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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 はじまりの物語
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自己紹介

アクセスありがとうございます!



 翌日、王城で襲撃報告が行われた。


 議会の間には国王のレグリスを中心に、宰相や王国の中枢を担う代表と襲撃メンバー代表のサーヴェルとラタニのみ。

 他の襲撃メンバーは実験に関わっていた容疑者の監視や取り調べを行っている最中で。


「ご苦労であった」


 二人から報告を受けたレグリスは労いの言葉を掛けるも、今後を考えているのか顔色は悪い。

 これまで得た供述をまとめると発端は精霊術士の減少に危機感を抱いた主犯格の貴族当主が秘密裏に人材を集め、領内に地下研究施設を設立。

 後はラタニが単独で調べ上げたように被験者を王国各地で攫い、時には孤児院などから引き取ったりと持たぬ者を集めつつ、三年前から非合法の実験を繰り返していた。

 把握しているだけでも三〇〇人を超える幼い子供が被害に遭っている。自身の不甲斐なさにレグリスを始めとした宰相らは嘆くばかりで。


 また主犯格の貴族は国を思うが故の実験だと主張したが正当化されるはずもなく、実験に使われた精霊石の横領などの余罪を公表して処刑。研究者に関しては深夜に上がった火柱を別の実験中に起きた事故にして死亡したと公表。

 更に精霊への背徳行為が広まり国が混乱しないよう、捜査や検挙に関わった者ら全てに箝口令が敷かれた。この問題については元々ラタニがほぼ単独で調べ上げたので難しくない。

 こうして一つ一つの問題を取り上げ、対策を話し合い消化していき残る問題は一つ。


「ラタニよ、保護した少年をどう思う」


 三〇〇人を超える被害者の中で唯一の生き残った可能性のある少年について。

 可能性というのは爆心地すぐ近くで倒れていたのをラタニが発見した、という理由から。

 状況から十中八九その少年は被害者の一人。しかし発見時から意識不明のままなので詳しい事情を聞けず結論を保留にしている。


「間違いなく被害者かと。証拠隠滅のため地下施設を爆破する際は混沌していたと思われ、その混乱に生じて抜け出したと推測します。でなければあのような時間に幼子が一人で倒れている理由がありません」


 証拠隠滅というのは状況証拠だけでなく、爆破の混乱に生じて逃亡を企てた研究者を捕らえて確定している。

 なのでラタニの推測が最も説得力がある。


「むろん目を覚ました後、私が事情を確認いたします。今は別件の任務で私が保護したと医療施設に預け、襲撃メンバーのカナリア=ルーデウスが寄り添い待機しております。万が一目を覚ましても対処可能なのでご安心を」


 もし被害者なら医療施設内に妙な噂も広まらないよう処置をしているのでレグリスも納得。


「保護した少年についてはラタニに一任する。みなも異論はないな」


 この場はお開きとなり、ラタニとサーヴェルは議会の間を後にした。


「や~れやれ。肩こった」

「我もだ」


 同時に先ほどの神妙な態度が嘘のように二人は表情を緩め、ぐるぐると肩を回し伸びをしていたりする。

 弁えは出来るも元より形式張った姿勢や言動が苦手なので正式な場を乗り切ればいつものことで。


「つってもまだお仕事あるけどねん。てなわけであたしは少年のところに行くよ」

「もし何かあればいつでも頼れ」


 それはさておき医療施設に向かうラタニへ秘密裏が故に詳しい内容を口に出来ない変わりにサーヴェルが端的な労いを。

 保護した少年が被害者であれ、迷子であれ協力するという意味。というのも今回の事件に関してサーヴェルの妻、クローネもある程度把握しているからだ。

 ラタニが徐々に真相へ近づく際、王国屈指の商会を纏める女傑とはサーヴェルを通じて繋がりがある。裏の情報にも詳しく信頼が置けると容疑者について調べるのに唯一協力を願ったのがクローネだ。

 故にクローネにも箝口令を敷く際、サーヴェルから事情を説明されるわけで。


「あんがと、なにかあれば頼らせてもらうよん」


 その厚意を無駄にせずラタニは感謝を述べて別れた。


「でもま、さすがに頼れんのよねぇ……」


 だがラタニは残念とため息を吐く。

 もちろんサーヴェルもクローネも貴族にしては信頼における存在。一年前にもある事件の被害者の少女を養子として迎えているので一人増えても問題はないだろう。


 しかしそれとは別に問題がありすぎる。

 更に言えば今後の方針を既に相談済み。

 まあ本人の意思を抜きなので事後承諾になるが。


「早く目を覚ましてくれんかねぇ」


 なによりもまず本人と話せるように願うばかりだった。



 ◇



 それから二日後の昼過ぎ、これが早いのか遅いのかは判断に悩むも運良くラタニが待機しているタイミングで目を覚ましたが――


「……テメェか」


 開口一番がそれかとラタニは笑うしかない。

 本来なら意識を失う前と違う場所で目を覚ませば『ここはどこだ』と疑問を抱くか、多少なりとも混乱するか。または二日間も眠っていたなら少しは朦朧とするはず。

 にも関わらず目を覚まし、自分を見つけるなりふてぶてしい物言いとは恐れ入る。


「どこまで知ってんだ」


 しかも冷静に探りを入れるほどに頭もキレる。

 今の質問だと自身の置かれている境遇についてを隠れ蓑に、別の何かを確認している。

 恐らく意識を失う寸前の記憶と今の状況を即座に考察し、ある程度察しているようだ。


「それなりに。なんでかあたしも気に入られちゃったみたいでさ」


 ならばとラタニも含みを込めた返しをすれば少年は舌打ち一つ。


「たく……クロノフ、出てこい」


 上半身を起こしつつ二人しかいない医療室でも構わず呼びかける。

 するとベッドの足下にキラキラと白銀の粒子が現れた。


「いかがなさいましたか?」


 集約した輝きは白いフリルをあしらった真っ黒なゴシックドレスを着た少女の姿に。

 年頃にして少年よりも更に幼く、しかし少年よりも更に大人びた妖艶な微笑みを浮かべている。


「こいつにどこまで話した」


 突如現れた少女を気にせず少年は問いかける。


「わたくしとの取り決めと、契約についてもお話ししていますね」


 もちろんラタニも驚くことなく、二人のやり取りを聞いていた。


「ですが助けてくださった方をこいつ呼ばわりとは失礼かと。まずはお礼を述べるのが人間で言うところの筋、ではないでしょうか」


 なぜなら少女――クロノフが報告するように彼女の正体、少年との関係を知っている。


「神さまが言うじゃねぇか」


 注意を受け、少年が皮肉るような言い返しをするように彼女は時空神クロノフ。想像上で崇められていた神という存在。

 本来なら信じるのもバカバカしい話をラタニは受け入れている。

 彼女から精霊力を全く感じないという事実。先ほどの現れ方だけでなく、今の姿も少年が目を覚ます間、人間の姿をした方が話しやすいとの理由から容姿に関する意見まで聞いてきた。本人曰く姿形は神気でどうにでもなるらしい。

 これほど不可思議な現象の数々を見せつけられてはそれこそ未知の存在である神以外では説明できず納得するしかない。


「だが一理ある。誰かは知らんが助かった、礼を言う」


 それはさておき少年は歳不相応な苦笑を浮かべつつラタニに向けて頭を下げた。

 不遜な態度の割には素直な性格のようでラタニも苦笑で返した。


「どういたしまして。んで、色々お話しあるんだけどその前に、あたしはラタニ=アーメリ。少年は?」

「……こいつに聞いてないのか」

「聞いたけど人間同士、仲良くなるにはまず自己紹介からのご挨拶って教えてくれんかったのよ」

「ラタニさまにはこれからお世話になるので、早めに仲良しさんになっておくべきかと」


 知っているであろうクロノフの助言を受けて、ラタニは最初の出会いに対する返答を今さらながらすることになり。


「神さまのわりにいちいちもっともなことを言う……が、なるほどな。お前がラタニか」

「おりょ? あたしをご存じで?」

「学院生でありながら王国最強の精霊術士さまだろう。ま、連中はお前を目標にしていたようだからな、噂程度に聞いていた」

「人工的に精霊術士を生み出すだけでなく、あたしを目標とは連中もずいぶんでっかい夢を見てたんだねぇ」

「かもな」


 ラタニの茶化しを嘲笑で交わし、少年はふと天井を見上げて。


「……アヤト=カルヴァシアだ」


 自分の名をどこか懐かしむように呟いた。

 その仕草、声音からラタニは施設で過ごした日々の一端を察してしまう。

 人の尊厳を奪う人体実験、恐らく名ではなく記号や番号で呼ばれていたのだろう。

 もう二度と呼ばれることも、名乗ることもないと覚悟していたのだろう。

 子供にしては達観した印象はあるも、生き延びられた今に心から安堵している。

 それほどの地獄を味わったからこそ伝わる心境の吐露。故にラタニはやるせない気持ちになるも笑顔を絶やさない。

 こうして接しているのは任務のため。

 またクロノフとの約束のため。


 しかしそれ以上にアヤトを気に入った。

 理不尽な扱いを受けても負の感情を見せず、悲観もせず、ただ前を見据える強さがある。

 故に今必要なのは同情や励ましではない。自分も共に前を見据えるために必要なことをするだけ。


「その容姿と名前から推測するにお母さんが東国の出身かい?」

「血筋ではな。どうも俺は母の血を濃く受け継いだらしい」

「みたいだねぇ。それで、神さまとのご関係は色々お話し聞いたけど、アヤトくんについては良く知らないんだわ。てなわけで、とりあえず色々教えてくれまいか? それとも飯にするかい? なんせ三日も眠ってたわけだし、お腹空いたでしょ。あたしもお昼まだだし一緒に食べよっか」

「……その前に三日も眠っていたなら誰かを呼ぶべきだろう」


 クロノフの助言通り仲良くなる為の時間を提案するも、アヤトは呆れたように大きなため息を一つ。


「心配しなくとも適当に話は合わせてやる」

「ほんと……お子ちゃまのクセに可愛げないねぇ」


 妙な気遣いをする子供らしくないふてぶてしさ。


「クソみたいな経験をさせてもらったからな」

「違いない」


 それでも僅かなやり取りで自分たちは良い関係を築けると確信した。




みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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