4、王都の冒険者ギルドへ
その後、無事王都へたどり着くと、俺たちはさっそく野菜を売りはじめた。
荷車にいっぱいになっていた商品はものの三十分で売り切れ、俺たちは遅めの昼食を食べにいく。
「なあみんな。悪いけど……これから俺、冒険者ギルドに寄ってこなきゃいけないんだ」
「え、アレックスが? なんでまた」
「さっきの護衛団のリーダーにスカウトされちゃってさ。話だけでもって言われてるんだ。すぐ戻るから、ちょっとこの辺で待っててくれないか」
「わかった。帰りはお前なしじゃ、安全に帰れないからな。ゆっくりカードゲームでもしてるさ」
「ありがと。じゃあ、行ってきます」
数分後。
俺は冒険者ギルドの前で、立ちすくんでしまっていた。
「あー、もしかしたらこの中に、シルヴィアがいるかもしれないんだよな……。早く任務が終わって帰ってきてたりして……。もし鉢合わせたら……ああああ! やっぱやめとこ……」
「おっ、アレックス。来てくれたのか!」
「えっ? あっ!」
振り返ると、いつのまにか後ろにリーダーさんがいた。
俺はなんとか断る言い訳を考えようとする。
「あ、あのう、俺やっぱり……」
「あんまり遅ぇからビビッて来なくなっちまったかと思ったぜ。でも、やっぱ来てくれたんだな。あんがとよ! よし、さっそく行くぞ。ギルド長がお待ちかねだ」
「え、あっ、ちょっ! ま、待って。待ってください~」
こうして俺は、拒否する間もなく、半ば引きずられるようにして建物の中に入ることになってしまった。
中には大勢の冒険者たちがいた。みんな壁の依頼書を見たり、仲間と情報交換したり、受付の人と話したりしている。
「おい、こっちだ、アレックス」
リーダーさんは俺を二階へと案内してくれた。
幅の広い木製の階段を上ると、一階とは違う雰囲気のフロアになる。廊下には赤いじゅうたんが敷かれ、壁には高級そうな絵が飾られていた。
俺はその一番奥の部屋に通された。
「ギルド長、お連れしました」
「おっ、そいつか! お前が見込みがあると言ってたやつは!」
「はい、えっと……」
「アレックス・ジットガマンと言います。よ、よろしくお願いします……!」
「ははは、まあそう固くなるな。座れ座れ!」
男だと思っていたギルド長は、なんと若い女性だった。
豊かな赤髪のハッとするような美人だ。漆黒のパンツスーツを着こなし、獲物を狙う猛禽類のような目をしている。
ギルド長は大きな口をあけて豪快に笑いながら、俺たちの対面に腰を下ろした。
「ははは! さて。私がここのギルド長、アシュリー・ブレイドだ。聞くところによると、君はSランク相当の実力があるらしいな。さっそくだが、それをこの場で証明してくれ」
「え? しょ、証明?」
「ああ、この水晶玉に手をかざすだけでいい」
見れば目の前のテーブルには、てのひらサイズの水晶玉が置かれていた。
俺は言われた通り、そこに手をかざす。
「おおっ。これは……すごいな! たしかに、Sランクレベルのステータスだ。それに、このスキルレベル。申し分ないな。うん!」
ギルド長はそう言って、満足そうに笑う。
しかし、途中で大きく首をかしげ、俺に視線を向けてきた。
「君は、本当に今日初めてモンスターと戦ったのか? しかもウルフドッグの群れと」
「は、はい。その通りです」
「よく、恐怖で固まらなかったな。一体その精神力はどこで身に着いたんだ?」
ギルド長の伺うような視線を受け止めていると、そばにいたリーダーさんが代わりに話してくれた。
「えっと、どうやらこのアレックスは、あのシルヴィアから戦闘の訓練を受けてきたようで」
「シルヴィアから? ほう」
「それはもう、ひどい訓練でしたけどね……」
俺は自嘲気味に笑う。
けど、ギルド長はそれをいっさい笑わなかった。
「ふうむ。それで、この仕上がりか……。今あいつは別件で遠方に行ってるんだったな。よし。なら、やはりこいつを連れて行こう」
「えっ? 連れていくって、どこに……」
「ん? アシッドドラゴンの討伐クエストに、だ」
「はっ?」
俺の耳は、いつからおかしくなってしまったのだろう。
今、アシッドドラゴンって言ったか?
アシッド、つまり酸。それを吐くドラゴン。そんなの、魔界にしかいないと思ってた。それを討伐するクエストって……。
よくわからないが、どうやら俺はそれに参加させられることになりそうだった。
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