表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第五章 帝国の英雄編
130/777

出発前に

アクセスありがとうございます!



 帝国滞在三日目。


 二日目の予定を終えれば後は親善試合に集中。

 ただ残り五日間ずっと訓練ばかりでもない。当日に万全なコンディションを持って行くのなら訓練は調整程度にして後は身体を休める方がいい。


 もちろん水面下では既に試合は始まっている。

 相手の精霊術や戦術、どのペアがどの順でエントリーするか。特に精霊術は相性があるので帝国に来ているからこそ情報収集は欠かせない。その辺は昨日の会議で打ち合わせ済み。出場する代表メンバーは試合に集中するべく朝食後は迎賓館に隣接している室内訓練場へ。

 モーエンの指導の下、移動中に鈍った身体を試合形式の連携確認で少しずつほぐしていた。


「ベルーザ殿下に続いてサクラ殿下か。帝国に来てまだ三日目なのにイベントが目白押しだね」


 カイル・エレノアペアとティエッタ・フロイスペアの模擬戦中、休憩していたレイドが表情を綻ばせて話題を上げた。

 ちなみにアヤトは出場予定もないなら調整もないと欠席。相変わらず団体行動を無視して一人迎賓館に残っていた。


「これもアヤトくん効果かな? 本当に面白い」

「面白がらないでください……」


 だからこそ本人が居ない間に楽しむレイドにロロベリアは肩を落とす。


「そもそも今回の出来事は向こうからであって、アヤトは何もしていませんから」

「何もしなくても問題を呼び込む体質なんじゃない? 彼ってそんな雰囲気あるもの」

「どんな雰囲気ですか」


 シャルツの冷やかしにジト目を向けるも、先輩後輩関係なくこうした軽口を言い合えるほど王国代表の雰囲気は良い。

 元々同じ序列保持者といえど昔なじみ以外と余り接点がなく、悪く言えば他者に興味を抱かない者ばかりで個人の向上心に注視していた。

 しかし合同訓練でアヤトに視野の狭さや己の未熟さを痛感。培ってきたプライドをズタズタにされてから変わりつつある。

 ロロベリアから始まり、リースやユースが加わった打倒アヤトという目標をそれぞれも掲げたことで連帯感が生まれている。やはり共通の目標があると団結するもので。


 本来は親善試合という目標から生まれるのだが、これまでと違う目標だからこそ今年の代表メンバーも違う成長をしている。

 それほどアヤトという存在は大きい。持たぬ者というハンデがありながらも他を圧倒する規格外な強さだけでも賞賛するべき魅力、だがそれ以上の魅力がある。

 口が悪く無愛想、唯我独尊を地で行くような性格なのになぜか憎めない。

 それはきっとただ強いだけではないからで。

 だから誰もが目標として、憧れてしまう。

 だからこそ周囲の心までも成長させる魅力がある。

 故にモーエンだけでなく代表のリーダーとして、また王族の一人としてレイドも賞賛してならない。

 規格外の存在、アヤトが王国の未来を担う同世代の成長を促していると。


 ただそれとは別に悩ましいところもあるが。


「そういやユースはアヤトと同室だろ。お前らどんな話してんだ?」


 などとレイドが問題視しているとディーンが興味深い話題を上げるが、質問されたユースはどこかゲンナリと首を振る。


「……なんも。ていうかあいつソファ占領してあやとりか読書してるかで、オレがシャワー浴びて戻ればベッドに潜り込んでるんっすよ。取り付く島も無いっていうか、話しかけても無視かうるせぇ黙れ。もう居心地悪いのなんの」


 安易に想像できるだけにみなが『うわぁ……』と同情の視線を向けた。

 序列保持者よりも交流のあるユースでさえこの対応。レイドも序列一位として代表のリーダーを務めているが、このメンバーの中心的存在は間違いなくアヤトなのだ。彼からも少しは歩み寄って欲しく思う。

 ただ例外はある。


「今朝も目覚ましたら既に起きててやっぱソファであやとりか読書、飯誘っても同じく無視かうるせぇ黙れ。ぶっちゃけ姫ちゃんと変わって欲しい」

「どうして私がっ?」


 そう、周囲と距離を置きたがるアヤトが唯一心を許している(ように感じる)ロロベリアという存在。

 幼少期は共に暮らしていたらしいが、記憶を失っているなら自分たちと余り変わらないはず。にも関わらずアヤトは学院赴任当時からロロベリアを特別視している。

 それはあの不可思議な現象を見せた際、同時に見せた殺意でレイドも実感した。


「それはロロベリアさんだから、じゃない?」

「答えになってません!」

「そう? 彼ってあなたには心を許してるように見えるけど。今日のお茶会も彼自ら指名してるし」

「だよなー。初日でも夕食までずっと二人で一緒だったんだろ。ユースと違って普通に話もできたなら俺たちとは扱いも違うか」

「ディーンさん知ってたんですかっ? いえ、話してたというか……あやとり勝負をしてたというか……」

「あやとりって彼が良くしてるアレよね? 紐で色んな形を作る……みたいな。ロロちゃんもやるのね。それって彼が好きだから共通の話題が欲しくて?」

「違うけど違わない。ロロも昔から暇さえあればやってる」


「「「どっちなの?」」」


 そして他の序列保持者もネタにするように、僅かな時間でもアヤトにとってロロベリアは他と違う存在と認識するほど。

 とにかくアヤトが中心的存在なら、ロロベリアが間を繋ぐ橋のような存在なのは確か。

 なのでレイドも忠告を忘れず彼女を通じて良い関係が気づければと願うばかりで。

 もう一つ、ロロベリアには期待していることもある。


「まあ詳しい話は夜に聞くとして。モーエンさまが期待しているように、ロロベリアさんだけが頼りなの」

「だね。だからこそボクやモーエンさんもサクラ殿下の招待を許したんだけど。変わり者とはいえ、やはり皇女と問題を起こすとね……」


 ランの切実な願いにレイドも大いに同意。シャルツの冷やかしもあながち間違いではなく、唯我独尊が故に無意識に問題を巻き起こすのもまたアヤトの悩ましいところで。


「それに……正直なところ彼女の目的は謝罪ではないだろう」


 しかも今回の問題は裏があるはず。


 有能な欠陥皇女――故に王国の代表として選ばれたアヤトに興味を抱く。


 つまり今回の謝罪を含めたお茶会の招待は別の意図がある、というのがラタニも含めた共通認識だ。


「カナリアさんからも言われてると思うけど、どのような話をしたか報告して欲しい」


 レイドも王族として国の損失になる事態は避けたいと、自分たちと繋ぐ橋であり手綱でもあるロロベリアに期待していた。


 まあそれはそれで、やはり重要なのはただ一つ。


「それと……出来れば彼の手綱をしっかり握っててもらえると本当に助かる」

「……頑張ります」


 相手の出方以上に、アヤトの行動が全く読めないからこそ国際問題にならないよう切実に願うばかりだった。



 ◇



 迎えの時刻が迫り、一足先に訓練をあがったロロベリアはシャワーで汗を流して着替えを済ませた。

 さすがに皇女のお茶会に訓練着のままとはいかない。かといって相手が気軽な場を望むなら制服やドレスも違うと昨日の内にエレノアの助言を受けて帝都観光をする用に持ってきた私服を選んだ。空色を主体に白いステッチの縁取りをしたワンピース、後は髪を一つに結い上げる。

 失礼に当たらないか最後に鏡で身だしなみを確認、問題ないとエントランスへ。


「やっぱりその格好で行くんだ……」

「悪いか」


 向かえば先に待機していたアヤトを見るなり脱力を。

 いつもの黒いコートのみならず、腰には朧月と新月。服装はもう今さらとして皇女のお茶会に武器を所持してもいいのだろうか。

 まあ問題があれば相手側も指摘すると諦めているようで訓練場を抜けてきたモーエンが渋い表情を。


「悪くはないが……気をつけろよ坊主」

「あん?」

「昨日カナリアから聞いただろう」


 それは大使としての業務中に帝国側から受けた注意。


 なんでもここ一月ほど帝都内で夜な夜な不審な人物が目撃されているらしく、同時期に貴族の屋敷に何者かが侵入した形跡が出始めた。被害と言うほどの事件も起きてなく、目撃情報ばかりでまだ捕まっていないので同一人物との確証はないが警戒するよう言われたらしい。

 またその人物が火精霊の時期にも関わらず肌も見せない黒一色の出で立ちとの情報、つまりアヤトの服装を連想させるが故に間違われないよう心配しているのだ。

 

 この注意を聞いたロロベリアも昨日の妙な視線を感じていたのは自分たちの珍しい髪色ではなく、アヤトの服装から警戒されていたと納得。しかも腰に武器を所持していれば警戒も上乗せだ。


「同じ格好して貴族区ウロウロしてると妙な勘違いされるだろう」

「知るか。そもそも不審者が目立つ格好するわけもねぇし、昼間っから同じ格好してるならただのバカだろ」


 故にモーエンはくぎを刺すもアヤトは正論で一蹴。


「なにより俺には関係ねぇよ」

「それもそうだな。坊主のアリバイは完全だ」


 更に正論を言われて心配しすぎだと首を振る。

 不審人物の目撃情報は一月前の選抜戦前から。王国にいたアヤトには完全なアリバイがあり、不審尋問を受けても身元がハッキリしているだけに問題にならず。


「ならあまり羽目外しすぎてカナリアの胃に穴を開けるようなマネはするなよ」

「……マジで俺をなんだと思ってんだ」

「リーズベルトも。聞き飽きたかもしれんが、坊主のお守りを頼むわ」

「……たく」


 まあ受けた際にやらかす可能性があるのでロロベリアは上手くフォローするよう頼まれたりと、帝国滞在中はもう完全なアヤトのお目付役となってしまった。

 もちろんこうして共にいる時間に不満はない。むしろ嬉しい……多少胃に穴が開く覚悟は必要だが。


 などとやり取りしている間に、従者からお迎えの馬車が到着したとの報告を受けた三人は表へ向かった。




なんだかんだで王国代表メンバーは仲良くなってますね。


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ