異常事態
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「それで、依頼のことを少しは話してくれるの? それともあやとりで遊ぶ?」
踏み込んだ結果に満足しつつ早速切り出すロロベリアにアヤトはしばし思案。
「依頼に関して、それなりにお前は既に役には立っている」
「……いつ?」
「さあな。だがそれなりといえど役にたったなら、少しは話しておくか」
身に覚えのない貢献に首を傾げるもお約束でアヤトは交わしてソファの背もたれに身体を預ける。
「依頼内容について現時点で教えることはなにもねぇ。そもそもこれ以上お前が役立つとは思えんからな」
やはり依頼について話すつもりはないらしいがロロベリアに落胆はない。もともと期待していなかったのもあるが、依頼とは別の何かがある口ぶりだったからで。
「ただ滞在中に何か違和感を抱いた際、特に異常事態と感じなければ何もするな」
「……どういうこと?」
「さあな」
しかしその何かがあまりに抽象的過ぎて説明を求めるがここでもお約束が。
「強いて言えば邪魔になるくらいか。ま、白いのは普段から邪魔にしかならんが」
「さっきそれなりでも役だったって褒めてくれたじゃない」
「かもな」
更に嘲笑まじりの嫌味を言われて口をとがらせ抗議するも相手にされず終いで。
「とにかく依頼のことは忘れても構わん。お前は弱っちいなりに親善試合にでも精をだしていればいい」
「他人事みたいに……あなたも代表でしょ」
「所詮は補欠だからな。そもそも俺が出場できるとは思えんが」
「……確かに」
合同訓練でアヤトの実力を目の当たりにして誰もが認めると同時に出場するのは違うと感じた。
親善試合は学院生同士の対決、特別学院生として在籍しているもアヤトは学院の講習にほぼ出席していなく、学院が育てたわけでもない。
勝利は欲しいが余りに強すぎて学院生同士の対決に出すのは反則ではないかとの気後れから代表メンバーに非常事態が起きればリースを優先。アヤトは不戦勝を避ける最終手段との認識で纏まった。
そして補欠登録が二人までという少なさで分かるように、過去の親善試合を振り返っても代表メンバーが交代するのは本当に希のこと。
もちろん本人が気にしていないようにこの認識は同意の上、ならリースはまだ可能性はあれどアヤトの出場はまずないだろう。
それはさておき、意味深な助言はあれど依頼についてはもう話し合うこともないとアヤトはほくそ笑む。
「少しは満足したか、構ってちゃん」
「まさか。せっかく相手してくれるんだからできる限り付き合ってもらうわよ」
「やれやれ……」
切り上げるつもりでいたが積極性が増したロロベリアが引き下がるわけもなく、呆れつつも向き合い続けるのならと話題を変えた。
「帝国にも訪れたんでしょう? 帝都には立ち寄ったの?」
「旅先で帝国に強者が居ると聞き、どれほどの者かと少しな」
「それって噂の皇子?」
「ま、当時も天才精霊術士さまの噂は聞いたが別だ」
アヤトが旅をしていたのは二年前、親善試合に出場する帝国代表の天才が頭角を現し始めたのも同時期なら一致していると予想したが違うようで。
「俺が聞いたのは黒髪黒目をした強者らしくてな、同族故に話題が上がったんだよ」
「らしくてってことは……会えず終い?」
「どうも下々では簡単にお目にかかれない相手らしくてな。会おうと思えば会えんこともなかったが、さすがに他国で目立つわけにもいかんだろう」
物騒な物言いにロロベリアは若干引き気味、ただアヤトと同じ特徴をした強者は察するに立場の高い貴族だと分かる。
しかしロロベリアが記憶している限り黒髪黒目をした帝国貴族、または帝国軍で有名な強者は居ないはず。となるとアヤトのように訳ありな実力者か、それとも所詮は噂なのか悩むところ。
「だがまあ、今回は何の因果かご縁があるかもしれんが」
なのにここでもアヤトから意味深発言、どうやら彼なりに存在を把握しているだけでなく今回の滞在中に会えるような口ぶりで。
「……どういう意味って聞いても、さあな、でしょう?」
「よく分かったな」
半端な発言で教えてくれないのもアヤトのお約束、ロロベリアも早々に追求を諦めた。
「でもアヤトと同じ特徴の強者か……会えるなら私も会ってみたいなぁ」
「会ってなにするんだ」
「それは……色々聞いてみたいじゃない? あなたが良く頭を使えって言うように、強い人の経験談は貴重だもの」
「ほう? 白いのにしては珍しく殊勝な心がけだ」
「まあね。私が一番の目標にしているあなたが秘密主義で意地悪だから、少しでも多くの経験談を知りたいもの」
「しかも嫌味を言えるほどには頭を使えるようになったか」
「……バカにしてない?」
「褒めたんだがな」
「……で、もしご縁があったらあなたこそなにするの」
「所詮は未確定な予定だ。その時の状況次第で決める」
「…………意外に行き当たりばったりな考えね」
「先も言ったように他国で目立つわけにもいかんだろう。要は遊ぶ機会があるなら遊ぶが、無理して遊ぼうとは思ってねぇんだよ」
「また意外……自重するつもりあるんだ」
「お前こそバカにしてねぇか」
「褒めたのよ」
お返しに肩を竦めるアヤトにロロベリアは微笑んで。
「ところであやとりはしないの? 再戦の約束したでしょう?」
「気が向いたらとも言ったがな……まあいい。そんなに負けたいなら相手してやるか」
「私だってあれから訓練したのよ」
行動に移したことで手に入れたアヤトとの時間を大いに楽しんだ。
一時間後――
「次こそは勝つから」
「言ってろ」
あやとり対決は惨敗に終わり、それでも笑顔で退出するロロベリアを適当に見送ったアヤトは一息吐く。
「本当にお二人はあやとりがお好きですね」
同時にクスクスとの笑い声と共にマヤが背後に現れる。
「兄様もさぞかし楽しい時間だったでしょう」
「どうだろうな。ま、これで少しは白いのも落ち着くだろう」
振り返ることなく苦笑しソファに寝そべるアヤトだが、マヤは前屈みで背もたれからのぞき込み。
「あの忠告をロロベリアさまにされたのは、兄様も期待しているから、でしょうか?」
興味津々な視線を煩わしいとアヤトは目を閉じ返答せず。
「お前にも一つ忠告しておく――余計なマネはするな」
「もちろんです」
変わりの念押しにマヤは頷き。
「わたくしが変に介入しては、それこそ楽しめませんから」
◇
初日こそ積極的な行動からいつも以上にアヤトとの時間を楽しめて歩み寄りは正解だったとロロベリアは満足していた。
しかし今は動揺していた。
もちろん他のメンバーも困惑しているが、初日に意味深な忠告を受けている分ロロベリアの動揺は上で。
アヤトの忠告は滞在中に何か違和感を抱いた際、特に異常事態と感じなければ何もするなと言うもの。
そして今まさにこの忠告に当てはまる事態が起きている。
何故なら二日目の予定もアヤトなら平気で欠席すると誰もが予測し、特にカナリアはどう言い訳するかも考えていた。
現に同室のユースが言うには誘っても無視され、恐らくサボるだろうと予測し、誰もが呆れていた。
「…………」
「…………なんだ」
にも関わらず迎賓館のエントランスに集合時間ギリギリでもアヤトは現れた。
しかもいつもの黒一色の出で立ちではなく、学院生の制服姿で。
まさに違和感を抱き、異常事態にしか感じないこの状況。
忠告通りならここで何かするべきなのかとロロベリアは判断に悩むばかりだった。
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