第一声
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表に出ると皇族の家紋があしらわれた馬車が既に待機していた。
「アヤトさま、ロロベリアさま。本日はわざわざお嬢さまの為にご足労、感謝いたします」
三人を出迎えるよう馬車の前でエニシが美しい一礼を。
「隊長殿が皇女殿下によろしくお伝えくださいと」
「承りました」
「じゃあ坊主、くれぐれも羽目を外すなよ」
「聞き飽きた」
「いってまいります」
モーエンに見送られて二人は馬車に乗り込み、エニシはもう一度礼して後に続く。
以前エレノアの馬車に乗ったがこの馬車も負けず劣らず豪華。緊張しつつ腰を下ろすロロベリアに対しアヤトは平然と。
向かいにエニシも着席して馬車は出発。
やはり皇族が使うだけあって走り出しても振動が少なく快適で静かな空間で、ロロベリアは少しだけ落ち着くも不意にエニシが口を開いた。
「アヤトさまは愛されているご様子」
「あれのどこがだ」
出発前のモーエンの忠告から感じたのか、純粋な感想を述べるもアヤトは一蹴。
だがこれを切っ掛けにロロベリアも会話に参加を。
「……エニシさん」
「如何なさいましたか?」
「皇女殿下は私の同行について何か仰っていましたか?」
真意は分からないも皇女の目的はアヤト。条件とはいえエニシの判断で急に同席が決まった自分はどう思われているのか。
こうして歓迎されているなら問題ないだろうし、相手側が快く思わなくても正直な反応は返ってこないだろうと期待半分の気持ちから質問。
「そう……ですね。とても楽しみにされておられましたが、なにか?」
「楽しみ……ですか」
「それはもう。ベルーザ殿下に対してあのような進言をする者など帝国では皇帝陛下を除けばお嬢さまくらいなもの。故に共感を持たれたかと」
エニシの表情や理由からどうやら本当に楽しみにされているようで一先ず安心。
ただ興味の持たれ方があの対応、どうも皇女も一筋縄ではいかない性格らしい。
「帝国は良くも悪くも実力主義。むろんベルーザ殿下もご立派な御方ではありますが……と、私の口からはこれ以上控えさせて頂きます」
また最も次期皇帝に近いベルーザと最も遠いサクラは確執のようなものがあるとエニシの言い分から感じ取れる。
これは気を引き締めて挑むべきとロロベリアは心構えを――
「いくら皇女さま側の従者でも皇族の批判はできんか」
「立場上難しいのでございます」
「それを言えるならあんたの忠誠は帝国、皇族ではなく皇女さまのみに向けられているようだが?」
「さて、どうでしょうか。そういえばアヤトさまはベルーザ殿下から酷い中傷を受けましたが……やはりご気分を害されておられますか?」
「全くだな」
「全く……でございますか」
「あんたもあの場に居ただろう。ラタニが口走っていたように、あんなのひよっこのさえずりにすぎん。ま、ひよこのような愛らしさはないが、必死にさえずる様子は似て可愛いもんだ」
「いくら私しか聞いてないにしても、その物言いはさすがに……」
「事前に不躾だと伝えたハズだがな。それに皇子さまが俺のような平民の戯れ言にいちいち反応する器とは思えん。なんせご立派な次期皇帝陛下さまなんだろう?」
「これはこれは……一本取られましたな」
…………した矢先にこのやり取り。
あの時、アヤトが口を閉ざしていて本当に良かったと思う。
同時にこれから起こるであろう波乱にロロベリアは早速胃が痛くなり、気分を紛らわせるため景色を眺めることに。
「あれ……? エニシさん、この馬車はどちらに向かわれているんですか?」
だが移りゆく景色の違和感からエニシに視線を戻す。
まだ帝都の町並みを完全に把握していないが少なくとも昨日謁見で訪れたルートではなく、むしろ帝城から離れている。
皇女の住まいなら帝城のある宮廷内のはず、どこでお茶会をするのか。
「失礼しました。先にお伝えしておくべきでした。お嬢さまはご自身の研究施設にてお待ちでございます」
「研究施設……?」
「先に申したようにお嬢さまはプライベートな楽しいお茶会を望んでおります。故に宮廷よりもくつろげる場でと」
確かに宮廷のような場よりは緊張することもない。こうした配慮から相手側が本当に皇族との立場関係ないお茶会を望んでいるとロロベリアも安心するが、別の理由で驚いてしまう。
幼少期から非凡な才を秘め、若干一五才にして天才皇女と呼ばれているように、有能な欠陥皇女の有能さは頭脳面を指している。
それは実力主義が故に精霊器の開発技術が王国、教国に劣り貿易頼りだった帝国の技術力を僅か五年で同等まで引き上げたほど。
故に皇族とは関係なく自身の研究施設まで所有しているのだが。
「もちろん研究施設といえど、最大級のおもてなしを致しますのでご了承いただければと」
「俺はどこでも構わん」
「……お気になさらず」
同時に自身のプライベートな場に誘うなら、やはり一筋縄ではいかないお茶会になると覚悟しつつロロベリアも頷く。
やがて視界に入る貴族区にしては変わった建物が見えてきた。
敷地面識は周囲の屋敷以上だが真っ白で四角い外観、医療施設のような雰囲気から恐らくあれが研究施設だろう。
ロロベリアの予想通りその建物の前で馬車が停車。
「お嬢さまは既にお待ちだそうです」
衛兵と二、三やり取りしたエニシに案内されるまま施設内へ。
外観と同じく白を基調とした内部はやはり医療施設を彷彿とさせる。研究施設に訪れたことのないロロベリアは興味を示すも、王国民の自分が帝国の研究施設内を凝視するのは変に思われると自嘲。前を歩くアヤトの背中を見据える。
また合間にすれ違う白衣を着た職員らも自分たちがサクラの客人として訪れるのを事前に聞いていたのか、わざわざ立ち止まり会釈をされる待遇を受けつつ最上階の六階に到着。
この階はサクラのプライベートフロアで、今回のように来客を招くだけでなくこの施設で寝泊まりするのにも利用しているらしい。いくら自身の施設といえど皇女が安易に宮廷外で外泊を許されるのはそれだけ帝国にとってサクラの研究が重要視されているのか。
それとも期待されていない故の奔放主義かエニシの話を聞いたロロベリアは悩むところで。
「こちらでございます。お嬢さま、アヤトさまとロロベリアさまをお連れいたしました」
『――入るがよい』
エニシが応接室らしいドアをノックをすれば、若干気怠げながらも艶のある声が。
いよいよと、ロロベリアは緊張しつつエニシ、アヤトに続いて室内へ。
研究施設といえど皇女が客人を迎え入れる応接室だけあり調度類や絵画、生け花などどれを取っても品があり、落ち着いた雰囲気がある。
それはさておき、サクラを視界に入れるなりロロベリアはまず反応に困った。
中央にあるソファから立ち上がる灰色の長い髪を一つに纏め、こちらを見据える翡翠のような深い輝きを帯びた瞳。また、年齢的にひとつ下なので顔つきはまだあどけなさが残るも微笑みはどこか妖艶で。
リースと変わらない背丈もあり、アンバランスな魅力を持つサクラは見惚れるほど美しいのに、なぜか彼女は黒のサマードレスの上に白衣を纏っていた。
いくら研究施設とは言え他国の客人を迎え入れるには少し違う。まあアヤトも大概なのでどっちもどっちだが。
ちなみに兄のベルーザと髪色が違うのは両者の母親が別のため。
帝国は一夫多妻制度で現皇帝には正妻の他に側室が二人いる。そして既に他界している側室が東国の血筋で、名の雰囲気で分かるようにサクラの母親でもある。
ただ母親が側室だからという理由で次期皇帝候補に最も遠いわけではない。現に最も近いと噂されているベルーザの母親は存命ながらも側室だ。
つまりこの二人には実力主義の帝国が故の理由が違いを生んでいる。
そしてレイドを始め王国側がなぜ皇女がアヤトに興味を抱くのか、それは有能な欠陥皇女の欠陥部分に理由があると予測している。
何故なら現在次期皇帝候補はベルーザ、サクラの他に正妻の息子と娘が二人の計五人。
この五人の中でサクラは唯一の持たぬ者――つまり実力主義の帝国において最大のアドバンテージを持っていた。
そのアドバンテージから頭脳面で既に多大な貢献を残す有能でありながらも欠陥皇女として皇帝に最も遠い。
そんなサクラが同じ持たぬ者で王国代表に選ばれたアヤトにこうして接触したのには理由があるとロロベリアも警戒するよう念を押されているのだが。
「お主がアヤト=カルヴァシアか。よう来てくれた」
「良くも何もテメェが呼んだんだろう」
…………警戒するべきはサクラよりもアヤトかもしれない。
大物相手にアヤトがやらかすのは今さらでしょう。
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