幕間 募る期待
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「――失礼します」
自室で書き物をしていた灰色の長い髪をした少女――サクラ=ラグズ=エヴリストはノックの音が聞こえるなり翡翠のような深い輝きを帯びた瞳を更に輝かせて立ち上がる。
「首尾の方はどうじゃった?」
「少々想定外な運びとなりましたが、ご了承頂けました」
挨拶もなく歩み寄り今か今かと報告を待つ主に入室したエニシはあらましを説明。
代表を務めるラタニは留守だったが腹心のモーエン、王国の第二王子レイド、王女エレノアとの面会が叶い無事、謝罪の文を届けたこと。
そして闘技場の出来事を聞いて思いついたアヤトを自然な形で招待する方法に関しては本人が留守で預かりとなったが、事前に接触して了承を得ていること。
ただアヤトから同じ王国代表のロロベリア=リーズベルトを同行させる条件を付けられ、事後承諾になってしまったことも。
聞けば聞くほどサクラとしては王国の代表、主にアヤトが入国した際様子を見に行かせた以上の驚きばかり。
精霊力を感じないのなら持たぬ者なのは間違いない。
だがワザとでも僅かに示したエニシの気配に気づき、そこから立てた予測の数々。
加えてエニシの主を知っているような態度と、まだ顔を合わせていないのに見透かされているような不気味さで。
「……なるほどのう。して、爺やから見てアヤト=カルヴァシアはどのように写ったのじゃ?」
ならば肝心の実力はどうなのか?
ただの持たぬ者ではないのは確か、偽造や酔狂で代表に選ばれたわけではないのならどれほどのものか。
エニシが直接言葉を交わしたのなら、その評価は確かなものになる。
「……正直なところ、分かりません」
しかしサクラの予想に反してエニシの返答は曖昧なもの。
「直接お会いしたことで持たぬ者なのは確定です……が、それだけに異質でした」
エニシも言葉を選んでいるのか、改めて分析しているのか一度口を閉じて。
「私なりの予想ですが、アヤトさまは少なくともベルーザ殿下以上。にも関わらず補欠として登録されています」
「兄上よりも……にわかに信じがたいのう。つまり王国の代表はそれ以上となるのか」
「いえ、私が異質と判断したのはアヤトさまの底知れぬ何かです」
「底知れぬ何か……?」
「表現に悩みますが……恐らくアヤトさまはラタニさまと同等かもしれません」
「ラタニとは……あのラタニ=アーメリかっ?」
曖昧ながらもこの報告を受けたサクラは驚愕し声を上げた。
持たぬ者がベルーザより、精霊術士よりも上というだけでも驚くべき評価。
だがあろう事かエニシは帝国のみならず各国にも名を轟かす王国の双肩であり、最強の精霊術士と同等の実力者と評価したのだ。
いくらエニシの言葉でも簡単に信じられるものではない。
「ラタニさまも精霊術士として異質な存在に思えます。その底知れぬ何かが計り知れないのですが、アヤトさまにも似た何かを感じたのです」
「…………」
「もし同等であればなぜアヤトさまが補欠という立場に居られるのか……それとも私の深読みか……とにかく王国側の真意が分かりません」
それでも酔狂でこのような報告をする腹心ではないとサクラも無理矢理受け入れ、だからこそ同じ答えに行き着く。
ラタニと同等の実力、エニシですら読み切れない何かを秘めているならそれはなにか?
もしアヤトの実力が予想通りなら、なぜ王国は補欠メンバーにしているのか?
持たぬ者が常識を越える力を持つが故にあまり表舞台に立たせたくないから……ならば元より補欠にすら入れる必要はない。
「なので分からぬまま、アヤトさまを招かれるのは早計かと」
調べれば調べるほど不気味なアヤトの存在。
王国の矛盾した選抜。
理解できないからこそエニシの進言はもっともで、ここは慎重になるべき。
それが正しい判断。
しかし――だからこそアヤトが自分の想像を遙かに超える存在だとも捉えられる。
故に、サクラは恐怖よりも期待を抱いてしまう。
「ですが不思議と惹かれる魅力を感じました。それこそお嬢さまと気が合いそうな魅力でございます。故に明日をお楽しみください」
そんな主を理解しているのでエニシも笑顔で勧めてくる。
ならば直接会って見定めるのが楽しみで、サクラの表情に期待感から笑みが浮かんだ。
「うむ。兄上相手に勇ましい態度をしたロロベリア=リーズベルトも同行するらしいし、ほんに楽しみじゃ」
サクラは『桜』と書きます。
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