自分に学ぶ
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カナリアらの心配を余所に到着後は順調に予定を消化。
帝都に隣接する港に停泊し代表のラタニを先頭に船を下りるなり楽団員の演奏と多くの帝都民がお出迎え。親善試合では敵地といえど友好国として、また自国の代表と試合をする王国の代表に対しての敬意があるのだろう。
ただレイドやエレノアと言った王族よりもラタニを称える声が多い。
これは若くして王国最強の精霊術士に上り詰めた実力が王国外にも広まっている故。これまで他国に訪れたことがないだけに一目見ようと集まったのだろう。加えて(黙っていれば)見目麗しい容貌もあって更なる注目を浴びていた。
そのラタニと言えば宣言通り必要な場に相応しいたおやかな笑顔で帝都民の歓声に手を振り応え、出迎えた帝国の外交官にも上辺の敬意を払う見事な対応。
これには帝都民からも素晴らしい立ち振る舞い、さすが噂に名高いラタニ=アーメリと口々に賞賛。ただ本性を知っている王国メンバーは呆れと笑いをこらえるのに必死だったりする。
もう一人の懸念材料のアヤトも特に問題を起こさなかった。
まあ代表といえど学院生、こうした場で発言する機会がなければ起こす以前の話で。
また他の学院生が制服なのに一人だけ真っ黒なコートを羽織っているので妙な注目を浴びていたがその程度なら充分許容の範囲内。
挨拶が終われば帝国が用意した馬車で移動を。
帝都は王都と同じく宮廷を中心に貴族区、平民区と広がるも帝都を囲う外壁は六角形、商業施設などは各区に固まり、貴族区と平民区の間に内壁を設置している。これは王国に比べて貴族と平民が区分されている故。
もちろん圧政ではなく王都の区分けが緩いだけで他国も同じようなもの。ただ帝国は他国よりも精霊士や精霊術士を尊重する、実力主義な一面がある。
故に他国だろうとラタニのような実力者は尊敬されるのだがそれはさておき。
港から馬車で帝都に移動し、一同は貴族区にある迎賓館へ。
荷物が運び込まれている間に外交官から一通りの説明を受け、日が傾き始めた頃にようやく割り当てられた客室に。
ちなみに学院生は二人一部屋を利用。
もちろん室内は充分すぎる程広くバスルームや洗面所も完備、何かあればお付きの使用人を呼べば一通り用意してくれると至れり尽くせり。
レイドとエレノアは王族という立場から一人一部屋、同じ学院生でもここは帝国。こうした示しはやはり必要で。
他の割り当てはカイルとフロイス、シャルツとディーン、ティエッタとラン、ロロベリアとリース、そしてユースとアヤトというペア。なのでユースが微妙な表情、アヤトは我関せずでそれぞれ使用人に案内された客室へ。
「……お腹空いた」
「先に着替えなさい」
入るなりリースがベッドにぽてりと倒れ込むので荷物確認を始めつつロロベリアが窘める。
スケジュール的に昼食抜きになったので気持ちは分かるが船旅後に着替えもせず休むのは淑女としてはしたない。
「どうせもう予定ない。このままで良い」
「……あのね」
到着したばかりで今日は外出の予定はなく、夕食時まで自由時間。もちろん自由と言っても外出禁止、行動範囲は迎賓館内のみと他国民と会うことはない。
とはいえシワシワな制服姿で過ごすのはやはりはしたない。それに海風に当たって少しべたべたする。
夕食前にさっぱりしておきたいが、ロロベリアはドレッサーで簡単に身なりを整えるのみで。
「後で一緒にお風呂入りましょう」
「……どこ行くの?」
ドアノブに手を掛け廊下へ出ようとするロロベリアに身体を起こしてリースが問いかける。
「アヤトのところ」
「……なら、後で」
ただ行き先を聞くなり再びぽてりとベッドに身体を沈めてしまう。
どんな用件で訪ねるかは気になるも、同じ部屋にユースが居るのに誘わないのなら聞かない方が良いと判断したのだろう。
親友の気遣いに感謝しつつロロベリアは廊下へ。
学院生の宿泊部屋は同階にあるも男性は西側、女性は東側と離れているのは当然の配慮。ただ日がある内は行き来を許されている。
逆を言えば夕食後は禁止、つまり話をするタイミングは今しかない。
到着直後に出歩いている者は居なく、静かな廊下を進み記憶しているアヤトとユースの部屋に到着。
「姫ちゃん?」
ノックをしてすぐドアを開けたのはユースで、突然の訪問に首を傾げるも。
「アヤトに会いに来たの」
「……んじゃ、オレは姉貴の様子でも見てくるわ」
用件を告げるなりリースと同じく察してくれて、入れ替わりにユースはそのまま廊下へ。
「何のようだ」
ロロベリアが室内に入るなり煩わしげな問いかけ、視線を向ければソファの上に横たわりアヤトはあやとりに興じていた。
朧月と新月は鞘に収められたままのテーブルに立てかけ、手を伸ばせば届く位置に置いてある。
一応コートは脱いでソファの背もたれに掛けている分、制服のままベッドにぽてりしたリースよりはマシかなと苦笑し、ロロベリアはテーブルを挟んだ向かいのソファに腰掛けた。
「今の内に確認しておこうと思ってね」
「なにを」
「国王さまのご依頼に私がなにか協力することはあるのかなって」
「…………」
問いかけに紐を編むアヤトの指がピタリと止まる。
「あなたはその時になればと言ってたけど、王国を出発してから二人で会う機会もなかったでしょう? だから一応こちらから出向いたの」
そもそもアヤトが騎士クラスに所属したのは国王の依頼が発端。
この事実を教えてもらった際、ロロベリアにも関わる可能性があると口にした。ただ以降、アヤトから何も要請がないままで。
出発前夜に屋外演習場で二人きりにもなったが、こうしてゆっくり言葉を交わす機会は殆どなく、帝国に到着したタイミングで一度ロロベリアから確認するつもりでいた。
「無くてもあなたが帝国で何をするのか、私に教えられる範囲で良いから話してもらえない? でないと気になって親善試合どころじゃないのよ」
そして自分から踏み込むつもりでいたのだ。
アヤトは秘密主義で基本質問しても答えてくれない。しかしだからと言って諦めるのも違うと感じ始めた。
こうした意識の変化は帝国領へ向かう船内でラタニに語った昔話が切っ掛け。
シロになる前の自分は幼いが故に空気が読めず、無神経な行動ばかりしていた。
しかし学ぶべきところもある。
無邪気だからこそ怯えず自分が望むままの行動に移せた。結果として心を完全に閉ざしていたアヤトの嘘じゃない笑顔を取り戻すことができた。
もちろんロロベリアも成長した、いつまでも無邪気なままではいられない。
それでも自分が本気で望むなら、欲しいのなら、従ってばかりでは、待ってばかりではいつまで経っても変わらない。
ならば今の自分も積極的に行動に移すべき。ただ無邪気にではなく、成長したのなら相手のこともちゃんと考えた上で自分の望みを手に入れるべく。
未来に名を残す大英雄になり、アヤトとこれからを共に歩み続けること。
アヤトをもっと知って、もっと自分を知ってもらう――要はわかり合うこと。
これがロロベリアの大まかな望みで、今できることはわかり合うことなら今まで以上に積極的に歩み寄るべきと考えた。
なにより多少強引に踏み込んでも迷惑とは思わない。なんせアヤトは誰よりも自分勝手で周囲に迷惑を掛けまくっている。
結果的に誰かを救っている部分は見習うが――
「後は……そうね。私があなたに会いたいと思うのに理由は必要かしら?」
愛する人とは少しでも時間を共有したい、この気持ちもまた自分の望みで今できることと開き直って。
アヤトには迷惑かも知れないが、やはり強引に踏み込むくらいでなければわかり合えない気がするし迷惑なら迷惑だと口にする人だ。
などと開き直ってみたもののロロベリアは拒絶されないかと内心ドッキドキ、気恥ずかしさも相まって顔がとても熱く。
対しアヤトと言えば積極的な発言にたじろぐわけもなく、わざとらしくため息一つ。
「やれやれ、帝国でも構ってちゃんは健在か」
「王国や帝国とか関係なくない?」
「違いない」
いつものように嫌味を口にするも、あやとりの紐を指から外して起き上がり。
「ま、白いのが親善試合に集中できんのは知らんが、少しは構ってやらんとノンビリできんらしい」
皮肉交じりでもソファに腰掛け、向き合ってくれたのなら迷惑ではないようで。
「なんせ構ってちゃんですから」
とりあえず行動に移して正解だったとロロベリアは微笑んだ。
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