7、アシッドドラゴンとの戦闘①
飛行船はぐんぐん加速して、やがて辺境の丘陵地に到着した。
ここはかなり魔界に近いところで、人はほとんど住んでいない。
作戦会議はすぐに終わり、今は各自、装備の最終点検をしているところだった。
「……そろそろだな。お、あれがアシッドドラゴンだ。見えるか、アレックス君」
ギルド長のアシュリーさんに言われて窓の下を見ると、茶色い鱗の巨大なドラゴンがいた。
「う、うわあ……強そう……」
遠目でも、凶悪な牙と爪がよく見える。
ドラゴンはその背中の大きな翼を畳んだり広げたりしながら、草原を歩き回っていた。
いまから……あれと戦うのか……。
げんなりしていると、回復術師のレナさんが俺に話しかけてきた。
「ねえねえ、アレックスくん。あの草原のあちこちにさあ、黒いところがあるじゃない? あれなんだと思う?」
「え……?」
見れば確かに草地ではない場所がある。
土、かと思ったがちょっと違うようだった。
「あれはねえ、アシッドドラゴンが酸を吐いた場所だよー。踏むと装備が溶けちゃうから気を付けてねえ」
うふふ、と妖艶に笑いながらそんなことを言う。
俺は自分の耐性スキルに自信がなくなってきた。本当に大丈夫なんだろうか……。
やがて飛行船はドラゴンから少し離れたところに降下しはじめた。
いよいよ討伐クエストが始まる。
「では、みんな先ほどの手順通り頼む! レナは後方支援と回復役。リーダーはアレックスの指示役。アレックスはリーダーに教わりながらオトリ役だ。私はアシッドドラゴンが隙を見せたタイミングで一気に間を詰めて攻撃する。いいな!」
「はーい。みんながんばろー!」
「よろしくお願いしまっす!」
「よ、よろしく……お願いします……」
全員(ただし俺は除く)の士気が高まったところで、スタートとなった。
最初にレナさんが、攻撃力アップ、防御力アップ、回避力アップ、すばやさアップ、視認性ダウンの補助魔法を全員にかけてくれる。こんなに一度にたくさんかけられるなんて、さすがSランクの冒険者だ。
「あたしは一番得意なのが回復魔法ってだけで、ほとんどの補助魔法はコンプしてるんだー。だから安心して戦ってきてねえ」
安心、できるようなできないような……。
とりあえず一応お礼を言っておいてから、リーダーさんのあとをついていった。ちなみにギルド長はもう大きく迂回してドラゴンの背後へと回り込んでいる。
「り、リーダーさん。このままドラゴンの真正面に、突撃していくんですよね」
「ああ、そうだ」
「かく乱することが目的って言われましたけど、俺たちも斬りかかったりしていいんでしょうか?」
「そうだなあ……。『フリ』はしてもいいけど、実際あの鱗は相当硬いぜ? ギルド長が持ってるみたいな特殊な剣じゃないと、そうそうズバッとはいかねえな」
「そうなんですか」
「ああ。ま、俺たちは俺たちの仕事をしようぜ」
リーダーさんはドラゴンの正面五十メートルほど前に来ると、こぶしを前に突き出して構えをとった。俺も遅れて腰から剣を抜く。
「おい、ドラゴン。こっち向きやがれ!」
威勢よくリーダーさんが声をかけると、ドラゴンは鋭い目をカッと見開いてこっちに走ってきた。
「え、え、え?」
「おい、アレックス、走れ! 走って逃げ続けろ!」
「は、はいっ!」
俺は突進してくるドラゴンをすんでのところで回避した。
ドラゴンは大きい体をしているのに、めちゃめちゃ速かった。でも俺たちもすばやさなどが上がっているので、どうにか避けられている。
「よし、いいぞ! そのまま俺たちに集中させるんだ」
「はいっ、リーダーさん」
俺とリーダーさんは二手に分かれながら、何度も何度もドラゴンの攻撃を回避した。よし、これなら、なんとかクエストを成功させられそうだ……。そう思ったのもつかの間。
ドラゴンは次の瞬間、ぐるりと首だけを動かして、酸を吐いてきた。
「ぐわあああっ!」
「あっ、リーダーさん!」
なんとリーダーさんが頭からもろに酸を浴びてしまった。あっという間にリーダーさんの衣服が溶け落ちる。しかもドラゴンは、俺が驚いているうちにこっちにも酸を浴びせてきた。
「うわあああっ!」
俺もまともに喰らってしまい、衣服をあっけなく溶けさせてしまう。
幸い、体にはダメージがなかった。想像していたよりも耐性スキルの方が有利だったらしい。
でも――。
大草原の真ん中で、俺たちは全裸になってしまった。