VS 序列十位?
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二巡目も残すところロロベリア・ユースペアのみ。
ちなみに合同訓練は休憩を挟んで三時間を予定。
精霊力は有限。精霊力の保有量は精霊術士が多くとも、身体強化のみの精霊士と違い精霊術を放ち続ければ先に枯渇するのは精霊術士、長時間の訓練が不可能。
もちろん訓練後は個々で訓練をしても良いと屋外訓練場の使用は夕刻まで許されているので、指導員のカナリアとモーエンが交互に残ってくれるがそれはさておき。
個人指導は一日一回。一巡目はアヤトがユースを指名したのでロロベリアは久しぶりに訓練してもらえると張り切っていた。
「ていうかなんでオレが二連発でお前の訓練しなきゃならん!」
「テメェがこの中で一番弱っちいからだよ」
「だったらなおさらどっちの訓練も受けるべきじゃねっ?」
「だからこそだ。お姉ちゃんにあっさり負けて泣きべそかいている奴は精霊術よりもまずその根性からたたき直すべきだろ」
「ちょっ! それをぶり返すな恥ずかしいだろ! そもそも泣きべそはかいてないわ!」
「得意げに実力隠してたワリにたいしたことねぇ自信過剰の勘違いの方がよっぽど恥ずかしいと思うがな」
「だからぶり返すな! お前ぜってー泣かす!」
「やれるものならやってみろ」
「あひん!」
……張り切っていたのに、隣の敷地で盛り上がっているよう二巡目もユースが受けていた。しかもアヤトが再び指名して。
もちろんラタニの個人指導を否定するつもりはない。
王国最強精霊術士が直々手ほどきしてくれる時間はとても貴重、否定する方がおかしい。実体験でも得るものが多いと知るだけに――同時に地獄を味わったが――ロロベリアも否定も不服もない。それでも合同訓練、というより王都に来てから一度もアヤトと言葉を交わしていない。
しかもティエッタ、エレノア、ランにも実力を認められとても親しくなっているのが――もちろん男性陣もだが――なにかこうもやもやする。いや、訓練中なら乙女的な感情は控えて集中するべき、アヤトを正しく理解してもらえたことは素直に嬉しいがそれとこれとは別というかもやもやする。もしかするとこのまま合同訓練まで一度も言葉が交わせないかと思うと更にもやもやする。
そもそも自分の訓練と違い他のメンバーには妙に丁寧な教え方をしているというか詳しい助言をしている気がする。リースへの訓練時も精霊力の解放をした訓練の必要性、新たな解放の試しとやはり詳しい助言を与えているのに自分へは頭を使え、などの抽象的な物ばかり。もちろん不服はない、お陰で強くなっていると実感している。しかしだからこそ貴重な訓練時間を削るのは違う気がするとにかくもやもやする。
「やっぱ気になるかい」
などと心ここにあらずなロロベリアは肩を叩かれ我に返った。
今はラタニの個人指導という貴重な時間、乙女的な感情で無駄にするわけにはいかないと頭を下げた。
「申し訳ありません。アーメリさ――」
「お姉ちゃんね」
「……お姉ちゃん」
「よろしい」
申し訳ない気持ちは本物でもお姉ちゃん押しは止めて欲しい。
お陰で他の学院生が居る前で声を掛けられない。
「まあ分からんでもないけどねー。ロロちゃんがアヤトラブ以前に、指導力に関せばあいつの方が上だから」
「いえ、アーメ――」
「お姉ちゃんね」
「……お姉ちゃんの指導も充分素晴らしいかと」
本当に止めて欲しいはさておいて、アヤトの指導力は身をもって知るところ。
しかしラタニの指導力も知っている。
相手の精霊力を感じ取る能力、精霊術の発動に必要な量を自分よりも細かに指摘し、相手の特性に合わせて解りやすく説明してくれる。また精霊術を駆使した戦法のみならず、精霊術士の嫌がる間合いの詰め方や距離の取り方など俯瞰視点でも的確に助言できる。
故にみなさすがラタニ=アーメリだと賞賛しているわけで、ロロベリアにとって目指すべき大先輩だ。
「褒めてくれるのは嬉しいねぇ。でも総合的にはやっぱ及ばないよ」
ロロベリアの憧れの眼差しにラタニはくすぐったそうに首筋をかきながら視線を横へ。
「なんせあたしとあいつじゃ上に行く過程の質が違いすぎるからねん」
「……質、ですか」
釣られてロロベリアも向ければユースの猛追を余裕で見切り、蹴りを叩き込むアヤトの姿が。
「事実なのに自慢に聞こえるかもだけど、あたしは精霊術士って資質があって、それを活かせる頭もあった大天才と色々恵まれてた。よーするに精霊術士の資質を磨くだけで充分上へ行けた」
それが自慢にすら聞こえない実力がラタニにはある。
「でもアヤトはねー。どんな地獄見たか詳しくは知らんけど、保護した当時はせいぜい学院生の精霊士とギリッギリケンカできる程度の資質。もちその時点で持たぬ者としては異常だけど、逆を言えばその程度だとあたし含めた精霊術士とケンカするには全然足りない」
そして自信に満ちた風格で精霊術士を圧倒するアヤトは元々それだけの実力はなかった。
「だから頭を使いまくった。相手を分析して自分に足りないもんが何か、何を伸ばすべきか、ケンカするには何が必要か。そいつを得るには何をするか、どんな方法が最も効率的かって自分の強みと弱みだけでなく相手の強みや弱みとも向き合い続けた。その過程が今なんよ」
そんな彼が取った行動が思考を巡らせ続けるという単純な解。
だが単純でも精霊力を持つ者に持たぬ者は敵わないという理がある世界で諦めず自分を見つめ、相手を見つめ、受け入れ、覆す方法を模索する胆力は単純では済まされないだろう。
いくら実験の副作用で可能性が少しでもあろうと、誰もが成し遂げなかった道をアヤトは自分で築き歩み続けた。
その結果が今なら、確かに二人の質はまったく違う。
「とまあ、師弟って言ったところであたしがしてやったのは色んな経験値積む相手役と、あいつが得ることのできない精霊力に関する実体験を教える程度か。後は勝手に伸びて、精霊力の知識を応用して擬神化までしたときはほんと驚きビックリだったわ」
故にロロベリアも質の意味を理解する。
相手の強みを知れば封じる戦法で有利に立てる。
弱みを知ればそこをついて有利に立てる。
そして逆を言えば強みを知れば伸ばす方法も思いつく。
弱みを知れば指摘して改善法も思いつく。
自分が劣っていると自覚して、必要な方法を模索し続けた膨大な知識と経験を当てはめた指導ができると知るからこそラタニは指導力でアヤトに劣る。
自分だけでなく相手も成長させる能力がある故にラタニが戦いの申し子と賞賛しているのだと。
同時にロロベリアはある可能性に行き着く。
もしかするとこの状況もアヤトなりの指導法ではないかと。
「さすがロロちゃん、あいつのことを分かってくれてるね」
確認するより先にまるでロロベリアなら行き着いて当然とラタニは頭を撫でてくれる。
「今のユーちゃんは小器用に精霊術を扱える、あいつと遊ぶ前のロロちゃんと同じ。だから同じように実戦訓練を積ませて色んな基礎を伸ばす必要があるわけ。そんでロロちゃんは次のステージに踏み込んでるから」
「アヤトの指導よりもアーメ……お姉ちゃんの指導を受けるべき、ですか」
ラタニの指導力はアヤトに劣る、ただしそれは総合的な意味で、精霊力や精霊術という分野に置いては違う。特に精霊力を感じられない故に基礎となる制御力や想像力の指摘ができない。
ならばこの機会に自分よりもラタニの教えを受けるべき、そうアヤトは判断した。
「そういうことん。あいつでは詳しく教えられない精霊力、更に精霊術を伸ばすのが一番必要なこと。で、今のロロちゃんに最も必要なのが保有量って弱みをどうやって補うかだねん」
ロロベリアも自身の問題は自覚していた。
自分の保有量は学院内では平均的。しかしここに集う序列保持者やニコレスカ姉弟は平均よりも上だ。
精霊士のフロイスやランよりはもちろんある。ただそれは精霊術士だからで、次点のディーンとの差でも倍はあり、最も保有量のあるリースは四倍近い。
この保有量という問題点さえなければ選抜戦でももっと戦術の幅は広がっただけに、少ない保有力でこれからどうするべきか自身でも模索していた。
「ま、そっちも恵まれてるあたしがどこまで協力できるか分からんけど、姉妹で仲良くうんうん悩もうか」
そこにラタニという強力な指導者が加われば解決策が見いだせるかもしれない。
保有量の上昇はまだ見解析、それでも今ある保有量でできることを模索する。
時間に任せるよりも必ず次の糧になるなら挑まない手はなく。
「それと心配しなくてもアヤトとの楽しい時間はまだまだ続くから。次のステージに踏み込んでも、やっぱロロちゃんは全然弱いから自惚れないように」
「……はい」
弱いからこそ模索する。
ロロベリアは立ち止まるつもりはない。
ここでアヤトとロロベリアの訓練というのも今さらですからね。
ただロロのもやもやが徐々にシリーズ化してきました。こうなれば毎章どこかで入れようと思います。
とにかく今度こそVSシリーズも終了、次回更新から本編が進みますのでどうかお楽しみに!
……不定期更新に戻りますが、もちろんできるだけ間隔が開かないようにめちゃ頑張るのでどうか応援もよろしくお願いします!
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作者のテンションがめちゃ上がります!
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