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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
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異質な存在

アクセスありがとうございます!



 サクラにとってエニシは物心ついた頃からいつも執事として隣りにいた。


 だが彼が執事となったのは亡き母、ツバキが皇帝に嫁いでからと聞いている。

 それ以前は東国の生き残りでありながら実力でのし上がった祖父の右腕として、名のある精霊術士だった。

 しかしエニシは武人としての自分を捨て、執事の道を選んだことで良くも悪くも実力主義の帝国では老兵と揶揄されるようになった。また家庭を持たないエニシにとってツバキは娘でありサクラは孫のようなものらしい

 故に二人は主従でありながら明け透けな関係なのだが、なぜ罵られる覚悟で母の執事となったのか。

 本人曰く『老いには勝てないので、せめて執事としてお側において頂こうと』らしいが、サクラは詳しく知らない。

 ただ生前の母が自分のことのように自慢していた。


 一線を退いてもエニシを超える武人はいないと。


 更に武を捨て執事に転換したのを父、つまり皇帝が嘆くほどの実力の持ち主だとも。

 その証拠にエニシが仕えているなら危険はないと、皇女でありながらサクラは自由奔放な生活を許されていた。

 なにより武に疎いサクラでもエニシの強さは規格外だと分かるほど。精霊術士としては異質だが鍛錬を怠らず長年の経験と革新的な発想から、今でも一対一でエニシと互角に戦える者など帝国に居ないと知っている。

 まあ執事に成り下がり、精霊術士らしくない戦いをするエニシを認めない精霊術士や精霊士に嫌気もさしているが、とにかく母が誇るエニシが警戒するアヤトの実力を楽しみにしていた。


「…………」


 楽しみにしていたが、鍛錬の一環で精霊騎士との模擬戦でもエニシがここまで本気を出したことはない。

 皇女として宮廷精霊騎士団の演習や国主催の武芸大会も観覧したが、これ程の動きをしていた者は一人としていない。

 何故なら視界に写るのは火花、耳には金属がぶつかる音、肌に感じる疾風と――


「――アヤトさまはびっくり箱のようですな! 今のは肝を冷やしましたぞ!」

「そりゃどうもっ。つーかお喋りする余裕がむかつくんだよ」


 妙に楽しげな会話のみで二人の姿が全く見えないのだ。

 かと思えば突然姿を現すも、残像のようにブレて何がどうなっているのか分からない。

 いくら観覧していた時よりも距離が近いとはいえ、これほどデタラメな戦闘をする者を見たことがない。

 つまり二人が何をしているのか視認できないが故に、自分の常識を遙かに超える実力者だと言えるわけで。


 だからこそ、この光景が信じられない。


 老いたとはいえ皇帝を嘆かせ、母に最強と言わしめた精霊術士のエニシと互角に戦っているのは持たぬ者のアヤトなのだ。

 もしエニシが手を抜いていたとしても、精霊力を持たない者がこれほどの動きを出来るわけがない。そもそもエニシの動きを視認できるはずがない。


 それがサクラの常識であり、世界の常識――なのにアヤトは覆している。


 実際に目の当たりにしたことでベルーザ以上と予想したエニシの報告や、鍛えてもらっているロロベリアの話を否が応でも認めざる得ないだろう。

 まさに自分の求めていた可能性と理解すると同時に。


 あまりの異質さにサクラは恐怖で震えていた。



 ◇



 対しロロベリアは困惑していた。


「お互い様です! そもそも力めば実力を発揮できませんぞっ?」

「違いねぇっ」

「つまりお喋りを楽しむほどリラックス――したいのですが気を抜きすぎれば斬られそうですな!」

「峰打ちで斬れるかよっ。つーか講釈たれたいならそこの白いのにしてやれっ」

「いやはやアヤトさまはなぜそこまでロロベリアさまを融通されるのでしょうか!」

「さあなっ」


 …………本当に教えて欲しいはさておいて。

 サクラと違い精霊力を持つロロベリアは二人の攻防を視認できている。

 だが遠目で精霊力を解放し、更に視力へ集中してギリギリレベル。実際に対峙していれば影すら追えないだろう。

 アヤトがこの速さを見せるはラタニとの模擬戦以来。なのにエニシは互角に斬り合っている。

 しかも近接戦はアヤトが最も得意とする距離、精霊術を主体とするラタニはもちろん王国最強の精霊術士サーヴェルさえ圧倒する。


 その距離で互角に戦えるエニシの名がなぜ広まっていないのか。


 いくら皇女のお付きとはいえなぜ執事に甘んじているのか。


 実力主義の帝国ならばもっと優遇されてもおかしくないはず。

 サクラと同じく実際に目の当たりにしたことでロロベリアには驚愕よりも困惑が上回っていた。



 ◇



 観戦する二人が驚愕、困惑との感情を募らせている中、誰よりもどちらの感情を抱いていたのは他でもないエニシだ。


「だいぶ身体が温まってきたようだなっ」

「アヤトさまもでございますね!」


 袈裟斬りを新月でいなされ、返す刀で横薙ぎの一閃を即座に刀で受け止める。

 一見会話をする余裕があると思われるが、実のところエニシには余裕など全くない。

 何故なら更に一段速度を上げたのにアヤトは対応したのだ。


 最初の打ち合いで純粋な身体能力ではこちらが上回っているのに、この差をアヤトは初動なく最高速で動ける驚異の瞬発力と体捌きで対応していた。

 もちろん持たぬ者がこの身体能力や動体視力を持つこと事態が異常だが、それ以上に異常なのは吸収力と観察眼。

 一度見せた剣技やフェイントは二度と通用しない。それどころか即座に吸収して応用までしてくる。

 立ち合う前から速度で劣ると察して朧月より短く、防御に適した新月で対処するべきと判断したのか。

 また緩急を織り交ぜた動き、呼吸の読み、攻めと引きの見定め、視線誘導などが異常なほど上手い。


 結果として経験則で対処しきれず、エニシは精霊力で更に身体能力を上げて対応せざる得なくなり。

 既に限界まで上げたのにやはり対応されてしまった。

 自分もそれなりに修羅場をくぐり抜けてきたと自負しているが、アヤトはそれ以上に各上の相手と戦い馴れている。

 この若さでどれほどの修羅場を経験して来たのか。

 どのような人生を送ればそのような状況に追い込まれるのか。


 なにより最初の邂逅で感じたあの異質な感覚が未だ警鐘を鳴らし続けている。


 故に困惑と恐怖が拭えない。

 ただひとつだけ確かなのは、このままでは敗北する。

 無粋な身体能力の向上でなんとか互角に立ち合えているが、刃を交えるごとに対処し上回ってくるバケモノ染みた相手にはじり貧で。

 敬愛する主の要望には充分応えたのなら敗北しても構わないだろう。

 しかし武人としての自分がそれを許さない。


 捨てたはずの誇りを呼び起こせる相手と刃を交わしたエニシは勝利に拘り。


「口数が減ったなっ。もうへばったか」

「老骨を虐めないでください――っ」


 新月と刀が交差するなりエニシは強引に押し返す。


「――ちっ」


 僅かながらもアヤトが重心を崩した隙にエニシは後方に飛びつつ刀を鞘に納めた。



 ◇



 持たぬ者には視認すら不可能な攻防はサクラには理解できない。

 しかしエニシが刀を鞘に収めた状態で距離を取ったことで。


 少なくともエニシが奥の手を使わなければ()()()()()()相手だと理解する。


「――――っ」


「……ほんに、恐ろしい奴じゃ」


 同時に刀の間合い外で弾かれるようにアヤトの身体が宙を舞った。



 ◇



「……今のは、いったい」


 衝撃的な光景にロロベリアは戸惑いを隠せない。

 互角の斬り合いからエニシが大きく後退しながら鞘に納めた刀を着地と同時に横薙ぎに振り抜いた瞬間、追撃していたアヤトが吹き飛んだ。

 問題はアヤトとの距離が十メルも離れていたのにエニシは何をしたのかだ。

 刀が届くわけもなく、精霊術を発動した素振りもない。

 エニシの抜刀速度は視認もできなかったが、変わりに僅かな精霊力の集約を感じるなり青白い閃光が走ったくらいで。

 エニシが精霊力で何をしたのか。

 アヤトが何を受けて吹き飛んだのか分からない。

 ただ俯せで倒れたままピクリとも動かないなら。


 あのアヤトが敗北した。




ちなみにサクラの母、ツバキは『椿』と書きます。


みなさまにお願いと感謝を。

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また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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