「地獄の島に住む少女」-4
ストック終了のお知らせ(汗
どれだけ走り続けただろうか。
武人でもあり軍人でもあるラウルにとって遠距離走は鍛錬の一つとして慣れ親しんだものだが、少しでも魔竜と少女に追いつこうとハイペースを維持していたせいで全身から汗が噴き出し、蓄積した疲労が踏み出す足を鈍らせる。
砂浜に残る巨大な足跡を追って岸壁部分にまで辿り着く。そこからは舗装されていない、道とも呼べない岩の隙間を駆け抜ける。
追走劇を繰り広げながら何度も魔竜と少女は激突したのだろうか、何か所も岩肌が砕けた場所があり、血が飛び散っているところもあった。
その血があの黒髪の少女の物かと思いはしたが……直後にそれを否定する。
(血痕の量が人ひとりの分量にしては多すぎる。それにヤツに喰われたなら血が飛び散る事も無いはずだ)
魔竜は少女を恐れていた。ならばそれに見合う強さがあるはずなのだから、簡単に負けることなどありえない。
けれどそれはラウルの願望だ。地面に大穴を穿つほどに高い攻撃力を持つ少女ならば魔竜と対峙することができるかもしれない……そんな英雄を求めるかのような甘い願望。
―――だが、ラウルの願いはすぐさま別の形で裏切られることになる。
「………冗談だろ?」
遠くから重たい物同士が激突する音が聞こえてきた。慌ててそちらへ目をやれば、遠くにいるが故に広く周囲を捉えられる視界を下から上へ、そして頂点に至って上から下へと落下していくモノを捉えることができた。
魔竜である。
「は…ははは……」
集団陣形を取る兵の集団に突撃しても容易に蹴散らすだけの巨体を誇る魔竜が宙を舞う。
ワイバーン(飛竜)のような翼を有していない魔竜が飛ぶことなど在り得ない。
どんな魔法を使ったとしても、どんな技を使ったとしても、あまりに非常識なものを目にしたラウルの口から乾いた笑いがこぼれる。けれどそれ以上に、信じられない程の非常識に惹かれていく自分がいることも自覚してしまっていた。
「あそこを越えれば、もう、見えるはずだ……!」
息も絶え絶えに垂直に近い岩壁を登りきる。
そして目にしたのは、数多の兵を貪り殺した魔竜と、石の大剣を手にした少女の戦う、非現実的な戦いの……いや、命を賭けた一対一の決闘の場だ。
「さあさあさあさあさあ! おとなしく私に狩られて糧になれぇえええええっ!!!」
『GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
海岸で目にしたものは、やはり見間違いではなかった。
腰に届くほど長い黒髪をひるがえして戦う少女。彼女の武器は巨大な石剣。まさしく岩石を割って削りだして“剣”の形にしただけの、凹凸の刃を持つ超重量武器だ。
武器というにはあまりに武骨。切断力など期待できようはずもない。しかし原始人の石器を思わせる武骨な大剣が振るわれるたびに轟と空気を抉れ、ただただ純粋な速度と膂力と重量とが魔竜を吹き飛ばしてみせる。
驚愕すべきはそんな人の身の丈をも超える巨大剣を、褐色の肌を露わにした黒髪の少女が片手に一本ずつ握りしめ、軽々と振り回している事実だ。
大剣が見た目以上に軽い……訳ではない。地面に叩きつければ岩盤ごと大地を割り、攻勢に転じようとする魔竜を逆に押し切る剣は、むしろ見た目以上の重量のはず。けれど少女は微塵も重量を感じさせず、木の枝を手の中で回すように軽やかに石の大剣を扱い、断頭台の如き一撃を放っている。
―――それは剣技だ。
確かに少女の膂力は桁外れなのだろう。人の身で竜種と伍する程の怪力があるからこそ、魔竜の前に立てている。
だが生まれた時より身に着けた暴力を叩きつけるだけならば、その戦い方は魔物と変わりはない。そこにラウルを引き付けるものなど在りはしない。
けれど実際にはどうだ。
ラウルよりも小柄な少女は魔竜の左の爪撃を身を回して軽やかに躱し、振り上げた刃で肘から先を切り飛ばす。魔竜が怯めばすかさず踏み込んで巨体を支える右の膝へ大剣の峰を叩きつけて関節の破壊を狙い、苦し紛れに振り回された尾は魔竜が体の向きを入れ替える足の動きで予兆を察して危うげなく回避した。
ラウルでも持ち上げるのでさえ難しそうな重量武器を用いながら、少女は刃筋を立てて斬撃を放っている。脱力した状態からの何気ない一振りが竜の鱗に覆われた体躯を切り裂いているが、竜の筋肉も骨も簡単に両断できるものではない。
そして機を見るに敏。力任せでも技に頼るのでもなく、好機を見逃さず的確に行動するからこそ、魔竜を相手の立ち回りでも余裕を保ちながら流れを自分へと引き寄せられるのだ。
「彼女だ……我々は、彼女を迎えに来たのだ……!」
胸や腰を隠す程度に魔獣の皮らしき衣服を身に着け、髪には煌びやかな鳥の羽を指した少女。
恥じらいもなく露出した褐色の肌が彼女の健康的な美しさを際立だせ、汗のぬめりと戦闘の興奮が得もいえぬ艶かましさをも感じさせていた。
彼女は化け物だ。同時に人間でもある。
人では持ちえぬ膂力を振るい、人としても卓越した剣技を振るう。
剣聖と呼ばれるほどのラウルの技量のさらに上を行き、人の身で竜をも超えることが可能であると示すほどに。
「………行け」
まるで大地を吹き抜ける風のように、力強く、まっすぐに少女は竜へと突き進む。
十年前、これほどの力があればどれほどの仲間を救えただろうか。
多くを失ったからこそ剣の力を渇望し、それでも至らなかった自分に絶望した。
けれど、まだだ。まだ先へ行ける。例え今は魔竜に届かなくとも、あの少女がそうであるように、いつかあそこへ辿り着くと今ならば信じられた。
心は竦んでいなかった。
手は震えていなかった。
体は怯えていなかった。
だから叫ぶ。決意を込めて、仲間を失ったこの島で、産声を上げるように―――
「行けぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
膝にダメージが蓄積し、動きが鈍った魔竜は徐々に少女を捉えられなくなっていく。それでも尾を振り、全身の瞬発力を爆発させてこれまでにない加速を得た魔竜は今度こそ少女を噛み殺さんと巨大な咢を開く。
鋸かヤスリのように二重三重にズラリと並ぶ鋭い牙。しかしそんなものを怯える様子も見せず、けれど躱す素振りも見せない。左の剣を右肩に乗せるように、右の剣を左腰に引きつけるように構え、臆することなく強い一歩を踏みしめた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
―――≪天地交錯≫
左の袈裟斬りが魔竜の上顎を斜め上から叩き割り、
右の逆袈裟が続けざまに竜の下顎を斬り上げる。
初撃で瞬間的に全身を捩じり、その反動を上乗せした二撃目が本命。
個体仮称の由来にもなった巨大な顎が、連撃でありながらほぼ同時に叩き込まれた上下からの斬撃で断ち割られる。いかに強靭であれど、最も頼みとする巨大な顎を潰され、一歩、二歩とよろめいた魔竜は、自分の体を駆け上って天高く舞い上がった少女を見上げていた。
石の大剣を重ねて両手で持ち、天へ届けと言わんばかりに振り上げたその姿こそ、魔竜と恐れられた存在の死神だった。
「―――≪ギガ・ストライク≫!」
手を内へ絞め、脇を絞め、まっすぐに振り上げ、まっすぐに振り下ろす、剣術におけるもっとも基本の型。
それこそが彼女が剣士であるなによりの証。何万回、何十万回、何百万回と愚直に剣を振り続けた努力が生み出す斬撃の加速。力と技の集約。
………それが、竜殺しの一撃となった。
『GU―――A―――――GYA…AA………A………………』
竜種と言えども、頭部を砕かれて生きていられるはずがない。
地面に倒れ込んでしばらくのた打ち回っていた魔竜だったが、痙攣しながら次第に動きが鈍くなっていく。
もう魔竜に抗う力は残されていない……それでもそれは擬態かもしれない。
少女に最後まで油断はなかった。慎重に、けれど臆することなく瀕死の竜に歩み寄ると心蔵に石剣を突き立て、その命を確実に刈り取った。
「―――――――ふぅ」
少女が大きく息を吐き出して緊張を解き、石の大剣を地面へ突き立てたことで長く続いた戦闘が終わりを告げる。
それを見たラウルはいてもたってもいられなくなり、戦闘を俯瞰していた岸壁の上から駆け下りていた。
「あの!」
「―――――――――――――――――――っ!?!?!?」
まさか声をかけられるとは思ってもいなかったのだろう。背中から声を掛けられた少女はギクリと体を強張らせて振り返ると、その拍子に足元へと舞い落ちるものがあった。
それが何かと目を向けると、先ほどまで少女が胸に巻きつけていた魔獣の皮だった。結んでいた紐がちぎれた……訳ではなく、どういうわけか少女は紐をほどいていたらしい。
遠くからでは気付かなかったけれど怪我でもしたのだろうか……心配してラウルが視線を上げると、その先で少女の胸の膨らみがプルンと弾んでいた。
成長過程ではあろうが、張りと柔らかさに満ちたなかなかの美乳である。まだ少しコンパクトではあるが実に形がよく、日焼け跡の色の境目もなく魅惑的な褐色肌の膨らみは粘りのある汗にまみれ、健康的を越えて実に野生的な魅力を醸し出しており、ラウルの下腹部にも思わずズンッとキてしまう。
しかし膨らみがそんなに小刻みにプルプルと震えていては目が離せなくなってしまう。……はっ!? これはもしやこの島特有の挨拶か何かだろうか。激しく腰を揺すりたてながら下半身を擦り付けて親愛を示す部族がいると文献で読んだことがある。どうしようもしこのファーストコンタクトが失敗したら彼女を連れて帰ることが難しくなってしまうかもしれないので自分も裸になって胸を揺すってみるべきだろうかでも普通はそういうのは将来を約束した男女でするものであっていきなり服を脱ぐのも何か誤解させてしまうかもしれないけれどこれも世のため国のためだしよし覚悟を決めていざ服を脱―――ごうとしたところで、
「へ……変質者ぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
長距離走のせいで全身汗だく。ハァハァと息を荒げたまま少女の背後から声をかけ、感涙のせいで目が赤く腫れあがってるし、しかも自分の衣服に手を掛けて脱ごうとした。
………言い訳できない程に変質者だった。
もう少し落ち着いてから話しかければよかった。
興奮で頭が回っていなかった。
気が逸ってしまった。
今は反省してる。
とはいえ後悔先に立たず。後からするから後悔なのである。
おかげでラウルは首がねじ切れんばかりに強烈な平手を食らい、錐揉み回転しながら吹っ飛んだ挙句に地面へと叩きつけられた。全身を固い地面へ打ち付け、極度も疲労も相まって意識が急速に遠のいていくけれども、
―――それでも凝視してしまったおっぱいだけは、忘れることなく記憶野に深く刻み込まれてしまっていた。
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名前:大成育美
レベル:48
種族:人間
ステータス:物理寄り
身長:146センチ
カップ:A>>B
ポテンシャル:発育促進(絶大)
【スキル】
≪大剣戦闘≫Lv83
≪槍戦闘≫Lv56
≪弓戦闘≫Lv16
≪徒手格闘≫Lv61
≪我流魔法≫Lv41
≪補助魔法≫Lv47
≪水泳≫Lv73
≪投擲≫Lv62
≪筋力向上≫Lv87
≪敏捷性向上≫Lv113
≪防御力向上≫Lv39
≪回避力向上≫Lv102
≪逃走≫Lv137
≪危険察知≫Lv82
≪隠密行動≫Lv86
≪工作技能≫Lv45
≪調理技能≫Lv73
≪採取技能≫Lv85
≪探索技能≫Lv92
≪超回復≫Lv96
【アーツ】
≪ギガ・ストライク≫
≪天地交錯≫
≪????≫
【神の恩寵】
≪言語理解≫
≪基礎魔法≫
≪武芸才能(特大)≫
≪魔法才能(特大)≫
≪五大属性適応≫(未開化)
≪成長限界突破≫(未開化)
≪経験値三倍増≫
≪鑑定(特殊)≫
≪幸運≫
≪男運≫(未開化)
≪女運≫(未開化)
≪黄金律≫(未開化)
≪健康≫
≪状態異常無効≫
≪不老≫(未開化)
≪長寿≫(未開化)
≪不死≫(未開化)
≪性欲増進≫
≪性魔術≫(未開化)
≪神々との縁≫
≪創造神の祝福≫
≪????≫(未開化)
【固有才能】
≪仙姿玉質≫
≪????≫(未開化)
登場人物紹介(1)
名前:ラウル=ソル=ラザレス
種族:人間
性別:男
年齢:27
髪色:金
称号:剣聖
性格:真面目かつ愚直
ラザレス国の第三王子。現在は第三軍の統括将軍の地位にあり、ラザレス王国の西方の砦でシェンバル国との防衛戦を指揮している。独身。
十年前のクラエス島調査隊の失敗の責任を王族という理由だけで全て背負わされ、以降かなりの辛酸を舐めさせられた。王位継承権を失って懲罰部隊で過酷な任務に従事していたが、次兄ディルザックに影ながら助けられ、武芸大会三連覇という偉業を果たしたことで汚名を雪ぐ。その名声と実力を国内に留め置くために将軍位に任じられる。
基本的に真面目で有能なのだが、なにごとにも前提に「自分など死んでもいい」と考えてしまう傾向がある。それゆえ二度と行きたくないとさえ思っていたクラエス島に行けると知って「クラエス島で戦って死ぬこと」に執着し、守ろう抗おうとする上辺だけの決意の裏側で恐れや怯えが堪えきれず、無意識に形だけの抵抗をして命を捨てようとすらしていた。
なお、苦労し過ぎたせいで一般的な常識が抜け落ちているところがあり、有能な補佐がいなければとっくの昔にやらかしていた可能性が高い。