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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 はじまりの物語
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終章 旅立ち

アクセスありがとうございます!



 二年続いた訓練最後の結果は、結局一勝一敗。


 その後は意識を取り戻したアヤトがいつも通りに夕食を作り、マヤを含めた三人で食した。

 ただ食後のティータイムはマヤが気を遣ったのか二人で過ごし、この二年間ではほとんどしなかった語らいをしばし。まあ大げさすぎるとアヤトも、ラタニも感じたのかいつもより少しだけ長い程度で解散。


「何度も言うけどせっかちさんなこと」

「何度も言うが時間の浪費は好まん」


 翌朝、日がまだ山間に半分隠れている時間にラタニは旅立ちを見送っていた。

 しばらく旅に出るのにアヤトの荷物は愛用の片刃剣のみ。

 朝一発の寄り合い馬車でラタニが通っていたマイレーヌ学院があるラナクスに立ち寄り馬車や最低限の必要品を購入し、そこから王国内を巡って他国へ向かうという。

 路銀に関してはラタニが小隊長に任命されて以降、いくつかの依頼や執務を手伝って得た給金があり、荷物にならないよう宝石類も既に購入していたりと既に旅の準備をしていた。

 まあ路銀が尽きてもどうにか出来るだけの実力や知識があるので心配はないが、実に計画性のない気ままな旅だと呆れたもので。


「とにかく世話になった。これまでの生活費は旅を終えた後に返済する」

「へいへい。こき使いまくるから覚悟してな」


 改めて礼と約束を告げられラタニは呆れながらも頷く。

 返済も何も家族なら必要ないのにアヤトが借りを作るのを好まないと譲らず、昨夜の内に決めていた。ただこうした約束も必ず帰ってくるとの意味にもなるのでラタニも了承したのだが。


「では、わたくしはお世話になったお礼を今ここで」


 変わりにマヤが一歩前へ。

 伸ばした左手を握りしめ、開いた手のひらには金の縁に白銀の宝石がはめ込まれた四角いブローチが乗っていて。


「これはわたくしの神気で象ったブローチです」

「神気でねぇ……なんでまた」

「それは手にしてからのお楽しみです」


 若干、嫌な予感をしつつラタニはブローチを手にした。


『――聞こえますか?』


「は?」


『聞こえたのであれば、わたくしに話しかける感覚で念じてください』


 目前に立つマヤは微笑んだまま口を動かしていないのに声が聞こえてラタニはキョトン、とりあえず言われるまま念じてみる。


『……こんな感じかい?』


『そんな感じで』


『んで、これはなにさね?』


『このブローチにラタニさまが触れている間、どれだけ離れていてもこうしてわたくしとお喋りが出来るようになります』


 脳内に響く説明にラタニはもう笑うしかない。

 距離関係なく触れるだけでマヤと連絡を取り合える通信機のようなもの。

 制約としてマヤから自分に語りかける場合は手の届く範囲になければ聞こえず、自分からマヤに語りかけるには皮膚に触れていないと聞こえないらしい。ただブローチサイズで距離も関係なく、貴重な精霊石も必要としない通信機など世界中どこを探しても存在しないし、恐らくこれから先も開発されないだろう。

 相変わらずとんでもない現象を平然と可能にする辺りが神さま。

 しかしこれがあればアヤトの近況をいつでもやり取り出来るわけで。


『兄様共々お世話になったお礼として、旅先で何かありましたらご連絡いたしますし、ラタニさまも何かございましたらご遠慮なくお使いください』


『遠慮なくもらっとくんよん。ありがとね、神さま』


 ならば受け取らない理由はない。

 これで本当に安心して見送れるとラタニは心からの感謝を伝えた。


「そろそろ行くぞ」

「ほいほい。んじゃま、気をつけて。歯磨き忘れるなよ~」

「テメェこそ少しは掃除しろよ」

「では失礼します」


 そして旅立ちとは思えないやり取りを最後にラタニは手を振り二人を見送り。


「さ~てとん。これから忙しくなるねぇ」


 名残惜しさもなく住居に戻った。

 アヤトが旅立つならセイーグで暮らす必要はなくなるので王都へ戻るつもりだ。

 これから引っ越し作業が待っているが寮には戻らず王都に住居を構える予定。なんせ読書好きなアヤトが残した本が大量にある。

 なにより旅を終えればまた帰ってくる。

 まあ再び共に暮らすかどうかは未定だが、それでも帰る家を用意しておくのも良いだろう。

 なんせ自分たちは家族だ。


「でも面倒だし……カナちゃんらに手伝わすか」


 ちなみにアヤトの旅立ちを事後報告にしたことはさすがに国王からお叱りを受けて、定期的に手紙を書くのを約束させていると嘘を吐き、早速ブローチを使って手紙を送るよう頼み込む羽目になったり。

 挨拶無しに旅立ったアヤトと、引っ越し作業などを小隊任務という私的理由で手伝わせたラタニにカナリアがブチ切れてしまったのだが。


「帰ってきた時、クソ生意気な弟がどれだけ成長してるか楽しみだ」


 そんな悲惨な未来が待っていると知るよしもなく、ラタニは独りになっても寂しさを感じさせない笑顔を浮かべていた。



 ◇



 名残惜しさや寂しさもなくアヤトは寄り合い馬車乗り場に向かっていた。


「ラナクスに到着した後は、どちらに向かいますか?」


 隣を歩るくマヤも当然、むしろ楽しげに問いかける。

 もちろん路銀削減の為、到着前に姿を消す予定だがそれはさておき。


「まだ墓があるかは知らんが、まずは父と母に挨拶しに行くか」

「大げさではありませんか?」

「よく考えりゃ二年も無視してたんだ。大げさでもねぇよ」


 この二年ほとんどセイーグで過ごし、外出も任務手伝いなので立ち寄れなかったが、旅を決意してから最初に決めていた予定で。


「それに報告もあるしな」

「報告ですか? どのような?」


 興味津々と質問するマヤにアヤトは面倒げにため息一つ。


「教える義理はねぇ」

「教えてくだされば旅の間、三回までわたくしが無償で協力する、という条件なら如何でしょう?」

「……えらく羽振りがいいな」

「それほど兄様のお考えは、わたくしにとって興味深いのです」


 クスクスと笑うマヤに冷ややかな視線を向けるも、何が起こるか分からない道中で三回といえど神の協力を得られるのは大きい。

 なのでこの取り引きは悪くないとアヤトは了承を。

 まあ知られて困る事でもないと視線を前へ戻して。


 胸くそ悪い()()()()()――


 悪態を吐くも、その表情は笑顔だった。




これにてアヤトとラタニの始まりは終了です。

そして旅だったアヤトの一年、王国に帰国してからラタニと本気で戦った内容、ロロベリアの前に現れるまでの一年などは断片的ではありますが本編で描く予定です。

つまりネタバレになるので外伝で描けるのはここまで。

断片的でもどの内容も盛り上がり展開(予定)なのでお楽しみに!

さて、次回更新ですが終章と題しておきながらまだ外伝は続きます(汗)。というのもこの外伝は『はじまりの物語』、つまり本当の意味で今作の『はじまり』はもちろんあの二人のはじまりでしょう。

なので次回更新は第五章ではなく、全二話でそちらを予定、本編はもう少々お待ちください。

もちろん本編を彩るに必要な内容なので楽しんで頂けると思います!


そしてみなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想や誤字報告もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

みなさまの応援が何よりのご褒美です!

読んでいただき、ありがとうございました!



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