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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第一章 出会いと約束編
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強さの理由 3

アクセスありがとうございます!



 翌日、学院が終わりロロベリアを見送ったリースは講師舎に向かった。


「おりょ? リーちゃんだ」

「……リーちゃん言うな」


 講師舎に入るなりデスクワークをしていたラタニが嬉しそうに手を振るのを見てたリースは煩わしげに歩み寄る。


「話がある」

「お話? リーちゃんがあたしに? 何かな何かな」

「アヤト=カルヴァシアは何者?」


 無表情のまま切り出したリースの問いに、ニコニコと身を乗り出していたラタニの表情が引き締まった。


「……やっぱ気になるよねぇ。ただ、今さらって感じもするけど」

「あなたが逃げ回っていて捕まらなかっただけ」


 模擬戦後もラタニは任務で学院を留守にしていることが多く、タイミングが掴めなかったとリースは主張。


「逃げ回ってはないさね。人気者は辛くてねー、もうしばらく飛び回らないといけないんよ。特にあの事件が厄介でねぇ」

「あの事件?」

「どんだけ調べても証拠が出てこないし、消えた子らも見付からない。いま分かってることは失踪者の共通点が平民の子供ばかりってとこくらいか」


 やれやれとラタニが語る内容からリースも推測。


 それは半年ほど前から王国各地で騒がれている誘拐事件。

 被害者は主に五歳から一六歳の少年少女で、犯人から身代金の要求も目撃者もないとの情報は既に広まっていた。本来は各地の警備隊の管轄だが捜査に難航しているため、ラタニまで協力しているようだ。

 ただ捜査状況を一学院生に話してもいいのかとリースは反応に困ってしまう。


「あたしの愚痴はさておいて、お話しするなら場所変えよっか」


 しかしラタニは気にした様子もなく席を立ち、リースと共に講師舎を出た。


「んで、アヤトの何を知りたいん?」


 誰も居ないのを確認し建物に背を預けラタニは改めて問いかける。


「あいつの情報全て」

「もしかしてリーちゃんもアヤトに惚れたん? それともロロちゃんに頼まれたとか?」

「はぐらかすな。どこで生まれて、今まで何をしていたか。知ってること全部教えて」

「別にはぐらかしてないんだけどねぇ」


 煩わしげに睨みつけるリースを苦笑で交わし、ラタニは続けた。


「なんでそんなの知りたいん? てっきりアヤトの強さに興味がわいたと思ったけど、違う感じしてるよ」


 リースもあの異常な強さに興味はあるが、本当の目的はアヤトの正体。

 ロロベリアの大切な人、クロであるかの確証が欲しいだけ。

 それを得るには彼の出生を知る必要があり、本人以外で唯一知っている可能性があるのは昔馴染みのラタニだけだ。


「無駄な勘ぐり。全てを知ればわかること」


 だがロロベリアの秘密を口にするワケにもいかずリースは平然と正論で返す。


「なーるほーどねー。じゃあ聞くけど、アヤトとロロちゃんの間になにかあったの?」

「……どうして」

「ほら、学食でアヤトに惚れたとかどうのとかの話した時、『私は今の彼を知らない』ってロロちゃんが言ったじゃん。それって昔のアヤトは知ってるってことじゃない?」


 十日前の何気ない会話をよく覚えているとリースは内心動揺。

 それでも顔色一つ変えず首を振る。


「そんなのロロに聞けばいい」

「ふ~ん。ならあたしもアヤトに聞けばいいと答えよう」

「むぅ……」


 意地悪な返しにさすがのリースも唸る。

 どうやらラタニは何がなんでも二人の関係性を知りたいようだ。

 しかしロロベリアの大切な思い出を興味本意で知られるわけにもいかない。


「……依頼って何のこと」


 ならばと個人的な疑問に切り替えた。


「カルヴァシア兄妹の話を聞いた。あいつは調理師でなく、別の理由でここにいる」

「…………」

「あなたが依頼した。違う?」


 無言のままジッと見詰めるリースに根負けしたのか、ラタニは大きく息を吐いた。


「……アヤトに忠告されたけど、聞いたのはリーちゃんか」

「やっぱり何か企んでた。もしロロを利用するようなら……っ」

「はいはい、勘違いしないよう教えたげるから。落ち着いて」


 精霊力を解放するリースの頭を撫でつつラタニはしばし思案。


「あの子にした依頼ってのは、学院生の目を覚まさせること」

「目を覚ます?」

「リーちゃんも知ってるだろうけど、ロロちゃんの噂についてどう思う?」

「虫ずが走る。どいつもバカばかり」


 ストレートに吐き捨てるリースの返答に満足したのか、ラタニは笑った。


「バカだねー、ホント。特にあの模擬戦を見てた連中、あれが偶然や運に見えるならそれこそ激バカ。これだから実力を過信してるひよっこってのはタチが悪い。あたしの見立てでもアヤトの遊び相手になれる学院生なんてよくて四人くらいだってのにさ。あ、ちなみにリーちゃんは含まれてません」

「……言われなくてもわかってる。ムカ付くけどわたしじゃ相手にもされない」

「それでいいんよ。そうやってムカ付いて、悔しくて、言ってしまえば自分たちは未熟なひよっこだと自覚して欲しかったんよ。でも嘆かわしいことに精霊の寵愛を受けた優越感に浸りたくて、精霊術士が持たぬ者に負けるはずがないと目を反らしてるんだよねぇ」


 やれやれと首を振りラタニは腕を組み続けた。


「今年から特別講師としてひよっこどもを相手にしてすぐに分かった。どいつもこいつも勘違いしてる。精霊の寵愛を受けたから精霊術士じゃない、強大な力に見合うだけの心と身体があって精霊術士だ。そもそも精霊術士になりたくてこの学院の門を叩いてるくせに、精霊術士が持たぬ者に負けるハズがないってふんぞり返るって矛盾してると思わない?」


 笑顔で問いかけるラタニにリースは肯定も否定も出来ない。

 なぜならアヤトとロロベリアが模擬戦を行う際、リースも同じ矛盾を口にしていた。

 精霊術が使えるだけの学院生が理を問うなど自惚れもいいところ。

 結局は己も、ロロベリアさえも慢心したバカなのだ。


「だからいい薬になると思ってアヤトを呼んだんよ。精霊士ですらないあの子にぼこぼこにされれば、少しは矛盾に気づけるかなって」

「つまり……あの模擬戦は最初から仕組まれていた」

「相手は誰でもよかったけど、ロロちゃんが仲良くしたがってるから丁度いいかなって。ただ予想外なのはアヤトがロロちゃんに興味を持ったこと。だから二人の関係を知りたいんだけど……」

「ロロに聞けば」

「……だよねぇ。ま、バカ連中もその内気づくだろうし放っておくとして、あたしとしては願ってもない展開だからいいけどねん」


 素気なく返されため息を吐くラタニ。

 最後は投げやりだったが学院生を思う気持ちから色々考えていることは分かった。

 だが聞き捨てならない新たな疑問。


「あいつがロロに興味を持つことをなぜ願う?」


 ロロベリアが仲良くしようとしていたのは今さらだが、アヤトが興味を持つことに何の意味があるのか。

 まさかいつもの悪ノリで二人がくっつけば面白いとでも考えているのだろうか。


「正確にはどんな理由でも、あの子が同年代の若者と関わることかね」


 リースの心配を余所に微笑むラタニからは純粋にアヤトを思う気持ちが読み取れて。

 イタズラ心や興味本意は感じられなかった。


「それは、どういう……?」


 故にリースも純粋な疑問として問いかけるとラタニは仕方ないと肩を落とす。


「リーちゃんさ、考えてもみなよ。ひよっこ精霊術士とはいえ互角以上に戦える持たぬ者は普通かにゃ?」

「……あ」

「それどころか一対一なら熟練の精霊術士にもアヤトは圧勝する。まあ、あたしは論外だけど。まだまだ弟子に追いつかれませんよ」

「つまり、あいつに戦い方を教えたのはあなた?」

「アヤトは凄いよ? 戦闘スタイル、身体の使い方、なにより圧倒的戦力差を覆す発想。正直言うと純粋な戦いの才能はあたしでも相手にならない。まさに戦いの申し子だ」


 王国最強の精霊術士が両手放しで絶賛するように、精霊術士と渡り合えるだけの力を持つアヤトは常識を覆す強さがある。


「だけど……残念なことに、精霊士の才能すらなかった」


 しかしそれは精霊力を感じ取れない故に明らかになった才能。

 精霊力を得るだけで常人を超える力は手に入る。

 しかしアヤトは違うのだ。


「鍛えて鍛えて、それこそ死ぬ覚悟で鍛えてやっと辿り着いた高み。でもロロちゃんやリーちゃん、他の学院生が普通に経験を積めば追い着かれる程度の高みって皮肉だよねぇ」


 だから模擬戦の前に辛辣な批判をしたのかも知れない。精霊力を持たぬ者が死ぬ気で努力を重ねたのに、持つ者が自惚れていれば腹も立つ。


「話が逸れたね。とにかくあいつはリーちゃんの想像も付かない地獄を経験して求める強さを手に入れた。その代償として普通の生活を失った。あいつは満足みたいだけど、あたしは不満なのさ」

「姉心のつもり」

「お姉ちゃん同士、気持ちが分かってくれたの?」

「愚弟への気苦労なら……なんとなく」


 以前姉のような存在だと言っていたのなら、弟の幸せを願うのは分からなくもない気がするとリースも同調。


「例えどんな形でも同年代の子たちと触れあって、楽しんでくれればって裏の狙いがあったのさ。欲を言えばロロちゃん以外にも興味を持って欲しいんだけど」

「お断り」

「そりゃ残念。質問はもう終わりかな? いー加減デスク仕事がたまってるんよねー」

「じゃあ……もうひとつ。マヤ=カルヴァシアは本当にあいつの妹?」


 アヤトを調べられないなら彼女の情報だけでも知っておきたい。

 ある意味アヤト以上に気になるのもあるが、やはりマヤの存在がクロとして決定づけられていない。


「どーしてそんな質問が出たのか、ちょっち反応に困るんだけど」


 二人が本当の兄妹でないのなら可能性はグッと上がると質問したのだが、ラタニにしては珍しく戸惑っている。兄妹間を不信がるなどおかしな質問だとリースも言って気づいた。


「あの子を知りたいのなら、気に入られればいいよ。ここだけの話、お勧めはしないけど」

「? それって……」

「それだけ気むずかしいってことかな。ではでは、気をつけて帰るんよ」


 最後は笑ってラタニは講師舎へと入ってしまう。


「……あやしい」



 ◇



「アヤトとロロちゃん……二人の間にいったい何があったのかねぇ」


 廊下を歩きつつラタニは一人、呟きを漏らす。


「どーせ教えてくれないんだろうけど、あんまし引っかき回さないでよ。なんて、言っても気むずかしい子には無駄か」


 この忠告に、どこからともなくクスクスと笑う声が返ってきた。




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