接触
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「なぜ白いのがついてくる」
「モーエンさまにあなたのお目付役を任されたのよ」
応接室から真っ直ぐ玄関に向かえばちょうどアヤトが外へ出ようとしていたところで。
「たく、どいつもこいつも。散歩するだけだろうが」
「本来は外出も控えるべきでしょう」
追いつき得意げに告げるロロベリアに察したアヤトはため息一つ。
厳しい規制はなくもここは他国、親善試合出場が目的とはいえ迎賓扱い。何か問題が起きれば両国間の問題にまで発展するので自粛するのが普通。
「どちらに行かれるのですか?」
なので中庭を抜けて敷地外に出ようとすれば門衛から怪訝な顔をされてしまう。
「少し気分転換に散歩を。モーエンさまの了承も得ております」
「そうですか……この辺りの治安は良いですがお気を付けて」
「ありがとうございます」
とりあえずロロベリアが対処して二人は門をくぐった。
「それで、どこへ行くの?」
「散歩に目的地もねぇよ」
確かにとロロベリアは隣を歩く。
貴族区だけあり石畳の歩道は綺麗に整備され、並ぶ建物も立派な物ばかり。また並木や花壇なども手入れが行き届いて美しい。
ただロロベリアは情景を楽しむ余裕はない。なぜならすれ違う者だけでなく、通り過ぎる馬車からも妙に視線を向けられてる。
王国の制服を着ている上にロロベリアの髪は珍しい乳白色、アヤトも帝国ではやはり珍しい黒髪。注目されるのは仕方ないが、こうも視線を集めれば落ち着かないのは当然で。
アヤトも煩わしさを感じているのか敢えて人気のない建物の合間を選んでいるが、ロロベリアにとっては好都合。
なんせ今朝からずっと気になっていたことがある。
アヤトが素直に制服を着て謁見に参加した。
こう言っては何だが違和感でしかなく、また充分な異常事態でもある。
妙な勘ぐりかもしれないがあれは依頼に関係しているのだろうか。
ならば忠告通り何かをするべきなのか。
ロロベリアとしてはベルーザの乱入以上にインパクトがあっただけに、二人きりになったら真意を聞くつもりでいた。
まあ口にすればまた不機嫌になるかもしれないが、気になって仕方がないと路地裏に入るなり――
「ま、あちらさんには何か目的があるようだが」
「……へ?」
確認しようとする前にアヤトが不意に立ち止まるので、間抜けな声が出てしまう。
そんなロロベリアを無視してアヤトは振り返るなりほくそ笑む。
「それとも単に同じ場所へでも向かっているのか」
「……誰も居ない、よね」
遅れてロロベリアも振り返るが人影どころか集中しても気配すら感じない。
「――これはこれは。まさかお気づきになられるとは」
「……え?」
が、先ほど曲がった物陰から現れた執事服を身に纏う初老の男を見るなり目を見開く。
ただ驚いたのはこの至近距離で気配を悟らせなかった能力ではなく、その人物の姿にだ。
年齢を感じさせない背筋が伸びた美しい立ち姿、背丈はアヤトと同じほどで。
「ご不快な思いをさせたのであれば、謝罪させて頂きます。申し訳ございませんでした」
少し白髪が交じった髪とこちらを見据える瞳もまたアヤトと同じ黒髪黒目。
突如現れた謎の老執事にロロベリアは即座に警戒する。
至近距離でも全く気配を感じさせない能力もだが、黒髪黒目という帝国でも珍しい特徴。
この特徴はアヤトから聞いていた噂の強者と同じもの。
ただ話を聞くに身分の高い人物を予想していたが、まさか執事とは思いもよらず。
それでも身分の高い者なら執事を雇っているし、能力や特徴を踏まえればこの老執事でほぼ確定だろう。
そんな相手が自分たちの後を付けていたのなら警戒するのは当然で。
「謝罪をするなら俺たちを尾行していたのを認めるんだな」
「はい」
「素直じゃねぇか」
「正直なのが取り柄でございますから」
にも関わらずアヤトは警戒する素振りはなく、歩み寄る老紳士と和やかに会話を交わす。
「ですが申し開きをさせて頂けるのであれば、お二人方に悪意はありません。言うなればお節介でしょうか」
にこやかな笑みを浮かべたまま老紳士は二メルほどの距離で立ち止まり。
「私はある御方の使いとして王国のみなさまにお会いしたく迎賓館を訪ねたのですが、途中でお二人方を見かけて恐れながら護衛をと。帝都は治安も良く、平和そのものですが万が一もございます。大切な王国のみなさまに何かあれば一大事と思いまして」
「わざわざ気配を消してか」
「見ての通り私は執事、陰ながら見守るのを信条としております。故に癖のようなもので……勘違いをさせてしまい本当に申し訳ございません」
アヤトの指摘に妙な理由を返し、美しい一礼で謝罪を。
正直なところロロベリアには完全な言い訳にしか聞こえないが、やはりアヤトは肩を竦めるのみで追求を止めて。
「なるほどな……で、その使いとはなんだ」
「これはこれは、度々ご無礼を。私はエニシと申します」
思い出したように老執事――エニシは自己紹介を。
帝国でも貴族平民関係なく姓は与えられている。
にも関わらず名乗らないのが気になるも、名からして東国の血筋で間違いないだろう。
しかも年齢からするとアヤトよりもその血を濃く受け継いでいるだろう。
「そしてお二人方……というよりも王国の方々にご用というのは謝罪でありまして」
「謝罪……ですか」
とにかくここまで敵意はなく、友好的な態度を続けるエニシにロロベリアも少し警戒を解いた。
「ベルーザ殿下が王国のみなさまに大変失礼な振る舞いをしたことを我が主さまが大変嘆かれ、謝罪の文を届けるようにと命を受けております」
「つい先ほどのことなのに……もう、ですか」
「迅速な対応が誠意の現れでもありますから」
懐から封書を取り出し微笑むエニシだが、まだ二時間も経っていないのにもう情報が届いただけでなく、手紙まで用意したならエニシの主はかなりの地位にいる者か。
もしかすると皇族の誰か、そんな予想を立てるロロベリアを余所に――
「ついでの用件が誠意とは、中々に笑える話だ」
「…………っ」
アヤトの嘲笑にエニシの表情が強ばった。
意味深なのはアヤトくんの十八番です(笑)。
みなさまにお願いと感謝を。
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