国王のお人柄
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壮行会に出席するため王城へと赴いたロロベリアは待ち伏せしていたラタニに連れられ応接室へ。
そこでラタニのアヤトに対する親愛や、自身の誓いを伝えられたのまではいい。
しかし第一王子のアレクのみならず国王、レグリス=フィン=ファンデルと不意打ちの対面をするとは思いもよらず。
肖像画でご尊顔は知れど実際にお目にかかってみれば四〇過ぎとは思えないほど体格が良く、立ち振る舞いからも衰えを感じさせない。
なにより肖像画では感じられない覇気や周囲の空気を凜とさせる威風堂々とした風格。
同じ王族でもやはりレイドやエレノアにはない、まさに王者としての強さがある。
その風格に当てられてロロベリアは状況も忘れて見入ってしまい。
「も、申し訳ございません! 国王陛下、並びにアレク殿下に対し着席したままなど――」
状況を思い出すなり慌てて立ち上がり二人に向けて跪く。
レイドやエレノアはまだ同じ学院生という立場から正式な場を除けば呼び方も含めて多少の粗相は許されるが、正式な場でなくとも第一王子と国王が入室されたのにソファに座ったままというのは不敬以外の何でもない。
故にロロベリアの慌てぶりは当然なのだが、レグリスはこの態度に訝しみの表情。
「……ラタニよ。お主は何も伝えておらんのか?」
「お伝えする前に来ちゃったんですよ」
批判の目を向けるもラタニは手を振り平然と否定。
「そう言いながらも面白いから、と伝えなんだだけであろう」
「ばれちゃいました?」
「アーメリさま! 国王陛下に――」
「お姉ちゃんね」
「今は置いておくべきでしょう!」
態度や言葉使い含めて聞いているこちらの方が背筋が凍る思いをしているのにと、ここでも拘るラタニにロロベリアは批判せずにはいられない。
そんな彼女を不憫に感じたのか、アレクが歩み寄り手を差し出す。
「ロロベリア嬢、いいから楽にしてくれ」
「で、ですが――」
「こらこらアレク、ロロちゃん口説くとアヤトが怒るよ?」
「アレク殿下を呼び捨てっ? アーメリさま――」
「お姉ちゃんね」
「ですから今は――」
「……はは、気にしなくていい。今は非公式の場だし、ラタニさんは私の先輩でもあるからね」
どこまでもブレないラタニにロロベリアは立ち上がり反論するも、アレクは柔和な笑みを浮かべてフォローを入れた。
ラタニが学院三学生時にアレクが入学したので先輩後輩に当たるのはロロベリアも知るところ。だがそれだけでしかなく、ラタニが既に軍所属なら接点は殆どないはず。
まあ王族ならレイドやエレノアのように何らかの交流はあったのかもしれないが、いくら非公式の場とは言えあまりに馴れ馴れしすぎる。
「そういうこと。良いからロロちゃんは落ち着いて座りんさい」
それでもラタニは気にせずロロベリアの手を引き強引に座らせて、自分も隣りに腰を下ろす。
遅れて対面にアレク、最後にレグリスが腰を下ろすもロロベリアは未だ状況を受け入れきれずに居た。
そもそも何故自分は殿上人の二人と向かい合って座っているのだろうか。
なにより何故レグリスは自分の対面に座り、興味深げに凝視するのだろうか。
生きた心地のしない状況の中、まず口を開いたのはレグリスだった。
「にしても……ラタニからアヤトの良い人と聞いていたが、お主はあまり肝が据わっとらんな」
その第一声に何を国王に報告しているのかと内心ラタニを説教したくなった。
「いやいや、あいつの頭がおかしいだけですよ」
「確かにあやつほど稀有な者はおらぬか。予を王と知りながらいきなりテメェ呼ばわりした奴は初めてだったぞ」
そして今回ばかりはラタニに同意する。いくらなんでもアヤトの態度はおかしすぎる。
「しかしお主も予に対してあんた呼ばわりしたであろう? 要はお主ら師弟は似たもの同士か」
真に同意するべきはレグリスだったと、僅かなやり取りでロロベリアは内心突っこみに忙しかった。
「まあそんな師弟だからこそ気に入っている。予の立場になるとみな恐縮して本音を語らん。お主らのような遠慮のない者もまた稀有だ」
それはさておきレグリスは愉快げに笑うと再びロロベリアを見据えた。
「話が逸れたな。ロロベリア=リーズベルト、レイドやエレノアからお主の答えは聞かせてもらった」
突然話題を変えられても緊張から思考が回らないロロベリアにふと表情を緩め。
「『アヤトが必要ないと言うのなら、自分にこそ必要ない。願わくば、彼らしい要求を叶えて欲しい』。予はそう聞いておる」
「……あ」
表情と共に和らぐ雰囲気に、なによりその言葉にロロベリアもようやくこの状況を察した。
選抜戦前にレイドとエレノアから非合法な人体実験による被害者の一人として謝罪をされた際に返した自分の思い。
あの時も国王自ら出向いて謝罪をすると言われたが必要ないと拒否している。それでも王城に訪れた機を狙い、秘密裏の謝罪をするつもりだろうか。
「必要ないと返された謝罪をするほど予も暇ではない」
だが予想とは裏腹にレグリスは否定。
「しかし子に誓いをさせて、父である予が誓わぬのも違う。故にここで誓おう。あやつが望んだように、一人でも多くこの国で生まれ、暮らして良かったと笑えるような国王になると」
変わりに真摯な姿勢で力強く誓いを立てた。
アヤトが望んだように、自分が望んだように。
それは謝罪よりもレグリスがこの一件を強く受け止めていると感じさせる。
「レグリス=フィン=ファンデルの名に誓い、ロロベリア=リーズベルトに約束する」
「……ロロベリア=リーズベルト。その誓い、受け取らせて頂きます」
故にロロベリアは跪かず、礼もせず、視線を合わせて言葉を返す。
この対応こそがレグリスの思いを受け取るに相応しいと。
同時に思う。
アヤトが認めるだけある。レグリスはとても尊敬できる――
「ところでリーズベルト。お主は一年ほどとはいえあやつの家族として過ごしておったらしいな。なにかあやつの弱みを教えてくれぬか?」
「……は?」
――などと感涙しかけたが、先ほどの厳かな空気を吹き飛ばすようにレグリスが再び話題を変えた。
「は、ではなくて弱みだ。幼少期の失敗談とかなにかあるだろう」
「え? なぜ、そんなことを?」
更にはとても親しい態度にロロベリアも素で返してしまう。
「なぜもなにもアヤトの弱みを探るためにこうしてお主と会っておる。さすがに壮行会では予も気軽にお主に声を掛けられんからな」
「アヤトの弱み? あの、誓いのためでは……ない……のですか?」
「先も言うたように予も暇ではない。お主らの被害は王国の、国王の罪ではある。しかしこの国には予の知らぬところで多くの民が被害におうておる。その者ら一人一人に謝罪や誓いを立てておったらキリがなかろう」
更には無情な言葉で一蹴。
「要は打算よ。お主はそこにおるラタニや、アヤトのお気に入り。そしてラタニは表で、アヤトは裏で王国に多大な貢献をしている」
「…………」
「むろんアヤトやお主に対する贖罪の念は本物。予の力不足も認めておるが、予はこの国の利益を第一に考えておる。ならば国王としてお主の機嫌を取るのは当然のことよ」
「…………」
「そして予の利益もついでに望んでも良かろう。あやつとは茶の席で良くチェスをするのだが、えげつない手で毎度勝ちよるからの。弱みの一つも握ってやり返したいと思うのも人の常、とは思わぬか?」
「……あたしの前でそこまでぶっちゃけるのも打算ですか? ほんと国王さまは強かだ」
あまりの本音に唖然となるロロベリアに変わりラタニが皮肉るも、レグリスはふんと鼻で笑う。
「強かでなければ国王などやっとられんよ」
「違いないですね」
開き直りとも言える返しにラタニも笑うしかない。
ただこの開き直りでロロベリアは更なる尊敬を抱けた。
レグリスの打算。ラタニとアヤトという王国最大の戦力を評価しているからこそ二人と縁のある自分に誠意ある態度を示したという言葉は間違いなく本音だ。もし関わりがなければ恐らくここまでの対応をしないだろう。
更に敢えて自分の前で本音を口にしたこと。
確かにラタニが言うように強かなやり方。
しかし、だからこそレグリスの言葉には信頼が持てる。
二人を正当に評価し、国王として国の利益を第一に考える。それは当然のことで、同時に王国に暮らす全ての民の利益になるのなら先ほどの誓いは本物となる。
一人でも多くこの国で生まれ、暮らして良かったと笑えるような国王をアヤトも、自分も望んでいるのだから。
アヤトが認めるだけあると、改めてロロベリアも納得できて。
「それよりもあやつの弱みだ。リーズベルト、なにか思い当たる話しはないか?」
「そう……ですね。正直なところ、アヤトは当時の記憶を失っているので弱みになるとは思えませんが、それでも良ければお話しさせて頂きます」
「構わぬよ」
悔しがっている気持ちも本物なら、少しでも協力しようとロロベリアは望み通り当時の思い出を語り始めた。
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読んでいただき、ありがとうございました!