もう一つの終章 月夜の願い
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月明かりに照らされるバルコニーに少女は立っていた。
黒いサマードレスに身を包む小柄な体躯、顔にはまだあどけなさが残るも灰色の長い髪を指先でクルクルと弄ぶ仕草はどこか妖艶で。
「……退屈じゃのう」
小さなあくびを一つすれば翡翠のような深い輝きを帯びた瞳が滲み、絡ませた髪をほどいた指で拭う仕草も外見に見合わないほど大人びていた。
少女を退屈にさせているのはもうすぐ行われるお祭りが原因で。
自身の思想とは裏腹に盛り上がるこのお祭りを少女は快く思っていない。
ほとんど蚊帳の外だからというのもあるが、なにより肉親を増長させているから質が悪い。
故に退屈なお祭りに参加しなければならないのが今から気が重い。
コンコン
「入るがよい」
もう一度あくびをしたところで背後から聞こえるノックの音に少女は即座に許可を出す。
こんな時間に自分を訪ねてくる者は一人のみ。なのでバルコニーから室内に移動を。
「失礼します……おや? もうお休みになられるところでしたか」
「なに、月を眺めておっただけじゃ」
来客が首を傾げるように室内は月明かりが差し込むのみで薄暗く、苦笑を交えて少女は精霊器の灯りを点けるとドアの前に立つ執事服姿の初老の男性がハッキリと見えた。
姿勢がよく、一礼する動作も淀みなく長い年月で培った執事としての技量を感じさせる。
だが何より目を引くのは少し白髪が交じった黒髪と少女を見つめる黒い瞳。
この国でも珍しい黒髪黒目をした執事はベッドのサイドテーブルに腰を掛ける少女の元へゆっくりと歩み寄る。
「それで、何用じゃ?」
「実はお嬢さまに是非お目を通して頂きたい物がございまして。夜分にも関わらず伺わせて頂きました」
「妾に?」
その用件に訝しむ少女へ執事は用紙を一枚テーブルに置いた。
「こちらは王国から来られる代表メンバーのリストになっております」
「……なぜこのような物を? 妾には関係のないお祭りではないか」
「きっとお嬢さまが興味を引かれるとお持ちしました。お目を通すだけでも」
「ふむ……」
含みのある物言いに少女は先を促すことなく用紙を手にする。
腹心である執事がこのような物言いをするのならまず自身にとって面白い物か、興味を引く何か。そう理解できるほど少女は執事に信頼を向けていた。
そして今回も信頼通りの物だった。
「……これはまことか?」
目を見開く少女に執事はにっこり微笑み首肯を。
「むろんでございます。王国側もわざわざこのような虚言は送らないでしょう」
「たしかに……では、いや……まだ確定は早いか」
もう一度目を通しブツブツと呟くも少女の表情には笑みが浮かんでいて。
それは先ほど月明かりに照らされていた時とは違う、年相応の無邪気な笑顔。
「とにかく一度会って確かめてみたいのう。それにこの名、もしかすると主の同胞かもしれぬぞ?」
「もしそうであれば共にお茶を楽しみたいですな」
「楽しむがよい。むしろ妾が招待するつもりじゃ……問題は王国の代表をどう茶に誘うかじゃな」
などと考え込む少女の表情はやはり無邪気なもので。
再びバルコニーへ足を運び、遠くを見据える瞳は先ほどとは変わりワクワクとした期待感に満ちていて。
「早う妾の元へこい……アヤト=カルヴァシア」
これにて第四章も本当に終幕です。
そして次回からいよいよ帝国へ……ではなく、オマケを更新予定です。
内容は後書きで呟いたアレ、是非ともお楽しみに!
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