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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第四章 つかの間の休息編
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VS 序列六位

アクセスありがとうございます!



「あなた、ディーンになにかした?」


 レイドに続いてアヤトの直接指導を受けるランは向かい合うなり質問を。

 なぜこのような質問をしたかと言えば指導前と後でディーンの様子が一変したからで。


 昨日の模擬戦からディーンがアヤトに対して苦手意識を抱いているのは察していた。今回の訓練方針を説明された時もラタニの指導は良くてもアヤトの指導はかなり嫌がっていた。

 現に一巡目にどちらが先にアヤトの元へ行くとの話し合いでも、自分が二回ラタニの指導を受けたいと駄々をこね、あまりの情けない姿勢に荒療治としてランは無理矢理アヤトの元へ行かせたりする。

 だが指導後は先陣を切ったメンバーと同じくボロボロになっていたのはさておいて、先ほどの嫌がりが嘘のように『あいつぜってーぶちのめす!』とやる気になっていた。


 現に二巡目、交代制なので自分がアヤトの元に行こうとしたら『もう一回俺が行く』と再び駄々をこねたので、とりあえずひっぱたいてからラタニの元へ向かわせたりする。

 やる気があるのは良いが、ランもアヤトの直接指導は楽しみにしていた。

 アヤトの戦闘スタイル全てが自分の理想以上、正直なところランにとってアヤトはラタニ以上に憧れているのだ。


 故に譲れない。それでも幼なじみの豹変ぶりが気になる。

 先ほどはラタニとの模擬戦。つまりこちら側の様子を気にする余裕もなく、どんな指導を受けたのか興味があった。

 まあまともに会話をしたことがなくとも、この手の質問に答えてくれるタイプではないと期待半分以下の質問だが――


「戦闘時は常に思考を巡らせるのは必要だが、巡らせすぎるのも違う。なによりあいつは頭ではなく感覚で戦況を把握し思いがけない発想から最善の手を打つセンスがある。にも関わらずびびって無駄に頭を使っていたからバカなのを思い出させてやっただけだ」


 言い方はアレでも素直に答えてくれてランはキョトン。


「ま、だからと言って使わないのもまた違うからな。そこはお前がフォローしておけ。ついでに今の話はするなよ、つけあがって更にバカになれば困るのもお前だろう」


 後半は完全にバカにしているも、実に的を射ていると感心した。

 幼なじみとして長くディーンと訓練しているランだからこそ彼の良さを知っている。

 序列入りするだけあり制御力、想像力は高いがディーンの良さはアヤトが口にしたように感覚の鋭さ。その長所だけでなく自分に対する萎縮から本領を発揮できないと気づいて先ほどのように挑発を繰り返したのだろう。

 なるほど、カナリアやモーエンが指導役に回すだけはある。実力だけでなく指導者としても秀逸だ。

 故にアヤトの指導がより楽しみになる。


「ディーンのことそれなりに認めてくれてるんだ」


 なにより家柄や見目、精霊術も含めて他の序列保持者より地味と言われている幼なじみを正しく評価してくれることが嬉しくてランは微笑んでしまう。


「あくまでそれなりに、だがな。ラタニを知るだけに俺は風の精霊術士にどうも面白みを感じん。事実、本領を発揮したところで微妙だ」

「……比較相手が悪すぎる」


「むしろお前と遊ぶのをそれなりに楽しみにしていた」


 王国最強精霊術士と比べるのは酷だろうと肩を落とすランだったが、思わぬ評価を受けてしまい。


「……あたしと?」

「まあな。一通り見学したが目を付けた遊び相手の一人がお前だ」

「…………序列保持者だから?」

「目を付けたのは四人しかいねぇよ」

「どうして? あたしの序列は六位だし」


 ラタニを基準にするなら同じ風の精霊術士のレイドは除外されるにしても、四人なら数が合わないと疑問視すればアヤトは朧月を抜き肩に乗せ。


「ま、お前の実力が上位に劣っているのは確かだ」

「じゃあ……」

「そもそも俺からすれば序列持ちなんざどんぐりの背比べでしかねぇ。要は強い弱いよりも、腰に三本も得物をぶら下げていれば物珍しさで興味を引かれるとは思わんか?」


 挑発と共にほくそまれランの手が無意識に腰へと回る。

 ファンデル王国は王国剣術を主体とした流派が広まっているので基本剣は一本。珍しい流派でも二本、こちらをユースが学んでいるのだがそれはさておき。

 ランはショートソードを腰の両側と後ろに所持している。学院内でも三本を主力武器にしているのは自分のみなので物珍しいと言えば確かだが。


「つまり王国剣術にどっぷりな序列四位さまよりは楽しめそうだ。まあ実際どうかは分からんがな」

「……なら実際に試してみればどう?」


 確実な煽りと理解しながらもランは当然乗った。

 元より今は個人指導、お喋りばかりなのはもったいないと腰後ろのショートソードを右手に持ち精霊力を解放。

 紺眼がアメジストよりも澄んだ紫へと変わり一呼吸後身をかがめて飛び出した。

 実力は劣るもののランの俊敏性ではフロイス以上、瞬く間にアヤトへ詰め寄りショートソードを振り上げた。


「しっ」


 同時に身を更に低くして足払いを狙う。

 上半身と下半身が別の生き物のようにグニャリと捻れる虚を衝いた動き――しかしアヤトは読んでいたように同時攻撃をバックステップで回避。

 だがランも想定内と空いた左手を地に付け身体を浮かせて距離を詰めるなり肘打ち。それもアヤトは身を翻して躱し朧月を一閃。

 お返しと言わんばかりにランも身体を反転、左手で抜いたショートソードで受け止め、反動のまま右のショートソードを振り抜く。


「……っ」

「もう終わりか?」


 が、その一撃をアヤトは受け止めたままの朧月を僅かにずらし柄先で防御。僅かなズレも許されない高等防御にランの方が虚を衝かれてしまう。

 それも一瞬、すぐさま切り替え左のショートソードを手放しもう一本のショートソードを手にし追撃する。

 本来なら急に得物を手放せば僅かでも重心がずれて体勢を崩す。

 しかしこの無謀と言える判断すら読んでいたようにアヤトは体勢を崩すどころか手放したショートソードを空中で拾い上げて防御。


「ほんと、嫌になるっ」


 完全に自分の動きを先読みしなければ不可能な対応をこうも軽々されてはランも舌打ち一つ、仕切り直すべく宙返りで距離を取った。


「ほんと……嫌になる」


 今度は苛立ちよりも呆れから同じ言葉が紡がれた。

 なぜなら先ほどアヤトに拾われたショートソードが左腰の鞘に収まっていて。


「奪われて悔しかったのかと返してやったんだがな。どうやら違うらしい」


 嫌味はさておき、距離を取ることすら先読みされて後方を意識したスキを狙われた。

 昨日の模擬戦で認識を改めたはずだが、実際に相手取るとここまでバケモノ染みているのかともう笑うしかなく。


「それで、実際に試してみてどうだった?」


 故に楽しめそうだとの評価がどう変わったのか。


「お前は自身の強みを自覚し、最大限に利用する試行錯誤を繰り返し上手く昇華している。言われるがまま、教わるまま、才能に溺れるままの奴よりはここを上手く使っている証拠だ」


 気になり自嘲気味な確認すればアヤトはこめかみをつつき。


「つまり、それなりに楽しんでいるが?」

「それは……どうも」


 思わぬ返しにランは素で返しつつ、内心戸惑ってしまう。

 精霊騎士を目指す者は基本剣技を含めた武術を磨くがランは独学で体術の鍛錬も続け、剣術と体術を組み合わせる戦法を編み出した。また素早さを重視し取り回しの効くショートソードを装備しているのも、不意に武器を手放すことで力負けする相手の虚を衝く為で。


 柔軟性、判断力、直感とこの長所を活かすべく幼なじみに置いて行かれないように試行錯誤を続けた。

 同時にアヤトの言葉に重みを感じる。

 きっと彼も同じだ。

 言われるがまま、教わるまま、才能に溺れるままではなく、試行錯誤を繰り返したのだろう。

 持たぬ者が精霊術士を、しかも王国最強の精霊術士と対等に渡り合うために。


 そして実現させた。なるほど――だから本気を見て憧れたのか。


 自分もそうなりたいと、彼のように対等であり続けたいと。


「なら、今よりもっと楽しんでもらえるように何かご教授してもらえない? 指導員さん」


 納得し、ならば更なる高みを目指したいとの欲求からランは教えを請い。


「そういや今はお勉強の時間か。ならこういうのはどうだ――」


 思い出したかのように肩を竦め、アヤトが駆け出す。

 ランも二本のショートソードを構え、朧月の連撃に対応。


「く……っ」


 相手は一刀に対しこちらは二刀。にも関わらず反撃する間も与えない剣速にランの表情が顰めていく。

 まあ相手は完全に手を抜いているから対応できていると、集中してランは何とか隙を窺い――


(いきなりっ?)


 アヤトが朧月を横薙ぎするなり身体を反転、上段回し蹴りに切り替える。

 まるで自分のお株を奪うかのように剣術からの体術、一連の動作は流れるように間がなく左側頭部を狙われるもランは咄嗟に左腕を上げて――

 

(うそっ!)


 対応するなり蹴りの軌道がガクンと落ちて脇腹に狙いが変わる。

 あの体勢と速度で急激な軌道変化、柔軟性もまたお株を奪われる見事なフェイント。


(でも――)


 それでもギリギリ間に合うと身体を捻って回避に成功――


「……え?」


 していなかった。

 視界に写ったのは朧月を地面に突き刺し、上段回し蹴りの体勢から支える左足で地面を蹴り上げ、空中で身体を真横にして追撃するアヤトの姿が。


「く――っ」


 躱しきれず胸に蹴りを受けてランは後方に吹き飛ばされ。


「視線、身体の僅かな動き、なにより攻撃時に含まれる意思と相手の情報を読み取る方法はいくらでもある」


 曲芸のような動きを見せたアヤトは蹴り上げた勢いで宙返りからの見事な着地後、地面に刺さっていた朧月を引き抜き切っ先をランに向ける。


「つまりお前の攻撃はこれからフェイントを入れますと言っているようで察しやすい。また咄嗟の判断力は褒めてやるが、僅かな間を与えればこちらもある程度次の一手を予測し、対処する余裕ができる」


 呆然と聞き入る中、切っ先を下げて不敵に笑った。


「他にもあるが、とりあえずこれくらいの修正をすればもう少し楽しめる。参考になったか?」

「……嫌になるほどに」


 言葉よりも実体験したことでとランも肩の力を抜いて笑った。

 フェイント前の攻撃にも殺気を込め、僅かな間すら与えない咄嗟の軌道変更。対処されても上回る次への判断とまさにお手本をアヤトは示した。

 正直なところ、そこまで簡単に相手の情報を読み取れる者が他に居るのかと指摘したい。かなり無茶な要求と反論したい。


 それでも、理想に近づける自分になるなら挑戦するべきで。

 言われるまま、教わるままなのは性に合わないので自分なりに今の助言から試行錯誤をするべきと立ち上がり。


「早速試させてもらうわよ。指導員さん」

「やれやれ……」


 やる気に満ちるランに対し面倒げにしながらもアヤトは距離を空けてくれた。

 学院に広まった噂はあまり気にしていなかったが、目に余る態度から敬遠していたのがもったいなく思う。

 ここまで理想のお手本が身近に居ながら三ヶ月も無駄にしてしまった。

 これならロロベリアが訓練を受けていると聞いたときに、自分も参加を懇願すれば良かった――


「ねぇ、一つ聞いていい?」


 と、思い返しているとふと疑問が浮かびランは問いかける。


「あなたが目を付けていた遊び相手にリーズベルトさんは入っていたの?」


 序列保持者に三人いる遊び相手。あまり人と関わりたがらないタイプのアヤトが調理師に赴任して間もなくロロベリアと接点を持ったのだろうか。


「さあな」

「ふ~ん」


 この質問に対しアヤトは交わしてしまうが、何となくでも察した。


 恐らく入っていなかったが、今はそれなりにではなく、一番楽しい遊び相手になっているんだろうと。


「なんだ」

「……なんでもありません」


 だが口にしてしまえば何か、とんでもなく怖い訓練になりそうだと持ち味の直感が告げてランもまた交わした。 




作者的にランは序列メンバーの中で一番好きです。

そしてVSシリーズ(?)も一先ず終了。

今回は新メンバーを中心にまだ戦闘シーンを描いてなかったカイルをメインにやってみましたが、いかがでしたでしょうか?

強いて言えばロロとは対戦しましたが、エレノアもアヤトと遊ばせてみたかったかな? もしかしたらオマケで書くかもしれません……はい、本編はもち滞らないようにします。

また宣言通りの一週間更新達成ですが、明日も更新予定。

アヤトが目立つともう一人の主人公が目立たないので……つまり明日のVSシリーズ(?)はロロベリアの登場。

内容についてはお楽しみに!


みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました!

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