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6、出稼ぎってことに

「母さん、ただいま」

「ああ、アレックス。おかえり。野菜は売れたのかい?」

「まあね。はい、これ売り上げ」


 帰宅すると、俺は母さんに今日の野菜の売上金を渡した。

 それは全部で一万エーンにもならない。


「それとさ、明日ちょっと出稼ぎに行ってくるよ」

「出稼ぎ? 王都の方にかい?」

「うん。力仕事みたいなやつで、明日一日だけなんだけど。けっこうな手当をもらえるって言われててさ」

「……本当かい? 危ない仕事じゃないだろうね」

「うん。大丈夫。だから明日は畑の方頼むね。今日あらかた収穫したけど、まだ取り残しがあるかもしれないから、きれいにしといて。帰ったら次の種をまこうと思ってるからさ」


 そう言って、無理に笑顔を作る。

 本当は危険極まりなかったけれど、ここで母さんを心配させてしまっては明日出かけられなくなってしまう。


「――わかったよ。じゃあ、本当に危険のないようにね。お前は、この家の唯一の男手なんだから」

「うん。ありがと。」

「さあ、夕飯にしよう。今日はチーズが手に入ったから、グラタンだよ」

「やったあ!」


 ごめん、母さん。

 ウチには借金もあるから、どうにか明日のクエストで報奨金を手に入れたいんだ。


 俺は最高の夕食を食べ終わると、自室のタンスにギルドでもらった前金をしまった。そして、一応遺書のようなものを書いておく。

 もし、万が一ドラゴンに殺されてしまったら、あの前金の存在だけでも知らせておかないといけないからだ。あれがあれば、当分生活には困らないはず。


「母さん、先立つ不孝をお許しください、と……」


 へたくそな字で文章を書いていると、なぜだかむしょうに泣けてきた。

 死にたくない。でも、死なないという保証はどこにもない。

 シルヴィアとの訓練が、明日も功を奏してくれるといいんだけど……。でも、今日のウルフドッグのように簡単にはいかなそうだ。


 俺は遺書を書き終えると、早めに床に就いた。

 目を閉じると、シルヴィアとの地獄の訓練が走馬灯のように思い出されてくる。


 シルヴィアは、どうしていつも俺をあそこまで痛めつけてくるのだろう。

 好意を抱いてるはずなのに。真逆のことをしてくる。

 考えても考えてもわからない。俺はそのうちいつのまにか眠ってしまった。



 翌朝。

 俺は腰に剣だけを差して家を出た。


 畑に、昨日王都へ一緒にいったやつらがいる。

 目が合うと、みんなそれぞれ口に人差し指を当ててきた。まだ黙っていてくれてるということだろう。遺書は机の一番上の引き出しに入れた。帰りが遅ければ、きっと母が見つけてくれるに違いない。


「行ってきます」


 誰にともなくそうつぶやくと、俺は日の出たばかりの村を出た。


 道中、モンスターとは出くわさなかった。きっと昨日殺したウルフドッグの血の匂いが、モンスター避けとなったのだろう。

 無事王都に着くと、ギルドへ向かった。

 建物の前にリーダーさんがいたので、挨拶する。


「リーダーさん、おはようございます!」

「おう、アレックス。おはよう」

「他の方々は?」

「ん? ギルド長と回復術師か? あっちだ」

「あっち?」


 人差し指を上に向けているので見上げると、はるか上空から飛行船が降りてきていた。

 俺は空飛ぶ乗り物を、生まれてはじめて見た。


「うわあ……すごい!」

「どうだ、驚いたか? 今日はあれで現地に行くんだよ」


 飛行船はギルド前の広場にタラップを下ろし、俺たちを中へいざなった。

 中の客室では、黒い大剣を背負ったギルド長と、真っ白なフードを目深にかぶったピンク色の髪の女性がいる。


「おはようございます、ギルド長!」

「おはようございます!」

「おはよう、リーダー! そしてアレックス君! 今日はよろしくな! ははは!」


 ギルド長は今日も豪快に笑っている。

 客室は全方位に窓がついており、見通しが良かった。さらに奥は操縦席に通じているようだ。


「さて。ではさっそく紹介しておこう。こちらが今日ともに行く、回復術師のレナだ!」


 レナと呼ばれた女性は、フードの端をくいっと手で持ち上げると、俺に向かってにんまりとほほ笑んだ。


「レナ・フューリーです。よろしくねえ、アレックスくん」


 俺より二つか三つ年上の人のようだ。

 でも、なんだかゴツイ魔石を付けた杖を持っていた。

 あれは回復術師としての術を強化するものだと思うけど、物理的に当てられるだけでも痛い気がする。レナさんは俺を見て、なにやらしきりとうなづいてきた。


「なるほどなるほどー。たしかに変わったステータスの子だねえ」


 どうやら魔法で俺のステータスをのぞき見ているらしい。


「シルヴィアちゃんも、なーんでずっとこの子のこと隠してたのかなあ? こんなにすごい能力持ってるなら、さっさとギルドにつれてくればよかったのにー」

「……?」


 どういう意図で言われているかわからなかったので、ちょっと返答に困った。

 シルヴィアは、俺と訓練していることをギルドの連中に話していない……? ギルド長やリーダーさんの様子からしても、そうらしいとわかるけど……。


 俺が黙っていると、そのうちギルド長による作戦会議がはじまった。


「よーしみんな! 今日はこの手順でやるぞ!」

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