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私は戦う!おっぱい大きくするために!  作者: 鶴
第一章「ラザレス王国動乱」
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「愚者たちの夜」-3

 大成城塞!……改めオーナリィ城塞見学ツアーの始まり始まりィ!


 ……と自分で気合を入れて「城塞」とか言ってみたものの、自慢して人様にお見せできるものなんて何もないんです。観光名所を目指して作ったわけじゃないので、ほぼ丸太だし。

 そもそも私の芸術センスは皆無。だというのに、ひとんちの冷蔵庫や洗濯機を覗き込むかの如きこの行為に私は強く遺憾の意を表明したい!


「そこまで嫌がるとは思ってなかった。なら遠慮させて……」


 おーっと、今さら事態は無しですよお客さん!

 私が半年かけて精魂込めて作ったこの砦、そこまで見たいというならしょうがない! 裏の裏まで見せちゃおう!

 た・だ・し、私の寝室だけはダメだぞぉ?


「……………」


 笑え! 笑いなさいよ! ここは笑うとこでしょ!? そうじゃなきゃ私がバカみたいじゃないかー!




 -*-




 松明を手にしたラウルからの第一感想は、


「………水場というか滝だね、これは」


 かなり辛辣だった。


「………まあ結構な水量があるのは認める。自分でも出過ぎだと思ってる。でも後悔はしない」


 砦奥の垂直に削り取った山肌部分。その一角にこの砦の水場がある。

 ただ水場と言っても水道など望むべくもなく、ましてや湧き水とか小川とか井戸とかそういうものでもない。岸壁に開いた穴からズドドドと結構な重低音を響かせ、女の子一人が暮らすのには過剰な水量が迸っているのだ。

 正直、寝床から離れててよかったと思ってる。かなりうるさい。


 とはいえ、水場に妥協は許されない。この砦の生命線というべきものがこの水場なのだから。

 なにせ水がないと人間は生きていけない。他にも空気とか食糧とかパンツとかおっぱいとか色々あるけど、まず水だ。

 先にも述べたとおり、この砦は近くに川の源流があり、ここからそこへ地中経由で水路をつないでいる。おかげで水量が豊富なので飲み水の確保はもちろん、洗濯もできるし皮の鞣しもできるし、毎日欠かさず沐浴だってできるのだ。モンスターの視線に怯えながら川で返り血を洗い流していた頃に比べれば天国と言わざるを得ない。


 毎日お風呂に入らなくてもいいだろうって?

 考えが甘い、甘すぎる。……体臭がキツいとすぐにモンスターに見つかるし。あいつら鼻がいいんだもん……

 石鹸など消毒消臭に使えるものがある訳ないので、せめて毎日体を清めるぐらいしていないと大量のモンスターを呼び寄せて集中攻撃される恐れもある。一対一ならまだしも一対多では今の私でも一巻の終わり。……そうならないようにするためにも、安全な水場が必要だったのだ。


「だから、暑い時期に泳げるのって気持ちいいと思わない!?」


「どうして“だから”と言葉が続くのかが解らないんだが!?」


 ちっ、女心の判らんやつめ。

 毎日毎日命を危険に晒して戦い続けているからこそ、間もなく訪れる夏の前にこの水場を完成させたというのに。


 ビオトープ作りに憧れた時期もあったので、滝の下には丸みを帯びた小石を敷き詰めて小川を作っている。深さは私の膝下が浸かるぐらい。まあここは洗濯や水浴びのための場所なので泳いだりはしないけど。

 泳ぐのならば枝分かれした先にある溜池だろう。硬い岩盤を真四角に掘り抜いた池は現在、皮を鞣す前に水にさらすのに使っているだけだけど、暑い時期になれば毛皮で水着を作って思いっきり遊ぶのだ!

 それまでに、なるぞCカップ! 目指せ谷間! 苦節三年、この島で初の娯楽を思う存分堪能するために!


 でもその前に生き抜くことが第一です、はい……


「この島の西の方に結構大きな川があるの知ってる? 知らない? まあ、その川の源流の方向へ岩盤を掘り抜いて水路を作ったの」


「スゴいとは思うが……水路と言えば普通は地上に掘らないか? なんで地中を掘り抜いたんだ?」


「水路だってわかるとモンスターの進入路になりかねないし、……ほら、あんな風に」


 私が指さした先では、穴からちょうど魚が飛び出し、ちゃぽんと音を響かせて水面に飛び込んだところだ。


「あれはさすがに小さいけど、ごはんになるぐらいの大物も飛び出してくることもあるよ。でも地上に水路があったらモンスターたちが水を飲みに集まってくるかもしれないから」


「なるほど……国内でもモンスターに水路が破壊される被害が年に何件も出ているし、地中を掘り抜くのは労力と成果が釣り合うのなら検討の余地はあるか……」


「開通した瞬間に鉄砲水で押し流されて死にかけるけどね。溺れても水面に浮上も出来ないし」


「………キミはよく無事だったな」


「まーねー。あと、どうしてもやるんなら頑丈な筒を別の場所で作ってから埋める方がいいんじゃないかな、直列に連結して。あとは溝を掘ってから石の蓋をするとか」


「なるほど、いくつもの手段を考えてあるんだね」


 いえいえ、前世の下水道や排水溝そのまんまですので。

 それにこの程度の知識や技術ならラウルの国にもあるはずだ。私の言葉にさして驚きを覚えた様子もないし、有名なローマ水道ですら紀元前。あれも石やらコンクリートで建築されていたはずだし、アーチ状の水道橋のイメージがあるがほとんどが地下を通っている。服やテントを作るだけの紡績技術や鉄製の武具を作る鍛冶技術、木造とはいえ巨大な軍艦から見て取れる造船技術や操船技術、プラス魔法も使えるし兵士たちの会話から聞き知れた内容からも、技術や生活レベルは中世以降、王や貴族が中心となる封建主義や立憲君主制なのだろうと想像される。


「あ、そうだ。ゼドリックさんには伝えてあるけど、飲み水はあっちの樽から取ってね」


「やっぱりあれはろ過装置か。随分と大がかりに造ったものだな」


 装置というほど大したものじゃないけどね。


 私に言われてラウルが目を向けたのは、放水口の高さから階段状に置いたいくつもの大樽。

 樽の中には砂利、蔦の繊維をほぐしたもの、葉を水に漬けて繊維だけにしたもの、海岸の砂、木炭などを敷き詰めている。一番上の樽に注ぎ込まれた水がろ過されながら下の樽へと順番に流れ落ちていくことで、一番下の樽に綺麗になった水が溜まる単純な仕組みだ。


 なお、この砦で使用している樽や桶は輪切りの丸太の内側をくり抜いて作っている。

 最初は木片を丸く並べて作ろうとしたのだけど、石器では隙間ができないように綺麗に削ることができないので断念した。決して完成した瞬間にバラバラになったからではない。……ホ、ホントだよ?


「よく考えて作ってあるね。ここまで丁寧に水をろ過する装置は初めて見たよ」


「うろ覚えの知識と、後はトライアンドエラーね。飲んでも大丈夫だろうけど異国の水は体に合わない人もいるから、念には念を入れるなら煮沸させてね」


 最近はきれいな水が手に入るようになったけど、森の中の湧き水を飲んでおなか壊したことがあって……ホント、≪状態異常無効≫とは何だったのか。

 だからこそ水回りはこの場所に拠点を作る際に最もこだわった。“安心できる暮らし”には身の安全だけではなく、生活内容の充実も含まれているのだから。


 けど……そろそろ土器作りにもチャレンジしたいところではある。鍋持参を確認していたのでラウルたちには煮沸を勧めたけど、私は未だに煮炊きができていない。葉っぱじゃ無理だ。水の煮沸? 無理だからお腹を壊してるんです。

 他にも木の実などを集めて保管しとくのにも便利そうだし、どこかで良い粘土層を見つけられないかな……


「ところで炭が入った樽があるけど、これはどうしてなんだい?」


「ああ、それは表面に細かい穴が無数に開いてて―――」




 将軍というから剣を振るって先陣に立つような豪傑かと思っていたけど、ラウルは意外にもこういった仕組みや技術に興味を持つ人らしい。質問の内容から民衆の役に立つかどうかという視点の持ち主のようだし、頭の回転も悪くない。将軍よりも政治家に向いているんじゃないだろうか。

 おかげで詳細な部分にまで質問されてしまって、私の浅い知識では答え切れない場面も少しあったりしたけれど、やっぱりただの変質者ではない……ということなのだろう。




 でも、この人たちがいる間は裸になって水浴びしたり出来ないのが辛い。

 目隠しの壁ぐらい作っとけばよかった……さっさと帰ってくれないかなぁ……

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