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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 はじまりの物語
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シロ 前編

アクセスありがとうございます!



 ロロベリア=リーズベルトは赤子の頃、教会前に置き去りにされていた言わば捨て子だった。


 この事実をシスターから話されたのは三歳の誕生日、つまり拾われて三年目の日。

 ただ特に不幸だと感じなかったのは覚えている。

 父のような神父、母のようなシスター、自分と似た境遇で共に暮らしていた兄や姉。

 血の繋がりはなくともみなロロベリアに優しく、時には厳しく、温かく接してくれた。捨て子の自分が他の家族とどう違うのだろうと疑問に思うほどに。

 血の繋がりのある家族はいなくても、心の繋がりのある家族がいるなら寂しくない。寂しくないなら不幸でもない。

 もちろん当時はそこまで深く考えてはいない。これは成長した自分の解釈だ。

 故に生活は貧しくともロロベリアは不幸だと感じたことは一度もなかった。たくさんの家族と仲良く暮らす時間はむしろ温かで、幸せだった。


 そして八歳の頃――

 

 半月前に商人を生業とする両親が仕入れの際、賊に襲われて身寄りを無くした少年。

 田舎町が故に誰もが引き取るに余裕がなく保護した警備兵が昔なじみの神父を頼ったらしく。

 教会も決して裕福ではないが、少し前に独り立ちした子もいたので一人くらいなら受け入れても問題なく。

 また少年の境遇を憂い、同い年の子供もいるので立ち直る良い切っ掛けになればいいと了承し。


「アヤト=カルヴァシアです。よろしくお願いします」


 教会に新しい家族として紹介された。


 礼儀正しく挨拶をする少年はシスターや兄姉は快く受け入れたが、ロロベリアのみ最初の印象はあまり良くなかった。


 ロロベリアはずっと神父に挨拶は『人と人が仲良しになるための最初のおまじない』と教わっていて。

 ならそのおまじないをちゃんと出来た少年は仲良しになる気持ちがあり、問題はないハズなのに、なぜか歩み寄るよりも距離を置くように感じた。

 それは恐らく、王国では珍しい彼の髪と同じ黒い瞳に感情が備わっていなく、向ける笑顔もどこか嘘のような笑顔に見えたから。


 つまり彼のおまじないは嘘だと思えたからで。


「ロロベリアとアヤトは同い年だから、馴れるまで色々と教えてあげてね」


 それでもこれまで最年少の、言わば末っ子のロロベリアは家族に何かを教えるという立場は初めてで、同い年でも誕生日が少しだけ先というのもあり。


「はーい!」


 自分から仲良しになる意思を向ければきっと嘘じゃないおまじないをしてくれると信じて、最後は前向きな気持ちで受け入れた。


 しかし上手くいかなかった。


 というのもアヤトは全く手の掛からない子供だった。

 一緒に暮らし始めてからすぐ彼は進んで神父やシスターのお手伝いを申し出て、何かを頼まれても嫌な顔をせずむしろ笑顔で了承する。

 また両親が商人だったからか、算術や読み書きがロロベリアどころか兄や姉よりも出来るし、一度教えたことは忘れない。

 わがままも言わない、穏やかで大人しい性格。

 故にお姉ちゃんっぽい立場を張り切っていたロロベリアが教えることがほとんどなく、あっという間に教会での暮らしに馴染んでしまった。

 少し残念でも新しい家族が馴染んでくれる方がずっと良い、子供でもそれくらいの良識

はロロベリアにはある。

 なにより彼女にとって家族とは幸せの象徴、アヤトという新しい幸せが増えるのは喜ばしいことだ。


 ただ、だからこそロロベリアは不満だった。


 みんなの言うことは素直に聞く、教えたことは忘れないのに――


「ロロベリアさん、シスターが呼んでますよ」


 礼拝堂の清掃をしていたロロベリアに声を掛けるのはアヤト。

 いつも通りの笑顔で、柔らかな口調で。


「ここはぼくが変わりますから」


 お願いするより先に清掃を変わろうとモップに手を伸ばす。


「ありがとう。でも何度も言ってるよね、さんはいらないから」


 そんな優しい気遣いに、しかしロロベリアは頬を膨らませ、お礼を告げつつ不満も口にする。

 自己紹介時にロロベリアは呼び捨てで良いよと伝えた。

 これから家族になるし同い年でもある、なら他人行儀にさん付けはいらないとの気持ちで、これも教えるつもりでまず自分から『アヤト』と呼んだ。


『わかりました。ロロベリアさん』


 なのにアヤトはさん付けで返した。

 分かったと言ってるのに。

 自分はアヤトと呼んでいるのに。

 

「すみません。ロロベリアさん」


 今も反省しているのにさん付けのまま。

 最初だからと、まだ新しい環境や家族に馴染んでないからと寂しくとも仕方なく受け入れたが、何度繰り返しても、いつまで経っても直してくれないアヤトにいい加減ロロベリアは苛々して。


「だから! ()()、はいらないの!」

「すみません。ロロベリアさん」


 つい声を張り上げてしまったが、やはり変わらない。

 そもそも反省しているのにどうして彼は変わらず笑顔なのか。

 この態度が更に苛つかせて。

 ついには手にしていたモップをドンと床に叩きつけるほどの怒りを見せて。


「いい加減に――」


「ロロベリア、なにしてるの?」


 癇癪を起こす寸前、背後から咎めるような声が。

 振り返れば庭先を掃除していたマリアの姿。


「叫び声が外まで聞こえたけど、いったい……ああ、また」


 マリアはここの最年長で一四才、またロロベリアが拾われた際から居る最古参で。


「それで……アヤトはロロベリアのお手伝いに来たの?」


 ある意味子供たちのまとめ役が故に、状況ですぐさま察してまずアヤトへ確認を。感情型のロロベリアが感情的になればより話にならないのを理解しているからこそで。


「いえ、シスターがロロベリアさんを呼んでいたので伝えに来ました」

「そう。悪いけどアヤト、礼拝堂の清掃を頼んで良い?」

「はい。そのつもりでしたから」

「ありがとう。ならロロベリアは早く行きなさい」

「でも……っ」

「私は行きなさいと言ったけど?」

「……はい」


 そんなマリアにロロベリアも逆らえず、不満げにしつつも従った。


 だがまとめ役だからこそ信頼もされているわけで。


「それで、ふくれっ面のロロベリアちゃんはシスターに何を言われたのかなー?」


 同日夜、マリアが寝室に入るなり垂れるように背後からロロベリアに抱きついた。

 先ほどシスターの下へ行ってからのロロベリアは分かりやすいほど不機嫌顔、故にアヤトを除いた他の家族も察していたが敢えて見て見ぬふり。

 というのもマリアが行動を起こすと信頼してのこと、なので二人きりになるタイミングで彼女も信頼通りの行動を起こしたのだが。


「まあ聞かなくても分かるけど。アヤトのことでしょ?」

「……どうしてわかるの」


 不機嫌の理由は他にないと察していたが、言い当てられたロロベリアは戸惑ってしまう。

 良くも悪くも真っ直ぐが故に、周囲の状況が見えなくなる不器用な可愛い妹の頭を撫でつつマリアは返答を。


「私はロロベリアのお姉ちゃんだから。とにかく不満があるなら早くはき出して。ふくれっ面を眺めながらだとご飯が美味しくないから」

「お姉ちゃんとは隣だから、わたしの顔は見えないよね……」


 勝手な物言いに反論するもロロベリアの表情は少しだけ晴れている。

 みながこの場を任せる信頼があるように、ロロベリアもマリアを信頼しているからで。

 だからいつものように小さなテーブルを挟んで向かい合うよう床に腰掛ける。

 ちゃんとお話しするときは相手の目を見て、これも神父から教わった大切な事。


「不満というかね、よく分からなくて……」


 なのだが向き合ってもロロベリアの視線はテーブルに向けられていた。

 シスターからアヤトに呼び捨てを強制しない、怒鳴らないよう注意を受けた。

 別にアヤトは悪い事をしていないし、相手には相手の考えがある、なら気持ちの押しつけは違うでしょうと。

 でもロロベリアは納得できなかった。

 相手には相手の考えがあるのは分かる、でも家族だからこそ他人行儀も違う。また何か考えているのならちゃんと伝えてくれないと分からない。

 それをアヤトが怠っているなら、それこそ注意するのが家族だと反論したが。


「でもわたしの気持ちを押しつけるのも違うでしょうって言われて……」

「それが不満だと」

「だってわたしは仲良しになりたいって気持ちを向けてるんだよ? これって悪いことなの?」


 テーブルの上で両手を組み確認するアリスに返答よりもロロベリアは前のめりで疑問をぶつける。


「アヤトはもう家族なんだから、仲良くなりたいって気持ちは悪くないよね?」


 あなたと仲良くなりたい、家族としての絆を深めたいとロロベリアなりに歩み寄っていたつもりだ。

 家族として当然で、悪いことではないはずなのに注意された。この矛盾が納得できなくて。

 真っ直ぐ見据えるロロベリアの瞳を見つめ返していたマリアはしばしの無言後、小さく息を吐いた。


「悪くはない……けど、そこが相手には相手の考えがあるってことじゃないの?」

「……どういうこと?」

「例えばだけどアヤトがロロベリアと仲良くしたくない、家族じゃないって考えてるなら一方的な感情で、こう言ってなんだけど余計なお世話になる」

「そんな……だってアヤトは家族なんだから仲良くしないと――」


「だから、例えだって。つまりアヤトが今、何を考えているのかはアヤトにしか分からないってこと」


 少し例え方が間違っていたと興奮するロロベリアを宥めつつ、マリアは間を置き改めて切り出す。


「そもそもさ、ロロベリアはアヤトが考えてることを伝えてくれないから分からないって言ったよね? じゃあロロベリアはアヤトに自分の考えをちゃんと伝える努力をしてる?」


 観点を変えてアヤトではなくまずロロベリアの間違いについてを自分なりに考察して。


「呼び捨てについてもそう。あなたたちは同い年だからさんを付けられると何か他人行儀に感じる、名前で呼び合う方が仲良し。まあ普通の感覚だけど、それがアヤトにとって普通か分からない」


 シスターの注意からこれまでロロベリアがアヤトに続けていた態度、言動を踏まえて感じていた問題点を丁寧に。


「それに呼び捨てが仲良しな証拠でもないでしょう? ロロベリアちゃん、ロロちゃん、ロロってちゃん付けや愛称での呼び方も仲良しだからこそだし」


 まるでお手本を示すように相手を大切に思うが故に厳しい言葉を交えても伝わるように。


「要は自分の考えを相手に伝えもせず気持ちを察してくれないから嫌だってのはわがままで、自分がしてない努力を相手に強制するのは傲慢ってこと。とくにアヤトはここに来てまだ数日、私たちのことをよく知らないんだからなおさらね」


 ロロベリアの気持ちが正しいのなら、その上でやり方を改善すればアヤトにも正しく伝わる。

 なによりロロベリアなら理解してくれるとの信頼を向けた笑顔で諭していく。


「で、同い年でもロロベリアはここでの暮らしは先輩なんだから。シスターも最初にお願いしてたでしょ、色々教えてあげてって。ならロロベリアが今アヤトに一番教えないといけないのはここで暮らすルールや、お手伝いよりも」

「……わたしたちのことを教える。知ってもらう努力をする?」

「それとアヤトを知る努力をする、かな? もっとお喋りして、お互いに知ってもらう、知る努力をするために」


 やはり信頼に応えてくれたとマリアは満足げに手を伸ばしてロロベリアの頭を優しく撫でた。

 残るはロロベリア自身が気づいていない、これからアヤトとの仲を深める気持ちに気づかせるべきと最後の後押しを。


「後ね、ロロベリアは家族なんだから仲良くしないとって言ってるけど、それってアヤトが家族だから仲良くしたいの?」


 ロロベリアは家族を大切にしている、そして良くも悪くも真っ直ぐだ。

 故に全てを家族だからとの言葉で纏めてしまう。


「もちろん家族が仲良くするのは良いこと。でも家族じゃないなら仲良くしなくてもいいわけでもない。つまり家族とか抜きにして、ロロベリアはアヤトと仲良くなりたくないの?」


 これではアヤトが家族に、教会ここに引き取られたから仲良くしないといけないとの使命感のように捉えられる。

 つまり、そのままだとすれ違う可能性がある。

 これではロロベリアも、アヤトも救われない。

 こんな悲しいすれ違いをマリアは望まない。


「まあ仲良くなる、ならないは相性もあるから。私は無理にアヤトと仲良くなる必要はないと思う。無理して仲良くしてるってそれこそ家族じゃないから」


 少なくともロロベリアの気持ちは使命感でも、無理な感情でもないと察していた。

 なんせロロベリアが物心ついてから新しく加わった家族はアヤトが初めてではなく、その誰もが大切な誰かを失った、または孤独に苛まれていた。

 孤児として引き取られてくるからこそ、当然の状態で、みな少しずつ自分たちの繋がりから今を受け入れ、立ち直り、血の繋がりはなくとも家族という絆を育んできた。

 そしてロロベリアも少しずつ相手と距離を縮めて、魅力ともいえる無邪気な笑顔で接し続けて家族の絆を育んできた。

 しかし何故かアヤトに対しては別で、マリアから見ても性急に、言ってしまえば無理して距離を縮めているように感じていた。

 この違いは初めての同い年だから、ではなくもっと単純な理由だろう。


「そこを踏まえてロロベリアはアヤトを知って、自分を知ってもらう努力をするべき……なんだけど、ロロベリアは純粋にアヤトと仲良くなりたいんでしょう? だから他人行儀なのが嫌なんでしょう?」


 要は家族だから、ではなく、純粋にアヤトと仲良くなりたい理由がある。


 理由が何かまでは分からないが、使命感や無理な感情ではない純粋な気持ちなら尚のことすれ違いを防ぐべきで。

 現に指摘されたロロベリアははっとした表情になり、今さらながら自分の気持ちと向き合うように俯き考え込む。


「わたしは……アヤトと仲良くなりたい」


 呟きと共に顔を上げて見えた瞳には、ロロベリアらしい真っ直ぐな意思が感じ取れて。


「なら後はアヤト次第か。じゃあこれからは今までみたいに中途半端な押しつけをせずに、ちゃんと向き合って――」

「だからアヤトとお喋りしてくる!」

「て、今からっ?」


 これですれ違う事はないだろうとマリアは安心するが、言葉途中で立ち上がるロロベリアに手を伸ばすも呼び止める間もなく寝室を飛び出してしまった。


 ◇


 残されてマリアは呆然としていたが、苦笑と共に伸ばした手を下ろす。


「まあ、だからこそか」


「ふふ、私もそう思います」


 思わず口にした独り言に同意する声、開きっぱなしのドアから変わってシスターが入室してきてマリアは再び苦笑を。


「……やっぱり、わざと半端な注意したんだ」

「適材適所ですよ。私は嫌われ役、あなたは好かれ役と」


 悪気のない笑顔に、何が嫌われ役かとマリアは突っこみたい。

 ロロベリアが家族に加わる前、荒んでいた自分を導いてくれたのは神父の尽力もあるが、やはりシスターの存在が大きかったのだ。


「それにあなたも将来、誰かを導くシスターを目指すなら今の内に色々な経験をしておくべきでしょう?」

「お母さんみたいにね」


 故に自分もこの人のような大人になりたいとシスターになる道を決めた。

 だから期待に応えられた事が誇らしいが。


「じゃあ代わりを務めた可愛い娘にご褒美あげるのも良いんじゃない?」

「ご褒美によりますが、なんですか?」


 それで終わりはつまらないとマリアは遠慮なく甘える事に。

 荒んでわがまま放題になったり、悲しみから落ち込んだりと感情を見せてくれた方がまだ歩み寄りやすい。

 しかしアヤトは完全に心を閉ざしている。

 だからこそ半端な歩み寄りはマイナスになると手をこまねいていた。

 要はシスターのいうように適材適所。

 変に考えてしまう自分たちではアヤトの閉ざした壁を前に怯えてしまうがロロベリアは違う。

 怯えるよりも突き進み、壊すだけの強い魅力があるからこそ。


「そろそろ一人部屋も良いかなって」


 新しい弟を救うのはロロベリア以外にいないと考えていた。




ロロベリアとアヤトが出会い、お互いを『シロ』『クロ』と呼び合うまでのはじまりです。

やはり今作はこの二人が主人公なので重要でしょう。

なのでロロベリアがどのようにしてアヤトを救ったのか、次回をお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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