雑談から
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様々な思惑が秘められたお茶会の席で、ついに対面したサクラの労いからいきなりアヤトがやってくれた。
帝国の皇女相手にテメェ呼ばわり。態度もふてぶてしく公式な場でないにしても確実に不敬罪に当たる対応。
ただロロベリアは焦りよりも『国王との初対面でもテメェ呼ばわりしたと聞いたな……』と思い出し呆れていたりと、ベルーザの一件然り変な耐性が出来はじめていた。
対し不敬な態度を取られたサクラと従者のエニシは唖然、この反応こそ正常と言える。
「くくく……なるほどのぉ。爺やが言っていた通り、楽しい茶の席になりそうじゃ」
「ご理解頂けて何よりです」
だがそれもつかの間、二人は不快感どころかとても満足げに笑い合う。
「立ち話もなんじゃ。そこに座るがいい。爺や、茶と菓子の用意を」
「かしこまりました」
そして何事もなかったように座るよう促しエニシに指示を。
いくら友好国で客人とはいえ、いきなり従者を退出させて一人残るサクラの判断にむしろ戸惑いつつ、ロロベリアはアヤトと共に向かいのソファに腰を下ろす。
「さて、茶と菓子が来るまでに自己紹介をしておこうかのう。まあ今さらじゃが妾はサクラ=ラグズ=エヴリストじゃ。今日は急な誘いを受け入れてくれて感謝するぞ」
「アヤト=カルヴァシアだ」
「ロロベリア=リーズベルトです。こちらこそサクラ殿下にお招き頂き光栄でございます」
名前だけ口にするアヤトに変わりロロベリアが丁寧な受け答えをすればサクラは微妙な表情に。
「ふむ……アヤトとは違いお主は存外まともじゃな。兄上を挑発するほどの豪胆さがあるとは思えんが」
「…………」
どこかつまらなそうなサクラにロロベリアは返答に困る。
「今はプライベートな楽しい茶会、かたっ苦しい対応は抜きでよかろう。妾もお主をロロベリアと呼ぶ故に妾のことはサクラで構わんぞ」
「では……サクラさまで」
更に返答に困り、何とか妥協案を提示すればやはりサクラはつまらなそうで。
「アヤトも構わんぞ。まあこれも今さらじゃが、妾もそう呼ばせてもらうからな」
「本当に今さらだな。ま、好きにしろ」
「ほんにお主は面白いのう」
「お前もな。どうやら兄上よりはマシな器のようだ」
「褒めても何も出はせんぞ」
対しアヤトとはとても楽しげで……いくら耐性があるにしてもロロベリアは胃が痛いやり取り。
「ところでアヤトよ。それは刀じゃな」
ロロベリアの心労を余所にアヤトが座る際、ソファの肘掛けに立てかけた朧月と新月にサクラが興味を示した。
「さすがに知っているか」
「当然じゃ。爺やもつこうとるからのう」
「なるほどな」
「しかし見た感じ、少し違うようじゃが……良ければ見せてはもらえんか?」
「別に構わんが」
意外にもアヤトは素直に新月をテーブルに置き、手にしていたサクラは鞘から引き抜く。一連の動作がおぼつかないのは彼女が争いとは無縁な部分が垣間見えた。
皇女であり、持たぬ者なら戦闘訓練をしないのは当然。
「ほう……黒い刃とは面妖な……銘は新月か」
「さすが天才皇女さま、読めるのか」
「だから褒めても何も出はせん。……ふむ、これは黒金石か? にしては少し違和感があるようじゃが……」
刀身に刻まれた文字が読めるのは東国の血筋を持つ母や従者がいるので興味を持ったか教わったのか。しかし見るだけで材質を予測できる辺りはアヤトが賞賛するようにさすが天才皇女と呼ばれるだけある。
などとロロベリアが感心しているとノックの音が。
「お待たせしました……おや、お嬢さま。そちらは?」
ティーワゴンを押しながら入室してきたエニシはサクラの手ある新月を見るなり質問を。
「アヤトの刀を見せてもらっていたところよ。材質も気になるのじゃが、爺やのとは少し違う感じがしてな。お主の意見も聞かせてもらえぬか」
「アヤトさま、拝見させて頂いても?」
「好きにしろ」
「では……」
アヤトから許可をもらい、サクラから鞘に収めた新月をエニシは両手で受け取り、左手で鞘を持ち、右手を柄に添えて引き抜く。
ゆったりとした動作なのにロロベリアは思わず息を呑む。
鞘から刀を抜く、アヤトの刀なのに彼以上に馴れた感覚が妙に恐ろしく感じたからで。
「……恐らく黒金石でしょう。ですが従来の黒金石に別の鉱物が混じっているようです。しかし……本来なら別の鉱物が混じれば強度が脆くなるはず。にも関わらずこちらの新月は従来の強度を超えている様子」
「見ただけでそこまで分かるとは、さすがだな」
「お褒め頂き光栄にございます。ですがアヤトさま、こちらの新月は本来の製法で鍛えられた物とお見受けしますが、鉄よりも熱に強い黒金石をどのように?」
「そんな情報をベラベラと喋るように見えるか?」
「これは失礼を」
加えてクローネすら予測も出来なかった材質に関する秘密を一部とは言え看破する鑑定眼、気配の技量も踏まえてやはりエニシは相当の実力者だ。
「お嬢さまの疑問にお答えするのであれば、こちらの新月はやや直刀よりなので刀と剣の中間故の違和感かと。ですが本来の製法で鍛えられた業物の新月こそ刀と呼べる一品。私の扱う物は資料を基にした形ばかりの紛い物、製法は剣と大差ないものですからな」
「なるほどのう。つまりその新月を作り上げた者は失われた製法を受け継いでおると」
「是非ともお会いしたいものですが……アヤトさま、どうでしょうか」
「さあな」
「それは残念にございます。ところでそちらのもう一振りも同じ方が?」
それはさておき新月を鞘に戻してアヤトに返しつつエニシが朧月に興味を示す。
「どうだろうな」
「これはこれは……アヤトさまはいけずな御方で」
返答とも言えない返答にエニシは苦笑を漏らす。
ロロベリアは別の人物が作成しているのは知っているが、濁すなら教えるべきではないと敢えてスルーを。
「よろしければそちらも拝見させて頂いても宜しいでしょうか」
「別に構わんが」
エニシも追求せず変わりに要望すればアヤトは朧月を手にするも、新月とは違い自ら刀身を抜いて。
「……これはまた、何とも美しい」
「はい……私が幼少の頃、見せてもらった業物以上でございます」
新月の漆黒とは違う白銀の煌めきにサクラやエニシが感嘆の声を漏らす。
気持ちは分かる、自分も初めて見た時はあまりの美しさに見惚れたものだ……同時に初めて見た時は模擬戦の場、対峙していた状況なのでチリチリとした畏怖も感じたが。
「ですがそちらは新月以上に……アヤトさま、是非とも手にさせてはいただけないでしょうか」
どうやらエニシの鑑定眼ですら朧月を分析できないようで魅了されるまま懇願を。
だが仕方のないこと。実は新月の試しに付き合った際、新月で精霊術を斬ることはできないとアヤトから聞いていた。
そもそも精霊術で顕現した四元素は氷や岩だろうと秘められた精霊力で強度が遙かに増すため斬ることは不可能……精霊術を斬る、という発想そのものが規格外だが。
とにかく朧月は精霊術を斬ることができる刀で、新月にはない何らかの秘密がある。
「すまんが断らせてもらう」
ロロベリアだけでなくシャルツもかなり興味を示していたがアヤトからはお約束の返答で交わされていた。
なのでエニシの申し出にもアヤトは拒否と共に刀身を鞘に納めてしまう。
「こいつは少々思い入れのある物でな。安易に触れさせたくないんだよ」
だが秘密を知られる問題よりも他者に触れられるのを拒んでいるらしく。
「そうでしたか。いえ、それほど大切な愛刀とは知らず、失礼なお願いを致しましたことお詫び申し上げます」
「気にするな」
「…………」
その思い入れのある大切な朧月を触れるどころか扱わせてもらった自分は、アヤトにとってどんな位置づけなのかとロロベリアは気になって仕方がなかった。
アヤトは無自覚です。
みなさまにお願いと感謝を。
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