつベッドから下りたマヤは指を鳴らす――すると淡い光が身体をすり抜けた瞬間、白いフリルいっぱいの黒いドレスを纏っていた。
不可思議な現象に、しかしアヤトは気にも留めず苦笑。
「お前はいつもそれだな」
「兄様に言われたくありません」
「違いない」
マヤが批判するようにアヤトもお約束の黒いコートを羽織った。
「仕事へ行く」
「本日もロロベリアさまと遊戯を楽しまれるのですか?」
「拗ねられても面倒だからな」
「随分とお気に入りのようで」
ドアまで見送るマヤは一拍置き、上目遣いで続けた。
「ただ、たまには可愛い妹の相手もしてくださらないと拗ねてしまいますよ」
「何度も言うが自分で可愛いとか言うんじゃねぇ」
甘える態度も一蹴しアヤトはドアを開けるが
「……テメェこそ、白いのを気に入っていやしねぇか」
「どうでしょう」
射貫くような視線を今度はマヤが小首を傾げて交わす。
「ふん。まあいいが、俺の邪魔だけはするな。せっかくの暇つぶしだ」
最後に忠告を残しアヤトは部屋を出る。
「邪魔をするなと言われると、返ってしたくなります」
閉められたドアを前にマヤはニタリと笑った。
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