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私は戦う!おっぱい大きくするために!  作者: 鶴
第一章「ラザレス王国動乱」
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「愚者たちの夜」-6

「着いたよ。ラウルを連れてきたかったのここね」


「………石?」


 まあ確かに見たまんま石……というか岩ですね。でっかいし。……でっか石?


 造成時に削り取った山肌は斜面を平らにした分だけ垂直に削れている。比較的平坦な場所だったとはいえ敷地面積を広くとったので、奥側に見られる岩壁は結構な高さがある。

 そんな壁の一角、丸太壁が視界に入るほどの砦の片隅には私よりも背の高い岩が鎮座している。これはもちろん私が置いたものだ。傍らには岩を風雨から庇うように、樹が一本植樹してある。こんな場所に根付くかと思っていたのだけれど、なかなかに生命力のある樹だったらしく時々水をやっているだけで青々とした葉を茂らせるようになっていた。


 けれど周囲を見回せど、ここには私とラウルしかいない。さっきから後ろでラウルがキョロキョロとしているのが伝わってくる。


「オーナリィ、キミは誰かに僕を会わせると言ったけど……そもそもキミ以外の誰がこの島にいるのか? いい加減教えてくれてもいいんじゃないか?」


「ここに住んでるのは私だけよ。でも……」


 要領を得ない顔をしているラウルを尻目に、手の平の光の玉へ行きなさいと言うように軽く押し上げて上げれば、光の玉はふわふわと空気中を漂ってから木の枝の一本に吸い付き、周囲を明るく照らしてくれる。

 その光の中、私は岩に手を回し


「ここには私以外のヒトも()()の」


 慎重に持ち上げ、横へずらしていく。

 なんか後ろで「あー、やっぱり……」とか言ってる気がするけど、聞かなかったことにしておこう。けど力持ちな女の子ってもてなさそうな気がするな……


 いつか「ゴリラ女」と呼ばれるのではないかという将来への悩みに頭を痛めながら、重さは……1トンぐらいあるだろうか。そんな大岩を横へずらして地面に静かに下ろす。


「隠し通路……?」


 岩があった場所には、代わりにぽっかりと壁に大きな穴が口を開いていた。縦幅も横幅も人が十分に通れるほど。確かに隠していたのだから隠し通路ではあるのだが……

 さすがに岩が重かったので手をぶらぶらと振って筋肉をほぐしていると、よほど私が隠していたものが気になったのか、ラウルは一人先に薄暗い通路を覗き込み、


「なっ――――――!?」







 中に転がる人骨を目の当たりにして、息を飲んでいた。







「おいで」


 手招きをすると、木の枝に張り付いていた光の玉は私の手元に戻ってくる。その淡い明かりを少し弱めると、私はラウルの横を抜けて落ちていた人の頭蓋骨を拾い上げ、通路の奥へと進んでいった。


「ちょっと待ってくれ。その骨はいったいなんなんだ!?」


「見てわかるでしょ。頭蓋骨」


「そういう意味で聞いてるんじゃない! なんで人の骨がキミの砦の敷地内に転がってるんだ!?」


「ちょっと落ち着いたらどう? 私が取って食ったり、死体を隠蔽してたってわけじゃないから」


 明かりがあっても穴の奥は見通せない。雨水が流れ込まないように通路には奥が高くなるように傾斜をつけており、行き止まりにある部屋の中までは入り口からでは見えないようになっている。

 そんな通路の奥へと私が進んでいくと、入るのを躊躇っていたラウルも意を決して後をついてきた。


「………魔力を感じ取れるようになるとね、森の中でたまに変な気配を感じるようになったの」


 暗闇に躊躇わずに進むと通路の奥に辿り着くのにそれほど時間はかからない。追いついてきたラウルにそう語り聞かせている内に、私は最奥の石室に辿り着く。

 中は二人が入っても十分余裕があるぐらいの広さがある四角い石室だ。奥と左右の壁には三段の棚になるように壁に掘り込みをしてある。

 そしてここに置いてあるのは、


「人の骨が…こんなに……!?」


 部屋の中を目にしたラウルが呆然と呟いた。

 この部屋に収められているのは島の各所から拾い集めた人の骨。

 この島に上陸しても生き抜くことも逃げ出すことも敵わなかった人たちのなれの果てだ。


 数はかなり多い。三百か、四百か、原形をとどめていない骨を入れればさらに数は増える。

 そのため壁に掘った棚には置き切れず、石室を拡張するまでの間は申し訳ないけれど、地面に敷いた毛皮の上に骨を積み上げさせてもらっている。それと骨ではないが、無くなった人の意思が染みついた剣や鎧と思しき錆びた金属の残骸もここにはある。


「ちょっと黒っぽい気配で最初は薄気味悪かったんだけど、なにかを訴えてるような、助けを求めてるような感じがしてさ……行ってみたら、()()()()()がいたの」


 先ほどと同じようにして光の玉を軽く押し上げて天井へ張り付かせると、手にした頭蓋骨を骨の山の一番上に置き、膝をついてそっと手を合わせる。


 ここには蝋燭もない。お線香もない。そもそも神も仏も違うんだから、祈る様式だってまるで違うはずだ。

 でも……


「見つけちゃったら放っておけなくなっちゃって。私も、この島で死んだらこの人たちと同じようになってたんだから」


 ……それでも、手を合わせる。常に私の隣にいた人たちが、せめて安らかに眠れますようにと心を込めて。


 砦を作ったのは安全の確保が第一の目的だったけれど、この人たちを奉ってあげたいというのも幾分理由に含まれている。

 この島にどうしてこれだけの人骨があるのか分からなかったし、怖くて触れることも出来なかった。

 けれど聞こえるようになった黒い声を追うたびに見つける人の骨は、次第に夥しい量になっていった。モンスターに食い殺されたのか、もしかすると殺し合いが起こったのではないか、想像はすれど確かめる術もない。

 土に埋めて供養することも考えたのだけれど……もしも誰かがこの人たちを探しに来た時に見つけられなくなってしまう。魂とか輪廻転生とか、実際に神様に出会ったから信じられるのだけれど、もしもこの人たちの魂がここにあるのなら、きっと家族の下へ帰りたいと願うだろうと思い、埋めるのではなく隠させてもらったのだ。


「……………」


 祈り終えて立ち上がると、茫然とした顔をしてラウルが立ち尽くしていた。

 目の前にあるものがそんなに信じられないのだろうか……そもそも彼とつながりのある人がこの場所にいるとも限らない。遺骨はまだ島の至る所で野ざらしになっているし、骨の姿では生前の姿の見分けがつくはずもない。


 けれど彼の手は、武具の残骸の中からボロボロに朽ちた剣身らしいものを掴み上げる。


「我が国の…紋章だ……間違いなく………みんなは、ここにいたのか………」


 黒く朽ちた剣身はラウルの手に握りつぶされ、ラウルもまた床にうずくまって嗚咽を漏らし始める。

 それは……私が聞いていてはいけないだろう。死せどもこうして再会できたことが喜びであるなら、部外者は静かに去るべきだろう。




『感謝する………』




 石室の外へと出ると、誰かに後ろから語り掛けられた。

 でも後ろを振り向けないので、後ろにひらひらと手を振りながら、静かにその場を離れていった。


 今は……ただそっとしておこう。













「オーナリィ様、ありがとうございました」


「あー……やっぱりいたんだ」


 ラウルを残して穴から外に出ると、ゼドリックさんがカンテラを手に立っていた。

 まあ、いるだろうなと思ってた。副将のイリガルがこっそり後をつけてきていたのも、私を監視するためだろう。将軍と言えば要人だし、出会ったばかりの怪力女と二人きりにして問題が起きないようにと身辺警護でもしていたのだろう。出歯亀ではないと思いたい。


 ここまでくれば石室内の会話は外からでも盗み聞きできたのだろうが、遺骨を集めて保管していたことを感謝されるのが、どうにもこそばゆい。

 頭を深々と下げるゼドリックさんへ困惑しつつも否定しようとすると、


「十年前、我が国はこの島に調査団を送り込みました。その隊長を務めていたのは私の親友です」


「………………」


「ありがとうございました。(ひとえ)に御礼申し上げます」


「ど……どういたしまして……」


 有無を言わさぬ感謝の仕方に、どうにも返す言葉に窮してしまう。

 縁があってこうして関係者と引き合わせることができたけれど、それは偶然によるもので、私の手柄でもないのだけど……と言おうものならさらに褒め殺しされそうなので絶対に言わないけど。


 それにしても……ついに呼び名が様付けまで来てしまいました。ゼドリックさん、妙に私に対して腰が低くて持ち上げてくるのでどうにも対応に困る。

 私はこの人を気に入っているのと同時に、苦手にもしているらしい。何しろ悪いことをされているわけではなく、殴って物理的に解決することもできない。短い期間しか通っていないんだけど、学校の先生とかゼドリックさんみたいな感じなんだろうか。


「………ラウル様は、死に場所を常に求めている方でした」


 ゼドリックさんは星を見上げ、唐突にラウルのことを語りだした。


「しかしあの方は剣に愛されていた。そして生き続けることを強要されていた。誰かに命令されたわけでもない、自分を許せぬ自分自身が簡単に死ぬことを良しとしなかったのです。そうでなければ()うの昔に自分の手で命を絶っていたでしょう」


 私は……成長しない自分に絶望はしていたし、自分は死ぬのだと受け入れてすらいた。でも死に体と思いながら、不思議と自分で命を立とうと思ったことはない。そういう意味ではラウルほど絶望していなかったのかもしれない。

 けれど死にたくても死ぬことを許せない絶望とはどれほどのものなのだろう。その気持ちに想いを馳せ……やはり解らず、黙ったまま下唇を噛む。


「そして遂に得た死地と思って訪れたこの島で、不思議とあの方の表情は和らいでいた。驚きましたとも。そしてすぐに察しました。貴女と出会い、貴女に救われたのだと。そして探し求めていたものに出会えた以上、もう死に急がれる事も無い」


「ホントに私、何もしてないんだけどねぇ……」


「鼻を噛むなどされていましたな。いやはや、若者のイチャコラをそっと盗み見るというのは刺激的な体験でした!」


「うわ~、何処から見てたのよこのジイさん………ていうかゼドリックさんっていったい何者? ただの軍人さんじゃないでしょ?」


「はっはっは、私などただ軍に長くいるだけの老いぼれに過ぎません。オーナリィ様に気にかけていただくような者でもありませんよ」


 それは嘘だろう。

 ラウルの自殺願望を知っているあたり、護衛というよりも監視……というか見守っていたような感じだ。確か第三軍の何番かの部隊の補佐か何かと名乗っていたゼドリックさんは、常に将軍の傍にいるような役職ではない。しかも血縁関係者というわけでもないだろう。そんな人物がどうして心を痛めるほどにラウルを見守る必要があったのか、どうやって見守っていたのか、どうにも疑惑が絶えない。

 でも答えをはぐらかすあたり、答えられない事情があるのだろう。あたしが実力行使を交えて問い詰めても、この人はきっと口を割らないような気がする。


「それならそれでいいや。じゃあゼドリックさん、悪いんだけど後でラウルを迎えに行ってやって。あの部屋は空気穴が無いから、もしかすると酸欠で死ぬかもしれないから」


「………あまり笑えない冗談ですぞ、それ」


「安置所だから居住性まで考えてなかったんで。……あ~、それにしても今日は疲れた。お腹ペコペコ……」


 ティラノもどきを追いかけて島中を駆け巡り、ろくに休憩もせずにラウルたちに付き合っていたら空も星の瞬く時間だ。今から肉を焼いたりしたら兵士たちからまた白い目で見られるだろうし、覗きが出そうだから水浴びも出来ない。今日は汚れた身体のまま、空腹を抱えて眠るしかなさそうだ……と思っていたら、


「オーナリィ様、よければこちらをお受け取りください」


 ゼドリックさんが小さな袋を二つ、私に差し出してきた。


「これなに?」


「賄賂です」


「………おいこら。そこはもうちょっと言い方っていうものがあるでしょ? オブラートをかぶせてよ」


「なに、場を和ませる老人ジョークです」


 このジジイ、真顔で言いやがったな……


「本当のところは飴と干し果実です。オーナリィ様にはいろいろと便宜を図っていただきましたので、心ばかりではありますがご用意させていただきました。お夜食にどうぞ」


 飴? 干し果実? もしかしてもしかしなくとも甘味ですか!?


 お店などあるはずもないこの島で甘味と言えば果実ぐらいしかない。それはそれで美味しいので悪くはないんだけど、美味しい果物は人の手で何世代もかけて作り上げる芸術品だ。転生前に食べた味を知っていると、野生のものではすこーし物足りない。私も女の子なので、やっぱりスイーツにはこだわりがあるのです!


 疲れ果てた身体は激しく糖分を欲している。こっちの袋は……干し果実、ドライフルーツか。早速一つ口の中に放り込んでみると、


「………うわ、おいしっ」


 凝縮された果実の甘酸っぱさが舌の上から全身に駆け巡る。噛み締めると程よい弾力が歯を押し返し、閉じ込められていた香りが口内を満たし、鼻腔へと流れ込んでいった。

 ドライフルーツは保存しやすく、栄養価や糖分量が多いので軍隊の携行食にも採用されているという話は聞いたことがあるけれど、これは良い。思わずもう一つ摘まんで口に入れると、また違う果実だったのか、ほっぺが落ちそうな甘味と風味に悶絶したくなる欲求に駆られてしまうほどだった。


「どうやら気に入っていただけたようですな」


「うん、スゴく美味しい。手が止まらなくなりそう。これどうやって作ってんの?」


「それは王都で最近話題の店で購入したものでしてな。作り方までは存じ上げておりません。ですがオーナリィ様が王都にお越しになられた際にはご案内させていただきますとも」


「……………あ」


 してやられた。

 賄賂だお礼だと言いながら、ゼドリックさんてば私をこの島から連れ出す手を打ってたのか。


 私の手のひらには小さな袋が二つ。中にぎっしり干し果実と飴が入っているけれど、どんなに少しずつ食べても簡単に無くなってしまう量だ。

 もしも口にしていなければ「いらない」と突っぱねてしまうことも出来た。けど長年断ち切られていた甘味への感動を知ってしまったからには、もう甘味なしには生きていけないかもしれない。しかも味は間違いなく絶品。これが食べられなくなったら夢にまで見てしまいそうだ。


「う~………意固地になってたのは私の方だったか。いいわ、お誘いになってあげる。あんたたちの国に行ってあげるってラウルに後で伝えておいて」


「おおっ! 感謝いたします、オーナリィ様!」


「ただし、あくまで観光目的だから。私に危害が加えられない限り戦闘行為に加担しないし、危害を加えたならどの国が相手でも報復措置は取らせてもらう。その覚悟で私を連れて行きなさい」


「それで構いません。オーナリィ様のおかげでラウル様も目覚められた。ならばシェンバルごとき敵ではございません!」


 盛り上がるのは勝手だけど、まあ私には関係ないので頑張ってとだけ言わせてもらおう。あ、雨の方も程よい酸味で美味しい。あ~、これは後を引く。甘いってこういう感じだったな―!

 けど今日はここまで。一気に食べたら五日と持ちそうにない。けど下手に甘いものを口にしたので胃腸が活発に動き出した。塩とハーブをまぶして葉っぱに包んで熟成を試してたお肉があったから、あれを自室のいろりで焼いてみよう! お肉万歳!


 そうして別れの挨拶を交わし、寝室にしている小屋に戻ろうとした私は、言い忘れていたことを思い出して足を止める。


「ゼドリックさんごめん。もう一つだけ伝言頼める?」


「はい、なんでしょう?」


「簡単なことなんだけどね、もう一度だけ―――」













 ―――私を連れて行ってもいいのか、よく考えてみて?

そろそろ艦〇れのイベントやらんと間に合わなさそうなんです……

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