8、アシッドドラゴンとの戦闘②
「うわあああっ! リーダーさん!」
「アレックス、耐えろ! まだ仕事は終わってないっ!」
リーダーさんはそう言いながら、裸のままでまた駆け回りはじめた。
あの人に恥というものはないのか!?
「あははははっ! ちょ、二人とも! 服、溶かされてる! あははははっ!」
「くぅっ、これがあるからアシッドドラゴンは厄介なんだ……。すまん、二人とも!」
後ろではレナさんがお腹を抱えて笑っているし、ギルド長はひそかにそんなことをぶっちゃけたりしている。
そうかなるほど。だから『男』をオトリ役にしてたんだな。
でも、俺だって、男だって恥ずかしいんだぞ。
股間を片手で隠しながら、俺も再び走りはじめる。
すごく動きづらい。当たり前だ。だって隠しながら走っているんだから。リーダーさんは……まったく隠してないが、すばやさがやや下がっていた。たぶん、俺とは違い、なんらかのダメージを負っているんだろう。
どのみち、いつまでこうしていられるかわからなかった。
ギルド長、早くとどめを刺してくれ!
アシッドドラゴンはその後も、何度も俺たちに酸を浴びせかけてきた。けど、なんとなくその量は徐々に減ってきてるように感じた。
ギルド長は、その頃になってようやく「この時を待っていた」とばかりに立ち上がる。
「あっ、アレックス、そろそろギルド長の出番だ……大技に巻き込まれる前に退避するぞ!」
「はい!」
いち、に、さん、のタイミングで、俺たちはドラゴンから遠ざかる。
「はあああっ! 喰らえ、漆黒の豪斬剣・八つ斬り!!!」
草陰から一瞬でドラゴンに肉薄したギルド長は、その漆黒の大剣を振り回した。太刀筋が、速すぎて見えない。やがて、ドラゴンの全身から鮮血が噴きあがった。
「ギャオオオオッ!」
苦しそうな悲鳴があがるが、なぜかドラゴンは倒れない。
「なっ!?」
ギルド長もそれには想定外だったようだ。ドラゴンはその隙を見逃さず、まだ体内に残っていた酸をギルド長にかけようとしていた。
まずい。このままじゃギルド長の服が! いや、ギルド長の身が危ない!
俺は無意識のうちに体を動かしていた。
剣の柄を強く握り、ドラゴンの首へと斬りかかる。
「やああああっ!」
ザシュッ。
俺の剣は、なんと一撃でドラゴンの首を切断してしまっていた。
ズシン、と大きな頭が地面へと落下する。
「あ、アレックス……」
リーダーさんが俺を見て、信じられないといった声をあげた。
俺はハッとしてギルド長に向き直る。
「だっ、大丈夫ですか、ギルド長!」
ギルド長はポカンと口を開けていた。
見たところどこにも酸はかかっていない。ダメージもないようだ。けど、なぜかぼんやりと俺を見つめたままだった。
「ギルド長……?」
「あっ、えっ? いや……参ったな。この私が助けられることになるとは……いったい何年振りだろうか」
おかしい。まだじーっと見つめられている。
でも、俺はこの視線になんとなく覚えがあった。シルヴィアだ。シルヴィアも、いつもこんな目で俺を見てきていた。
「アレックスくーん! 今の、すごかったよぉ! あんまりかっこいいんで、つい、お姉さんも惚れそうになっちゃったぁー」
「えっ」
レナさんがにやにやとしながらこっちにやってくる。
ギルド長はその声に、はっと我に返ったようだった。
「な、何を急に言いだすんだ、レナ! 私は、別に惚れてなどっ……!」
「ええ~? 別にアシュリーさんのことを言ったわけじゃないんだけどお? 自分のことを言ったまでだよー? まさか、アシュリーさん……」
「ち、違うっ。違うぞ、アレックス君!」
「これ、シルヴィアちゃんが知ったら、まずいんじゃないかなあー? どーしよっかなあ、報告しちゃおっかなー」
「おい、レナ、本気で怒るぞ!」
「あ、怒るってことはやっぱりー」
「だから、違うと言っとるだろうが!」
わーわーと言い争っている二人を尻目に、リーダーさんが声をかけてきた。
「よっ」
「あ、リーダーさん。お疲れ様です!」
「おう。やるじゃねえか、アレックス。ギルド長のピンチを救っちまうなんてよ!」
突然大きな手で、わしわしと頭を撫でられる。
なんだか気恥ずかしかったが、されるがままになっていた。
「にしても、すごいな。一撃であのドラゴンを倒しちまうなんて……俺もお前をスカウトし甲斐があったよ」
「はあ、でもなんであんなことができたのか、俺にはさっぱりです。体が勝手に動いて……」
「ふうん? ま、なんにしても、無事クエスト達成だ! やったな、アレックス!」
「はい、ありがとうございます!」
リーダーさんはすがすがしい笑顔を浮かべていたが、相変わらず股間はみじんも隠していなかった。
「あんたは少し、恥じらいってもんを持ちなさいよー?」
杖がにゅっと出てきたかと思うと、レナさんがなにやら魔法をかけてきた。どうも視認性ダウンの一種の魔法のようだ。
それのおかげで、俺は股間を手で隠さなくてもよくなった。
しかし、リーダーさんは全身を『モザイク』にされてしまう。
「おいっ! なんっで俺は全身なんだよ! てかいらねーよ、これ!」
「あんたはしばらくそれでいなさい。さっ、ドラゴンの死体から素材を回収してこなくっちゃー」
「おいっ、こら、無視すんな! レナ!」
ギルド長と、モザイクまみれのリーダーさんに付きまとわれながら、レナさんはドラゴンの死体に向かっていく。
「はあ……。よ、良かった。死なずに、すんだ……」
俺は人知れず、ほっと胸をなでおろした。
あとは報奨金を手に入れるだけである。
しかし、このあとまさかシルヴィアに会うことになろうとは、夢にも思ってなかったのだった。




