言いたい放題
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ベルーザの登場から最後まで微妙な空気のまま予定通り控え室の案内を終え、リルクに見送られた一同は迎賓館へ。
ただ学院生らが無事戻るのを見届けたラタニ、カナリアはそのまま別行動を。
二人は引率でもあり王国の大使としての仕事もあるので当日まではそちらを優先。なので学院生らのスケジュールや調整などはモーエンがメインで受け持っていた。
「さて、本番の舞台を確認したがどうだった……と言いたいが、もうそれどころじゃないな」
なので戻るなり今後について話し合う予定だったが、やはりベルーザの話題が上がる。
リルクに同情して闘技場では控えていたが、ここでなら遠慮なく話題に出せると応接室に揃う学院生らを見回し苦笑を。
ちなみにアヤトも顔を出しているがソファに腰掛けるメンバーとは違い、ドア付近の壁に背を預け黙々とあやとりをするマイペースぶり。
「中々にインパクトある皇子さまだったが、みんな良く耐えたな」
もちろん今さらと注意することなくモーエンは素直に賞賛した。
少々度が過ぎていたが試合前に挑発して相手のペースを乱すのは立派な作戦、どれだけ煽られても相手にせず冷静にやり過ごすべきで。
みな冷静さを失わず流したのでモーエンは感心していた。
「彼のパフォーマンスに張り合う必要はありません。言葉ではなく結果で、つまり本番で取り消させればいい。それが誉れ高き王国の代表であるべき……なんだけど」
序列一位であり、代表のリーダーを務めるレイドが王族として返答するも、含み笑いをエレノアに向ける。
その笑みで理解したのかエレノアも頷く。
「元よりあの手の中傷は予想できていましたから」
実のベルーザの嘲りはアヤトが代表に加わった時点で予想していた。
前代未聞の持たぬ者が代表入り、彼の実力を知らない者なら当然の反応で覚悟をしていただけに心構えが出来ていた。
ただそれ以上に思うところがあった。
「それに合同訓練で痛感している。俺たちがひよっこなのは今さらだ」
「だから怒る気も起きないのよねぇ」
カイルとシャルツが自嘲するように、自分たちがどれほど未熟かは実感している。
同年代のアヤトに手加減されても触れることすら出来なかった。しかも自分たちは精霊に認められ、寵愛を受けた精霊士や精霊術士、対しアヤトは持たぬ者。圧倒的有利な立場でありながら覆されたのならいっそ清々しくて、弱者と罵られても当然と受け入れられた。
あの合同訓練で抱いた憧れのように、アヤトという真の強者を模範にするなら同じく実力で、結果で示すべき。
故にベルーザがどれだけ煽ろうと気にもとめなかった。
ここにいる代表メンバーの中心はみな学院という箱庭であろうと序列保持者という強者として君臨していた。加えてまだ若い、精神が未熟な内は中々自身の弱さを受け入れられないもので。
現に合同訓練前はアヤトの実力を自身の物差しで測り、自尊が目立っていた。
しかしラタニとの模擬戦や実際に手合わせしたことで、これまで培ってきたプライドをズタズタにされた。本来なら意気消沈するところだが、しっかりと受け入れ学んでいる。
若いが故に難しいだけに、この成長は素晴らしく。
アヤトの存在が同世代の成長を促しているとモーエンは感じていた。
「まあそれ以前に、あの程度で苛ついてたらキリがないっての」
「むしろ可愛い罵倒に聞こえた」
「オレはいい気味だって笑いこらえるの必死だったけどな」
「……バカバカしい」
まあディーンやラン、ニコレスカ姉弟が主張するようにそのアヤトから合同訓練時に散々罵られたこともあり、冷静さを欠いたら負けとのある種体勢が出来ていた結果でもあるが。
「とまあ少なからずアヤトくんと共に行動していれば、ボクらも色々な意味で成長しますよ」
「違いない」
とにかく上手くレイドが纏めてモーエンも同意を。
しかし再び含み笑いを浮かべたレイドはロロベリアへと視線を向ける。
「ただボクら以上に関わっているからか、ずいぶんと感化されたみたいだね。さすがにあの宣戦布告は驚いたよ」
「……申し訳ありません」
ラタニは今さらとしてアヤトが作戦通り大人しくしていたのに、最後で挑発的な発言をしたことをつつかれてロロベリアは身体を縮こませる。
挑発の意思はなくとも、アヤトを侮辱したベルーザに意趣返しの忠告をしてしまった。
みなが感情を抑えていただけに反省すべきだ。
「謝る必要はありませんわ、リーズベルトさん。あなたの言葉は何も間違っていません。相手に教えを説くのもまた強者の在り方。フロイスもそう思うでしょう?」
「お嬢さまの仰る通りです」
それでもティエッタやフロイスの意見に少し気持ちが楽になった。
「そもそも姫ちゃんのやらかしは可愛いもんだろ。本家がやらかしたら今頃親善試合どころか両国戦争じゃね?」
「人の神経逆なでするのが得意だから。ロロは優しい」
……ユースやリースの言い分に他のメンバーも激しく同意するのはさておいて。
「まあ、一矢報いたということで。お陰で公認の偵察も出来るわけだし、遠慮なく利点を使わせてもらおうか」
ベルーザの乱入はまさに予定外だったが結果として学院生の成長を確認できたのは儲けものと内心満足してるモーエンだが、表情は引き締める。
「あの皇子さまもただインパクトがあるだけじゃない、噂通りの実力者だ。他のメンバーもそれなりの者を持っているだろう」
そう、実際に対面したからこそ知ったベルーザの実力。
精霊力の保有量は両国代表合わせて最も高く、ラタニのみが可能としていた発動法を可能にしている制御力と噂以上。モーエンの見立てでもセンスはこの中の誰よりもあるだろう。
またお付きのように控えていた他の帝国代表も秘める精霊力はかなりのもの。
精霊力で強さを計るのは危険、ラタニの口癖だが目安の一つではある。故に今回の親善試合も厳しいものになるのは確実。
「なあ坊主、お前さんから見て帝国側はどう思う?」
レイドらも理解しているので気を引き締める中、まずモーエンが意見を求めたのはアヤトだった。
持たぬ者が故に精霊力を感じることは出来ないが観察力や経験から相手の実力を見抜く能力がずば抜けて高い。
ならばアヤトはベルーザを含めた帝国代表をどう評価するか、今後の作戦会議において重要な情報になる。
「話にならん」
「……いや、坊主からすればそうだろうけどよ」
のだが、全く参考にならない評価にモーエンは肩を落とす。
「ま、ラタニがほざいていたように、あの皇子さまはお前らよりはマシなひよっこだ。精霊術士としては、だがな」
「どういう意味だ?」
「それくらいテメェらで考えろ」
「……どこへ行く」
「親善試合がどうのなんざ、出場予定のない俺には関係ないだろう。散歩がてら外の空気を吸いに行くんだよ」
挙げ句、意味深な助言を告げるなりあやとりの紐を乱雑にコートのポケットに収めるなり外出宣言。
「ほんと……集団行動に向いてないね、あいつ」
「相変わらず自己中」
自由奔放なアヤトにニコレスカ姉弟が呆れるも止めるつもりはない。
と言うより止めても無駄なのは分かりきっているのでモーエンは仕方なく保険をかけることに。
「リーズベルト……すまんが坊主に同行してくれ」
「……私が、ですか?」
「一人にしておくと何をしでかすか分からんからな」
まあ無茶はしないと信頼しているが無自覚で敵を作るのがアヤト、抑止力をつけておく必要がある。
それにはロロベリアの他ない。
この中で最もアヤトに遠慮無い物言いが出来るだけでなく、ラタニから聞いた話や僅かな時間ながら見てきた様子でアヤトにとって彼女が特別な存在なのは感じていた。
「要はお目付役を頼むわ」
「私が同行しても制御できるとは思えませんが……わかりました。尽力してみます」
そんなモーエンの期待を知らず、自信なくもロロベリアは立ち上がりアヤトの後を追った。
纏まっているようで纏まっていない(主にアヤト)王国代表サイドでした。
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