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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
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幕間 乙女の時間

帝国編は長いので小休止的なお話しです。

アクセスありがとうございます!



 お茶会での出来事はあまりに予想外な展開過ぎて詳しい情報を伏せることになった。


 なので夕食の席で質問攻めにあったロロベリアは事前にカナリアやモーエンと打ち合わせした結果、王族のレイドとエレノアには報告するが他のメンバーには『多少やらかしたが皇女の機嫌を損ねることなく無事終わった。ただ皇女の従者が作った茶菓子をアヤトが気に入り、教わるために明日も会うことになった』との言い訳で乗り切ることに。


 本来ならあり得ないというか無茶苦茶な内容だがそこはアヤト、予想も付かない状況や非常識な結果だろうと彼ならばと呆れられ、問題を起こさなくて良かったと安心される始末。

 更にお目付役が定着したロロベリアが明日も同行することに疑問を抱かれず、むしろこの調子で手綱を握ってくれと応援されてしまった。

 ちなみに当の本人は居ない。というよりも同室のユースが誘っているも初日からアヤトは食事の席を共にしていなかったりする。今回も一応誘ったが読書中で無視されたらしい。


 それはさておき夕食後は男女間での部屋移動は禁止されているだけの自由時間、まあ各々客室で読書や勉強をして早めの就寝が基本。

 国の威信を背負って帝国に来ているのであって遊び気分はない。

 どんな時でも王国代表としての姿勢を示す必要がある――


「ロロベリアさん、リースさん、来たわよ~」

「失礼しますわ」


 のだが、ランとティエッタが訪問を。

 入浴も済ませているようでティエッタは髪を下ろしてフリル多めの赤いネグリジェ、ランは黒いシャツにブラウンのハーフパンツと寝衣に着替えている。

 そしてロロベリアとリースもグレーのシンプルなワンピースとお揃いの寝衣、訪問するのは聞いていたので快く招き入れる。まあ訪問理由だけにロロベリアの表情には若干の覚悟が滲んでいて、リースはいつも通りの無表情。


「では早速、と言いたいけど……エレノアさまは少し遅れるらしいから後にして。まずは一息吐きましょうか」


 対しランは嬉々とした表情で手にしていたトレーをテーブルに置く。そこには五人分のティーセットとドライフルーツの盛り合わせと、エレノアも含めた代表メンバー女性陣で夜のティータイムが目的で。

 本来は使用人に頼めば用意してくれるが平民のランは恐縮してしまい用意してもらってから自分で持ってきたのだろう。


「ランさん、私が煎れますから」

「良いの良いの。先輩でもこの中であたしは唯一の平民だしね、なんて」


 また食堂の娘だけあってお茶を煎れたりと積極的に動くランに慌ててロロベリアが申し出るもウィンクと共に舌をぺろり。確かに身分的には養子といえどロロベリアは貴族、だが元々平民なので目上に給仕まがいなことをさせるのは忍びない。


 そもそもいくら身分階級に緩い王国でも平民が貴族と、ましてや王族と気軽にティータイムを共にすることはあまりない。と言うより誘われても平民側が恐縮してしまうのが常。しかも今は親善試合に出場するため帝国に居るのだ。過去の王国代表を鑑みてもこのような時間は一度もない。


 しかしレイドが感じていたように、今年の代表は違う。

 アヤトという規格外の存在からこれまでと違う共通目標を得た連帯感、また責任者がラタニらという良く言えば常識に囚われない柔軟さ、悪く言えばゆるっゆるな感覚に感化されている。

 こうした要素から本当の意味で身分関係なく、同じ学院生として、同じ代表として交流を深めた結果、ランの提案にティエッタやエレノアも同意し、女性陣での夜のティータイムが実現した。


「とにかくあたしは動いてる方が落ち着くから気にせず……と、ティエッタさん、どうぞ」

「ありがとう」

「ロロベリアさん、リースさんも」

「「ありがとうございます」」


 なのでランの気さくな振る舞いに三人は不快どころか用意してもらった感謝を述べ、和やかに談笑をしているとノックの音が。


「遅くなってすまない」

「気になさらないでくださいエレノアさま……どうかされましたか?」


 予想通りエレノアが入室を。彼女も黄色のネグリジェにオレンジのカーディガンを羽織っているが、どこか困惑した表情に対応したランが首を傾げるもロロベリアのみ遅れた理由含めて察していた。

 夕食後にレイドにはモーエンが、エレノアにはカナリアがそれぞれ赴きサクラとのお茶会で起きた出来事を包み隠さず報告することになっていたのなら、困惑するのは当然で。


「……いや、私はこのような場にあまり馴れていないので少し緊張しているだけだ」


 また他のメンバーには変に動揺させないようにと内密なのでエレノアは苦笑を交えて言い訳しつつ、ロロベリアに視線を向ける。


(……さすがに咀嚼しきれなかったぞ)

(心中……お察しします)


 真実を知る者同士故に視線だけで通じ合うものがあった。

 そして内密だからこそこの話題は一先ず忘れてエレノアも気持ちを切り替える。


「しかし、だからこそ楽しみにしていた。なので私も同じ学院生として扱ってくれ、今は無礼講というやつだ」

「なら……エレノアさま、お茶飲むでしょう?」

「ありがとう」


 さすがに敬称は変わらないが率先してランが砕けた口調になり、エレノアもどこか満足そうで。

 以前よりも肩の力が抜けているのはやはりアヤトとの訓練で自分なりの王族としての在り方を模索し始めたからだろう。

 生真面目さは保ちつつも心のゆとりから純粋に楽しんでいた。


「ここにミューズが居ないのは残念だ。もしよければ帰国後もこうした時間を作ろう」


 故に同じ序列持ちで知己でもあるミューズが居ないのは残念で、彼女も喜んで同席してくれるからこそ願いを告げて。


「もちろんリースも一緒にな」

「……わかった」


 唯一序列外のリースも忘れずにいたのだが――


「イディルツさまか……もちろんあたしも出来るなら仲良くしたいけど、今回の趣旨を考えるとさすがにね」


 お茶を煎れ終え、ティエッタの隣りに腰を下ろすランは口調は困っているがニマニマとした表情で。


「とにかくエレノアさまも着たことだし、早速だけどロロベリアさん、実際のところどうなの?」

「どう……と言われましても」


 対面に座るロロベリアはついに来たかと言いよどむ。

 そう、今回の目的は改めてアヤトとの関係について追求されること。なので学院内でもアヤトに好意があるのでは? と噂されているミューズが居ると聞きづらかったりする。


 発端は訓練時に出たあやとりからリースが口にした実に曖昧な返答から。

 他のメンバーもアヤトの為人を知ったことで唯一特別視しているロロベリアとの関係に興味を持った。

 元より噂されていた二人はどのような出会いがあったのか。

 切っ掛けも含めてランが夜に詳しくと口にしていたが、まさか本当に聞きに来るとは思いもよらず。更にエレノアやティエッタも同席するとは思いもよらずだ。

 ただ恋愛的思考で興味を持っているのはランのみで、ティエッタは尊敬できる強者のアヤトを知るとの相変わらずな価値観から。エレノアは全てではないがある程度知っているもせっかくの機会と加わった。

 ちなみに発端となったリースは我関せずとティータイムが始まるなり黙々とドライフルーツを頬張っている。

 そんな親友に若干恨めしく思いつつ、ロロベリアは意を決して語り出す。


「私がニコレスカ家の養子なのはご存じですよね……それで、ですね……アヤトは私と同じ孤児で、同じ教会出身でもあるんです」

「そうなのですか?」

「つまり……幼なじみってこと?」

「少し違うかな? 実は――」


 予想外な情報に目を見開くティエッタやランに困った表情を向けてロロベリアは続ける。王族のエレノアはともかく、他のメンバーに非合法な実験の生き残りだと知られるわけにもいかないとこの場が決まった直後、カナリアにどこまで話しても良いかを相談していたりする。

 結果として実験については伏せて、教会で一年ほど共に暮らしていたアヤトはある商人に引き取られてお別れしたが、その商人も事件に巻き込まれて亡くなったと変換。


 またその事件について捜査していたラタニがアヤトの才能に目を付け引き取り、後は知られている通り姉弟であり、師弟として暮らすことになった。

 この内容なら実験について知られることもなく、秘匿義務で商人らの詳しい事情も知られない。更に事件に巻き込まれて記憶喪失になったと説明出来ると普段からアヤトやラタニの問題で悩むカナリアだけあって見事な言い訳だった。

 妹のマヤについてはカナリアらも真実と思い込んでいる内容そのまま、今は王都にあるラタニの住まいで留守番をしていることになっている。

 まあここはカナリアらも知らない真実がある。なんせマヤはアヤトから離れられない、つまり本当の事情を知るラタニがそうカナリアらへ伝えているのだが。


「……彼って妹さんが居たの?」


 マヤの話題が上がるなりランはキョトン。

 マヤが学食に顔を出したのは初日のみ、以降も色々な場に現れているが神故の方法で周囲に認識されていない。


「血は繋がっていませんが……一応」

「ならば再会した時は戸惑ったでしょう。ただでさえアヤトさんが記憶を失われている上に、妹と名乗る方が居るのですから」

「……はい」


 学院でアヤトとの交流が皆無で、学食を利用しない者は知らなくて当然。なのでティエッタも興味を向ける中、当時の葛藤を思い出してロロベリアは肩を落とす。

 とにかく一通りの事情を聞いたランは頬杖を突きニンマリ。

 その笑顔にロロベリアは嫌な予感を覚えた。


「でも運命よね~。離ればなれになった二人が五年後に偶然再会だなんて。それにさ、記憶喪失でも学食を手伝わせたり訓練したりって関わりを持とうとしたならアヤトも何か感じてたんじゃないの?」

「関わろうとしたわけではなく、たまたまというか……」

「むしろロロが積極的に関わった結果。あの時も――」

「リース、これも食べなさい」

「もらう」


 故に言葉を濁すもリースが再び余計な情報を与えるのでさっと自分のカットフルーツを与えて口封じに掛かるが既に遅し。


「なになに? ロロベリアさんが積極的に迫ったの?」

「迫ったわけではなくて私も風変わりしすぎてて本人かどうか確信もないので知ろうとしてただけですから」

「慌てるのが逆に怪しい……というよりも、ぶっちゃけるけどロロベリアさんはアヤトのことが好きなんでしょ?」


 やはりランは恋バナ(そっち)に持って行こうとしていたようで、痺れを切らせて直球な質問を。

 もちろん好きと言えば好きだが、例え今さらだろうと口にするのは妙に恥ずかしい。なんせ自分はクロ一筋で色恋沙汰とは無縁の生活をしていたのだ。

 だから濁していたのにリースのせいで追い詰められてしまい、気恥ずかしさからロロベリアが口にしたのは――


「そういうランさんはディーンさんのことをどう思っているんですかっ?」

「はあっ?」


 恋バナするなら巻き添えと言わんばかりに追求を。


「どうしてここでディーンが出てくるのよ!」

「だってランさんこそ幼なじみで常に一緒じゃないですか! ペアを組んでて訓練だって一緒にしてますしどうなんですかっ?」

「それは……っ」


 恋バナ大好きなランだが同じく自分のことになると耐性がなく、また図星が故に恥ずかしさから顔を赤くし視線を漂わせ――


「それならエレノアさまとカイルさまだって同じでしょう!」

「なぜ私とカイルさまの話になる!」


 追求から逃れるべく同じ関係性を持つエレノアを更に巻き込んだ。


「二人も幼なじみで常に一緒だし、選抜戦でも真っ先にペアを組んでるしラタニさまの訓練も一緒に受けてたんでしょうっ? それに身分も侯爵家のカイルさまなら充分だし!」

「先生との訓練にはお兄さまと三人で受けていた! それに常に一緒なのはお兄さまとであって私はオマケのようなモノだ! ペアを組んだのも昔から共に訓練をしていたし、私よりもお兄さまの方が柔軟性があるからこそに過ぎん!」

「ならエレノアはカイルさまを好きじゃないのねっ?」

「それは……っ」


 羞恥と勢いから口調だけでなく王族を呼び捨てるランだが、エレノアは気にもせず言いよどむのは二人と同じくこの手の話題(恋バナ)に耐性がないのと、笑い飛ばせない気持ちを抱いているからで。

 追い詰められたエレノアは、同じく羞恥から錯乱してしまい――


「ティエッタはカルヴァシアのことをどう思っているんだっ?」

「「どうしてここでアヤトとティエッタさんっ?」」


 やはり同じく巻き込む手段を取るも、まさかの組み合わせにロロベリアとランが突っこんだ。


「ティエッタは強者を好むのだろうっ? ならカルヴァシアだってありえるじゃないか!」

「強者を好むからって恋愛感情と結びつけるのはどうなんですかっ?」

「それにアヤトならロロベリアになるじゃない!」

「私を引き合いに出すのは止めてください!」

「そもそもリーズベルトとカルヴァシアがどうかが論点だったはずだ!」


 とにかく学院では序列持ちとして実力は秀でているも、こと恋愛に関せば実に弱い三人だった。

 それはさておき羞恥心から始まった王族、(一応)貴族、平民の三竦みが言い争う中、巻き込まれたティエッタと言えば優雅に紅茶を楽しみ一息。


「確かにアヤトさんは尊敬するべき強者。好意を抱いていると言われても否定できませんわね」


「「「…………え?」」」


 からの予想外な告白に三人は唖然となる。


「ですが私にはフロイスが居ますので」


「「「…………えぇっ!?」」」


 更に平然と予想外な告白に今度は驚愕を。


「ティエッタさんはフロイスさんのことが……好き、なんですか?」

「ええ、物心ついた頃からですので初恋ですの」

「でもフロイスさんは専属従者だから……問題があるんじゃ……」

「我がロマネクト家は身分よりもお相手が真の強者であることが優先、また夫婦共に支え合い、時にはぶつかり合いお互いを高め合う関係が望ましい。なにも問題はありません」


 支え合うはともかく、時にはぶつかり合う関係が望ましい辺りが実に武の一族らしい――よりも、他人の恋は蜜の味、故にエレノアは身を乗り出し。


「なら……二人はお、お、お付き合いをしているのか……?」

「「……ゴクリ」」


 ロロベリアとランも喰い気味に返答を待つも、ティエッタはどこまでも優雅にドライフルーツを咀嚼し、口元を拭いてから。


「いいえ? 既に私は振られてますの」


「「「えぇぇぇぇ――っ!」」」


 三人は再び驚愕。

 むしろ身分差からフロイスが実らない恋心を抱くのが物語として良くある話。にも関わらず身分が関係ないのに、まさかティエッタが告白してフロイスがお断りとは予想外すぎた。


「あの子、私に負けている内は恐れ多くて受け入れるわけにはいかないそうよ。なら仕方ないじゃない。私もあの子に負けるわけにはいかないもの」


 しかしお断りの理由からフロイスもティエッタにちゃんと忠誠心以外の好意を抱いていると分かり。


「だから私たちが結ばれることは一生ないでしょうね。もちろん真の強者を目指す者として、一度操を立てたのだから私はフロイス一筋だけど……でも、こうした関係もまた素敵だと思いませんこと?」


 もちろん一途な想いは同意できるし、ワザと負けて結ばれるのは違うとの気持ちも同意できる。

 だがそもそも何故真の強者からフロイス一筋なのか、一生結ばれないことをとても良い笑顔で口に出来るのか。

 相変わらずロマネクト家、というよりティエッタの価値観がよく分からない。


 分からないが――


「なので私の心はフロイスのもの。アヤトさんへの好意も敬意の念であって、恋仲になりたいとは思いませんわね」


「「「…………」」」


 自分の想いを堂々と口に出来るティエッタは、ある意味自分たちよりも真の強者だと恥ずかしくなり。


「その……出来ればここだけの話、にしてもらえない?」

「私も……いや、恥ずべき想いではないがやはり立場上……な?」

「少し複雑なので……お願いします」


 若干ヘタレではあるが負けず嫌いな部分も相まって、気づけば告白大会が始まった。


「ZZZZ……」


 ちなみに全てのフルーツを平らげた後、リースは興味なしとベッドで寝息を立てていた。




ロロベリアは開き直ると強い。

ランは一見余裕ぶってますがかなりヘタレ。

エレノアは完全にうぶこさん。

ティエッタは真実の何が恥ずかしい。

このように前三人はこと恋愛ごとになると本当に弱いですね。

リース? 見ての通りです(笑)。


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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