ラタニの誓い
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思わぬプレゼントに大興奮のリースを宥めて壮行会の準備を開始。
入浴を済ませて髪の手入れ、この日のために仕立てた礼服に着替えた。
ロロベリアは珍しい乳白色の髪に合わせた純白の、リースは真っ赤なドレス。共に派手な装飾を好まないので最小限のステッチを施した上品ながらもシンプルなデザイン。
ユースは深い緑の礼服を。色合いこそ地味だが容姿の華やかさがあるので逆に栄えるデザイン。
ちなみにリースが炎覇を持って行こうとしたのは全力で止めた。
実戦用としてだけでなく装飾品としても遜色ない美しさでもさすがに王城の、しかも壮行会に持参する代物ではない。
一騒動はあったが準備も整い三人は同じ馬車へ。さすがに正装して徒歩というわけにもいかず目的地が王城ならなおさらで。
また移動中はあまり会話もなく静かなもの。
リースとユースは子爵家の貴族子息子女として幼少期のお披露目会で王城に行ったこともあり、国王と謁見したことはあれどその一度きり。ただロロベリアは養子なので実のところ今回が初めてのこと。
なのでロロベリアだけでなくユースも近づくにつれ緊張が増していた。まあリースは炎覇を取り上げられたことにふて腐れているだけだがそれはさておき。
到着後、馬車を降りた三人はまず控え室へ。一度代表メンバーは集合してからホールに向かうことになっている。
若干開き直りのユース、相変わらずふて腐れたままのリース、初めての王城に恐縮しっぱなしのロロベリアと三者三様なまま使用人の案内で向かおうとしたが――
「ロロちゃんはこっちね」
「え?」
「リース、ユース、お前たちはこっちだ」
「「は?」」
途中のホールで待ち構えていたラタニがロロベリアの手を取り、サーヴェルがリースとユースの肩をがっちりと掴んだ。
二人も壮行会に出席するのでラタニは新調した上位精霊術士のローブを纏い、サーヴェルも貴族服と正装しているがまさかの別行動を言い渡され三人は唖然。
「……えっと」
「どこへ?」
「そもそもオレたちは控え室に……」
「詳しい話はしてやる。早く行くぞ」
「ロロちゃんもねん」
だがうむも言わせない勢いでサーヴェルは二人を引きずるように、ラタニは手を引き歩かせ、ここまで案内してくれた使用人は咎めることなく一礼で見送り。
「あの……アーメリさ――」
「お姉ちゃんね」
「いえ、さすがに城内でそれは――」
「お姉ちゃんね」
「……お姉ちゃん、どこへ向かっているんですか? リースとユースさんも……」
このままではまともな返答が得られないと気恥ずかしげにロロベリアが問いかける。
「ちょっち用事があってねん。まあ変なところじゃないから心配しなさんな」
「……城内の変なところって」
だからといってまともな返答はなくロロベリアは諦めたように肩を落とす。
「とにかく人払いしてても、今日はお偉いさんもいっぱいだからねー。ちょい強引になったけど……と、ここだ」
人払いとはまた物騒なと緊張よりも心配が上回るロロベリアを余所に、ラタニは城内でも勝手知ったる我が家のような気安さで目的地らしきドアを開ける。
応接室のようだが誰も居なく、なにか内密な話であるのだろうかとロロベリアは押されるように室内に入りながらも訝しむ。
二人に共通する、王城の使用人にも聞かれないよう配慮が必要な内容と言えばアヤトかマヤの話題のみ。
ただリースやユースも知っているなら同席しても問題はない……いや、二人は擬神化をしたアヤトの姿を見たことがない。そして時空神の力を使う代償を知らない。
知っているのは当事者を除けば自分とラタニのみで――
「もしかしてアヤトに何かあったんですかっ!?」
行き着く答えにロロベリアは焦燥を露わにラタニへ詰め寄る。
力の代償を忘れていたわけではない。
むしろ一人で居るとき、眠るときは胸が締め付けられるほど不安で押しつぶされそうになるほど。
それでもマヤと初めてこの話題について二人でやり取りをした際、運命――アヤトの時間にどれほどの価値があるか分からないが、擬神化を可能としたことでかなり消費を抑えていること。またマヤの憶測だとしても、これまでの使用時間なら少なくともそれなりに人生を謳歌できるくらいは残っているとのお墨付きを得ている。
もちろん楽観視していないが、だからこそ更に消費を減らす為に不安を抱くよりも大英雄の道を邁進し続けている。
だがアヤトは秘密主義で常に一緒に居るわけでもない。ならばこの三ヶ月の間に消費していないとは限らない。
故に一度考えてしまうとロロベリアは不安で、怖くて、取り乱してしまう。
「あ~……うん、不安にさせちゃったね」
今にも泣き出してしまいそうなロロベリアの表情と状況からラタニも察して落ち着かせるように優しく頭を撫でた。
「大丈夫、ロロちゃんの考えてるような話じゃないから」
「そう……ですか」
「でも、まだ時間もあるし良い機会だからちゃんとお話ししておこうか」
まだ弱々しい表情のロロベリアをエスコートするようにラタニはソファに座らせて。
「まずアヤトはディリュアのおっさんの時以降、一度も使ってないから」
続いて対面に腰を下ろすなりラタニは口を開く。
「あたしは擬神化はもちろん代償の時間についての報告をアヤトに義務付けしてるから間違いない」
「……そうなんですか?」
「あたしが根回しやら協力をする為にね。だから霊獣地帯で上位種に遭遇したときに擬神化をしたこと、でも時間は操ってないのも知ってるよ」
この報告義務を聞いてロロベリアも納得。
ラタニは小隊の隊長、しかし王国最強の精霊術士としての地位がある。個人で擬神化を見られたことで起こりうる問題を沈静化することも可能だ。
またアヤトに関する問題では国王という最高位の協力者がいる。マヤについては知らなくとも、上手く協力を得られる立ち回りはできるはずで。
「あの子は律義だからまず嘘をついたり隠したりしない。ロロちゃんもマヤから聞いてると思うけど、アヤトの時間はまだ残ってる。まあ、あの子の憶測だけどね」
アヤトの律義さはロロベリアもよく知るところ。なのでこれまで通り楽観視せず、邁進すれば良いとようやく安堵する。
「だから心配しなくて良いよ。あの子もむやみやたらに使わないし、使わないよう生き抜ける強さもある。あたしもさんざん忠告してるし、なによりあたしが守る」
ふとラタニの表情が真剣なものに変わり、声音も強さが込められ。
「つまりね、ロロちゃんがあの子の未来を守れるまで、あたしがあの子とロロちゃんの未来を守るから」
ロロベリアが誓ったアヤトの未来を守る。
この思いを知るからこそここで自らも誓うように。
彼女はこれまで言葉だけでなく本当に守ってきたのだろう。
先ほどのようにアヤトの人生をこれ以上無駄にしないように。
その気持ちはこれまで彼を思う深い親愛で伝わっていた。
それを今、言葉としてロロベリアへ誓うように。
「なんせあたしは王国最強の精霊術士である前に、二人のお姉ちゃんだ。可愛い弟と妹の未来を守るのは当然。例え神さま相手でもケンカ売ってやる、てね」
最後はいつも通りの飄々とした態度。しかしだからこそラタニの確固たる意思が伝わって。
何かを守ることは、まず己が守られることで学ぶ――アヤトが教えてくれたこの意味をロロベリアは少しだけ理解した。
きっとアヤトも守られていると知るからこそ守れる強さを得た。
それを今度は自分に教えてくれている。
そしてラタニも教えてくれた。
ならロロベリアのすべきことは一つ。
ラタニの思いを引き継ぐことで。
「……約束します」
「ん?」
「今はまだ守られてばかりで……全然弱い。でもいつか必ずアヤトと……お姉ちゃんも守れるほど強くなるって」
アヤトの未来だけではない、自身の大切な全てを守る大英雄となるとこの場で誓うこと。
更なる困難な道を笑顔で誓うロロベリアを見据えてラタニにしては珍しく恥ずかしそうに。
「ほんと、あたしは幸せなお姉ちゃんだ」
それでも言葉通り幸せそうな笑顔を浮かべてくれた。
だがそれも一瞬のこと。
「なら今後はもっと甘えん坊な妹っぽい喋り方でお姉ちゃんに甘えてきなさい!」
「アーメリさま!?」
「お姉ちゃんって言ってよ~ロロちゃん。早く孫をだっこさせてよ~」
「それはお姉ちゃんではなく祖母ですから! そ、そもそも用件は何なんですかっ?」
先ほどの優しい雰囲気はどこへやらと猫なで声でクネクネするラタニに羞恥こみでロロベリアはたまらず突っこみ強引に話題を変えた。
「用件……? ああ、そうだった。えっと……もうすぐ来ると思うよ」
若干忘れていた素振りを見せるもラタニはローブから懐中時計を取り出し確認。
「来るとは?」
まさか他にも誰かが招かれているとは思わず首を傾げるロロベリアだったが、不意にドアをノックする音が響きビクンと肩を振るわせた。
「どうぞー」
ノックに対応するラタニは相変わらず我が家のような気楽さで返答、同時にドアが開き――
「失礼するよ」
「…………え?」
思わぬ人物の登場にロロベリアはか細い声を漏らす。
一八〇近い長身に鍛えられた体躯。サラサラとなびく金髪はうなじを隠すほどの長さ、切れ長の碧眼とレイドに似た精悍な顔立ち。
それは当然、彼の名はアレク=フィン=ファンデル。レイドとエレノアの兄でありこの国の第一王子。
王城ならアレクが居ても不思議ではないが、思わぬ大物の登場にロロベリアは驚きを隠せない。
「待たせて済まぬな」
「…………っ」
だが更に驚く人物が後に続いて入室してきたことでそれこそ心臓が止まりかけた。
「いえいえ、お陰でこちらは良い時間を過ごせたのでお気になさらず」
口をぱくぱくさせるロロベリアを余所にラタニは立ち上がり一礼を。
しかし相手が相手なだけにそんなおざなりな態度でいいハズがない。
何故なら今、ロロベリアの目の前に居るのはレグリス=フィン=ファンネル。
「自らご足労してくれてるわけですから、いくらでも待ちますよ。国王さま」
ファンネル王国の頂点に立つ者。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!