36、報奨金をください
王宮の役所には騎士団の人たちが詰めかけていた。
騎士団長のベックさんが、俺とギルド長のアシュリーさんを見つけて、話しかけてくる。
「なんだ? お前たち。何しに来た。まさか……本当に金をせびりにきたんじゃないだろうな?」
「その通りだよ、ベック騎士団長。我々は正当な報酬をもらいに来た」
「……お前たちはもともとダンジョン内のことは任されていなかったはずだ。下手をすれば、俺たちの公務執行妨害という扱いになっていてもおかしくなかった。それを――」
「あの場において、我々を受け入れてくれた貴殿らの寛容さには感謝している。だが……報酬について判断するのは、上だ。失礼」
アシュリーさんは騎士団長さんを放って受付に向かった。
そして、今日起きたことを丁寧に説明しはじめる。
付近の村の警護はすべて完璧にこなしたこと。
その際、モンスターの発生源がダンジョンであることを突き止めたということ。
大本であるダンジョンを破壊することにより、周囲の村の安全も、王都への被害も未然に防いだこと――。
特に王都の被害を未然に防いだ、というところを強調したが、受付の役人はそれにまったく取り合ってくれなかった。
「ギルド長……あなたがたの『ボランティア』、心から感謝しております。はい。こちらからは以上です」
ズバッと、あまりにもあっさり切り捨てられて、アシュリーさんは無言になってしまった。
何か言い返そうとしているようだが、やはり言葉にならないのかひたすら拳をにぎりしめている。
そこに、騎士団長さんがやってきた。
「ほら見ろ。言ったとおりだろう? それぞれの領分を超えられては困るんだ。さ、わかったなら今後も言われただけの仕事をしてくれ」
騎士団長ともあろう人が……。なんでこんなにいじわるな言い方をするんだろう。
仕事を奪われるのがそんなに嫌なのか?
王宮に勤めているんだから、俺たち冒険者とは違ってちゃんと給料をもらっているだろうに。
大人の事情、というやつなのかもしれない。
俺にはまだそういうのはよくわからない。でも。
このまま引き下がるなんて嫌だと思った。俺は、精いっぱい反抗した。
「ちょっと……待て。さっきから聞いりゃ、厭味ったらしいことばっかり言いやがって!」
「アレックス君?」
急に怒気を含んだ声を出したので、ギルド長のアシュリーさんが目を丸くしていた。
役人も、騎士団の人たちも俺に注目しはじめる。
「それぞれの領分を超えられちゃ困る? だったら、自分の領分くらいちゃんと仕事しろ! いいか? 俺の村は毎年きちんと税金を納めてたんだ。それも儲けがほとんどない稼ぎの中からだ! それなのに、今日やってきたスケルトンに簡単に結界を破られてた! ちゃんと税金納めてるのに、これはいったいどういうことなんだよ!」
「なんだ、なんだ」
役所にやってきていた市民たちが俺の発言を聞きつけて、ぞろぞろと集まってくる。
俺はさらに叫んだ。
「今、急ぎでその結界の修復をしてもらってるが、すでに被害は出てしまったんだ。死んだ人だって確認してないけどいたかもしれない。うちの村は幸い神父様がなんとかしてくれたから大丈夫だったけど、国がやることちゃんとやってりゃこういうことにはならなかったんだよ! おい、その辺どう思ってるんだ!」
「そ、それは……」
ベック騎士団長をにらみつけると、しどろもどろになっていた。
管轄が違うから俺のせいじゃないとでも思ってるのだろうか……。だったら、騎士団のことも言ってやる。
「これじゃあ、税金の払い損じゃないか! 払ってるからにはちゃんとやってくれなきゃ困る! ああそうだ……騎士団の人たち。あんたたちもずいぶんと適当な仕事をやってくれたな」
「な、なにっ!? 変な言いがかりは止せ」
「言いがかりじゃない! 北の森のはずれにダンジョンが出現した、スタンピードが起こってた、その対処を……あんたたちはちゃんとやったと言い切れんのか!」
「……っ!」
俺は、他の市民たちが聞いている中で、ダンジョンの顛末を語った。
「最初俺は……この役所でスタンピードの話を聞いたとき、騎士団の増援が要請されているのを聞いた。でも、結局現場には増援なんて来なかった! 代わりに行ってたのは俺たちだ。俺たちが、加勢したんだ。それを騎士団は断ることもできたはずだ。でも、あんたたちは……俺たちの加勢をすんなり受け入れた! それって、騎士団の被害を最小限にしたかったからじゃないのか!?」
「ぐっ、ち、違う……。お前たちの押しが、強かったから……」
言い訳か。見苦しいな。
だが、俺は追及の手を緩めない。
「俺たちの、せいだって言うのか? でもだったらなおさら、そこは国として領分を主張するところだっただろうが! 言ってることがめちゃくちゃだ。実際ダンジョンの外に広がった大量のスケルトンたちは、俺たちギルドのメンバーがほとんど倒した。ダンジョンの奥にいた強力なモンスターも! 騎士団は、ほとんど仕事してなかった。どころか、スケルトンを殲滅したら、ダンジョンをそのまま放置しようとした。それってどうなんだよ!」
「ど、どういうことだそれは!」
「サボってたってことか!」
「払った税金を返せー!」
市民たちが口々に騒ぐ。
「俺たちは、騎士団の代わりにダンジョンを破壊した! 周辺の村も、王都も、先回りして守った。その正当な報酬を、得る権利があるはずだ! 違うか!」
「そうだそうだー!」
「ギルドのやつらに報酬を与えてやれー!」
人がさらに人を呼んできて、役所のまわりはどんどん市民たちであふれてきた。
みんな俺たちの、ギルドの頑張りを認めろというような主張をしてくれている。
あまりにも騒ぎが大きくなってきたので、役人たちも騎士団の人たちもだんだん顔が真っ青になってきた。あわや暴動が起きるのでは、と思い始めたころ、ついに役人の一番偉い人が出てきて言った。
「わかりましたわかりました! きちんと報酬をお支払いいたします! それと、二度とこのようなことが起こらないよう、きちんと再発防止に努めますので!! どうか今日のところは――」
そうして、俺たち冒険者ギルドは一千万エーンという大金を得ることができたのだった。




