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37、神父様に相談

 その後、俺は村に戻り、まっさきに神父様のところに行った。


「そうですか……近くにダンジョンができていたんですね。アレックスさん、いろいろ対処していだだきありがとうございました」


 そう言って、グレッグ神父は俺をねぎらってくれる。

 あれから村の方も、ちゃんと王都の魔術師たちが来て、結界を修復してもらえたようだ。教会に避難していた村人たちもみなそれぞれの家に帰っていた。


 俺は大金の入ったふところを握りしめて、神父様を見あげる。


「あの、神父様。ちょっとお話したいことがあるんですけど、いいですか?」

「……? はい。何かこみいったことでしたら、奥の懺悔室でお聞きします」


 俺は教会の中に案内され、礼拝堂の隅にある小部屋へと通された。

 片側から俺だけが入り、反対側から神父様が入る。中には相手が見えないよう真ん中に格子戸がはまっていた。


「どうされました? あなたが、ここを利用されるのは初めてですね」

「はい……」


 思えば教会へ来たのも久しぶりだった。

 母さんはよく礼拝に行っていたようだったが、俺は決して信心深くはない。

 教会へ行く暇があったら、畑仕事の方をしていたいと思うタイプだったからだ。たぶん、生まれたときの洗礼ぐらいしかお世話になってないんじゃないだろうか。


 洗礼のときはグレッグ神父ではなく、前任の神父様だった。

 もう顔も覚えていないが、それ以外では数えるくらいしか教会に入ったことがない。


 そんな俺が、今ここを必要としている。

 

「大丈夫ですよ。話すのはゆっくりでかまいません」

「あ、ありがとうございます……」


 格子の向こうから、優しい神父様の声がする。

 俺は、ぐちゃぐちゃした頭の中にある言葉をひとつずつ言語化していった。


「あの……ずっと、ずっと胸がもやもやしているんです」

「もやもや、ですか?」

「はい。今日ダンジョンを破壊して、報奨金をたくさんもらってきました。ギルドのみんなと分けても、まだたんまり……農業で得られる何十倍もの額です。剣聖にもランクアップしてなりました。でも、でも……ずっと気分が晴れないんです」

「それは、いつからですか?」


 いつから?

 そういえば、いつからだろう。

 もうずっと胸の奥にもやもやがわだかまっている気がする。


「わかりません。気づいたら、ずっとこうでした」

「前は、そうではなかったのですか?」

「そうですね。特に、こんな風には思ってなかったと思います」

「そのときは、今と違う生活だったのでしょうか」


 前と、今?

 たしかに結構がらりと生活が変わっている気がする。それが、原因なんだろうか。


「そう、かもしれません……。俺はいままでずっと農業だけをやってきました。時折、幼馴染のシルヴィアに『特訓』って言って、いろんな攻撃を受けてたりもしてましたけど。その時は、それが普通なんだって思ってました。でも、最近その特訓がキツくなってきて……ついに嫌だって抵抗したんです。それから……シルヴィアのいないときに冒険者にスカウトされたりして……徐々にシルヴィアから離れていきました」

「そうですか。シルヴィアさんが、あなたの生活圏からいなくなっていったんですね」

「……? はい。そう、ですね……?」


 シルヴィアがいなくなった。

 それがいったい何だというのだろう。

 せいせいする。もう酷い扱いを受けなくて済む。これからはシルヴィアなしで生きていける! そう思って喜んでいたはずだ。


「神父様……? それが、なんだっていうんですか? もし、そうだとして――」

「いえ。主な変化は、それぐらいだという事実を言ったまでです。それが、あなたの今のストレスの原因なのでしょう」

「そんな! ストレスは、むしろいままでずっと受けつづけてきたんですよ。ストレスの原因がなくなったのがストレスなんて、矛盾しています。おかしいですよ!」

「そうですね。普通に考えればおかしいです。しかし……人間は環境ががらっと変わるとどんな理由でもストレスを感じる生き物なんです。引っ越しをしたり、大病を患ったり、親を亡くしたり。そういうことで気分がふさぐ人がいるんですよ。あなたの場合は……それがシルヴィアさんだったというだけでは」

「……仮に、そうだとして。だったらこれから俺は、どうしたらいいんですか? もう、前みたいにはなりたくないんです!」


 俺はそう叫ぶと、深くため息をついた。

 環境の一番の変化が、シルヴィアがいなくなったことだったなんて。

 どうしたらいいんだ……。


「簡単ですよ。もっと大きな変化に身を投じればいいんです」

「もっと大きな変化……?」

「ええ。アレックスさん。旅に出るというのはどうでしょう?」

「え?」

「ここではない生活圏に飛び出すんです。そこにはシルヴィアさんも僕も、知っている人が誰一人いない世界です。そこなら、前との差は大きすぎて比較しようもなくなります」

「でも……俺には、畑が……」


 いい考えかもしれなかった。

 でも、生まれつき農家で育った俺にとって、それは夢物語だった。家と畑と母さんを置いてどこか遠くへ行くなんて……。


「以前、僕も似たような経験をしましてね」

「え?」

「僕の場合は最愛の妹を病で失ったのですが……」

「あ、そ、そうだったんですか……」

「でも、神学校に身を置いて、神聖魔法を必死で学んでいるうちに、その悲しみをどうにか乗り越えることができました。あなたも、その胸のもやもやをどうにかしたいなら、なにかしら行動すべきです」

「……」

「まあ、もやもやを抱えたまま生きるというのもひとつの生き方ですけどね。時間が解決するかもしれませんし……あとは、アレックスさん次第です」


 俺は、お礼を言うと、教会を後にした。

 そしてとぼとぼと自宅に向かう。


「どうするかは俺次第、か……」


 そんなことをつぶやきながら歩いていると、道の先に、シルヴィアの姿があった。

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