やんちゃが二人
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「リーズベルト、時間を取らせたな」
「いえ、私も国王陛下とお時間を共にさせて頂き光栄にございます」
壮行会も控えている手前、あまり時間を割けないと秘密裏の会談は十分ほどで終了。
アレクと共に応接室を後にするレグリスを見送り、ロロベリアはようやく肩の力が抜ける思いだ。
思い出を語る時間は楽しかったが、やはり国王相手だと心労はたまる。
それでも良い時間を過ごせたのは確か。
気持ちを切り替えラタニと共にまずはリースとユースと合流するべくロロベリアも応接室を後にした。
「そういえばアレク殿下はなぜこちらに?」
廊下に出たところでふと疑問が浮かびラタニに問いかけた。
彼も王族としてレグリスと同じく誓いを立てに来てくれたにしては、会談中は一度も口を挟まず終いで。
「ん~……国王さまが誓うなら王子のアレクが口を挟むのは違うでしょ。まあ同じ場にいて誠意を見せるって狙いもあるだろうけど、一番はロロちゃんに興味あるからじゃね?」
「私に……?」
「ほれ、国王さまも言ってたっしょ。ロロちゃんはあたしとアヤトのお気に入り。顔を覚えてもらって損もない、てね。今のところ一番王位に近いから」
アレクは前回の親善試合で序列三位として四位の精霊術士とペアを組み、唯一勝利した実績と精霊士でありながら三学生時に序列一位まで上り詰めた実力者。
また現在は主に軍事関連の行政に携わっているまさに文武両道。人柄も良く民からの人気が高いので第一王子という立場も含めて有力な候補者だ。
ただレイドも能力や人柄は充分、精霊術士という才も含めて同じく人気はある。
今回の親善試合の結果次第ではレイドの方が相応しいのではないか、との声があがる可能性があり次期国王は二人のどちらかとされている。
ちなみに過去のファンデル王国には女王が統べる時代もあったのでエレノアにも王位継承権はあるも、二人の人気が高いため現在は難しいとの噂で。
とにかくアレクの立場ならラタニの見解通り、王国最強精霊術士とその弟子であり裏で王国に協力をしているアヤトとは友好な関係を築きたいはず。
だからと言って自分に顔を覚えてもらうことに繋がるのか、特にアヤトのお気に入りという部分に……とこの見解にロロベリアはいまいちピンとこなかった。
「まあ、だからこそさっさと婚約者の一人や二人作ればいいのにね~。それも王族としての責務でしょ。にも関わらずあの色男ときたら」
「王国は一夫一妻制ですが……」
「それくらいの気持ちでいろってことさね」
むしろラタニの言い分に脱力してしまう。
「ほんと、あの子ときたら、困ったもんだ」
「…………?」
だが、嘆息と共に聞こえた声音に思わずラタニの顔を見てしまう。
それはラタニがアヤトを心配する際に含む、他とは違う何か。
「ん? どったの」
「……いえ」
しかし相変わらずの飄々としたラタニの表情に思い過ごしと首を振り。
「まあ、一番の困ったちゃんはアヤトだけどね~。どーせ壮行会もサボるだろうし、カナちゃんが今ごろため息吐いてるのが目に浮かぶよ」
「不吉なことを言わないでください……」
思い出した心配事にロロベリアこそ深いため息を吐いた。
◇
予感はしていた。
リース、ユースと合流後に控え室に行けば他のメンバーは既に到着しているのに姿はなく。
それでも基本アヤトはギリギリだろうと時間は守る、ならばまだ可能性はあるとロロベリアやレイドらも淡い期待を抱いていたが予定時刻になっても現れず。
代表メンバーを迎えにきたカナリアが呼びにきてしまい、レイドが一応程度の希望を込めてアヤト不在を告げたのだが。
「アヤトさんは欠席です」
キッパリと返され、予感的中とロロベリアは再び深いため息を。
「どうも本日の訓練前から体調が優れないようだったので、終了後に私が様子を見に行ったのですが高熱で床に伏せていました。明日は帝国に向けて出発します。ならば安静第一と私の判断で決めました。彼はとても申し訳なさそうにしていました」
もちろん今日も個人指導でロロベリアを除く全員をボッコボコできるほど元気で、体調不良は微塵も感じさせていない。
そもそもアヤトが壮行会の欠席を申し訳なさそうにしている姿が思い浮かばない。
「実際は先ほど『出る気はない』と告げるなり姿を消したのですが……とにかく、みなさんも先ほどの体で口裏を合わせてください」
つまり嘘なのはバレバレなのでカナリアもこめかみを押さえて協力を仰ぐ。
「この五日間でアヤトさんの実力以外も良く分かっているかと。壮行会には国王陛下のみならず有力貴族も多く出席します。つまり欠席してくれた方がまだマシなんです。後ほど私から国王陛下へご報告するのでご協力を」
脅しに近い懇願。しかし出席した場合のリスクを理解できるので誰も断れなかった。
ただ別の理解もされていて。
「ほんと……どこまで自由人なんだよあいつは」
「でもカナリアさまが仰るように、結果オーライでしょう?」
「ただ残念ね。彼の正装姿も見たかったのだけど」
「そもそも壮行会など退屈な場、鍛錬をする方がよほど有意義。ふふ、どのような場であろうと己を貫くのも真の強者……そう思わなくて? フロイス」
「お嬢さまの仰る通りです。自分もまだまだ修行が足りません」
アヤトの事情を知らない者は呆れこそすれ誰も不快感を抱かない。
訓練中はバカにされ、ボコボコにされ、それでもアヤトの不器用な為人を知れた故の変化。
こうして少しずつでもアヤトを理解してくれる人が増えるのはロロベリアにとっても嬉しくて。
ラタニが最も望んでいるように、もっともっとアヤトを知ってもらえて。
いつか失った時間を取り戻せるほど楽しい時間を過ごせるのも夢ではないと感じさせる光景だった。
◇
カナリアの読み通り壮行会はつつがなく進行していた。
もちろん完全ではなく、このような場を欠席するアヤトを快く思わない者もいる。
まあラタニを敵視する貴族ばかりで師が師なら弟子も弟子、そもそも持たぬ者が補欠とは言え王国の代表にしていいのかとの陰口をロロベリアは耳にした。
元々アヤトの経緯は一部のみが知り、実力に関しては噂程度。こうした偏見も仕方がない。
それでも国王を始めとした王族が後ろ盾についている。
カナリアから事情を説明されたレグリスは『無理して明日の帝国行きに支障を来すわけにはいかん。仕方なかろう』と許したことで大事にならずに済み、むしろらしいと愉快げな表情を浮かべたのをロロベリアは見逃さなかった。
それはさておき、壮行会といえど有力貴族の揃う社交場。
これまで一度も社交会に出席したことのないロロベリアにとっては初めて王国貴族へのお披露目となるわけで。
「……もう帰りたい」
「気持ちは分かるけど」
緊張とは別の心労にユースは同情していた。
立食形式の会食が始まるなりロロベリアの元に多くの貴族が激励に訪れたのだがそれは建前でしかなく、狙いは別にあった。
養子といえどロロベリアは貴族家の子女。精霊術士としての才だけでなく一学生でありながら序列十位の実力者。加えて神秘的な乳白色の髪に劣らない容姿となれば、子息の婚約者候補として目を付けられてしまう。
まあ場が場なので直接的な申し出はないが積極的なアピールを聞くだけでも辛く、やんわりと交わすのに苦労していた。
「ならわたしと一緒に早く帰る」
「いや、ダメだって。つーか姉貴は炎覇を試したいだけだろ」
親友を気遣いながら自身の欲望むき出しの姉にユースは呆れてしまう。
ちなみに親善試合の代表という箔を得たことでロロベリア以外も声は掛けられるがこうした場は馴れたものと上手く交わしている。リースは無視を決め込んでいるので心労はなく、平民の三人は婚約者というよりお抱えの精霊術士、精霊騎士として声をかけられているが緊張しっぱなしのディーン以外は上手く対応しているようで。
とにかく壮行会は始まったばかり、同情するがさすがに退席するわけにもいかないのでロロベリアの精神ケアをしていると挨拶回りを終えたサーヴェルとクローネが。
「お疲れさんでした」
「お疲れなのはロロのようだけど」
社交会初参加のロロベリアを気にしてくれていたようでクローネは給仕を呼んで飲み物を頼む。
「これも経験として頑張りなさい」
「……はい」
励ましと共にグラスを受け取るもあまり頑張りたくはないが本音だ。
もちろん貴族家として必要なのは理解しているが、それとは別に見知らぬ相手をアピールされては困るものは困る。
なにより自分には心に決めた人がいる。
相変わらず進展はなく、どう思われているか微妙なところでも今は自分がアヤトを好きだという気持ちが大切で。
「ここにアヤトちゃんが居れば楽なのに。ロロの婚約者として紹介すれば全て丸く収まるもの」
「ですから……そもそもアヤトが許すとは」
大切なので余り冷やかさないで欲しいと釘を刺すも、元より冗談なのかクローネは特に追求せず話題を変えた。
「でも高熱を出したなんて心配だわ」
「お戯れを……お義母さまも察しておられるでしょう」
「もちろんよ。それにこの人が先ほど会ったらしいし」
思わぬ返しにロロベリアはリースと共に食事を楽しむサーヴェルに視線を向ける。
カナリアに言伝しているなら一度王城へ来たのは分かる、しかしなぜサーヴェルにも会っているのか。
「本当ですか? お義父さま」
「むう? ……うむ、会の前にアヤト殿が訪ねてきてな」
ロロベリアの問いかけに口に含んだ料理を水で流し込み肯定を。
どうも帝国へ行く前に新調した刀の感触を確かめる相手を頼まれたらしいが、サーヴェルは壮行会に出席する上に今日は帰宅せずこのまま王城に滞在するので時間はない。
しかしアヤトとの手合わせが久しぶりなので壮行会が終わった後でならと了承した。場所も団長権限で城内にある屋外訓練場を利用するらしいが。
「国王陛下のご許可も頂いている。なにも問題はない」
あきらかな職権乱用は充分問題と思うも国王が許したのなら何も言えない。
同時に羨ましい。
明日から共に帝国へ行くから接する時間は充分あるも、王都に来てから一度も言葉を交わせず終い。
サーヴェルに比べて劣っているのは十分承知。
それでも相手役ならいつでも付き合うのに水くさいではないか。
「……ロロ、少し顔色が悪いわね」
などと複雑な気持ちからやけ気味にグラスの水を飲み干すロロベリアの肩にクローネは手を置きそのまま額を合わせた。
「私がラタニちゃんへ国王陛下にお許しを頂くようお願いするから、少し夜風に当たってきなさい。アヤトちゃんが体調不良で欠席を許されているのなら、それこそ問題ないでしょうし」
「え? で、ですが……」
なぜ急にこんな行動を起こしたのかを察したロロベリアは戸惑うも、額を離してクローネは続ける。
「彼のことだからきっと居ると思うわ。それに終了後、あなたを残すわけにもいかない。今から行けば充分遊べるわよ」
「…………」
「彼のことで何かあったら相談なさいと言ったでしょう? 少しくらい我が儘を言う方が、娘として可愛げもあるのよ。それとドレスの心配もしなくて良いわ。あなたは帰るまで休んでもいいし、少しくらいやんちゃな方がやっぱり可愛げもあるもの」
慈愛に満ちた笑みを向け、優しく頭を撫でてくる。
今回の帰省を機会にクローネが積極的に歩み寄ってくれているなら。
自分も娘として甘えたいと思うなら。
「……ありがとうございます、お義母さま」
「よく出来ました」
ロロベリアの出した答えにクローネも満足してくれて。
「ならば我が途中まで送っていこう」
「お義父さまも、ありがとうございます」
またクローネの娘ならサーヴェルの娘でもあると、楽しみを取ってしまった申し訳なさはあるがロロベリアは甘えさせてもらった。
「リース、ユースさん……じゃあ、お先に」
「楽しんでこい」
小さく手を振るロロベリアにユースも笑顔で見送り。
「お母さま、わたしも体調悪い」
「あれだけ食べてれば無理ね」
ならば自分もと主張するリースの我が儘はさすがに却下された。
次回で第四章も終章。
やはり最後はこの二人で、ですね。てなわけでお楽しみに!
みなさまにお願いと感謝を。
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また感想もぜひ!
作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!