エニシの目的
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これまで柔和な笑みを崩さなかったエニシがアヤトの指摘に初めて強ばり。
「上に居たんだろう?」
「……お気づきでしたか」
「試したくせによく言う。ま、お陰で気づけたわけだが」
「そこまでお気づきでしたか。ならば先ほどのはブラフ……いやはや、恐れ入ります」
「そりゃどうも」
「ではもう開き直ってお聞きしますが、喉の調子は戻られたのでしょうか」
「俺は喋るだけで問題を起こすんだとよ。たく、どいつもこいつもマジ俺をなんだと思ってんだか」
「なるほど……とにかくご病気でなければ幸いにございます」
それでも和やかにやり取りをする内に元の柔和な笑みでアヤトを労るのだが。
「……どういうこと?」
端的すぎてロロベリアは全く理解できず、いつも通り呆れられると分かっていながらも口にせずにはいられない。
やはり『相変わらずな構ってちゃんが』とのお約束と共にアヤトは教えてくれた。
「この執事さんは闘技場に居たんだよ」
「え? ど、どこに?」
「上だと言っただろう。観客席だ」
つまりベルーザの乱入を無視してあやとりに興じていた際、背を預けていた壁の上――観客席にエニシが潜んでいたということで。
「だが情けないことに、俺が気づくかどうか試すのにワザと緩めるまで気づかなかったがな」
「…………」
「謝罪の文を届けに来たのも事実。だが俺たちが予想外な外出をしたのを良い機会と尾行し接触する為に気配を消して後を追った。現に敷地外に出た瞬間、周囲に溶け込むよう一人分の気配が消えた」
「…………」
「つまり執事さんが最初から悟られぬよう努めていれば、俺には察知できねぇ。で、そんな器用な奴がいるなら同一人物だろうとの予測だ……本当に情けない話だ」
理解したか、と自嘲するがロロベリアは別の意味で言葉がない。
気配察知能力が一級品のアヤトでさえエニシを察知できなかったのだ。
ならば自分は当然、あの時いた誰もが観客席にエニシが潜んでいたなど気づいていないだろう。この距離で僅かな精霊力しか感じられないなら、観客席に潜んでいたエニシの精霊力をラタニも感知できないはずだ。
そしてここまでのやり取りを纏めるなら王国への謝罪は建前でエニシの本命はアヤト。
アヤトも周囲の視線が煩わしいからではなく、先ほどの予測から自分に用件があると察してわざわざ人気の無い場所で真意を問うつもりでいた。
だがどんな理由で接触を試みたのか?
「で、本題はなんだ」
相当な実力を持つ執事を仕えさせるほどの主がアヤトに興味を抱く理由。
全く分からないだけに不気味で、ロロベリアは緊張の面持ちで耳を傾ける。
「ベルーザ殿下のご無礼に対する謝罪として、特に侮辱されたアヤト=カルヴァシアさまには直接お会いして謝罪したい――という体で、お茶会へご招待したいと我が主さまより言伝をお預かりしております」
「なんだ。もう言い訳はしないのか」
「これ以上は見苦しい上に失礼の極みでございますから。ですが体とはいえ王国のみなさまに対する謝罪のお気持ちも本物でございます」
「つまり、その主さまは俺個人にご用があると」
「できればアヤトさまにもその体でご了承頂ければ幸いにございます」
「何の理由もなく俺のみをご招待するのは立場上面倒が故か……言い訳にしては少々苦しいが、俺以上に不躾なラタニは痛み分けにしている分、一応筋は通っているか」
開き直りとも言えるエニシの誘いにアヤトはしばしの思案後――
「条件が二つある」
「なんなりと」
「俺は王国の連中に呆れられるほどに不躾らしいんでな。礼儀正しい作法なんざ出来んぞ」
「ご安心を。お嬢さまもプライベートな楽しいお茶会を望んでおりますので。それでもう一つは?」
問いかけるエニシに対し、アヤトはロロベリアの頭に手を置いた。
「ここにいる白いのを同席させる」
「……私?」
「つまりロロベリアさまを……ですか」
まさかの条件にロロベリアだけでなくエニシも唖然。
しかしアヤトは気にした様子もなく続ける。
「ダメなら丁重にお断りさせてもらう」
「いえいえ。お客さまが増えれば更に楽しいお茶会になると我が主も喜ばれるでしょう」
意外にもエニシは迷うことなく受け入れた結果、ロロベリアも強制参加が決まり。
「では明日の正午、お迎えにあがります」
「いいだろう。楽しみにしていると伝えておけ」
「かしこまりました。私はこのまま迎賓館へと向かいますので、手はず通りにお願いいたします」
一礼し、エニシは去って行き残されたロロベリアはまずアヤトへと問いかけた。
「あの……どうして私まで?」
「お前は俺のお目付役らしいからな」
皮肉るような理由、しかしロロベリアはそれだけではないと予想している。
「それに参考がてらお話しもしたいんだろう?」
追求する視線を苦笑で返すように、どうやら自分が話してみたいと口にしたから機会を与えてくれたらしい。
相変わらずアヤトの行動理念に疑問はあれど、やはりエニシは興味を示していた噂の強者、ならば知っているだろう。
あの時も知っているような物言いで、今もエニシというより相手の立場を考慮していたなら主が誰なのかを。
「アヤトはエニシさんの主さまを知っているんでしょう? 誰なの」
「あの手紙に書いているから戻れば分かるだろう。つーか面倒なら付き合わなくて良いぞ」
「喜んでお付き合いするけど? ただ早く知れるなら知りたいじゃない」
迎賓館に戻れば正体は分かるがそれはそれ。
エニシほどの実力者を側に置くならかなり高貴な存在、自分も口裏を合わせるなら心構えもしておきたい。
ロロベリアの心情を察してか、それとも更に追求されるのが面倒なのか仕方なしにとアヤトが告げたのは。
「サクラ=ラグズ=エヴリスト――有能な欠陥皇女が故に現状最も皇帝の座に遠い第三皇女さまだ」
やはり驚くべき相手だった。
今さらですがエニシは漢字で『縁』と書きます。
そしてアヤトは『綾人』と書きます。あやとりにちなんだ名前なので……本当に今さらですね。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!