VS 序列四位
今回の更新で一〇〇話達成!
もちろん今作はまだまだ続くのでどうか今後ともよろしくお願いします!
休憩を挟んで個人指導も二巡目に。
「よろしく頼む」
エレノアに続いて直接指導を受けるのはフロイス。
昨日の出来事が嘘のように向き合うアヤトに敬意を込めた一礼を。
「昨日の威勢はどうした」
早速そこをアヤトが衝くもフロイスは眉根一つ動かさず粛々とした態度を崩さない。
「お嬢さまから良いお勉強をさせてもらうよう言われている。また、カルヴァシアにはアーメリ殿と同等の敬意を払うようにとも」
フロイスにとって主、ティエッタは絶対の存在。
彼女から一族の当主よりも、ラタニとアヤトへは最大限の敬意を払うように命令されているならフロイスも従うのみ。
「故に昨日の件に関する自分の行為にも、望むならば謝罪も辞さない」
「望まねぇよ。つーか実に出来た飼い犬だな、どこぞの白いのやリスにも見習わせたいものだ」
「リーズベルトやニコレスカにか」
なのでお約束の皮肉もフロイスには通じない。
昨日の模擬戦、加えて自ら直接指導を受けたことでラタニとアヤトは国王や当主よりも敬意を向ける存在だと独特の価値観を持つティエッタと、主の言葉ならば従いすぎる独自の忠誠を持つフロイスはある意味、お似合いの主従と言えるがそれはさておき。
「……やれやれ、予想以上だ」
フロイスの反応にアヤトは首を振る。
「これまでお前を犬扱いしたこと、謝罪しよう」
「……なぜだ?」
「詫びと言ってはなんだがお前の大好きな主さまの望み通り、良いお勉強をさせてやるよ」
突然の謝罪にさすがのフロイスも怪訝な顔をするもアヤトは無視、なぜか朧月を鞘に納めてしまった。
「本気でこい」
「……いいのか?」
「どこぞのリスと似たようなものだからな」
意図はよく分からないがフロイスは背から長剣を抜く。
一メルを超える長剣を中段よりやや左下へ切っ先を向ける王国剣術基本の構えを取り精霊力を解放。
いくら実力差があろうと素手の相手に斬り込むのは気が引けるも、一拍の間を置き地面を蹴った。
「ふっ」
その動きは学院最強精霊騎士と呼ばれるに相応しく、間合いを瞬時に詰める踏み込みの速さ、剣を振り上げる一連の動作は無駄がない。
だがそれ以上にギリギリで避けるアヤトの動きは無駄がなく、長剣とは思えない最速最短で繰り出す連撃をものともしない。
まるで先読みされているかのような不気味さ。
捉えたと確信すれば見失う瞬間的な速さは、遠目で観察するのと実際に立ち会うのとでは全く違う。
実感してもなおフロイスは冷静に、焦りで大ぶりにならないよう剣を振るう。
戦闘時でも心を乱さない姿勢もまた学院最強の精霊騎士に相応しい能力と言える。
だが、やはりアヤトが一枚上手で。
衰えるどころか増していく剣速にも余裕の対応で躱し続けていたが――
「よっと」
振り上げから手首を返した流れるような振り下ろしをアヤトは咄嗟に地面に手を突き、足を上げて迎え撃つ変則的な動きに切り替えた。
ガキン
「くっ」
靴底に刃が当たるなり何か堅い物を打ったかのような衝撃。
予想外の防御にフロイスの体勢が初めて崩れるが、アヤトも体勢を崩しているなら好機と判断。
弾かれた衝撃に逆らわず、そのままの勢いで横薙ぎを繰り出す。
「…………」
「――やれやれ」
だが前を向いた瞬間さすがのフロイスも絶句した。
何故なら長剣の刃の上で器用に立つアヤトが冷ややかな視線を向けていて。
「ここまで酷いと笑えん――な」
「がぁ!」
増された重量を感じるよりも先にアヤトがお返しと言わんばかりに側頭部を蹴りつけ、フロイスは吹き飛ばされた。
「さすが精霊士さまは違うな。褒めてやろう」
対し綺麗に着地したアヤトは倒れてもなお長剣を手放さなかったことを賞賛しつつ歩み寄り。
「さて、お待ちかねのお勉強の時間だ」
呆然と空を見上げるフロイスの側で見下ろすようにしゃがみ込んだ。
「リスとは違い、お前の場合は才能だけのお利口さんな剣術だ。つまり王国剣術に忠実すぎるが故に読みやすい」
「…………」
「だが一番の理由は、違和感ある得物を使い続けていることだ」
「…………」
「だから言っただろ。本気でこいと」
含みをもたせた言い方、しかしフロイスは何を指摘しているかを理解した。
「なぜ……気づいた」
「そんなもの剣筋を見れば気づく。無理に矯正しようとしているのも含めてな」
事も無げに言い放つが剣筋を見ただけでそこまで気づけるものなのか?
学院講師も、剣の師である父にも気づかれなかったのに。
「どうだろうな。単に矯正する意思を尊重しただけかもしれんぞ」
そんな心中も読んだようにアヤトから忠告が。
「どちらにせよ、今の得物に固執するのは大好きなお嬢さまが理由か」
「ああ……お嬢さまの言葉は絶対だ」
長剣を選んでいるのはティエッタの些細な一言から。
実家での訓練が進むにつれ自身の武器を決める際、フロイスには長剣が似合うと言われて迷うことなく選んだ。
だが学院に入ってから少しずつ長剣に対して違和感を覚え始めた。
それでも拘り、馴染むように矯正を続けていた。
幼少期の些細な一言でも、フロイスにとってティエッタの言葉は絶対だから。
「バカかお前は。絶対の存在なんざこの世にはいねぇよ」
だがフロイスの忠誠心をアヤトは呆れたように一蹴。
「故に俺の言葉も絶対でもねぇ。興味なければ適当に流せ」
前置きをしてまずフロイスに問いかけた。
「なぜ精霊術同士のやり合いで多彩な精霊術を操るお嬢さまが、精霊騎士にはワンパターンになっているかが分かるか?」
ゆっくりと首を振るフロイスに大きなため息を吐き。
「自分が最も信頼している精霊騎士に通用していると勘違いしているからだよ」
この指摘が誰を批判しているのか、理解するなりフロイスは目を見開く。
ティエッタは近接戦の問題点をアヤトに指摘されたと言っていた。
同時にまだまだ強くなる道筋が見えたと歓喜していた。
真の強さを求める彼女らしいと誇らしく思うと同時に、手助けをしたアヤトに嫉妬していたが。
この問題点は自分が原因だ。
それほどまで信頼してもらえた誇らしさよりも、これまでティエッタに足踏みをさせていた後悔ばかりが募る。
「もう分かるだろう。お前の大好きなお嬢さまに一番影響を与えているのは誰なのか。理想に近づける支えが出来るのは誰なのか」
理解したからこそアヤトの言葉が胸を抉り。
「なにより過保護な中でも己を見つめ、勘違いを受け入れ、ぬるま湯につからぬよう悪足掻きも厭わないお嬢さまに仕える奴には、同じように強さを求める奴がお似合いだと思うがな」
だからこそ、忠誠心を理由に足踏みしている場合ではないと奮い立つ。
ティエッタへの忠誠を誓うなら、何よりも心の強さを追い求めるべき。
また先ほどの指摘でアヤトがティエッタを軽んじるどころか、努力を認めていると感じて。
「やはりお嬢さまは正しい」
最初の謝罪も自分にではなく、信頼を寄せている大切な従者を侮辱されたティエッタに向けたものと気づきつつフロイスは立ち上がる。
「……確かに、良いお勉強をさせてもらった」
自身が剣筋で感じた為人よりも、強さで相手の本質を知る。
ただ強いだけではない。ティエッタの目指す真の強者としての理想図を見出した慧眼に感服した。
「やれやれ、相変わらずの主バカか……まあいい」
崇拝するフロイスだが、今までとは違う意思が感じられて呆れながらもアヤトは微笑し。
「それで方針はどうするんだ。矯正を続けるか、自分で納得のいく得物を選ぶか、決めんとお勉強が続けられんだろう」
「むろんお嬢さまの成長を支えられるなら、自分の忠誠心など惜しくはない」
「言ってることは分からんが、後者で良いんだな」
「ああ、訓練後に早速お暇を頂き探してくる」
長剣を手に意気揚々と語るがアヤトは大きなため息を吐く。
「たく……おい、そいつは思い入れのある物か」
「いや……自分で選んだ既製品だ」
「なら問題ないな」
何がと問いかけるより先にアヤトが朧月の柄に手をかけた。
キンッ
瞬間、小気味いい音と共に手にしていた長剣の刃がクルクルと宙を舞い地面に落ちて。
「俺の見立てではこんなものだが、どうだ」
「…………」
切れ味よりもいくら精霊力を解放していないとは言え、剣筋さえ見えなかった。
「どうだと聞いているんだが」
朧月の抜刀により切断されたことによる現象だと理解するのに時間が掛かり苛立ちを露わにされてフロイスは我に返り素振りをしてみる。
切断されて約九〇センメルほどに変わるだけで驚くほど手に馴染み。
「ま、気にいらんならまたお嬢さまに選んでもらえ」
自分に見合った理想の長さまで見極めてしまったアヤトにまた驚き。
「さて、ここからが本格的なお勉強の時間だ」
呆然とするフロイスを無視してアヤトは距離を取り。
「違和感無視するほどたいそうな実力がテメェにあるのか?」
あからさまな挑発をするも、フロイスは苛立ちすら沸かず主の命とは関係なく敬意を払い精霊力を解放した。
「そんなもの、遊んでみれば分かる話だ」
この後、フロイスはティエッタに謝罪をして許すどころか更にアヤトの評価を上げたとか何とか。
こうしたサブキャラクターの細かいエピソードはいつか書こうと思いますがどうでしょう?
もちろん本編の更新に支障を来さないように、ですが……。
みなさまにお願いと感謝を。
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作者のテンションがめちゃ上がります!
読んでいただき、ありがとうございました!