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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 はじまりの物語
112/776

密約

アクセスありがとうございます!



 医師に目を覚ましたことや、最初は混乱していたが今は落ち着いていること。もし問題なければチェック後に二人分の食事を用意するよう指示を出したラタニは病室に戻らず一度医療施設を後にした。


 本人が話を合わせると言うなら一人にしても問題ないと判断したのでメディカルチェックを受けている間に交代でアヤトの監視をしているカナリアの下へ。

 彼女経由でやはりアヤトが目を覚ましたこと。

 とりあえず名前を教えてもらえるくらいは受け入れてもらえたこと。

 メディカルチェック後このまま自分が色々と事情を聞き出すことを国王に報告してもらうためだ。

 元よりアヤトの身は国王からラタニに一任されているのでカナリアも不服はなく、何故かとても残念がっていたが了承してくれて。

 病室に戻れば既にメディカルチェックも終わっていて、指示通り二人分の食事が用意されていた。


「改めてお聞きするけど、アヤトくんはいつからクソみたいな時間を過ごしてたんだい?」


 なので遅い昼食を食べつつ先ほどの続きを始める。

 食感も微妙、味も薄くむしろ不味い病院食を感慨深い表情で口にするアヤトの様子から本当にクソみたいな時間を過ごしたのだろうと感じたのはさておき。


「……今は精霊暦何年だ」

「九七七年、ついでに今は火精霊の三月だけど?」

「俺の両親が亡くなり、警備兵に身柄を保護されたのが九七四年。なら三年ほど過ごしたらしいな。まったく、よくもまあ生きていたもんだ」


 時間の感覚も分からなくなるほどの地獄、それでも自嘲気味に言い切る辺りがやはり好感が持てる。


「どんな時間か知らんけど、そうみたいだねぇ。んで、警備兵に保護されて気づけば施設にご招待されてたと」

「経緯までは覚えてないが恐らくな」

「ちなみに何歳?」

「もうすぐ一二になる」

「ならお祝いしないとね。なんせ予定ではアヤトくんはあたしと暮らすんだし」

「あん?」

「後でお話ししようと思ったけどちょうどいいか。お休みしてる間に神さまと決めたんよ」


 そろそろ本題に入ろうとラタニは隣で自分の病院食を興味深げに摘まんでいるクロノフに視線を向ける。

 ちなみにクロノフも一緒に食事をしているのは、これを機会に色々と人間を学びたいらしい。神さまが食事をするとは新発見なのはさておいて。


「まあ、前払いで借りを作ってるから神さまのお願いを断れなくてねん」


 事情を知らないアヤトにクロノフと交わした取り決めを説明する。

 もしアヤトが被害者なら賠償に加えて国が今後を保証すると最初の報告で国王が約束してくれた。

 被害者と言うことは天涯孤独、身寄りがないなら当然の贖罪。サーヴェルも保護者として名乗り出てくれたし、国王の約束もラタニの予想通りだ。


 だが今後の予想を聞いたクロノフがラタニに引き取るよう提案した。

 クロノフの目的はアヤトの観察。姿を消しても可能だが人間の生活にも興味があるので顕現した状態で観察したいらしい。

 ならばアヤトだけでなくクロノフの存在を知るラタニが適任。今後お世話になるからと承諾も得ず前払いの情報を与えてくれている。


 国王を始め同僚には地下施設の爆発は跡地周辺にある無数の精霊力を感知して、証拠隠滅と混乱に生じて研究者が逃亡を図ったとの推測を説明したが、精霊力の感知に自信があるラタニでも既に数百メルも離れている相手を察知するのは不可能。

 そしてクロノフの前払いとは施設の爆発理由と逃げ出した研究者の所在地。お陰でラタニは遅れてやってきた同僚に的確な指示を出せて容疑者全てを確保できたのだが、情報の出所を説明するわけにもいかずらしい理由をでっち上げただけで。


 また神の存在を知らない相手にアヤトを任せるわけにもいかない。どのような性格かはまだ分からないものの、やはり危険すぎる。

 こうした利害一致もあり、ラタニはクロノフの提案を受け入れることにした。

 アヤトを引き取るなら寮を出ることになるが問題はない。寮暮らしに拘りもなく軍務で得た給金もある。

 箝口令を敷かれている事件でも、しばらく王都を離れる方が良いので王都と学院の中間あたりに屋敷を購入し、クロノフは後にラタニが保護した少女として共に暮らす予定。これで神の存在を知らない者の前でも顕現できる。


 この条件ならラタニとアヤトの二人暮らし、クロノフも遠慮なく顕現して観察できる。

 ちなみにクロノフの容姿やアヤトの妹として引き取るのはラタニの趣味と、今後を踏まえて同じ黒髪黒目にしたのだが。


「もちろん王国側から色々と提案してくるだろーから、そっちが魅力なら要相談ってことでどうかにゃー?」


 どちらにとっても悪い条件ではないとラタニは確認を。


「……いや、それで構わん」

「なら決定と。神さまはしばらく時間を空けて、あたしが保護したって感じに……の前に、さすがに神さまと呼ぶわけにもいかんか」


 事後承諾も得て安心するも別問題が。

 まあクロノフでもいいかもしれないが、意外にもクロノフが乗り気で。


「ですね。ではあなたが名付けてくれませんか?」

「俺がか」

「契約者ですし、設定ではわたくしは兄様の妹になります。拾ったからには責任を取っていただければと」

「……野良神さまってわけか」


 捨て犬や猫のような扱いや既にアヤトを兄様と呼ぶ辺りがやはり乗り気と、どうも神さまは気まぐれなだけでなくノリも良いようで。


「ならマヤでどうだ」


 クロノフの要望にアヤトはしばしの思案後、名前を決定。


「二文字なら呼びやすいからな。拾ったのも夜中だ」


 祖国の文字をもじって『真夜』で『マヤ』とは安直な名。


「ではわたくしは今後、マヤと名乗ります」

「ほいじゃ、色々と決定したところで改めて。しばらく身を隠すのに王都を離れる。アヤトくんの希望であたしが引き取るって国王さまに報告しておくかねー」


 本人が気に入ったのなら構わないとラタニは纏めに入った。



 ◇



 方針を決めてから間もなく、秘密裏にレグリスとの謁見で自ら謝罪と賠償に関する話し合いの場が設けられた。

 その席で自国の王を前に跪くどころか『テメェが国王か』の第一声にはさすがのラタニも恐れ入った。

 ただ正式な場以外は大して変わらないラタニを気に入るレグリス。

 むしろ大笑いで受け入れたのだが、後の話し合いで賠償に関する提案を全て拒否したアヤトが望んだ唯一の願いがより気に入る理由になったのだがそれはさておき。


 事前に報告していたこともありラタニがアヤトを引き取るのを許され、既に王都とラナクスの中間にある小規模の町セイーグで屋敷を購入済み。

 まあ屋敷と言ってもアヤトの素性を考えると下手に使用人を雇えず、ラタニも豪勢な暮らしを好むタイプでもない。加えて二人暮らしなら広さよりも実用性重視と取り壊し予定だった町外れの集会場を急遽改装して住めるようにしたのだが。


 ちなみにアヤトが賠償を断ったのでラタニの資産で購入。変わりに今回の功績として国が適している場所を探し、改装資金だけでなく人手も出してくれたりする。

 なので外装こそ古ぼけているが内装は新築そのもの。平屋でもリビングの他に部屋数は三つ、浴室や台所もありと広さこそないものの平民が暮らすには充分すぎるほど。

 ただ本来ラタニほどの成功者ならあり得ない居住。しかし変わり者という噂が功を奏しこのような報酬を望んでも事情を知らぬ周囲は怪しむどころか『相変わらず何を考えているのか』と呆れていたらしい。


 とにかく準備が整うなりアヤトは王都を離れることに。期間中ラタニも引っ越し作業を終えているのでスムーズにセイーグへ。


「さーてと、一息吐いたらお買い物に行きましょうか」


 新居をアヤトと顕現したマヤの三人で確認したラタニはリビングを見回し提案を。

 荷ほどきよりもまずは必需品の購入。家具などは改築時に用意してくれているが生活必需品は最低限しかない。最近まで研究施設に幽閉されていたアヤトの私物は医療施設に滞在するに必要分のみ。

 新しい暮らしに馴れるまで、というよりアヤトが日常生活に馴れるまで軍務や学院は休暇扱いと時間も充分ある。


「アヤトも遠慮なくおねだりしんさいな。お姉さんが何でも買ってあげるよん」


 久しぶりの自由な時間と新しい環境からまるで子供のようにはしゃぐラタニを余所に、アヤトはノンビリとお茶を飲み。


「ならお言葉に甘えるか」

「ん? 何か欲しい物があるのかい?」

「本だ」

「……本?」


 さほど珍しい物ではないが予想外なおねだりにラタニは首を傾げるも、アヤトは更に続けた。


「それと物ではないが頼みがある」




みなさまにお願いと感謝を。

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作者のテンションがめちゃ上がります!

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