40、シルヴィアとの決闘③
「ぐああっ!」
放たれた一撃は、水魔法と精神汚染魔法が合わさった剣技だった。
斬られた部分は瞬時に凍り付き、強烈な眠気も襲ってくる。俺は必死に意識を保とうとした。
「や、やるなっ……シルヴィア!」
「ええ! 降参するなら今のうちよ。ここから追撃することもできるんだから……!」
「そんなことさせるか! フルキュア!」
俺はすぐに、体力と状態異常を同時に治す回復魔法を唱えた。
凍った部分と眠気がみるみる回復していく。
「ふふっ、やるじゃない。ならこういうのはどう? 攻撃力アップ……五倍!」
そう叫ぶと、シルヴィアはすばやく俺に斬りこんできた。
魔法を付与した剣技は使ってこない。すばやさもまだ俺の方が上だ。でも、受ける一撃一撃がとても重かった。
俺の物理防御力は千五百。
シルヴィアの物理防御力は千ほど。
でも、五倍となったら一時的とはいえ、シルヴィアの攻撃力は五千ほどになる。
俺は物理攻撃耐性がレベル三百だから、そのほとんどを相殺しているはずだった。でも、どうしてここまで強いんだ。
「あなたの武器はなんの魔法付与もされていないただの剣、だもの。でもこれは……ナインさんが造り上げた魔剣、ドレインソードなの」
「ドレインソード!?」
「そう。斬り合うたびに相手の体力や攻撃力、魔力なんかを奪っていくのよ。これさえあれば……あなたには負けないわッ!」
幾度目かのつばぜり合いの後、ついに押し負けた俺は後ろに大きくふっとばされた。
草の上に転がるが、すぐに起き上がる。
だが、その眼前にシルヴィアの剣先が突きつけられた。
「ぐっ……!」
「あなたの、負けよ。これで納得した? まだわたしにはかなわないんだって」
「そんな……こと、ない! 俺は、シルヴィアより強くなったんだ。だから……まだだっ! ヘイストッ!」
武器の差、知識の差……たしかにまだまだシルヴィアにはかなわないんだろう。
昔から、シルヴィアはいろんなことを深く考えてた。今も、これからも。きっとずっと賢いシルヴィアのままなんだ。
でも。でも――。
それじゃあダメだ。
俺は、彼女よりも強くならなきゃ。せめて、彼女と同じにならなくちゃ。
そうしなきゃ、対等な関係にはなれない。
そう、俺は――。
彼女の隣を歩きたかったんだ。ずっと。
「なっ! 速いっ!」
時間魔法のレベルは彼女よりも上だ。
だから、俺は、きっとシルヴィアからは目にもとまらぬ速さで動いてみえているはず。
俺は周りを大きく旋回してから、シルヴィアに迫った。
シルヴィアはまったく俺を追えていない。
その隙をついて、剣の側面で彼女の手を叩いた。
「あっ!」
衝撃で、魔剣ドレインソードを取り落とす。
俺は自らの剣も捨てて、彼女の腕をつかんだ。そしてクワを振り下ろすように、シルヴィアの体を地面に叩きつける。
「がは……っっ!」
あまりの速さに受け身がとれなかったらしい。
多少手加減はしたものの……シルヴィアは強い痛みで動けないようだった。俺は、彼女の傍らに立ち、静かに見下ろす。
「あ、アレックス……」
「降参してくれ、シルヴィア。これ以上……君を傷つけたくない」
「う……っ。ま、だ……っ」
ヒールを自分にかけようとしているので、俺はシルヴィアの右手を押さえた。
「終わりにしてくれ。シルヴィア!」
「う……っ。ううっ……!」
悔しそうに俺をにらみつけているが、やがて、あきらめたのか右手にこめていた力を抜いた。
「あ、アレックスのくせに……ま、負けたわ。降参よ……」
そうして、痛みに耐えながら微笑む。
俺は、その表情を見るとすぐに、シルヴィアに回復魔法をかけたのだった。
「ヒール!」
体が元に戻り、シルヴィアがゆっくりと起き上がる。
俺は、気まずいながらも、どこか満足感でいっぱいだった。
ようやくシルヴィアを上回れたということに。どこかホッとしている自分がいる。
あの胸のもやもやも、いつのまにか無くなっていた。
そうか。
俺は、シルヴィアとの訓練はやめていたけど、精神的にはまだかなりの引け目を感じていたんだな。
それが、今、霧散したんだ。
「なあ、シルヴィア……」
「ん? なによ、アレックス」
じっとシルヴィアを見つめる。
俺のことをずっとパワハラしてきた幼馴染。でも、俺のために身を引いてくれた幼馴染。
彼女は、やはり……俺の――。
「俺さ、村を出ようと思うんだ」
「え? なに、突然……」
「その前に、どうしても……シルヴィアとはけじめをつけておきたかったんだ。だから、決闘を申し込んだ」
「そう、だったの」
「うん。でね。シルヴィアには……俺と……一緒に旅に出てほしい」
「……は? はああああぁぁぁっ!?」
ただっぴろい草原に、シルヴィアの絶叫が響き渡った。
次回最終回です。




